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選挙のために「消費税廃止」を訴える野党は、国民を騙しているだけだ

プレジデントオンライン / 2021年3月4日 11時15分

オンラインで開かれた立憲民主党の定期党大会であいさつする枝野幸男代表=2021年1月31日、東京都内のホテル[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

世界を覆うコロナ禍にあって、見劣りのする日本の財政出動。この根本原因を考えていくと、消費税の「低さ」に行き着く。弁護士の明石順平さんはそう主張する。それでもなお「消費税廃止」を訴える野党への怒りは、もう財政再建は不可能という日本の財政への暗い見通しと共にある――。

※本稿は、明石順平『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■財政再建はもう手遅れで絶対に不可能

財政再建のために増税や緊縮をすべきでしょうか。私はそうは思いません。もう手遅れであり、財政再建は絶対に不可能だからです。この国は1965年に特例国債を発行してから今に至るまで、一度たりとも借金の残高を減らすことができませんでした。積みあがった借金約1100兆円は、毎年5兆円の黒字を出しても、110年間かけてやっと半分の550兆円になるという膨大な額です。明らかに無理でしょう。財政再建なんて、無意味な苦しみを与えるだけであり、やるだけ無駄なのです。

なお、地方公共団体の債務等も含めた政府総債務残高対GDP比でいうと、日本は圧倒的な世界1位です(図表1)。これは先進国のみを比較したグラフですが、IMFにデータのある全ての国で比較しても、日本は1位です。200%を超えているのは日本だけ。こんなことをできるのは、まだ信頼が継続しているからです。しかし、人口予測を考慮すると、その信頼が継続するとは思えません。生産年齢人口の推移を見ると、今後は減る一方であり、回復する見込みはありません。

政府総債務残高対GDP比

2018年には7500万人いた生産年齢人口が、2056年には5000万人を切ります。2500万人以上減るということです。2500万人というのは、今の近畿地方全部の人口を合わせた数より多いです。働き手の約3分の1がいなくなってしまうということです。

■「消費税抜き、充実社会保障」の国はない

こうやって働き手が減る一方で65歳以上の高齢人口は増えていきます。ピークは2042年の3935万人です。しかし、もっと見なければいけないのは、介護費や医療費が跳ね上がる75歳以上の後期高齢者の人口です。2054年に2449万人です。その時の生産年齢人口は、今の3分の2程度にまで減っています。

こういう状態ですので、増税と緊縮をして財政再建をするなど不可能です。本気で再建するなら、超異次元の増税と緊縮をしなければなりませんが、国民が受け入れるわけがありません。私はたまたま本を書く機会を得て、その過程で色々勉強したのでこのような認識になりましたが、本を書いていなかったら、そうはなっていないでしょう。気楽に「消費税廃止!」などと言えていたかもしれません。

仮に、重い消費税負担抜きで社会保障を充実させている国がこの地球上に一つでも存在したならば、私は消費税廃止を主張していたかもしれません。しかし、そんな国は無いのです。例えばデンマーク、スウェーデン、フィンランドはいずれも対GDP比で言えば日本の倍以上消費税を取っています。なお、この点について、「対GDP比」ではなく、「税収構成比」を示して、日本の消費税負担は重いとミスリードする主張があります。これは大間違いです。税は国民が生み出した付加価値から取るのですから、税負担の軽重は「対GDP比」で見なければなりません。

■「広く安定してがっぽりとれる」のが消費税

デンマークの消費課税構成比が日本のそれより低いのは、所得税を日本よりはるかに多く取っているからです。GDP比で見ればOECD加盟国の中でダントツです。所得税収の構成比が大きい分、消費税収の構成比が下がっているだけです。

消費税は世界155カ国(2019年4月現在)で採用されている税金です。なぜこんなに世界中で採用されているのか。その背景には、少子高齢化があります。少子高齢化に直面しているのは日本だけではないのです。

所得税や法人税だけでこの増大していく社会保障費を賄おうとすると、現役世代の負担額が増え過ぎてしまいます。だから全世代が負担する消費税、ということになるのです。消費税の特徴は税収の推移を見るとよく分かります(図表2)。

一般会計税収の推移

例えばリーマンショックに襲われた2008年度と09年度、所得税も法人税も大きく落ちています。それと比較すると、消費税収の方はほとんど落ちていません。これは、消費税は赤字でも納める必要があるからです。消費税について直接納税義務があるのは事業者です。そして、消費税は、ざっくり言えば、売上から仕入を引いた額に課税されます。だから赤字でも納めなければならず、景気に左右されないのです。さらに、負担者は全世代です。つまり、「広く安定してがっぽりとれる」のが消費税ということです。

■消費税への考えを変えさせたデータとは

増大する社会保障費について頭を悩ませているのはどの国でも同じです。したがって、税金を取る方からすれば、これほど優秀な税は無いでしょう。そして、国民の側からしても、たくさん取られた消費税が、真に社会保障の充実に使われるのであれば、文句は無いでしょう。だから高負担国家はうまく回っているのです。しかし、繰り返しますが、日本が今さら高い消費税率にしても、高負担国家と同じにはなりません。借金を積み上げ過ぎたため、返済に吸い込まれてしまうからです。

所得税・法人税・付加価値税対GDP比OECD平均値の推移を見てみると、付加価値税の割合が右肩上がりに増えています(図表3)。所得税は2010年あたりまで減少傾向にありましたが、その後反転しています。法人税は基本的に横ばいといったところです。

所得税・法人税・付加価値税対GDP比(OECD平均)の推移

このような他国の情勢も見ると、消費税抜きで財政を維持することなどあり得ないことが分かります。消費税抜きで少子高齢化国家を運営するのは、人類の歴史上誰も成し遂げたことがない快挙と言えるでしょう。私はこの現実を見た時に、消費税は受け入れざるを得ないという考えになりました。なお、消費税減税や廃止を謳(うた)う人の中で、このようにOECDのデータを丹念に分析している人を見たことはありません。

■減税論者が見ない「歳出拡大」という真実

所得税や法人税を上げれば、消費税を上げなくても社会保障費を捻出できるのだと言う人もいますが、現実にはそんな国家は地球上に存在しません。社会保障を充実させている国は、例外なく消費税負担が重いです。ただし、私は所得税や法人税を上げることを否定するわけではありません。この国の財政失敗の要因の一つが、所得税と法人税を減税し過ぎたことにあるからです。1990年代以降の税制改正が無かった場合の税収について、内閣府が試算を出しているので見てみましょう(図表4)。

税制改正の影響を除いた税収

改正が無ければ、税収が全く違ったことが分かります。特に所得税の減税の影響が大きく、99年以降は、改正しなかった場合との差額が毎年10兆円程度になっています。法人税の減税が強調されますが、実際には所得税減税の影響の方が大きいです。

「消費税は法人税減税の穴埋めに使われた」とさかんに喧伝されていますが、正確には所得税減税の穴埋めのようにもなっています。というか、そちらの額の方が大きいです。さらに重要なのは、穴の方が年々広がってしまっているため、全然穴を埋めることができていないということです。消費税減税を主張する人は、この歳出の拡大という事実に触れません。所得税収がピークだった1991年度の一般会計歳出は約70兆円に過ぎませんが、今は100兆円を超えています。そして、今後はもっと恐ろしい勢いで増えていきます。所得税や法人税をピーク時と同じくらいの水準に戻しても、消費税抜きではこの莫大な歳出を賄えません。働き手が急減する一方で、高齢者は増えていくからです。

■コロナ禍で団塊世代も逃げきれない

こういう暗い話をすると叩かれます。見たくもない現実を突きつけられるのがみんな嫌なのでしょう。しかし、恨むなら、先人達を恨んでください。我々に負担を押し付けて天寿を全うした先人達が一番得をしています。今を生きる我々は、いつ通貨崩壊にあってもおかしくない状況ですから、たとえ団塊の世代であっても、「逃げ切り」は保証されていません。というより、コロナショックでまた財政が悪化しますから、団塊世代の逃げ切りはさらに危うくなったと言うべきです。

コロナショックに際して、他国は思い切った財政出動をしているのに、なぜ日本はお金を出し渋るのか、多くの人が不満に思っているようです。たしかに、持続化給付金200万円(中小法人等の場合。個人事業主等の場合は100万円)も、特別定額給付金10万円も、自粛に対する補償としては極めて不十分です。しかし、他国と日本では財政状況が全然違うのです。日本財政は膨らみ過ぎていつ破裂するか分からない特大の風船のような状態です。一方、諸外国は少なくとも日本より財政規律に気を遣い、赤字が膨らみ過ぎないようにしてきたので、こういう緊急事態に思い切った財政出動ができるのです。「今だけ」を考えてずっと現実逃避をしてきた日本と諸外国は根本的に違うのです。

今も、野党の一部に消費税の減税や廃止を掲げて人気を取ろうとする者がいます(自民党の一部にもいますが)。

■野党が決め、自民党が導入した消費税

消費税が導入されたのは1989年、自民党の時代です。そして増税されたのは1997年、2014年、2019年の3回。増税時の与党はいずれも自民党です。しかし、増税の根拠となる法律を成立させたのは誰でしょう。97年増税の根拠法を成立させたのは、94年の村山内閣です。そして、2014年、2019年の増税の根拠法を成立させたのは、12年の野田内閣です。すなわち、消費税増税法案が成立したのは、全て野党が与党になった時です。もちろん、野党は与党になる前は消費税増税に反対しています。初めて消費税導入が試みられたのは、1979年ですが、この時も反対しています。その後、何度も消費税が導入されようとしましたが、そのたびに反対し、1989年に導入された時ももちろん反対していました。しかし、結局自分達が与党になった時は、消費税増税法案を成立させているのです。

私は本当に怒りを込めて言いたい。「だったら最初から反対するな」と。消費税抜きで財政を安定させ、社会保障を充実させている国家はこの地球上に存在しません。「高負担無くして高福祉無し」なのです。たくさん税金を取るからたくさん社会保障にお金を使えるのです。しかし、野党はあたかも低負担で高福祉が実現できるかのように喧伝し、目先の票を取ることを優先しました。そして、自分達が与党になった時は、結局増税法案を成立させているのです。これではただの噓つきではないでしょうか。

■人気取りを優先させるという欺瞞

高福祉・高負担国家のデータを分析して、私は自分の租税観が変わりました。それまでは、税金は「取られるもの」というイメージでした。しかし、本来はそうではないのです。「出し合って、支え合うもの」と言うべきです。だから高福祉国家は、高負担でも幸福なのです。その前提として、「信頼」が無ければなりません。

明石順平『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)
明石順平『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)

信頼を得るためには、国家が徹底的に情報公開し、国民の監視が行き届くようにしなければなりません。それには大変な努力が必要です。ところが、日本は「経済成長すれば何とかなる」という発想で、国民に負担を求めることから逃げてきました。そして、結局未来に負担を押し付けました。それが一番楽な道だったからです。一番責任が重いのはもちろんほぼ全期間与党だった自民党ですが、野党にも責任があります。

「二度あることは三度ある」といいます。野党は既に2度、自分が与党になったら手のひらを返して消費税増税法案を成立させる、ということをやっています。結局、自分達が与党になってみないと、財政の厳しい現実は分からないということでしょう。

そして、与党にならない限りは、人気取りを優先して、到底実現不可能なことを無責任に言うことができるのです。それは目先の選挙に勝つことを考えれば、ある意味合理的な手段でしょう。しかし、私から見れば、それは国民を騙しているだけです。

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明石 順平(あかし・じゅんぺい)
弁護士
1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。弁護士。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業。主に労働事件、消費者被害事件を担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書に、『アベノミクスによろしく』『データが語る日本財政の未来』(集英社インターナショナル新書)などがある。

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(弁護士 明石 順平)

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