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「新人社員の人生ボロボロ」人事部が問題視する新型"ハズレ上司"の2パターン

プレジデントオンライン / 2021年3月31日 9時15分

※イラストはイメージです - イラスト=iStock.com/Rawpixel

4月1日に入社式を実施する企業は多い。新人社員はこの日、自分のボス(管理職)にも対面する。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「人事部からの評価が高まっているのが“金八型”の課長&部長。面倒見がよく新人のやる気を引き出す力が突出し、いずれ役員などに昇進する可能性が高い」という。最新のアタリ・ハズレ上司の特徴を紹介しよう――。

■アタリ上司かハズレ上司か、4月1日の入社式は審判の日である

前回の記事で“上司ガチャ”問題に触れた。

新入社員の配属先の上司がどんな人物かによって、仕事のモチベーションも大きく変わってくる。ソーシャルゲームの「ガチャ」になぞらえ、上司や教育担当者に恵まれた場合は「アタリ」、そうでない場合は「ハズレ」。ハズレ先輩・上司に遭遇すると、せっかく夢と希望を抱いて入った会社人生も台無しになってしまうおそれがある、という話だ。

人事部もその点は気にしていて、最近は新入社員の性格や適性検査などを参考に、指導する上司を慎重に決めるようにしているという。中でも人事部が最も重宝しているのが部下育成に長けた“金八課長”“金八部長”と呼ばれる管理職だ。

広告会社の人事部長は次のように解説する。

「どんな新人でもオールラウンドに指導や育成ができる人。新人の価値観や考え方をじっくり聞いた上で仕事の意味を丁寧に教えることができる。ストレス耐性の弱い新人でも金八課長のところに送れば安心です」

■人事部業界で評価が高まっている「金八課長・部長」

また、この金八上司たちは「将来の役員候補と目される存在になりつつある。管理職全体の1割程度しかいない希少価値のある人材」(人事部長)だ。

それほど新人の育成は難しいのか。ゼネコンの人事部長はこう語る。

「じつは社員アンケート調査を実施したところ、最近の新人は『40代以上の人と話をするのが怖い』ということがわかったんです。自分の父親に近い年代の人だと、話が噛み合わないし、話も聞いてくれないので戸惑ったり、怖いと感じたりするようです。ウチのような業種の場合、とくに現場に配属されると、職人気質の人が多く、職場がどうしても体育会的な雰囲気になる。打たれ弱い新人は、年輩の社員と接するのを怖がる傾向があります」

だからといって新人を配属しないわけにはいかない。そういうとき頼りになるのが金八だ。

「新人の扱いが上手い管理職に預けることになりますが、そういう人の最大の特徴は聞き上手であること。じっくり話を聞いたうえで、今の仕事が本人のキャリアのために必要であることを丁寧に説明し、目指すべきゴールを設定してあげる。『今はムダな仕事だと思っているかもしれないが、いずれきっと役に立つから』『今はつらいかもしれないが、だから君にやらせるんだ』と、本人と信頼関係を築き、やる気をかきたてるのが非常に上手いんです。コーチングの名手ともいえますが、言葉では簡単だが、できる人は少ない」

■若手の部下を育てるのが天才的にうまい

こうしたテクニックは管理職候補を対象にした研修で身につくものではない。「コミュニケーションが上手いだけではなく、人に対する思いやりとか、何とか助けてやりたいという、その人の人間性から滲み出てくる要素が大きい」と言う。

組織
イラスト=iStock.com/Rawpixel
※イラストはイメージです - イラスト=iStock.com/Rawpixel

とりわけ権限が大きい“金八部長”になると、本人との対話だけではなく育成の仕組みも上手い。前出の広告会社の人事部長はこう語る。

「職場に新人が入ると、ペアを組むマンツーマンのOJTリーダーを指名し、そのフォローを係長や課長に任せるのが普通です。でも、リーダーが育成上手な人だといいですが、40歳過ぎの、下手をするとパワハラでもしかねない人を指名したら目も当てられない。では金八部長はどうするかといえば、先輩、上司、他部署の先輩など5人ぐらいの社員のリストを渡し、『この中から、君が信頼でき、話しやすい人をメンターにしていいよ』と選ばせるんです。たとえば『彼は君が今やっている仕事については詳しいよ』とか、『隣のセクションの彼女は君の大学の先輩だよ』と教える。新人はそれをヒントに自分の横・縦・斜めの位置にいる人からメンターを選ぶ」

相談相手が一人しかいないと、一度教えてもらったことを2度聞くのを嫌がる新人もいる。恥ずかしいというか、彼らにもプライドがある。だが、そんな新人を放っておくとストレスもたまる。

そんな時に、1年上の先輩や隣の部署の先輩であれば恥ずかしくもなく聞くことができるし「俺のときはこうやったな」と解決方法を教えてくれる。あるいは顧客とのトラブルで悩んでいることを相談すると「俺に任せろ」と言ってくれるかもしれない。

もちろんそのすべてを仕切っているのは“金八部長”だ。

「メンター候補を選ぶ段階で事前に候補者に『A君から相談があったら答えてやってね』と声がけしています。もちろん声がけした人たちは女性社員も含めてすべて部長が仕事を通じて信頼関係を築いてきている。そうした幅広い社内のネットワークも金八部長の強みです。だから全面的に協力を約束してくれる。部長は課長時代の経験で新人がなぜ悩むのか熟知しているし、仕事だけではなく、人生の悩みにも対応しなければと考えている人。そうすることによって上手に部署をまとめ上げています。メンターの仕組みは会社が強制したものではないし、新人の性格を考慮して臨機応変に対応して仕組みをつくる。柔軟かつ巧みさを兼ね備えた人です」

■評価が低いのは「ジャイアン型」「高倉健さん型」

では、部下育成の上手い金八管理職の対極にいるのはどんな人物か。広告会社の人事部長は漫画「ドラえもん」に登場するジャイアンに例える。

「親分肌で人の話はあまり聞かず、言われた通りに行動しないと急に怒り出すジャイアン課長、ジャイアン部長がいる。いわゆる“瞬間湯沸かし器”といわれるタイプです。新人が相談してきても『俺はこうやっていた』と、自分のやり方を押しつける。もちろん、本人はそのやり方で実績を上げたかもしれないが、誰にでもマネできるものではないし、それができないと叱りつけて部下を潰してしまう。このタイプで嫌われるのが、武勇伝。俺はこうやって修羅場をくぐりぬけてきたという話をよくするが、ためになる話ならいいが、単に自慢話じゃないかと若い人に思われるとメチャクチャ嫌われる」

ジャイアン課長ほど横暴ではないが、部下育成の下手なタイプとして俳優の高倉健のような“健さん課長”もいると語るのはゼネコンの人事部長だ。他の業種にもこうしたタイプは少なくない。

「現場の職人気質の管理職に多いが、要するに寡黙で何も言わない人です。会社の部・課長会に出席するとよくわかる。最初から最後まで一言も話さず、無駄口をたたくこともない健さん課長、健さん部長がいます。それでも仕事はできるのだろうが、部下に対しては『黙って俺の背中だけを見ていろ』という感じの人。もちろん部下のために戦ってくれる義侠心のようなものを持っているので、性格をよく知っている部下からは信頼されますが、何も知らない新人にとっては、ただ怖そうなオジサンにしか映らない」

■なぜ、金八上司は上へ上へと引き上げられるようになったのか

ジャイアン課長や健さん課長に比べて部下の評価の高い金八課長だとしても、なぜ出世するのか。

組織
イラスト=iStock.com/Rawpixel
※イラストはイメージです - イラスト=iStock.com/Rawpixel

広告会社の人事部長は「以前と較べて昇進の基準が変わってきている」と話す。

「以前はパワハラっぽい言動をしても、売り上げなどの数字を上げた人が役員に昇進していました。昇進時期に人事が『この人物は過去に部署の社員を疲弊させ、何人かの社員がうつ病で入院しています』と経営陣にご注進しても『いや彼は会社に貢献しているし、優秀な人間だ』と、一蹴されたこともある。実際に今も優秀な成績を上げただけで部長や役員になっている人も確かにいます。

しかし、この5~6年の間に昇進の評価基準は明らかに変わってきている。数字だけを上げた人よりも、部下を育てるのがうまく、部下の背中を押して前向きに仕事をさせるような人が管理職として能力が高いという評価に変わっています。部長昇進では、最近は迷わず金八課長を選ぶようになっている」

もちろん昇進基準は業種・企業によっても異なる。だが、業界を超えて役員になれない共通のタイプについて元メガバンクの人事部長にこんな話を聞いたことがある。

「暗い人、細かく見える人、女性に嫌われる人、プライドが高い人です。大手企業の経営層に共通するのは明るさ。銀行だと暗いというだけで評価が下がるし、あの人は何事も細かすぎると思われる人も嫌われる。女性は利害得失に関係なく本質を見抜く力があり、女性に嫌われる男性はよほど人間性に問題がある人だと思います。プライドや自尊心は人間にとっては大事だが、そのプライドと自分の実力の差が大きい人は好かれることはない」

■役員になる人は、明るく柔軟で謙虚で、異性にも好感を持たれる

逆に言えば、役員になる人は、明るく、柔軟さを持ち、誰にでも謙虚で、異性にも好感を持たれるタイプということになる。少なくとも部下育成の巧みな金八管理職はこの要件に当てはまるだろう。

しかも、最近の役員昇進では過去の実績よりもマネジメントとしての品格を重視するようになったと、前出のゼネコンの人事部長は語る。

「確かに当社でも役員に推薦される人は各事業部の成績トップが多かったですが、業界の不祥事が相次ぎ、コンプライアンスを重視してきています。また、コーポレートガバナンスの強化で社外役員も審査も厳しくなり、部下を酷使してバリバリ働いてきた仕事人間だと、審査の段階で『この人は人間的に会社を代表する器なのか』という疑問符が入るようになりました。マネジメントとしての人間性や清廉、品格さが求められるようになっている」

実績よりマネジメント力、人間性。こうした上へ上へと引き上げられる人の傾向は他の企業にも言えることに違いない。金八課長、金八部長はまさにその代表格である。ただ、前述したようにそういうアタリの人材に新人社員が遭遇できる可能性は極めて低いと言わざるをえないのが日本の現実なのだ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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