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「ついに火星に到着も、ロケット残骸が落下」中国の乱暴すぎる宇宙開発が止まらない

プレジデントオンライン / 2021年5月18日 11時15分

中国・海南省の文昌発射場から、有人宇宙ステーションのコアモジュールを積んで打ち上げられる大型ロケット「長征5号」=2021年4月29日、中国・海南省 - 写真=AFP/時事通信フォト

■もしも都市部に落ちたら、あわや大惨事だった

中国政府は5月9日、打ち上げた大型ロケット「長征5号B遥2」の残骸が同日午前10時24分(日本時間午前11時24分)に大気圏に再突入した、と発表した。ロケットの残骸の落下地点は、インド洋のモルディブ付近の海域だった。

幸い、けが人などの被害はないようだが、もし人口の多い都市部に落ちていたら間違いなく大きな被害が出ていたはずである。

中国は猛省してしかるべきだ。ところが、である。中国有人宇宙プロジェクト弁公室は「ロケットが落下したのは北緯2.65度、東経72.47度の周辺海域で、大部分は再突入時に燃え尽きた」と伝えるだけだった。日本を含む世界を危険にさらした責任など微塵にも感じていない。

中国にはこれまで何度も驚かされてきたが、高い技術力と深い知識のある国々が協力し合わなければならない宇宙開発において、卑劣な行動は許されない。

■昨年5月には西アフリカの民家に落下した

ロケットは通常、燃え尽きずに残骸が地上に落下する危険性がある場合、海など人のいない場所や人家のないところに落ちるよう事前にコントロールされている。しかし、中国のロケットにはその制御がないのである。

アメリカの航空宇宙局(NASA)と軍当局は打ち上げ直後から大気圏への再突入時に燃え尽きずに残骸が地上に落下する危険性があるとみてロケットの軌道を追っていた。

中国には前科がある。昨年5月にも今回と同型のロケットを打ち上げた後、切り離された1段目のロケットの破片とみられる物体が西アフリカのコートジボワールの民家の庭先などに落下した、とロイター通信などが報じている。

今回のロケットは今年4月29日に、中国が計画している独自の宇宙ステーション建設のために打ち上げられたものだが、それにしてもなぜ、中国のロケットは残骸を地上に落下させてしまうのだろうか。

■打ち上げ費用の節約が、他国を危険に晒している

中国ロケットの問題点についてもう少し付け加えよう。

普通はロケットの切り離された1段目は被害の出ない海域などに落下させ、2段目は地球の周回軌道に乗った後に落下させる。この2段目は小さいために大気圏内で燃え尽きる。

しかし、中国のロケットの構造は違う。中国側が公表していないために詳細は不明だが、長征5号B遥2の全長は54メートルとかなり長く、大きな主要部まで周回軌道に入り、その後、噴射を終えて落下し始めた。大型のためになかなか燃え尽きず、その残骸がいつどこに落ちるかはまったく分からず、多くの国を危険にさらすことになった。

中国の狙いは打ち上げ費用を抑えることだ。主要部までを周回軌道に乗せることで、ロケットの切り離し回数を減らすことができる。自国の利益しか頭にない。そのためには他国に及ぶ危険は無視する。ひどい話である。

■5月15日には中国探査機が火星への着陸に成功

ところで、中国国営の中国中央テレビが5月15日午前8時すぎ(日本時間)、火星探査機「天問1号」が火星への着陸に成功した、と報じた。中国の探査機として初めての火星着陸となった。これから搭載された無人探査車が火星の地表を走り、地形などが調査される。

天問1号は昨年7月に打ち上げられ、今年2月には火星の周回軌道に到達していた。

火星の着陸は旧ソビエトとアメリカに次いで3カ国目だ。中国は「宇宙強国」を目指し、火星や月の開発をリードすることに躍起になっている。この背景には、今年7月に中国共産党が創立100年を迎えることで、習近平(シー・チンピン)政権の宇宙開発の実績を国威発揚に結び付けようとする狙いがある。

中国はアメリカに対抗して独自の宇宙ステーションを建設している。そのための資材を運ぶため打ち上げられたロケットの1つが、今回の大型ロケットだった。

中国は今後、実験棟や物資補給船を打ち上げ、2022年12月には宇宙ステーションの組み立てを終了するという。

■中国の宇宙開発は軍部によって主導されている

これまで中国は2019年1月に世界で初めて月の裏側に無人の探査機を着陸させた。昨年6月には米国のGPS(全地球測位システム)に対抗する衛星測位システムも完備した。宇宙ステーションの完成は目前に迫り、今後、飛行士の月面着陸を経て、火星への有人飛行を進める。アメリカを意識した宇宙開発で、中国はこの分野でも覇権主義を押し通すつもりだ。

中国の宇宙開発は軍部によって主導されている。中国は1950年代に核爆弾、弾道ミサイル、人工衛星を並行して開発する「両弾一星」を掲げた。2007年には衛星の爆破実験まで実施したが、これは宇宙での実戦を想定した軍事的実験だ。衛星測位システムも軍事転用される可能性が高い。

日本は2011年に完成したISS(国際宇宙ステーション)に、欧州各国とともにアメリカ側の一員として参加している。アメリカ追従型ではあるが、アメリカを支えながら宇宙開発を進め、無謀な行為を繰り返す中国には欧米各国とともにはっきりと「ノー」と言うべきである。

国際宇宙ステーション
写真提供=NASA
国際宇宙ステーション - 写真提供=NASA

■「開発に伴う責任を置き去りにしたままでは許されない」と読売社説

5月11日付の読売新聞の社説は「ロケット落下 中国の安全軽視は許されない」との見出しを掲げ、こう書き出す。

「中国は宇宙開発を急速に進め、今や米国やロシアに肩を並べる存在になりつつある。しかし、開発に伴う責任を置き去りにしたまま、宇宙への進出を急ぐことは許されない」

「責任」という言葉ほど中国と縁遠いものはない。宇宙開発だけではない。沖縄の尖閣諸島海域への不法侵入、台湾に対する軍事威嚇、香港と新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権抑圧、東・南シナ海での侵略行為、新型コロナ感染拡大の隠蔽など、きりがない。

習近平政権は中国共産党と中国国家の発展のためには、世界の国々を犠牲にしても構わないと考えている。責任感など持ち合わせていないのだ。

最後に読売社説は主張する。

「ロケットの残骸が他国に落下した場合の賠償責任などを定めた現行の国際条約は、内容が不十分で実効性に乏しい。国際的なルール作りが急務で、中国もその役割の一端を果たさねばならない」

その通りである。いま求められるのは、中国に対し、他国に被害を与える宇宙開発を止めさせることのできる「国際ルール」作りである。欧米を中心とする国際社会がいまこそ、動くべきだ。

■「発射時の対策や落下の分析などの詳細な説明を避ける姿勢」

「中国と宇宙 国際協調に責務果たせ」との見出しの朝日新聞の社説(5月11日付)は、冒頭部分からこう指摘する。

「被害は未確認だが、安全対策と説明責任が不十分だと、米国などが批判している」
「中国当局は『ほとんど大気圏で燃え尽きた』としたが、実際は危うい落下だったようだ。発射時の対策や落下の分析などの詳細な説明を避ける姿勢は、無責任のそしりを免れまい」

「不十分な安全対策と説明責任」「説明を避ける姿勢」「無責任」。いずれも中国の習近平政権にぴったりの言葉である。世界から非難されてもなおかつ自らの非を認めようとはしない習近平・国家主席の面の皮の厚さには、唖然とさせられる。

朝日社説は主張する。

「中国は『宇宙強国』を掲げ、急速に開発を進めている。野心的な試みや高い技術を誇示するだけでなく、国際協調でも積極的な取り組みをするべきだ」
「1967年の国連宇宙条約の定めを再確認する時だ。宇宙は、人類の共益に資する開発が原則である。中国、米国、ロシアなど大国を筆頭に、改めて思い起こしておきたい」

習近平政権は国際協調を無駄な産物だとしか考えていない。朝日社説もそこは理解していると思うが、新聞の社説である以上、どう国際協調すべきかをもっと具体的に示してほしかった。残念である。

■中国の覇権主義が宇宙にまで及んでいる

朝日社説は指摘する。

「近年、人工物の残骸である宇宙ゴミの問題が深刻になっている。各国の人工衛星や、宇宙ステーションなどの有人施設への被害が懸念されるからだ」
「国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)は07年、ゴミを減らすためのガイドラインを作った。こうしたルールに沿って、残骸の制御措置が十全にとられねばならない」

宇宙ゴミの問題は、私たちの地球にとって避けては通れない重要課題である。中国は14年前に人工衛星をミサイルで破壊し、「宇宙空間に大量のゴミをばらまいた」と国際社会から厳しく批判された。

■問題は中国の「軍事強国化のための宇宙開発」

朝日社説は「今回、問題になったロケットは、中国独自に建設中の宇宙ステーションの中核部分を運ぶ目的だった。米当局が神経をとがらせる背景には、中国の一連の宇宙開発を軍事強国化の動きとみて、牽制する意図もあるとみるべきだろう」とも指摘し、最後にこう訴える。

「宇宙にまで米中の覇権争いを拡大してはならない。共に責任ある大国を自任するからには、宇宙空間の無秩序な乱用を防ぐための実効性のあるルール作りを主導すべきである」

問題は中国の「軍事強国化のための宇宙開発」だ。世界を制して配下に置こうとする中国の覇権主義が宇宙にまで及んでいることである。それを「米中の覇権争い」とするのはどうだろうか。

今回はロケットの残骸を制御せずに落下させた中国を責めるべきで、アメリカの責任まで言及するのはおかしい。朝日社説は「喧嘩両成敗」が好きで、どこにでも持ち込んでくるが、今回はやりすぎではないかと思う。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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