「再エネ発電は不安定で頼りない」と決めつけると、これから日本人は痛い目に遭う
プレジデントオンライン / 2021年5月25日 15時15分
■今回の「脱炭素宣言」でパラダイム転換が起きた
——菅政権は昨年秋にCO2排出量を実質ゼロにする脱炭素政策「カーボンニュートラル(CN)」を2050年までに実現すると宣言しました。政府の計画では発電部門のCO2排出量も2050年までに実質ゼロにすることになり、再生可能エネルギーの比率は現在の倍以上の50~60%という数字も示されました。どのように受け止めていますか。
【木南】2019年にスペイン・マドリッドで開かれたCOP25(第25回国連気候変動枠組み条約締結国会議)で日本は地球温暖化対策に消極的な国に贈る「化石賞」を受けました。その会議に参加した小泉進次郎環境大臣の追い込まれた様子を考えると、日本は昔の産業レジーム(体制)のままだとみられたのだと思います。それが今回のCN宣言でパラダイム転換が起きました。20年もの間、環境分野で仕事をしてきた私にとっては、ようやくここまで来たかと大歓迎しています。
2050年に再エネ発電を50~60%にするという具体的な年限と目標が出たことを評価します。これまで日本は絶対に越えられそうな低いバーを再エネ発電の目標にしてきましたが、今回は目標にビジョンを込めた高いバーを掲げました。そこが大きく違います。
■2030年の再エネ発電「40%」は手が届きうる数字
——確かにこれまでの再エネ発電の目標は低かったですね。見直しが議論されていますが、現行のエネルギー基本計画では再エネ発電の2030年の目標は22~24%です。ところが国際エネルギー機関(IEA)が発表した2020年の日本の再エネ発電比率はすでに前年比3%増の21.7%でした。9年後の目標値としてはあまりに低すぎますね。
【木南】4月に米国のバイデン大統領の呼びかけで開かれた環境サミットで菅義偉首相は2030年にCO2排出量を46%削減(2013年比)することを表明しました。それに伴って2030年の再エネ発電の目標も議論されていますが、「40%」という数字に収斂しつつあるのではないかと思っています。40%は結構頑張らなければならない数字です。私たち事業者は現実的な見方をするものですが、40%はオールジャパンで取り組めば、手が届きうる数字だと思います。
——あと9年ほどで倍増しなければいけませんが本当に可能でしょうか。
■日本の再エネ比率はこの10年で10%から20%に増えた
【木南】再エネの過去の進化から将来を予想できると思います。再エネのFIT(固定価格買取制度)が始まった2012年に太陽光発電のコストは約40円/kwhでしたが、2020年は約10円/kwhと8年間で4分の1に下がりました。今後もジリジリと下がっていくとみていいでしょう。
その結果、日本の再エネ比率はざっくり言うと、この10年で10%から20%に増えました。外国に目を転じれば英国は10年間で20%から40%となっています。過去の進化をみるとこのような事例があるのですから、「今後は難しい」というのは適当な見方ではないと思います。
むしろ国家経営というものは、できそうな目標をもう少しストレッチしてより高い目標にして挑戦するというのが望ましいのではないでしょうか。今後9年間で倍増するという目標はまったく手が届かないものではありません。
——もしも2030年に40%程度の水準を達成できたならば、その20年後の2050年に50~60%というのは少し低い。結果的に2050年にはもっと再エネ発電が増えているかもしれませんね。
■経産省、環境省、国交省、農水省などが包括的に動き始めた
【木南】エネルギー基本計画は3年ごとに見直しますが、再エネ発電についても不断の見直しが必要だと思います。新しい技術が常に生まれてきますから、3年経てばこの技術は良いのでもっと伸ばそう、これは悪いのでやめようと判断しながら計画を見直さなければいけません。CNはそのように不断の見直しをしながら実現できるものだと思います。
再エネ発電比率が2030年に40%程度に達したならば2050年の目標も上振れするのではないでしょうか。再エネ発電の事業者としては2030年に向けていい数字が出るよう貢献し、その結果の先にある2040年、2050年の数字がさらに野心的なものになるように頑張りたいと思っています。
——再エネ発電が増えるにはどんな課題があるのでしょうか。
【木南】必要だと思われていた規制緩和については、概ね論点が出て課題解決のための取り組みが進み始めた感があります。電力系統への接続を巡って、今後どのような運用になるのかを注意深く見ておかねばならない点もありますが、障害は少なくなっています。政府として2050年までのCNを宣言したことで、経産省、環境省、国交省、農水省などが包括的に動き始めたので政策が加速しています。
■平常時に送電線の空きがあれば再エネ発電が接続可能に
——例えばどんな点が変わりましたか。
【木南】農水省は3月に荒廃農地を利用した太陽光発電の設置について規制緩和を決めました。これまで日当たりが良いのに10年、20年と使われず荒廃した農地で太陽光発電をしようとしても農地を転用する際の規制が厳しく、事実上無理でした。しかし今回の規制緩和で荒廃農地への太陽光発電の設置ができるようになりました。太陽光発電はこの8年で急激に伸び、優良な広い土地が少なくなっていたので、荒廃農地の利用はとても追い風になります。
——再エネの導入量が増え、接続可能量を上回り、接続の受付が止まったり、送電線を新設しなければならなかったりで、すぐには再エネ発電が接続できない問題がありましたが、改善されつつあるのですか。
【木南】1月に「ノンファーム型接続」という制度が始まりました。この制度は昨年4月から議論されていたもので、政府のCN宣言を受けたものではないですが、CN宣言後の新しい制度変更です。これまでは送電線の一部が切れるといった非常時の対応のために送電線の空き容量を一定程度確保しなければならず、平常時に送電線の空きがあっても再エネ発電は接続できませんでした。
それが平常時に空きがあれば柔軟に接続するという「ノンファーム型接続」が導入されました。この制度は欧州が先行していました。現在は受付をしている段階ですが、今後どのように運用されていくのかが重要です。
■蓄電池の技術革新が再エネ発電の不安定性を軽減する
——再エネ発電については日本では依然として「不安定で頼りない電源だ」というような意見が電力会社などにはあります。
【木南】確かに太陽光発電や風力発電といった再エネ発電は気象に左右される不安定性を本質的には持っています。しかし蓄電池の技術革新がさらに進めば、気象条件が良い時にたくさん発電した電気を蓄電することで再エネ発電の不安定性を軽減できると考えています。
テスラや中国メーカーが発売している定置型のリチウムイオン電池の価格はずいぶん安くなっており、再エネ発電の蓄電設備として使用できる可能性があります。また再エネで発電した電気で水を電気分解して生じる「グリーン水素」を活用して不安定性を補うことができるでしょう。
■電源開発で必要なのは経済性と社会の受容性
——CNの実現に向けて原子力発電の再稼働を期待する動きが経済界の一部にはあります。どのように受け止めていますか。
【木南】レノバは再エネ発電の事業者なので、原発については詳しく知りませんし、言及する立場にはありません。ただ言えることは電源開発で必要なのは経済性と社会の受容性だと思います。再エネ発電のコストはこれまで下がってきましたし、これからも下がっていくでしょう。経済性は高まるはずです。
一方、私たちが最も大切にしているのは地域との「共存共栄」です。東京の再エネ発電のベンチャー企業である私たちが事業開発で過疎地に参上し、山を貸してほしい、漁場を貸してほしいとお願いする際に様々なハードルがあるのは当然です。地元と共存できる絵を書けるか、書いた絵を地元の人に提案し、理解してもらえるか、そして地元との共同事業にできるかが事業化の鍵を握っています。経済性と社会受容性があるかどうかが今後の電源開発を考える場合にはとても重要なのではないでしょうか。
——秋田県の由利本荘市沖の洋上風力発電は事業者公募手続きに入りましたが、地元との話し合いには苦労がありましたか。
【木南】開発を始めたのは5年前です。一緒に漁業の未来を考えることから始めました。調査の同意を取るまでに1年半かかり、その時点で地元との「共存共栄」を確認しました。その後3年がかりで、地元の船に乗って海域調査をしました。どんなところで漁業をされているのか、どんな海産物があるのか、産卵の時期はいつかなどをダイバーが海中のビデオもとって、調べました。それをもとに風力発電の設置後に「こういう漁場をつくればいいのですね」と地元漁業者と共存できる事業につくり上げてきたのです。
■資源を海外に依存すれば、国富が流出するばかり
——再エネ発電だからといって地元が必ずしも大歓迎するばかりではないでしょうから、再エネ発電を増やしていくためには丁寧な地元調整が必須ですね。そう簡単に再エネ発電を増やせないのではないですか。
【木南】日本では再エネ発電は欧州ほど増えないのではないかという意見があるのを承知していますが、それで本当にいいのでしょうか。再エネ発電が増えないということはかなりの部分を依然として火力発電に頼っているということです。日本の場合、その燃料はほぼ海外に依存しています。
それに対して再エネ発電は太陽光にしろ、風力にしろ、いわば国内資源です。テクノロジーの発展でようやく海外に依存しないエネルギーの供給体制が可能になろうとしているのにいつまでも海外に依存し、国内で稼いだお金を海外に流失させていることになります。欧州が再エネ発電に大きく舵を切った背景には、天然ガスのロシア依存、石油のアラブ依存から抜け出したいという考えもあると思います。
再エネ発電を増やすことは日本のエネルギーの自立性を高めることにもなりますし、新たな産業を生み出す可能性もあると思います。(後編に続く)
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レノバ 社長
京都大学総合人間学部で環境政策論と物質環境論を学び、1998年にマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンに入社。2000年に「リサイクルワン」を創業し代表取締役社長に。2012年に再生可能エネルギー事業に参入し、2013年に社名を変更し「レノバ」となり、創業以来、社長として経営のかじ取りを担う。
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(レノバ 社長 木南 陽介 聞き手・構成=安井孝之)
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