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「国民の半数は熱烈なサッカーファン」そんなサウジアラビアで最も有名な"日本人の名前"

プレジデントオンライン / 2021年6月30日 11時15分

2020年11月28日、サウジアラビア・リヤドのキング・ファハド国際スタジアムで行われたサッカーのキングス・カップ決勝戦、アル・ヒラルとアル・ナスルの試合に勝利したアル・ヒラルのキャプテン、サルマン・アル・ファラジがカップを掲げている - 写真=EPA/時事通信フォト

アラブ諸国においてサッカーは実質的な国技になっている。“中東で一番有名な日本人”と呼ばれている鷹鳥屋明さんは「サッカーはアラブで大人気のスポーツだが、政治情勢によっては“代理戦争”のようになる。だからサウジアラビアで最も有名な日本人も、その“戦争”に巻き込まれた一人なのだ」という――。

※本稿は、鷹鳥屋明『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

■アラブでは実質的に“国技”になっているサッカー

アラブにおいてサッカーというのは実質的に国技のようなポジションになっています。

日本では“ドーハの悲劇”などが有名ですが、サッカーワールドカップなどで日本と中東諸国との試合を一度は見たことがあるのではないでしょうか。また、2022年にはカタールで中東初のワールドカップが開催される予定です。

そんなサッカーが大人気のアラブのなかで、私が関わってきたサウジアラビアの有名チームについて語っていきます。サウジアラビアのサッカーを語るうえで欠かせないのが、首都であるリヤドに本拠地をかまえる2つの有名チームです。

ひとつは「アル・ヒラル」という、アラビア語で「三日月」という意味で、ロゴも三日月の青色がイメージカラーのチームと、もうひとつが「アル・ナスル」という、アラビア語で「勝利」を意味する黄色がイメージカラーのチームです。

私はアル・ヒラルのファンで、「AFCチャンピオンズリーグ」というクラブチームによる大会で浦和レッズとの対戦の際にもアル・ヒラル側で応援していました。

このアル・ヒラルというチームは非常に歴史が古く、1957年に創設されています。サウジアラビアの国内リーグである「サウジ・プロフェッショナルリーグ」では最多優勝記録である16度の優勝を経験しており、さきほどの「AFCチャンピオンズリーグ」では3度も優勝に輝いているほどの強豪チームです。

■引退試合に7万人の観客を集めた“砂漠の英雄”

このアル・ヒラルを強豪チームに導いたのが、サーミー・アル=ジャービルという1988年から2007年まで活躍した伝説的な選手です。

引退試合では7万人が観客として集まり、アジアサッカー連盟において初代殿堂入りを果たしたほどの選手で、現地のサッカーファンからは“砂漠の英雄”と呼ばれています。

一方のアル・ナスルもアル・ヒラルより2年早い1955年に創設された老舗のクラブチームで、「サウジ・プロフェッショナルリーグ」で9度優勝し、数々の国際大会でも優勝している強豪チームです。

サウジアラビアの国旗が印刷されたサッカーボールがゴールを揺らす
写真=iStock.com/eyegelb
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eyegelb

こちらも“砂漠のペレ”と称されたマジェド・アブドゥラーという伝説的な選手が過去に在籍しており、サウジアラビア国内ではアル・ヒラルの次に人気のクラブチームです。

この2つの有名チームの関係性は、日本の野球で例えるなら読売ジャイアンツと阪神タイガースのような、いわゆる“宿敵同士”だと考えていただければわかりやすいかもしれません。

この2チームの試合はとても人気で、サウジアラビア・ナショナルチームの国際試合以上に盛り上がりを見せることがあるほどです。実はさきほど紹介したアル・ヒラルは、日本人サポーターが多いことで知られています。

日本人がアル・ヒラルのファンになる理由は様々なのですが、そのひとつに元・FC東京所属のチャン・ヒョンスという選手がいることが挙げられます。

彼は元・韓国代表のディフェンダーなのですが、彼を応援しているFC東京サポーターが宿敵である浦和レッズと戦うアル・ヒラルのサポーターになっているようです。そのアル・ヒラルですが、ありがたいことに日本でも現地でも何度かアル・ヒラルの選手に会わせていただき、その流れでアル・ヒラルチームの公式ムービーにも出させていただきました。

■中東でサッカーにおいて一番有名な日本人の名前は…

ここまで読み進めていただいた読者ならもうおわかりだと思いますが、アラブでは様々なことが良くも悪くもノリで進んでいくのです。

このように、レベルの高い熾烈な争いをしているクラブチームがあるアラブではサッカー熱が高まっているので、アラブ人に対して気軽にサッカーの話題を振ることはあまりおすすめしません。

おそらくサウジアラビアにおいて、一番有名な日本人はサッカー審判の西村雄一さんでしょう。

2014年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝の第2試合で主審を務めたからです。サウジアラビアのアル・ヒラルは、すでに第1試合でオーストラリアのウェスタンシドニー・ワンダラーズに負けており、ACLで優勝するには勝利が絶対条件の試合でした。

しかし、ホームでの第2試合は0対0の引き分け。サウジアラビアの人たちの多くは、アル・ヒラルが優勝できなかったのは第2試合主審の西村雄一さんのせいだと思っていて、強く記憶に残っているからです。

日本でも「初対面で宗教と政治と野球の話はするな」という言葉がありますが、中東においては「雑談で政治とサッカーの話はするな」と言い換えられます。

もちろん、サッカーの話題を振って仲良くなれるパターンもありますが、それは言ってしまえば賭けのようなもので、仲良くなるか、嫌われるかの二択だと思っていただいてまず間違いはないと思います。

ちなみに私をモロッコまで呼んでくれた王子はアル・ナスルの大ファンで、アル・ヒラルの私とは敵対していると言えます。サウジアラビアの国内リーグでアル・ナスルが勝利した際には「ナスルが勝ったぞー」とわざわざ煽りメッセージが写真付きでたくさん送られてきます。

■優勝賞金が1億6000万円の「国王杯」

国民の半数以上はサッカーの熱烈なファンなので、日本のサッカーファンとは比べられないほどの熱量があります。

さきほどもお伝えした通り、中東におけるサッカーは公式に定められてはいないものの、圧倒的な人気の高さを考えれば実質的には国技だと言えるでしょう。このことを示しているある大会があります。それが「国王杯」です。

この大会は1956年から1990年まで開催され、一度中断されたのちに2007年から「チャンピオンズクラブのための二聖都の守護者杯」というサウジアラビア国王の敬称に改められて再開しています。

トーナメント形式の大会になっていて、優勝賞金は日本円に換算すると約1億6000万円という破格の金額が設定されている国内最高峰の大会です(現在、大会の名称は「二聖都の守護者杯」に変更されています)。

多くのアラブ人に人気のサッカーですが、あまりにも人気がありすぎるためトラブルを引き起こすこともあります。それに起因する政治問題もあります。例えば、最近ようやく雪解けとなりましたが、カタールは2017年から他の湾岸アラブ諸国と国交断絶が続いていました。

このような政治的な緊張状態が続いているときにサッカーの試合が組まれると、実質的にサッカーを使った代理戦争のような状況になってしまうことがあります。近年でも、2019年の第17回AFCアジアカップで行われたカタール対アラブ首長国連邦(UAE)戦においてハプニングが起きました。

■サッカーの試合はまさに代理戦争

この大会が行われた時点ではカタールとアラブ諸国との国交断絶は続いていたので、カタール国民は試合が行われたアラブ首長国連邦のスタジアムに入ることができませんでした。

さらに、観客席のチケットは現地のアラブ首長国側の王族によって買い占められており、ほぼアラブ首長国連邦のサポーターで埋め尽くされ、カタールにとっては完全にアウェーの試合になってしまったのです。ところが、試合結果は0対4でカタールの圧勝。

鷹鳥屋明『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(星海社新書)
鷹鳥屋明『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(星海社新書)

この結果に怒り狂ったアラブ首長国連邦サポーターは、スタジアムの中にペットボトルや靴を投げ入れたのです。この、相手に「靴を投げつける」という行為は、アラブにおいて極めて無礼な行為とされているので、よほどのことがなければこのような状況にはなりません。

セキュリティや職員が止めるのも何のその、大量の靴とペットボトルが試合会場を飛び交いました。結局、この事件が原因でアラブ首長国連邦はペナルティを課せられることになり、次回大会のホームゲームは無観客で行わなければならなくなりました。

このように中東におけるサッカーの試合というのは、国の威信をかけた一大イベントであり、国民を熱くさせる一種の代理戦争のようなものだと言っていいでしょう。

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鷹鳥屋 明(たかとりや・あきら)
日本人サラリーマン
1985年生まれ。大分県出身。筑波大学第一学群人文学類歴史学専攻卒。メーカーや商社、NGOに勤務。日立製作所時代にサウジアラビアに滞在。その後バーレーン、カタール、UAE、ヨルダン、パレスチナを巡り中東世界へ興味を持つ。中東情勢を学びながら日本と中東をつなげるべく、メディアを活用し日本文化のアラブ向け宣伝活動を行う。SNS上でのアラブ人フォロワー数は約10万人。著書に『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(星海社新書)がある。

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(日本人サラリーマン 鷹鳥屋 明)

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