「イオン系列なのにトップバリュがない」流通王者が神奈川で展開する秘密兵器の正体
プレジデントオンライン / 2021年10月23日 11時15分
■並べられた商品群は、段ボールに入ったまま
コロナ禍の小売業界でスーパーの存在感が高まっている。
たとえば阪神阪急百貨店などを傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は関西スーパーをめぐって、オーケーと争奪戦を繰り広げている。米国の議決権助言会社などはH2Oの買収提案に反対しており、旗色は悪いが、それだけスーパー事業には魅力があるともいえる。
小売業界でトップの座に君臨するイオングループも、スーパーの強化を進めている。
小田急線の高座渋谷駅(神奈川県大和市)から歩いて5分。県道沿いの見慣れない店舗に入ると、段ボールに入ったまま積まれた商品群が目に飛び込んでくる。店舗名は「パレッテ」。イオンが昨年12月から神奈川県内で3店舗、実験的に展開しているブランドだ。近くにはオーケーやロピアといったライバル店があり、そうした激しい競争環境で、消費者がどの店舗に流れるか、検証を重ねている。
「パレッテ」は小売業界では「ディスカウントストア(DS)」という業態に分類されることが多い。スーパーとの違いは価格の安さ。DSは品数を絞ることで、大量仕入れで安く提供する。一方、スーパーは豊富な品ぞろえで便利な店づくりを重視している。
■トップバリュとは違うメーカーに冷凍食品を発注
パレッテが展開するのは、精肉や野菜などの生鮮品や酒類・調味料、冷凍食品、マスクや洗剤などの日用品のほか、調理済みの総菜など。大型カートを用意し、大量買いをする消費者をターゲットにしている。
そのかわり、スーパーの顔ともいわれる「鮮魚コーナー」はない。魚は、冷凍食品や干物など、長持ちする商品しか置いていない。オーケーなどに比べると、ほかの商品群もかなり絞り込まれている。一商品あたりの販売量を増やすことで、メーカーから安く調達する戦略だ。
店内の人員は少ない。菓子や加工食品は、簡単な開封作業でそのまま売場に並べられるシェルフ・レディ・パッケージを取り入れている。スマホ決済システム「スキャン&ゴー」を導入することで、レジに配置する人員も極力絞り込んでいる。徹底したローコスト運営を追求しているのだ。
そしてイオングループの店舗であるにもかかわらず、PBの「トップバリュ」は扱わない。イオン系列の店舗だと気づかない消費者も多いだろう。トップバリュの代わりに並んでいるのは、パレッテの独自PBだ。「ポテトチップス」「冷凍パスタ」など、従来とは違ったメーカーとの共同開発となっている。
イオンとこれまで取引をしていた冷食メーカーは「トップバリュをあえておかず、新たな取引先を開拓していることは大きな脅威になる。価格も今後かなり下げてくる可能性がある」と警戒する。
■「ビッグ・エー」とは異なる戦略を試している
イオンはこれまで何度もディスカウントストアを仕掛けてきたが、成功してきたとは言いがたい。1990年代の「メガマート」、2000年代の「イオンスーパーセンター」を覚えている読者は限られるだろう。イオンが強みをもってきたのは、ショッピングモールに象徴される幅広い品ぞろえで多くの消費者を取り込む総合スーパーだったからだ。
しかし、ドン・キホーテやオーケーといったDSに加え、ドラッグストアのコスモス薬品が食品の扱いを増やすなど、競争が激化している。とりわけ「安さ」を求める声は根強い。
イオングループにはパレッテとは別に、「ビッグ・エー」というDSもある。「安売りの本家本元」だったダイエーが1979年に設立したブランドで、売上高は約1100億円、店舗数は約340店。相応の規模はあるが、イオングループの屋台骨にはなっていない。新型コロナウイルスの感染拡大で閉店した外食店の跡地などに出店しており、2025年度に店舗数を約5割増の500店に増やす計画だが、さらなる店舗増も視野に入れているはずだ。
イオンとしては、ビッグ・エーとは異なるパレッテという実験を行うことで、そこで得られた成果を今後のDS戦略に生かそうとする狙いがあるとみられる。
■ヤオコーは「フーコット」でDS市場に殴り込み
海外でも安売り競争は過熱している。その象徴が「ハードディスカウンター」と呼ばれるドイツのアルディと同じドイツのリドルだ。小型店を中心に徹底した安売りと出店攻勢で勢力を拡大し、売上高は10兆円を超え、いずれもイオンを上回る。米国にも進出し、ウォルマートを脅かす存在となっている。徹底した合理化で少ない従業員でも店舗を切り盛りできるようにし、そこで浮いたコストを値引き原資にする。
いまや国内のDSは百花繚乱の状況だ。スーパーでは食品に強いヤオコーが21年度からDSの新業態である「フーコット」を本格展開する。アッパーミドルに評判のヤオコーが、買収した「エイヴィ」のノウハウを取り込みながらDSに乗り込んだ。32期増収増益の余勢を駆って発祥の埼玉県以外のエリアを開拓する。
また、21年3月期決算で売上高で5000億円の大台にのせたオーケーは関西スーパーへの買収提案に加え、「エブリーデイ・ロープライス(EDLP)」の攻勢を出店や安売りの対象商品拡大などでさらに強めていく考えだ。
■コスモス薬品は売上高7200億円と前期比6%増
コンビニの購買層を取り込んで伸長するドラッグストア業界も安売りに動き始めている。
利益率の高い一般用医薬品(大衆薬)や化粧品などで稼いだ利益を原資にして、食品や日用品の安売りにつなげるビジネスモデルがドラッグストア伸長の源泉だ。医薬品の販売権限をもつ薬剤師と登録販売者を抱える優位性にも支えられ、コンビニやスーパーがまねしにくい独自の店舗形態を築いてきた。
なかでも売り上げの半分を食品が占めるコスモス薬品は地盤の九州から北上し、関西や北陸、北関東まで進出。東北や北海道まで視野に入れる。今や店舗は1110店を超え、21年5月期の売上高は前期比6%増の7200億円と拡大をつづけている。個々の商品の価格ではなく、さまざまな商品を「カゴ一杯にいれた合計金額でライバルをしのぐ」をキャッチフレーズに、地域の消費者の支持を取り付けている。
また、北陸出身のクスリのアオキHDは鮮魚、青果、肉類なども扱う。大手のツルハHDも一部店舗で精肉の販売を始めている。
■小売業界の「安売り」合戦はさらに過熱へ
躍進するドラッグストア業界だが、安泰ではない。独壇場だった大衆薬の販売について定めた「2分の1ルール」が緩和されるからだ。登録販売者などの有資格者が取り扱うことができる大衆薬の販売の際には、有資格者が営業時間の2分の1以上常駐し、薬の販売管理や保管をしなければならないが、厚生労働省はこの「2分の1ルール」を規制緩和する方向だ。
実現すれば、資格のないパートやアルバイトが代替する場面が増え、コンビニなどがドラッグストアの稼ぎ頭である大衆薬を多く扱うようになってくる。ドラッグストア業界はこの「2分の1ルール」の規制緩和に備え、今後、大手による買収合戦が進み、系列化すると指摘されている。
ドラッグストア各社の巨大化で小売業界の「安売り」合戦は過熱するだろう。いったいどこが勝ち残るのだろうか。
(プレジデントオンライン編集部)
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