このままでは政局レベルの惨敗に…自民党内に広がる「岸田首相では戦えない」の恨み節
プレジデントオンライン / 2021年10月25日 18時15分
■「人はかなり集まったが、熱狂がなかった」
衆院解散から投票日まで17日間という超短期決戦となった衆院選は10月31日、投票日を迎える。「コロナ禍」「岸田文雄首相が就任直後」と話題性は十分あるはずだが、今ひとつ盛り上がりに欠けるというのが実情だ。この「低温」の選挙戦に突入した結果、当初の期待に反して自民党が伸び悩んでいる。
「山口県は信任をいただき、静岡県は残念な結果となった。さまざまな積み重ねでこの結果になった。しっかり分析し、気持ちを引き締めて衆院選に向けて努力を続けていきたい」
25日朝、記者団の前に立った岸田氏は淡々とした表情で語った。文節ごとに言葉を切るような語り口はいつもと変わらないが、普段と比べて少し憔悴しているようにも見えた。
岸田内閣発足後初の国政選挙で、1週間後の衆院総選挙の前哨戦でもあった参院静岡、山口の2補選。与野党どちらにとっても重要な選挙ではあったが、2補選とも自民党議員の辞職を受けて行われただけに、特に自民党にとっては負けられない選挙だった。山口で勝ち、静岡で負けた。1勝1敗は、事実上、自民党の敗北である。
しかも岸田氏は選挙期間中に2度も静岡県入りしている。総裁自らがてこ入れして敗れたダメージは大きい。現地を取材したジャーナリストは「人はかなり集まったが、熱狂がなかった」と岸田氏の静岡入りを振り返る。
■接戦というが、実質的には惨敗ではないか
24日深夜にもつれ込んだ静岡補選の結果を分析すると、自民党にとって厳しいデータが並ぶ。
立憲民主党、国民民主党が推薦する無所属の山崎真之輔は65万789票。自民党の若林洋平氏は60万万2780票。接戦ではあったが最終的には5万票近い差がついた。
そして、忘れてはならないのは、静岡補選では野党共闘が実現せず共産党の鈴木千佳氏が出馬したことだ。鈴木氏は11万6554票を獲得した。山崎氏の票と鈴木氏の票を足すと77万票近く。野党共闘が実現していれば、野党側は「圧勝」だった計算になる。
衆院選では200を超える小選挙区で野党共闘が実現、「統一候補」が出馬している。静岡の結果は、野党共闘によって自民党候補が苦杯をなめるシナリオが現実味を増す。
報道各社が行った当日出口調査でも深刻な数字が並ぶ。立憲民主党支持層は93%が山崎氏に投票したのに対し、若林氏は、自民党支持層の79%しか固められていなかった。無党派層のうち69%は山崎氏に投票している。
■「自民党の議席は276→233程度」という予想が多い
先週来、永田町では自民党、立憲民主党や報道会社が行った小選挙区ごとの情勢調査が出回っている。多少の濃淡はあるが、おおむね「自民党は公示前の276から減らし単独過半数の233程度」という予測になっている。
岸田氏自身が勝敗ラインを「公明党との与党で過半数」と低いハードルを設定しているので、この基準ならば「与党勝利」となるが、仮に自民党の議席が単独過半数ギリギリの233議席となれば40議席以上減らすことになる。これは、「政局レベル」の敗北である。
そもそも岸田首相が誕生したきっかけは8月下旬、自民党が非公式に行った情勢調査で、自民党が大幅に議席減となる可能性があることが判明し、「菅義偉首相のままでは衆院選は勝てない」という空気が党内に充満したことに端を発する。
■岸田内閣への支持は期待していたほど高くなかった
同じころ行われた横浜市長選でも、菅氏が推した候補が惨敗。結果として菅氏は総裁選に出馬することさえも断念。河野太郎氏、高市早苗氏、野田聖子氏を含めた4人の総裁選を勝った岸田氏がポスト菅の地位についた経緯は、広く知られている通りだ。つまり、岸田氏は「衆院選で自民党が勝ち残る」という期待のもと首相になったのだ。
ところが政党やマスコミの情勢調査は、菅政権末期の情勢と大きな変化はない。悪化はしていないが「岸田効果」で当選ラインに浮上した候補は極めて少ない。岸田政権が誕生以来、岸田内閣の支持は期待していたほど高くなく、自民党内で疑心暗鬼が広がっていることは10月6日に配信した「『まさか岸田政権の支持率がこんなに低いとは……』世論を甘くみていた自民党の大誤算」でも紹介したが、参院静岡補選の結果は、その不安が現実のものとなったともいえる。
昨年9月、首相に就任した菅氏にケチがつき始めたのは今年4月、衆参3補選・再選挙で1勝もできなかった時からだ。国政選挙の緒戦で敗れたダメージは軽視できない。ましてや、政権選択の衆院選が1週間後に控えている中での敗北は痛い。
■「魔の3回生」たちが岸田氏に責任を押しつけか
もっとも、岸田氏にも同情すべき点はある。各党、各社の調査で苦戦している候補の多くは、普段選挙活動が熱心でない「魔の三回生」や、後援会組織が弱体化している高齢議員が多い。
日々、選挙区対応に余念がない議員や、党の実力者は、野党側が統一候補の擁立に成功しても、揺るぎない優位を保っている。つまり、自民党の選挙情勢が振るわないのは、日々の政治活動の手をぬいてきた議員たちの自業自得ともいえる。
ただし、これまで努力を怠ってきた議員たちは、過去3回、安倍晋三総裁の下では野党候補を蹴散らして楽々当選してきた。それが「自分の実力」だと思っているから、今、苦戦している責任を岸田氏に押しつけているのだ。
■結果しだいで「自民政局」の幕開けか
このところ衆院選は序盤で大きな流れが決まり、その後は、優位に立った政党がさらに支持を伸ばし圧勝するというパターンが続いてきた。2005年の「郵政選挙」では小泉自民党が圧勝。09年の衆院選は民主党が勝ち、政権を奪取した。12年以降の3衆院選は、安倍自民党が、野党勢力の分裂にも助けられ圧倒的な勝利を進めた。
しかし今回は、自民党が単独過半数を取るかどうか微妙な情勢で、先の見通せない戦いだ。このような展開は2003年、小泉氏と菅直人民主党代表の間で争った選挙以来、18年ぶりだ。
自民党が地力を見せて公示前勢力に近い議席を確保するか。それとも野党が静岡補選をきっかけにさらに浮上して自民党を過半数割れに追い込むか。その結果は、選挙後、自民党内での岸田氏を取り巻く状況を左右する。もし「岸田首相では来年の参院選は戦えない」となれば、早くも自民党内政局が勃発するかもしれない。
(永田町コンフィデンシャル)
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