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「韓国企業に取って代わられる」日本の"お家芸"が世界で通用しなくなったこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2021年11月29日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleksii Liskonih

■サムスン電子の姿勢に学ぶべきことは多い

今、わが国は、国を挙げて新しい産業を育成する必要がある。わが国の経済は、世界経済の速い流れに十分に対応できていないからだ。特に、わが国産業の依存度が高い自動車のEVシフトへの遅れは深刻だ。

韓国では、サムスン電子が米国で大規模な半導体工場の建設を発表した。同社は、加速化する世界経済の環境変化に迅速に対応し、最先端分野での成長実現により強く取り組もうとしている。また、サムスンSDIは車載バッテリーの生産能力を世界各国で引き上げる。

その姿勢にわが国企業が、虚心坦懐に学ぶべきことは多い。サムスングループ(サムスン)は、事業ポートフォリオに占める脱炭素とデジタル化という2つの集合の共通集合を極大化し、世界経済の“メガチェンジ”を成長加速につなげようとしている。

わが国に必要なことは、今ある強みに磨きをかけて脱炭素やデジタル化分野で新しい需要(モノやサービス)を創出する企業を増やすことだ。そのためには、民間企業の取り組みに加えて、政府が最先端分野での個人や組織の取り組みをより積極的にサポートすることが欠かせない。それが、“自動車一本足打法”と揶揄(やゆ)されるほど、自動車への依存度が高まったわが国経済の先行きに決定的な影響を与える。

■再エネ利用の遅れも自動車産業に打撃を与える

1990年代初めに資産バブルが崩壊して以降、わが国経済は自動車、特にハイブリッド車(HV)の生産に依存して景気を持ち直してきた。しかし、それは徐々に難しくなり始めている。

まず、世界経済全体で脱炭素が加速し、エンジンを搭載した自動車の利用を減らしてEVへと移行する国が増えている。EV生産は、デジタル家電のようなユニット組み立て型に移行し、わが国企業の強みであるすり合わせ技術の重要性は低下する。それに伴って、わが国が裾野の広い自動車産業の構造を維持することは難しくなり、所得・雇用環境は不安定化する恐れがある。

自動車依存のわが国にとって、再生可能エネルギー(再エネ)利用の遅れも深刻だ。欧州では洋上風力発電の増設などによって、カーボンニュートラルなバッテリーやEVの生産体制が強化され、ライフ・サイクル・アセスメントや炭素の国境調整の導入も目指される。しかし、2030年度時点でわが国の電源構成の19%が石炭火力と見積もられている。それは国内での自動車生産にマイナスの影響を与えるだろう。

■日本が環境変化に対応できない深刻な理由

デジタル化の遅れも深刻だ。わが国には、米中のような大手ITプラットフォーマーが見当たらない。それは、昨年の特別定額給付金の手続き混乱に加えて、ワクチン接種証明アプリの開発が遅れた主たる要因だ。デジタル化の遅れは自動運転やネットとの接続性など自動車のイノベーションにもマイナスだ。

なぜ、これほどまでにわが国経済全体で環境変化への対応の遅れが深刻化したか。一つの要因として、1990年代初頭の資産バブル崩壊後にわが国全体で過度なリスク回避の心理が強まった影響は大きい。リスクを恐れるあまり、わが国の政府も企業も個人も、競争原理の発揮による成長期待の高い分野での取り組みを強化することよりも、その時々の雇用を守ろうとするマインドが強まった。その状況が長く続いた結果として、わが国全体が世界経済の環境変化に取り残されたように見える。

■既存事業→成長産業へ資源を配分してきたサムスン

わが国企業とは対照的に、韓国では、脱炭素とデジタル化への対応を強化して、さらなる成長を目指そうとする企業が多い。わが国企業にとって、韓国企業から学ぶべきことは多い。

特に、韓国最大の財閥であるサムスンの組織運営力は示唆に富む。サムスンは、世界経済の環境変化を機敏にとらえて、既存事業から成長期待の高い最先端分野へ、ダイナミックに経営資源の再配分を行う経営体制を構築してきた。ポイントは、過去の成功体験に浸ることなく、常に、貪欲に成長の実現に取り組むアニマルスピリットだ。

脱炭素分野ではサムスンSDIが、スマートフォンなど民生用のバッテリーや蓄電用バッテリーに加え、車載バッテリーの生産能力を世界規模で急速に強化している。具体的にはハンガリーでEVバッテリーを生産し、米国ではイリノイ州で工場建設が検討されている。米フォード、新規株式公開を果たしたEVスタートアップのリヴィアン、さらにはステランティスなどが同社から車載バッテリーを調達する。

■個々人に徹底した成果主義と実力向上を求める

デジタル化に関する分野では、サムスン電子がファウンドリ(半導体の受託製造事業)を強化する。11月24日にはテキサス州での半導体工場の建設が発表された。

特に重要なのが、次世代の回路線幅3ナノメートル(ナノは10億分の1)のロジック半導体の生産が目指されることだ。より微細な半導体生産技術の確立と、その歩留(ぶど)まり向上で台湾積体電路製造(TSMC)に後れをとる同社としては、半導体サプライチェーンの強靭化を目指す米国政府の支援を取り込んで最先端の半導体生産ラインを確立し、TSMCとのシェア格差を縮めたい。

半導体の製造
写真=iStock.com/MACRO PHOTO
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MACRO PHOTO

サムスンは既存分野での事業運営体制の維持よりも、より成長期待の高い分野に迅速、かつ競合他社に引けをとらない規模で投資を実行することを重視している。中長期的な展開を考えると、その事業戦略は相応の成果をもたらす可能性が高い。成果の実現のために、サムスンは徹底した成果主義を貫き、個々人に実力向上を求める。わが国企業にとって、そうした組織運営力に見習うべき点は多い。

■比較優位性のあるうちに新しいモノ・サービス創出を

わが国は自力で経済成長を目指す最後のチャンスを迎えている。現時点で、わが国企業が強みを維持している分野はある。ただし、残された時間はあまり長くない。わが国の物流企業は近距離利用を目的に中国企業が生産するEV導入を発表し、自動車メーカーは国内の需要を取りこぼし始めた。HV技術を磨いた自動車産業に次ぐ新しい産業育成は喫緊の課題だ。

本邦企業に必要な発想は、素直に世界経済のメガチェンジに対応することだ。例えば、バッテリー分野でわが国企業は比較優位性を維持している。その一方で欧州では再エネ由来の電力供給が落ち込んだ。中長期的に世界全体で脱炭素は加速する。再エネと蓄電池を組み合わせた電力システムの供給によって、わが国企業は脱炭素を成長につなげることができるだろう。

このように、企業は強みを活かして世界の課題を解決する新しいモノやサービス創出を目指すべきだ。その上で、単独での海外進出などが難しい場合には、積極的に国内外の企業との提携が模索されるとよい。成長の実現は、人々に新しい取り組みを促し、より効率的な事業運営を支える。

■日本にとって最後のチャンスかもしれない

新しい産業育成のために政府は、規制改革や先端分野での民間企業への支援を急がなければならない。海外に目を向けると、米国政府などが半導体などの先端分野で補助金をより重視し、世界経済のゲームチェンジが加速している。わが国政府は主要国に見劣りしない規模で規制改革や最先端分野での研究開発支援などを進め、民間企業の新しい取り組みをサポートしなければならない。

そうした取り組みが加速するか否かが、中長期的なわが国経済の展開に決定的な影響を与える。自動車に依存した経済構造が続けば、わが国経済はこれまで以上のスピードで縮小均衡に向かう恐れがある。その場合、かつての本邦半導体産業が経験したように、わが国のバッテリーなどの専門家が好待遇で海外企業に引き抜かれ、技術が海外に流出する恐れがある。そうした展開を防ぐためにも、わが国は総力を挙げて新しい産業育成に取り組まなければならない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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