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「死ぬまでロシア大統領を続けるつもり」プーチンが5期続投にこだわる恐ろしい理由

プレジデントオンライン / 2022年1月14日 15時15分

2022年1月10日、ロシア・モスクワで開催されたカザフスタンの騒乱に関する集団安全保障条約機構(CSTO)臨時オンライン会合に出席するプーチン大統領 - 写真=AA/時事通信フォト

■「未完の革命」を成功させ、5選へ

ウクライナ情勢は昨年11月以降、ロシア軍が10万の大軍を国境地帯に集結させて緊張したが、1月10日から米露の戦略対話が開始され、「外交の季節」に入ることで、軍事侵攻の可能性はひとまず遠のいた。

ロシア最大の同盟国・カザフスタンで、新年に反政府暴動が勃発し、ロシア軍が治安維持に出動したことも、プーチン政権にとっては「2正面作戦」となり、ウクライナ対策を鈍らせるだろう。

とはいえ、米露協議は難航必至であり、交渉が決裂すれば、再び軍事侵攻の危機が高まる。

ロシアでは、プーチン政権がウクライナ威圧を強める背景に、「2024年問題」があるとの見方が出ている。プーチン大統領が、「未完の革命」であるウクライナ問題を決着させ、24年の選挙で5選を狙うというシナリオだ。

■スターリン越えとなる「30年政権」が実現する

ロシアの有力メディアグループ「RBK」は年末の12月27日、「クレムリンが2024年大統領選の準備を開始した」と報じた。

唐突かつ奇妙な報道だったが、クレムリン当局者は「現職大統領の選挙の戦い方が討議されている。他の候補の選択肢はない」と述べ、プーチン大統領が5選を目指す方針を示したという。

次回大統領選は2024年3月17日に実施される。RBKによれば、クレムリンの選挙準備は、与党が得票率を落とした昨年9月の下院選の総括や反省を踏まえて、次回大統領選の圧勝を狙っているという。2年後の選挙でプーチン氏以外に有力候補は見当たらず、出馬すれば、当選確実とみられる。

2000年に大統領に就任したプーチン氏が5選を果たせば、1期6年、2030年までの政権担当が可能で、20世紀以降のロシアでは、スターリンを抜いて最長在任の指導者になる。

■プーチン氏の後継選びは誰に?

プーチン氏の続投説は、2020年の憲法改正で過去の任期をリセットし、2期12年の任期延長を可能にした時点でささやかれていた。最長6期、2036年までの続投説もあるが、36年には83歳で、健康との闘いになる。

一方で、プーチン氏は昨年6月、国民とのテレビ対話で、「後継者を推薦するのは私の責任だ。祖国を指導するにふさわしい人物を指名する日が来ることを望む」と述べ、後継者擁立を考えていることを示唆した。

これを受けて、ロシアのメディアでは一時、後継者問題が議論され、例えば、ロシア誌「ソベセドニク」(21年10月18日)は、有力後継者ランキングとして、①ミシュスティン首相②ショイグ国防相③ソビャーニン・モスクワ市長④パトルシェフ安保会議書記⑤ラブロフ外相⑥ナルイシキン対外情報庁長官⑦キリエンコ大統領府第一副長官⑧デューミン・トゥーラ州知事⑨グレフ貯蓄銀行頭取⑩バストルイキン捜査委員会委員長⑪ボロディン下院議長⑫ゾロトフ大統領親衛隊長官――の12人を挙げていた。

プーチン氏が後継指名する場合、最有力候補はショイグ国防相だろう。30代から非常事態相を務め、ロシアではプーチン氏に次いで知名度の高い政治家。近年は毎夏、プーチン氏とシベリアで夏休みを過ごし、国営テレビがその模様を大きく報道する。ただし、65歳と高齢で、少数民族出身の点が障害になる。長年有力視されたメドベージェフ前首相は、後継レースから脱落したようだ。

■引退前に達成したいウクライナとベラルーシ問題

プーチン氏の続投は既定路線とする見方も、専門家の間に多かった。

政治学者のセルゲイ・メドベージェフ氏は昨年9月、オンライン会見で、「後継者を議論しても意味がない。おそらくプーチンは死ぬまで続けるだろう。使命感があり、変化を恐れている。事実上の終身制だ」と話していた。

調査会社「R.Politik」のタチアナ・スタノバヤ代表はカーネギー財団モスクワ・センターへの寄稿(21年12月27日)で、プーチン氏は内政、外交でやるべきことを明確に区別しており、内政は憲法改正で目標の「一元支配」を完了したが、対外的には2つの戦略プロジェクトが残されたとし、「ウクライナの中立化」と「ベラルーシのロシア統合」を挙げた。2つの戦略課題を達成して引退する見通しという。

ロシア国際政治学会の大御所、ドミトリー・トレーニン氏も米誌「フォーリン・アフェアーズ」(21年12月28日号)で、ウクライナ、ジョージア、モルドバを北大西洋条約機構(NATO)から排除し、ロシアが冷戦終結後に被ったダメージを修復するのが、2024年選挙に向けた有益な実績になると書いた。

■1万4000人を犠牲にしても諦めない“レガシー”

こう見てくると、今年10月で70歳になるプーチン氏は長期政権のレガシーを意識し始めた。それは内政ではなく、外交・安全保障であり、ウクライナ問題に集約されるようだ。

プーチン政権は2014年のウクライナ危機で、クリミア半島を電撃的に併合し、東部のドネツク、ルガンスク両州の一部で親露派勢力に独立を宣言させた。東部の紛争ではこれまでに1万4000人が死亡し、一進一退の勢力圏争いが続く。

使命感の強いプーチン氏にとって、ウクライナは「未完の革命」であり、これを放置したまま退陣できないと考えているようだ。

当面は、軍事圧力で威嚇しながら交渉を進め、ウクライナのNATO加盟を恒久的に阻止するとともに、2015年のミンスク合意の履行を狙っているかにみえる。ミンスク合意は東部親露派地域への自治権付与やウクライナの連邦化をうたっているが、ゼレンスキー政権はウクライナに不利として無視してきた。

軍事侵攻は最後の手段であり、避ける可能性が高いものの、最終的にはプーチン大統領の決断にかかってくる。

■社長や閣僚に…2世への「利権継承」が始まっている

プーチン氏が「終身統治」を目指すもう一つの理由に、政権エリートの利権継承という要素があるかもしれない。政権を取り巻く要人や新興財閥のトップは皆70歳前後であり、男性の平均寿命が67歳と低いロシアでは、「後期高齢者」だ。超富裕層となった彼らの子弟も、閣僚や国営企業幹部など有力ポストに就き始めた。

キリスト教の救世主キリストのモスクワの冬
写真=iStock.com/ChamilleWhite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChamilleWhite

例えば、プーチン氏の次女、エカテリーナさんは最近、国立モスクワ大学に設置されたAI(人工知能)研究所長に就任。すでに億万長者で、同大学の若手研究者養成プロジェクトの理事長も務め、新興財閥が財政支援する。

長女のマリアさんは医学博士で、小児医療の専門企業を経営し、メディア露出も増えた。

政権2世の動向については、反政府系紙「ノバヤ・ガゼータ」(2020年11月18日)が調査報道を行っている。それによると、政権幹部2世では、パトルシェフ安保会議書記の長男、ドミトリー・パトルシェフ氏が30代で農相に就任。大統領の柔道仲間で大富豪のアナトリー・トルチャク氏の長男アンドレイ・トルチャク氏が上院第一副議長だ。

大統領の腹心、セルゲイ・イワノフ大統領特別代表の次男はダイヤモンド採掘会社「アルロサ」社長。国営石油大手、ロスネフチのイーゴリ・セチン社長の子息は20代で同社第一副局長になり、役員候補と噂される。

■ロシア版「太子党」が誕生しつつある

このように、子弟への利権継承の微妙な時期には政権安定が不可欠であり、これも大統領続投の背景にありそうだ。

政権幹部や新興財閥の汚職・腐敗を告発した反政府活動家のアレクセイ・ナワリヌイ氏が昨年、投獄されたのは、一連の動画が一線を越え、危険人物とみなされたからだろう。

ナワリヌイ氏が主宰する「反汚職基金」は、反響を呼んだ黒海沿岸の「プーチンのための宮殿」だけでなく、政権要人の不正な不動産取得を次々に暴いており、最近はミシュスティン首相やラブロフ外相が槍玉に上がった。

こうして、プーチン体制下でロシア版「太子党」が誕生しつつある。中露関係が準同盟色を強めるのは、両国の「太子党」が政権を掌握した要素が大きい。

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名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学海外事情研究所教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミア新書)などがある。

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(拓殖大学海外事情研究所教授 名越 健郎)

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