1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

平均余命が7歳縮む…「中高年のダイエット」が危険すぎるワケ

プレジデントオンライン / 2022年2月26日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HAYKIRDI

老年医学の専門家である和田秀樹氏は「40歳こそ老化の始まり。この年代から“足りないものを足す健康法”へのシフトが重要だ」と説く。このたび上梓したセブン‐イレブン限定書籍『40歳から一気に老化する人、しない人』より、その一部を特別公開する──。(第4回/全4回)

※本稿は、和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■メタボ対策の不都合な真実

「メタボだからやせなくてはいけない」
「これを食べるとメタボになってしまう」

厚生労働省は2008年4月から、メタボリック・シンドロームかどうかをチェックする特定健康診査や特定保健指導を国民に義務づけています。そのためメタボは「避けなくてはならないこと」として広く受け止められています。

メタボ対策は、内臓脂肪の蓄積による肥満症、高血圧、糖尿病、高脂血症などを引き起こす生活習慣病を未然に防ぐために必要なことと思えるかもしれません。でも私は、それ以上に、根拠のない「やせ願望」が中高年に広まっていることについて、違和感を抱いています。

「メタボ」が健康情報を席巻するとともに、BMIという数値が広く知られるようになりました。これは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で、医者はWHO(世界保健機関)の基準で「普通」となるBMI18.5~25に収まるよう指導します。しかし、世界中でどんな統計を取っても、実はBMIが25を少し超えたあたりがいちばん長生きなのです。

2006年、アメリカで29年にわたって追跡した国民健康栄養調査の結果が発表されました。これによると、いちばん長生きなのは「太り気味」とされるBMI25~29.9でした。18.5未満の「やせ型」の死亡率はその2.5倍も高かったのです。

■メタボ対策からフレイル予防へ転換

日本でも2009年、厚生労働省の補助金を受けたある研究の結果が発表されました。40歳の時点での平均余命を見ると、もっとも長かったのは男女ともにBMI25~30。平均余命は男性で41.6年、女性は48.1年でした。逆にもっとも短かったのはBMI18.5未満で、平均余命は男性で34.5年、女性で41.8年。両者の間には、7年ほどの差がついています。

BMI25~30は、身長が170cmの男性なら体重72~87kgにあたります。昨今なら完全にメタボといわれてしまう体型で、日本では「太りすぎ」という分類にされるわけですが、その体型の人が実はもっとも長寿だったのです。

中高年の場合、多少太っていてもむしろ長生きできます。これは統計的に明らかになっているのですから、過激なダイエットに走る必要などまったくありません。「太り気味だから健康維持のためにダイエットしないと……」などと不安に思うのはナンセンス。

最近になって、東京都医師会もホームページで〈「メタボ対策」からフレイル予防へ〉という見出しのもと、高齢者はメタボを気にするよりも、フレイル(虚弱)予防を考えるよう発想を転換すべく啓蒙(けいもう)し始めました。

高齢者にとっては、栄養過多よりも栄養不足のほうがよほど大きな問題だ、ということです。

■やせにくい体質は老化が進んだ証拠

中国・香港出身のアクションスター、ジャッキー・チェンなどの老化予防の主治医を務めている、アンチエイジング研究の世界的権威であるフランスのクロード・ショーシャ博士も、やせることを第一とはしていません。博士は、やせることよりも「食べても太らなかった時代の体」に戻すことを重視しています。私はこの点に強く賛同しています。

ショーシャ博士の方式では、「1カ月で10kgやせた」式の広告のようなやせ方はしません。いままでどおり食べていても、これ以上太らずに体重が維持されたり、少しずつやせていって理想的な体を作ったりする、それがショーシャ博士独自のメソッドなのです。

30代も半ばを過ぎると、若いころと同じように食べていると体重は増えていきます。

スポーツクラブなどでは、これを「年齢とともに筋肉の量が減って、基礎代謝が下がるから」と説明します。もちろん間違いではありませんが、ショーシャ博士は、ある種の老化現象が原因なのだと考えています。

若いころは健康に活動していた臓器や細胞の機能が低下して、脂肪をため込みやすくなるわけです。やせにくい体質は老化が進んだ証拠です。

■避けるべき「体の酸化」「細胞の炎症」

アンチエイジングを実現するために、ショーシャ博士は「体の酸化」を避けなくてはいけないと主張しています。酸化によって、体は確実に古びていくのです。金属が酸化して「さび」になった状態をイメージしてもよいでしょう。

この酸化の原因になるのが「細胞の炎症」です。つまり「細胞の炎症」こそ、老化進行の原因になるといえます。私たちの細胞は細胞膜によって包まれていますが、「炎症」とは、この細胞膜に傷ができた状態です。

通常では気がつかないアレルギーを見つけ、アレルゲンとなっている食べ物を避ける。そうすれば、体の酸化が抑えられて、老化を食い止められる可能性が高まります。そのためにショーシャ博士のクリニックでは、慢性型のアレルギーを調べる血液検査をしています。

ただし、そこまでの検査をしないとまったくわからないというものでもありません。自分の体に耳を傾ければ、アレルゲンは発見できます。

食べたものを全部書き留めておいて、体がだるいとか、なんとなく気持ちが悪いといった感覚があったときに、数時間前に何を食べたかチェックするのです。気になる症状になる前にいつも同じものを食べているようなら、それがアレルゲンである可能性が高いというわけです。

■50歳以上は「足りないものを足す」視点で

これまで見てきた内容を前提に、私が提唱している「足りないものを足す」、すなわち、「足し算医療」の視点で、これから具体的に何をどのようにとっていくべきなのか、簡潔にまとめます。

プラスサインに触れる指
写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn

基本的には、ある一定の年齢(私は50歳以上と考えています)になれば、どんな栄養でも極端なとりすぎでなければ、「足りないより余っているくらいのほうがいい」というのが老化予防の大原則です。

■中高年以降はたんぱく質を取ろう

三大栄養素のうち、中高年以降とくに大切なのは「たんぱく質」です。

うつを予防するためには、セロトニンの材料であるトリプトファンを増やさないといけませんが、その材料がたんぱく質ですし、また筋肉量の維持のためにも重要です。

コレステロールも老化予防には重要です。免疫細胞の材料になるし、脳にセロトニンを運んでくれます。

たんぱく質とコレステロールをセットでとることができる肉類は、中高年以降はより積極的に取り入れましょう。

■「足し算医療」でとりたい栄養素

脂肪について不安に思う人が多いですが、体脂肪を減らしすぎると、体温が下がり免疫機能が落ちることも知られています。さらに魚の脂由来のDHA、EPA(エイコサペンタエン酸)、オリーブオイルやエゴマ油などのαリノレン酸を含む油をとると、体の酸化予防や、動脈硬化の予防、脳神経細胞の活性化につながります。

脳の働きを維持するにはブドウ糖が必須なので、ある程度の炭水化物も必要です。そのため、中高年以降は朝ごはんをきちんととりましょう。適量には個人差があるのですが、肥満の人を除けば、「体重が減らないような量がその人の適量」だといえます。

また、微量物質の不足も老化につながります。主なものをまとめましたので、参考にしてください。

中高年から「足し算医療」でとりたい栄養素

亜鉛 免疫システムの活性化 男性機能の維持 たんぱく質やDNAの合成、成長ホルモンの活性化に必須
(亜鉛を多く含む食品:牡蠣、カタクチイワシ、豚レバー、牛肉もも、カボチャ、焼きのりなど)

セレン 抗酸化作用 免疫システムの活性化 肝臓の保護
(セレンを多く含む食品:カツオ類、からしなどの香辛料、豚肉、牛肉)

クロム 炭水化物や脂質の代謝を助ける インスリン分泌のコントロール
(クロムを多く含む食品:あおさ、てんぐさ、あおのり、刻み昆布などの藻類、バジル、パセリなどの香味野菜)

マンガン 骨の発育に重要 糖脂質代謝や皮膚代謝などの酵素反応に必須
(マンガンを多く含む食品:香辛料やお茶に多く含まれるほか、クローブ、シナモン、しょうが、玉露、せん茶など)

■「食べる楽しみ」は最高の老化予防

私は、老人ホームなどでも多くの高齢者を見てきましたが、「食べること」を大きな楽しみにしている人がたくさんいました。その行為自体が、前頭葉を刺激する快体験になっていたのです。

恋愛やギャンブルも前頭葉を強く刺激する体験ですが、50代を超えるとそうそう簡単に恋愛ができるわけもありません。ギャンブルも、日本では競馬などの公営ギャンブルかパチンコぐらいしかないのです。また前頭葉が委縮している場合、依存症のリスクも高まります。

その点、「食べる楽しみ」は、誰にでもできて、脳を活性化させる効果的な方法です。

がまん型の生活をしていると、食事も簡素になりがちです。食に興味を失い、食べる楽しさをないがしろにしていると、肉体的にも精神的にも老化を進めてしまいます。

空腹、痛み、性欲……。まじめすぎる日本人の場合、がまんは美徳であり、歳相応な健康的行為だと思われているようですが、これは「迷信」と断言していいでしょう。「欲がある」のは、「人間として活力がある」ということなのです。

節制と、食事や娯楽をおろそかにすることは、まったく異なるものなのです。

■医者は「病気を治す人」

医者である私が「医者の限界」を申し上げるようで恐縮なのですが、医者にできるのは病気を治すことだけです。健康で若々しく幸せに生きるための術は知りません

そもそも「病気ではない」ことと、「健康で若々しいこと」や「幸せに生きること」は別です。

病気でない人とは、マイナス要因がない状態。ゼロの地平にいる状態です。医者による治療とは、患者のマイナスの部分を埋めてゼロの状態に戻すことです。

一方、若々しいとか幸せとかは、プラス要因を備えて上のランクにいる状態を意味します。ゼロの地平から上のランクに行くには、いまの状態に何かを足す必要があります

■自分の体が欲するものに耳を傾ける

先日、タクシーに乗ったら、運転手さんが病気との闘いについて語り始めました。

その人は糖尿病で、一度、すごい数値が出て倒れたことがあるそうです。医者に処方された薬を飲んだところ、どうにも体調が悪い。ところが友だちに「サバ缶を食え」と勧められたのでそれを食べ始めたら、体調がよくなったうえ、血糖値も安定したそうです。

和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)
和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)

「私はサバ缶を勧めますよ」。こちらが医者だと知らずに、運転手さんはそのように話を締めました。

エビデンスの出ている薬でも、効かない人がいます。その逆に、民間療法でも効く人がいます。方法は何であれ、効いたもの勝ちです。

その運転手さんは、自分の体の声を聞いたのでしょう。そして、それは大正解だったわけです。歳をとってからは、個人差がより大きくなります。自分自身の体の声を聞くということは、すごく大事です。

自分の体が欲するものは何か。それを知り、十分に足していくことで、健康で若々しく、そして幸せに生きることができると私は考えています。

----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

----------

(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください