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8年連続で売上1位…買い物好きなシニア女性が何度も買うカタログ通販の"ある人気商品"

プレジデントオンライン / 2022年3月1日 15時15分

女性誌販売部数トップの『ハルメク』。通販で人気なのは「人参ジュース」だった - 撮影=プレジデントオンライン編集部

消費意欲の旺盛なシニア女性は、どんなものを欲しがっているのか。シニア女性から幅広く支持を集め、女性誌販売部数トップの『ハルメク』。その通販で最も売れている商品は“地味なジュース”だった。フリーライターの伏見学さんが取材した――。

■5期連続で女性誌トップを走る「ハルメク」の人気商品

内閣府の「高齢社会白書」によると、2020年10月1日現在で、総人口に占める65歳以上の割合は28.8パーセントと、“超高齢化社会”に突入している日本だが、そう悲観することばかりではない。いま、高齢者を対象にしたビジネスが活況を呈しているのだ。

みずほコーポレート銀行の試算では、2025年に高齢者向け市場は101兆3000億円の規模に拡大すると見られている。企業のマーケティングでは、今後の消費の牽引役として「Z世代」が重視されているが、依然として消費意欲の旺盛なシニア世代を無視できないのが現状である。

彼らはいま、どんなものを欲しがっているのか。本稿では、特にシニア女性にターゲットを絞って出版や通信販売事業を展開する企業、ハルメク(東京都新宿区)を糸口に探りたい。

同社の看板雑誌『ハルメク』は月刊平均販売部数が38万部と、5期連続で女性誌のトップを走る(日本ABC協会調べ)。最近はテレビ番組に取り上げられるなど雑誌事業ばかりが注目を集めているものの、実際には同社の売り上げの8割は通販事業が占めている。

■13年から8年連続で年間売り上げトップ

数ある商品の中で、消費意欲の旺盛なシニア女性に極めて根強い人気を誇る商品は意外なものだった。高級品でも、安価なものでもない。

8年連続で年間売り上げトップの「ハルメク 人参ジュース」
8年連続で年間売り上げトップの「ハルメク 人参ジュース」(写真提供=ハルメク)

1缶284円(税込)の「ハルメク 人参ジュース」なのだ。

2005年1月の発売直後から勢い良く売れ続け、21年4月までに累計4260万杯(コップ1杯190グラム換算)を販売した。同社の通販商品においても、13年から8年連続で年間売り上げランキングトップに君臨する。

この要因は、繰り返し購入する顧客が多いことだ。リピート率は8割という驚異的な数字を叩き出している。「他の商品と比べてもダントツに高い」と、通販本部 健康食品課長の小川伸一氏は胸を張る。

一見、地味な人参ジュースがなぜここまで売れ続けているのだろうか。その秘密に迫る。

■思い込みで商品をつくらない

ハルメクの商品には共通点がある。それは、顧客起点で生まれていることだ。

現在、通販の売上全体の約7割をプライベートブランド商品が占めるが、担当者の勝手な思い込みや想像で商品を開発するのではなく、ほとんどが消費者の声を元にしている。消費者の直接的な要望もあれば、事前に綿密なリサーチをして、これなら売れるだろうと確証を持ったものだけを商品にするのが、同社の基本姿勢である。

人参ジュースも、消費者の反響の大きさから商品化、販売にこぎつけた。

以前、雑誌『いきいき』(現ハルメク)において、がん闘病者が健康管理のために人参ジュースを飲んでいたという記事を掲載したところ、読者から「私も自宅でつくってみたい」という問い合わせが殺到。そこで、編集部が誌面でレシピを紹介すると、今度は「つくるのが大変」「安心できる材料が手に入らない」といった意見がたくさん届いた。

こんなにも求めている人がいるのであれば、自分たちで商品を販売しようとなり、既に人参ジュースを出していたメーカーに製造を委託した。05年に発売すると同時に、「待ってました!」と言わんばかりに商品は飛ぶように売れた。

「最初は小瓶だけを販売していましたが、すぐに在庫切れとなり、1リットルの瓶を出しました。それもすぐに売れてしまうので、3本セット、さらには6本セットと種類を増やしていきました」と小川氏は説明する。現在は瓶6本セット(税込7070円)と缶15本セット(4260円)を販売している。

通販本部健康食品課長の小川伸一さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
通販本部健康食品課長の小川伸一さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■スーパーや薬局で買える商品は作らない

シニア世代が心から望むものだけを販売するのが、同社のポリシーだ。

「町のスーパーや薬局に置いてあるような商品を売るのは、われわれの仕事ではありません。お客さまがハルメクの雑誌や通販カタログを開いて、『これこそが私の探していた商品だ、ここにあったんだ』というものを常につくりたいと考えています」(小川氏)

シニア世代の期待に応えるというのは、単に欲しがっている商品をつくればいいという話ではない。人参ジュースが長く愛されるのは、栄養とおいしさも関係する。

ニンジンの主な栄養はベータカロテンやビタミンAで、体の不調を遠ざけ健康を維持するはたらきが期待されている。その栄養を最大限に引き出せるよう、主原料のニンジンは合成農薬を使わない有機栽培のみ。提携する農家は千葉をはじめ全国10カ所にあり、畑の土づくりから取り組んでいる。

人参ジュースは土づくりから始まる
撮影=中西裕人
「人参ジュース」に使用するニンジンの生産者たち - 撮影=中西裕人

なぜ他の食材ではなく、人参なのか。健康食品課主任の和田聡子氏は、「健康をしっかりと管理したい、不調の時に支えてもらいたいといった明確な目的を持つお客さまのニーズがあるからです」と話す。

実際、ハルメクが消費者調査をしたところ、野菜ジュースを飲む目的は「野菜の栄養をとりたい」が最上位だったのに対し、人参ジュースは栄養目的ではなく、「健康維持をしたい」という項目がトップにきたという。

健康食品課主任の和田聡子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
健康食品課主任の和田聡子さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■シニア女性の心をつかむための努力

人参ジュースを飲みやすくするために国産のりんごとレモン、梅を使っているが、これにもこだわりがある。

人参ジュースの材料。人参づくりは土からこだわっている
ニンジンの生産は、土づくりにもこだわっている(撮影=中西裕人)

「りんごは青森産の高品質なものだけを厳選し、コクを出すために、蒸して空気に触れさせない製法ですりおろしています。そうすることで酸化も止められるので、酸化防止剤などの添加物は不要です。とにかく安心安全で、よりおいしいものをお客さまに届けたい。最近ではオーガニックなジュースも増えてきていますが、16年以上も前からこのつくり方を続けているのはあまりないのでは」(和田氏)

実は、以前、レモンや梅はエキスを使っていた。2011年に事業拡大を目指して生産体制を強化したタイミングで、人参ジュースをプライベートブランド化し、質もさらに高めようとエキスを止めて現在の原料に変えた。

「健康のために毎朝のルーティンにしている人もいれば、食事の代わりに人参ジュースを飲んでカロリーコントロールをしている人もいます。ただし、何よりも長く続けられる味であることが大きいです」(和田氏)

原料にこだわり、手間暇かけて製造している一方で、価格はできるだけ抑えようとする。他社でも同じような原料や製法の人参ジュースはあるが、ハルメクの倍近い値段のものもある。顧客目線に立ったこうした企業努力は怠らない。

■「まだまだ完成形ではない」

もう一つ、人参ジュースの特徴として、常に商品を改善させている点がある。

売り上げナンバーワンが続くことで、その地位にあぐらをかいてしまっても不思議ではない。しかし、小川氏は「まだまだ完成形ではない」と鼻息は荒い。見た目ではわからないが、人参ジュースは細かなバージョンアップを随時行っているという。

シニア世代の声がダイレクトに届くことも、商品の質を高めるモチベーションになっている。過去にこんなこともあったと、小川氏はエピソードを披露する。

「前に飲んだらトロっとしておいしかったから定期購入を申し込んだのに、味の薄い人参ジュースが送られてきた、というクレームがありました。天然の素材なので、どうしても味にばらつきが出てしまうのですが、すぐにメーカーと話をして、濃すぎず、薄すぎず、きちんとコントロールするよう徹底しました」

使う原料にも工夫を施した。当時は1年を通してニンジンを収穫していたが、旬の季節でないニンジンはどうしても風味が劣る。実際、春ニンジンと冬ニンジンとでは、冬の方が糖度は高い。そこで現在は、最適な時期のニンジンだけを収穫し、それをすりつぶして低温冷凍で保管している。そのための冷凍技術も開発した。

「本当においしいもの、お客さまの体にいいものを第一に考えています。濃縮還元したりせず、ニンジンの本来の栄養と味を届けるにはどうしたらいいのか。りんごを酸化させずにコクと甘みを出すにはどうしたらいいのか。愚直に突き詰めていった結果がこの商品。お客さまが私たちに求めているのは、そこまでのものだからです」(小川氏)

■愚直にシニア女性の声を拾い、商品に反映する仕組み

改善を止めないのは、顧客のニーズを的確に把握しているがゆえの行動だ。“顧客ファースト”を経営改革として取り組んだのが、ハルメク社長の宮澤孝夫氏。ボストン・コンサルティングなどで数々の実績を積んだ後、民事再生法適用を申請したユーリーグ(現ハルメク)の経営再建を任されて2009年にやってきた。

「何よりもまずは顧客を理解しようと訴えました。ただ、社内はなかなか変わらなくて、苦労しました。そこで2014年4月に『生きかた上手研究所』という顧客調査の専門組織を立ち上げました。それでも最初は活用されず、使われたとしても、自分たちに都合の良い調査ばかりでした」(宮澤氏)

ハルメクの宮澤孝夫社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
ハルメクの宮澤孝夫社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

そうした状況に対して、宮澤氏はことあるごとに「きちんと顧客のことを知ろう」と社員に言い続けた。例えば、通販では、商品化する前段階から調査して、どういう物事に消費者の関心があるかを把握した。商品に対する満足度を測るだけではなく、事前にニーズを見極めることに努めた。「顧客理解」の浸透に時間はかかったが、今では会社の風土として根付いていると宮澤氏は手応えを感じている。

さらに顧客対応のレベルを上げるため、商品の問題などを即座に発見し、改善につなげる仕組みもある。それが「クレームゼロ会議」だ。

■クレームゼロ会議が生み出す好循環

毎週水曜日に開催し、関係部署の課長職以上をはじめ40人ほどが集まる。その名の通り、この場で顧客からのクレームをつぶしているが、それとは別に、商品改良の是非についても話し合っている。

「会議の中では、個別のクレームへの対応策や再発防止について議論しますが、そのほか、商品自体を改良する必要があるかどうかも決めます。例えば、衣服を買ったお客さまから『袖が引っかかり、手が上げにくい』という声があったとします。もし商品を改良しないと判断した場合は、誌面にきちんとデメリット表示をする。一方で、つくり直す判断になることもあります。クレームだけでなく、その前にある顧客の声も吸収するのが、この会議の狙いです」(宮澤氏)

商品のクレームや不具合に対応することで、例えば、シニア向けのアパレル商品なら、デザインと同じくらい機能性が重要だという理解が、社員の中に蓄積されていくというわけだ。

顧客理解は一朝一夕にできるものではない。こうした日々の取り組みの繰り返しと積み重ねが、ハルメクの強さの源泉となっている。

■「顔が見える商売」が強み…ハルメクの次の一手は

人参ジュースの今後の展望についてはどうか。目下、販売は好調だが、会社全体の利益で言えば数パーセントほどにすぎない。通販会員向け商品である以上、爆発的な広がりは難しい。そこで通販以外の流通も検討している。

ただし、手当たり次第に売ればいいという話ではない。ハルメクは顧客との直接的なつながりを大事にするため、それを理解した売り方をしてくれるパートナーとしか手は結ばないという。

「人参ジュースを求めている潜在顧客は他にもっといるはずです。その扉を開けていかないといけません。ただ、単に売りたいという店に卸すつもりはないです。私たちの思いに共感し、お客さまの声に対して、何かあった時には一緒に解決できるパートナーだけを選びます」(小川氏)

ハルメクの宮澤孝夫社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
顧客理解の大切さを繰り返し強調する宮澤社長 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

高飛車に見えるかもしれないが、顧客が最優先という絶対的な信念があるから、こう断言できるのだ。

「お客さまの顔が見える商売が当社の競争力です。一般的な量販店だと、人参ジュースを買ってくれた方が、なぜ買ったのか、商品のどこに満足したのか、不満に思っているのかがわかりません。それは避けたいです」と宮澤氏も強調する。

女性誌『ハルメク』は驚異的な続伸を続け、シニア女性の声を軸としたシニアビジネスで成長を続ける一方、売れている商品はリニューアル前から変わらない「人参ジュース」だった。裏を返せば、人参ジュースを超えるロングセラーがないことは最大の課題と言える。

過去には別の健康食品ジュースなどを販売したが、あまりうまくいかなった。人参ジュースを超える新しいヒット商品を目指して、同社の挑戦は続く。

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伏見 学(ふしみ・まなぶ)
ライター・記者
1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。

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(ライター・記者 伏見 学)

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