「懐石料理と会席料理の違いをご存じか」メディアも間違えるほどややこしい日本料理の4分類
プレジデントオンライン / 2022年2月26日 17時15分
※本稿は、奥田透『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■「和」という文字には優しさやおおらかさが込められている
みなさんは日本料理というと何をイメージするでしょうか?
定食のようなものでしょうか?
それとも懐石料理や松花堂弁当のようなものでしょうか?
日本料理を日本で生まれた料理と定義するのであれば、寿司や天ぷら、蕎麦、焼き鳥だって日本発祥のものですから、こういった料理も日本料理といえば日本料理です。
そもそも、日本の昔の人たちは、自分たちが食べている物が「日本料理」だということは、特に意識していなかったと思います。
自分たちの周囲で獲れた魚、採れた山菜や木の実、そして自分たちが田や畑を耕して作ったもの、それらを当たり前に食べていたのではないでしょうか。
それから日本料理を和食とも言いますが、日本料理と和食は何が違うかというと、別に呼び方が違うだけで、これらは同じものだと思います。
それこそ昔の人は、ただ、「日本」を示すものとして、「和」という言葉を付けたわけです。和風という言葉もありますし、食事は和食、紙は和紙、お部屋は和室、着る物は和服、お菓子は和菓子、楽器は和楽器、牛肉は和牛……。和の付く言葉はいっぱいありますし、日本のことだってそもそも「大和」と呼んでいました。
和という漢字は、「なごみ、なごむ」とも読みますので、そういう日本を象徴する優しさやおおらかさといったものがこの文字には表現されているのではないでしょうか。
和服にしても、和室にしても、和が付く言葉には、「なごみ、なごむ」といったものが、自然に表現されていたのかなと思います。
そしてその延長に和食があるというわけです。
しかし、今現在、和の付くものが全部なくなりつつあり、私はそこに危機感を覚えています。この話は後程詳しくしたいと思いますが、和の付くもので、今、残っているものは、もしかしたら和牛くらいではないでしょうか(笑)。下手をしたら和食も今、なくなりかけています。
■「懐石料理」の言葉の由来は禅にある
みなさんの中では、何となくの世間のイメージからなのでしょうか、日本料理=懐石料理と思っている方も多いのではないでしょうか。
「懐石料理」というのはそもそも「懐石」という禅から来た言葉です。その昔、空腹や寒さをしのぐため、僧侶は懐に温めた石を入れて暖を取っていました。転じてその石のように、茶事の時の空腹をしのぐための軽い料理、お茶を楽しむために先に客人に出す料理のことを懐石料理と呼ぶようになったというわけです。
一方で「会席料理」というものもあります。
こちらは、人と人が「会って」楽しく食事をする料理のことです。音が同じ「かいせき」なので、双方を区別するために、懐石料理を茶懐石と言ったりもします。
では、私がやっているものは何か、というと、間違いなく「会」う「席」の会席料理です。そもそも会席料理は、先の茶懐石をもう少しお酒や何か、集まりを主体にして砕いた形にしたものとも言えます。
現代の日本人が茶懐石を1年の中でどれだけ味わう機会があるかというと、ほとんどありません。茶事を前提とした本格的な茶懐石になると、一生のうちで経験する人は、さらに少なくなります。
ですから逆にいうと、何かそれに近いもの、もしくはそういったものでも、もう少しだけリラックスできるものはないのかといって、商業的にできたのが会席料理です。
■和食・日本料理・懐石料理・会席料理の分類法
私の店のようにカウンターや個室がある店もこのスタイルだと思います。ただ私のやっていることは茶懐石とまではいきませんが、精神的には懐石をやっているつもりでいます。客人を「もてなす」という意味では同じだからです。
ただ懐石料理では、最初に少しの汁と飯が出てくるので、そこはお酒を楽しむのが目的だったりする会席料理とは大きく違います。
また、「会席」というと100人、200人規模のものまでを会席料理と呼ぶこともあります。
個人的な意見を言えば、日本料理を分類する際に、
1 正式なお茶事で出される、しきたりの多い料理を茶懐石と呼び
2 私の店のようなこぢんまりとした小規模なお店で、お酒にあわせて一品ずつ順番に出される日本料理を懐石料理と呼び
3 100人、200人規模で、宴会を目的とした日本料理も会席料理と呼ぶことがあり
4 一般的な家庭でいただくお総菜や和定食のような身近なものを和食と呼ぶ
という風に4つに区別できれば一番よかったのではないかなと思っています。
この分け方なら、ややこしい疑問も解決され、日本人でいながら日本料理と和食の区別が説明できない、といったこともなくなったのではないでしょうか。
日本料理も和食ですし、懐石料理も和食であることは間違いないのです。メディアをはじめ、日本人は使い分けの線引きができていない。定義が曖昧だからややこしくなっているのではないでしょうか。
私も取材などを受けた際やお客様から「日本料理と和食は何が違うのでしょうか?」といったような質問を受けることも多いです。
でも、ある意味、大きくいうと、一緒だということは間違いないと思います。
■自然の成り行きで日本料理が生まれた
私は、日本料理とは、日本だからこそ生まれた料理のことをさすと思っています。
自然の成り行きの中で自然現象としてこの国で生まれてきたものが日本料理なのです。
日本料理が日本料理であるためには、いろいろな要素、それこそ地形や気候などといった自然現象が大切なのですが、日本料理が日本料理であるために一番重要なのは食材です。
例えば、魚一つをとっても、日本は世界で類のない豊富な種類と質のいい魚が獲れて、我々はそれを自然に調理して食べてきたわけです。
それから稲作も日本料理には欠かせません。弥生時代に始まった稲作が日本中に広がり、それが主食になりました。
米作があったから、みそ・醬油を作ることもできたのです。
さらに冷蔵庫のない時代も長くあり、長期保存をするために食材を干したり、煮たり、漬けたり。また日本独自のみそや醬油といった発酵食品ができて、今でも欠かせない調味料として使っています。
このように生きるための知恵から日本料理が発展してきました。
さらに日本には、四季があったということも大きいと思います。
例えば芽吹きの春、生命が生き生きと育つ夏、収穫の秋、そして寒さをしのぎ、土の中でたくわえる冬……。気候はもちろん、それに伴って温度や湿度が変わることで、獲れるもの、採れるものが変わる。それによって調理法や保存法も変わってきます。
毎日同じように食べるものの用意をしていても、季節に応じて対応をしていかなければならない。そしてそれが積み重なってその土地の食文化になっていくわけですから、日本のこの自然現象があって、この日本食、和食、食文化が生まれ、現代に続いているということになります。
何よりもそこに住む人の身体にとって必要なもの。暑さや寒さに対して必要なもの。四季折々に応じてとれる食材が日本料理になり、それが日本の食文化につながってきたのです。
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銀座小十 店主
1969年、静岡県生まれ。静岡の割烹旅館「喜久屋」、京都の「鮎の宿つたや」などを経て、徳島の名店「青柳」で修業。1999年、29歳にして故郷・静岡で「春夏秋冬花見小路」をオープン。2003年に東京・銀座に「銀座小十」をオープン。2007年には『ミシュランガイド東京』で三つ星を獲得。その後、「銀座奥田」をオープン。2013年9月にはパリ、2017年11月にはニューヨークに店をオープンするなど日本を代表する気鋭の料理人。主な著書に、『日本料理 銀座小十』(世界文化社)、『焼く 日本料理 素材別炭火焼きの技法』(柴田書店)、『本当においしく作れる和食』(世界文化社)、『世界でいちばん小さな三つ星料理店』『三つ星料理人、世界に挑む。』(ともにポプラ社)、『銀座小十の料理歳時記十二カ月 献立にみる日本の節供と守破離のこころ』(誠文堂新光社)などがある。
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(銀座小十 店主 奥田 透)
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