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バカ食いしても太らない人がいるのはなぜか…オランダ人医師が見つけた「痩せている人」の共通点

プレジデントオンライン / 2022年3月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

食事の量が同じでも、太る人と太らない人がいる。この違いはどこにあるのか。オランダ人医師らの共著『痩せる脂肪 もっとも誤解されている器官の驚くべき事実』(クロスメディア・パブリッシング)より、痩せている人ほど有しているという「褐色脂肪」についての解説を紹介する――。

■「奇妙なマウス」が証明した脂肪の働き

1940年代に、アメリカのメーン州にある大きな研究所で、ある“奇妙なマウス”が生まれました。

その研究所では遺伝子もDNAも同一の実験用マウスが飼育されていました。1949年夏、実験スタッフが異変に気づきました。数匹のマウスの体重が、生後あまり経たないうちに他のマウスに比べて重くなったのです。

このマウスは動きも活発でなく、それなのに食べる量は多く、そのうちの1匹はあまりの空腹に、餌箱に頭を突っ込んだまま寝転がり、一日中食べ続けていました。

太ったマウスのDNAを調べたところ、遺伝子の変異が起こっていました。その変異遺伝子はOb(肥満を表す英単語obesityの頭2文字)と名付けられました。

そしてこの発見からあまり時間を置かずして、同じ研究所でまた、肥満になり、凄まじい食欲を見せるマウスが生まれました。先ほどのObマウスとは違い、こちらは若くして糖尿病になりました。そのため、このマウスの変異遺伝子はDb(糖尿病を表す英単語diabetesから)と名づけられました。

Ob遺伝子とDb遺伝子の影響を調べるために、実験が行われました。

まず、「普通」のマウスと「Ob(肥満)マウス」を結び付け、2体が同一の血液源を持つようにしました。その結果、Obマウスの食欲がなくなり、体重が急激に落ち、結合されていた普通のネズミと同じくらい痩せてしまったのです。

Obマウスの血中には満腹を感じさせるものは含まれていませんでした。つまり、普通のマウスがなにかしらの物質をつくり出し、それが血を介してObマウスに送られ、影響を及ぼしたのです。

次に、「Db(糖尿病)マウス」を普通のマウスと結合させる実験も行われました。すると今度は、普通のマウスが急激に痩せ、50日間で餓死したのです。

この結果から言えるのは、Obマウスと異なりDbマウスは、普通のマウスの血中を流れていた「ある物質」に抵抗力を持っていたということです。

■痩せるには脂肪が生み出す「ホルモン」が必要

1994年になって初めて、この物質は普通のマウスの脂肪内で大量に産生されるホルモンであり、Obマウスの脂肪ではまったくつくられていなかったとわかりました。

このホルモンが普通のマウスから流れ込んだため、Obマウスは満腹感でいっぱいになり、食欲がなくなってしまったのです。

このホルモンには、ギリシャ語の「痩せている」という意味の単語にちなんで「レプチン」という名前が付けられました。これが、脂肪で産生されるホルモンとして発見された第1号です。

ホルモンは受容体に入って初めて効力を発揮できます。レプチンの受容体は身体の様々な場所にあり、脳の満腹センターにも存在しています。脂肪量が多いDbマウスもたくさんのレプチンを産生していましたが、レプチン受容体が欠陥していたために、満腹感を生み出せなかったのです。

だから普通のマウスと結合された時、今度は過剰なレプチンが普通のマウスに流れ込み、食欲を激減させ、しまいには餓死させたのです。

■抗肥満ホルモン「レプチン」が食欲を抑える

これらはマウスの実験でしたが、では人体において、レプチンはどのような影響を及ぼすのでしょうか。

レプチンが発見されると、極度に太った2人の子どもが研究対象として選ばれ、調査されました。すると、血中のレプチンは計測できないほど低いことが分かりました。遺伝子に変異が見られ、脂肪でレプチンを産生できていなかったため、ずっと消えることのない飢餓感に苛まれ、食べ続けていたのです。

白と水色の毛布の上の新生児
写真=iStock.com/minianne
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/minianne

1998年、2人のうち9歳の姉に合成レプチンを使用した治療が施され、1年後、治療は成功し、少女が1年間で16キロ以上減量したと発表されました。この結果から、レプチンは脂肪で産生され、そのレプチンが脳内の受容体と結びつくと、満腹感を覚え、食後の空腹感が消えることがわかりました。

別の研究では、レプチンが脂肪を燃やすように刺激を与えることも明らかになりました。そのため、レプチンは「抗肥満ホルモン」と呼ばれています。

レプチンは脂肪が多いほどより多く産生され、血中に分泌されます。逆に脂肪が少なければ血中のレプチン値も低く、満腹を感じる信号も減り、身体は脂肪をより多く蓄えようと空腹感を生み出します。

つまりレプチンは、体内の「脂肪センサー」なのです。

■脂肪は「妊娠」するために不可欠

脂肪ホルモンにはもっと驚くべきことが隠されています。そのひとつが、「妊娠」への影響です。それは体操選手と一般の女性との違いによってわかります。

同年代の女子たちと比べると、体操選手は身長が低く、痩せ型になることがよく知られています。食事制限と激しいトレーニングによって体脂肪率も低いのです。そして驚くべきことに、平均的な女子は12.5~13.5歳の間に初潮を迎えますが、トップレベルの体操選手の場合は14.3~15.6歳の間と、平均よりも遅いのです。

1970年代にアメリカ人生物学者のローズ・フリッシュは、小食のアスリートや摂食障害により体脂肪が少ない女性は初潮が遅く、妊娠しにくいことを発見しました。そして月経が始まるには少なくとも17%の体脂肪が必要であり、この最低基準を満たし続けることが、月経の持続に欠かせないとも発表しました。

実際のところ、脂肪と生殖力はどのようにかかわり合っているのでしょう。そのメカニズムは謎でしたが、レプチンが発見されたことで変わりました。

■脂肪のホルモンが食欲、繁殖力を左右する

先ほど紹介したObマウスはレプチンを産生できないとともに、繁殖力もなかったのです。

そしてレプチンを投与すると、食欲が減退しただけでなく、繁殖できるようになりました。つまりレプチンが脂肪残存量を伝える脳の部位は、生殖を司るセンターにもつながっていたというわけです。

レプチンが少なすぎて、この脳内センターから信号が送られないと、排卵が起こらず女性は妊娠できず、もちろん月経も止まるのです。逆の場合もあります。体脂肪が多すぎるとレプチンが大量に産生され、その結果、初潮がかなり早く来る例も多く確認されています。

笑顔でダイエット中の若い女性
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

さらにレプチンは、妊娠中も大活躍です。胎盤内でもレプチンが産生されることが判明しているのです。肥満者に見られるのと同じように、妊娠中期はレプチン量が多くなりますが、その影響をあまり受けなくなります。おそらくこれが、妊婦の食欲が旺盛な理由です。

この効果によって、生まれてくる赤ちゃんのためにもっと多くの脂肪をため込めるようになるのです。母親の脂肪は赤ちゃんにとっても、とても大切なものなのです。

■脂肪が脂肪を減らす…「褐色脂肪」の発見

脂肪にはさらに驚くべき力があります。それは、「脂肪を減らす」というものです。

じつは脂肪には、蓄える役割がある「白色脂肪」と、それとは異なる機能を持つ「褐色脂肪」が存在します。

例えば冬眠する動物たちは、多量の褐色脂肪を有しています。冬眠から抜け出す直前に体を短時間で温める必要がある彼らは、身体内に、脂肪と糖を素早く熱に換えるヒーターを持っています。それが、褐色脂肪です。

人間の赤ちゃんも大量の褐色脂肪を、とくに肩甲骨のまわりに身につけています。思春期を過ぎると筋肉量が増加して効率良く体を震わせられるようになるため、褐色脂肪のほとんどは消えると思われていましたが、最近の研究でそうでもないことがわかりました。

およそ15年前、核医学の医師が癌細胞を見つけるためのPETスキャン中に、成人の首と大動脈周辺に褐色脂肪を(再)発見したのです。

■「脂肪燃焼スイッチ」を押す4つのコツ

その後たくさんの研究で、痩せている人ほど褐色脂肪を有していて、若者には300グラムほどの褐色脂肪があることなどが分かりました。たった300グラムでも、体の中にすでに存在する褐色脂肪を刺激することで、代謝を上げることが可能です。

ライデン大学医療センターのマリエッタ・ボンが所属する研究チームは、褐色脂肪が健康な人たちの代謝に与える影響を調査しました。若い男性たちを冷水が流れるマットの上に寝かせて、冷水に触れる前と後で代謝率を測定したのです。

その結果、2時間で男性たちの代謝率は1日200キロカロリーも上昇しました。つまり、残存する褐色脂肪のスイッチを「オン」にして可能な限り活発にすれば、1日に200キロカロリーを余分に燃やすことができるのです。

なぜ冷水に触れたことで、褐色脂肪のスイッチは「オン」になったのでしょう。

脳にある視床下部は入ってくるすべての情報を処理し、熱をつくり出すべきか、熱を逃すべきか判断しています。寒さを感じることで、熱をつくるために褐色脂肪のスイッチを入れるよう、脳から信号が送られたのです。

つまり「冷たさ」によって褐色脂肪細胞のスイッチが入るため、刺激を与えるのは比較的簡単です。次のことを試してみましょう。

・毎日のシャワーの最後の数分を冷水にする。
・ときどき水風呂に入る。
・毎日、室温を数度下げた部屋で数時間過ごす。その際にセーターなどを着ない。
・運動はジムより屋外で。肌寒い日はとくに、自転車通勤しましょう。

■脂肪は決して「悪者」ではない

実際に冷たいところに行かずに、褐色脂肪を活発にする方法も調査が進められています。

マリエッタ・ボン、リーズベス・ファン・ロッサム『痩せる脂肪 もっとも誤解されている器官の驚くべき事実』(クロスメディア・パブリッシング)
マリエッタ・ボン、リーズベス・ファン・ロッサム『痩せる脂肪 もっとも誤解されている器官の驚くべき事実』(クロスメディア・パブリッシング)

例えば、唐辛子の成分であるカプサイシンを、6週間続けて若い健康な男性に錠剤の形状で飲んでもらったところ、代謝が上がることが分かっています。

このように、脂肪は実に多くの役割を担っているのです。

脳に働きかけ、脂肪が減る前兆があれば、レプチンが脳に「もっと食べろ」と指示を出すよう要求します。そして蓄えられている脂肪量に悪影響があると判断すれば、妊娠させないように脳を介してコントロールします。

さらには、褐色脂肪は刺激されることで、脂肪を燃焼して熱を生み出す働きもあります。これらを知ったいま、もう脂肪を「悪者」とは言えなくなるでしょう。

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マリエッタ・ボン 医師、医学博士、内科の専門医
ライデン大学メディカルセンターで、脂肪を燃焼する「褐色脂肪」について研究している。60以上の共著書があり、自身の研究によって数々の名高い国際・国内賞を受賞している。

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リーズベス・ファン・ロッサム 医師、医学博士
オランダのロッテルダムにあるエラスムス大学メディカルセンターの内科医・内分泌学者、教授。アメリカのボルチモア、オランダでの長年の研究により、肥満とストレスホルモンの専門家としてのキャリアをつんだ。肥満の根本原因の診断と、減量のためのオーダーメイド治療法の診断において国際・国家的に指導する地位を持つ肥満センターCGGの創設者。近年はオランダ国内の肥満対策について厚生労働省に助言も与えている。欧州内分泌学会で肥満、糖尿病、栄養、代謝など科学分野のリーダー。130以上の出版物や、書籍への寄稿を発表し、TEDxなど、ストレスや肥満の分野で多数の講演を行っている。2016年には「肥満流行の解決策」を発表し、自身の研究により20以上の国内賞を受賞している。

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(医師、医学博士、内科の専門医 マリエッタ・ボン、医師、医学博士 リーズベス・ファン・ロッサム)

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