「ポルシェと並ぶ存在」前年比214.9%…EV時代に、マツダ・ロードスターが急伸しているワケ
プレジデントオンライン / 2022年3月12日 17時15分
■2020年から販売が伸びるマツダ・ロードスターの謎
マツダ・ロードスターが売れているらしい。売れているといっても、販売ベストテンに入ったというような話ではなく、前年比で伸びている、という話である。
マニア層が顧客の大半を占めるスポーツカーは、発売当初は売れるものの、数年すると販売台数が急降下しその後は少ない台数で推移する、というのが通常のパターンである。
現行のND型ロードスターがデビューしたのは2015年5月だから、すでに7年近くが経過している。通常の車種であればモデルチェンジを迎えていてもおかしくない年数である。
さらに、この7年の間に小改良は何回か行われているものの、大規模なマイナーチェンジは一度もない。それにもかかわらず2022年1月は1122台を販売、前年比214.9%と倍増の勢いで売れている。これはマツダ3の販売台数(1188台)に肉薄し、トヨタC-HR(1072台)を凌駕(りょうが)する数字である。
販売が上向いたのは2020年の第3四半期で、それ以降ずっと前年比プラスを続けている。販売が上昇しているのは日本だけではない。アメリカでも2020年に前年比14%増、2021年は20%増と2年連続で上昇している。ヨーロッパも2021年(1~11月のデータ)は前年比48%増となっている。
■若年ユーザーが倍増…
販売が上向いているだけでなく、ユーザー層も変化している。
このような実用性の低いスポーツカーはセカンドカーやサードカーとして購入する場合が多く、必然的に懐の豊かな高年齢層が購買層の中心となる。2020年のデータでは、50代以上が全体の58%、30代以下は15%しかいない。(以下ロードスターのデータはマツダより提供)
しかしそれが2021年9月以降のデータでは、30代以下が30%と倍増している。販売台数も増加しているので、上乗せ分は若年層の増加分、と捉えることができる。
最近の若者は車に関心がなく、所有よりカーシェアを好むといわれているが、ここではまったく逆の現象が起こっている。もちろん、超局所的な話で絶対的数字はたいしたことはないのだが。
■MT比率はじつに72%
さらに販売状況を詳しく見ていくと、マニュアルトランスミッション(以下MTと記す)の比率が72%(2020年)と非常に高い。現在日本の新車販売に占めるMT比率は1%程度といわれているので、この数字は驚異的だ。
ポルシェですらMTは1割にも達していないといわれており、事実MTが設定されるモデルはごく一部だ。フェラーリやランボルギーニは今ではそもそもMT車を生産していない。スポーツカーという枠だけで見ても、この数字は驚異的なのだ。
アメリカでもMT比率は76%(2019年モデルのソフトトップのデータ)と高い。
いったいこれはどういうことなのか。
■「EV化」「高性能・高価格化」に疲れた消費者の「第3の道」
ここからは私の推察になる。
ここ数年、自動車の話題はEV(電気自動車)で持ちきりだ。現実にはEV化はまだそれほど進んでいないのだが、様々な報道を目にしているとガソリン車を楽しめる時間はそれほど長くないと思ってしまっても不思議ではない。そして、今のうちにガソリン車のテーストを思う存分味わっておきたいと思う人が増えても不思議ではないと思う(私自身そういう思いに駆られることがある)。
一方で、ガソリン車の魅力を最も味わえる(はずの)スポーツカーの世界では高性能化・高価格化が進んでおり、600馬力、700馬力という車も珍しくない。価格も上昇しており、1000万円以下のスポーツカーはもはや珍しいといってもいいほどだ。
サイズもどんどん大きくなっており、一般的な駐車スペースでは駐車に難儀するモデルがほとんどである。スポーツカーはドアが大きいため、同じ大きさでも通常の4ドア車より出入りが圧倒的にしにくいためだ。
私もフェラーリやマクラーレンといった高性能スポーツカーに試乗したことはあるが、あまりに馬力がありすぎ、またあまりに大きすぎるため、公道ではまったく楽しめずストレスが溜まるばかりであった。
つまり最近の高性能スポーツカーは、価格的にも実用面でもあまりに非現実的なものになってしまっているのである。そういう状況の中、一服の清涼剤のような存在として、マツダ・ロードスターに注目が集まっているのではないか。
■「楽しさ」を感じる車
マツダ・ロードスターは1500ccで132馬力しかないが、実際に運転してみるとパワー不足という感じはまったくしない。周囲の車と比較すれば、それほど速くないということはすぐに気づくが、単独で走っていれば爽快な加速感で気持ちがいいのだ。
MTの設定も絶妙で、エンジンを高回転まで回しても非現実的な速度にはならず、ガソリンエンジンの気持ちよさを味わいながら小気味よい変速が可能だ。シフトチェンジそのものが快感、といってもいいほどだ。だからMTを運転できる人であれば、オートマチック車を買おうとは思わないだろう。MT比率の高さも納得である。
コンパクトなボディサイズと俊敏なステアリングで車との一体感も味わえ、日本の狭い山道でもひらひらと舞うように走り、すこぶる楽しい。この楽しさは、ほかのどんなに高価なスポーツカーでも味わうことのできない、ロードスター独自のものだ。屋根を畳んでオープンで走れば、自然とも一体感を感じられ、爽快この上ない。
■再発見されたロードスターの魅力
価格も200万円台半ばから買うことができ、若者でも(楽に、とはいえないまでも)十分手が届く。燃費も良く、通常のコンパクトカー並みの燃料代で済む。つまり環境に対する罪悪感も最小限で済むということだ。
こんな車は世界にこれしかない。この車にはガソリン車を運転する楽しみが極めてピュアなかたちで凝縮しており、それを手軽に味わえるのだ。
世界中のガソリン車を楽しみたい、運転を楽しみたいと思っている多くの人が、このロードスターを「再発見」し購入に至り、それが販売増につながっているのではないだろうか。
■歴史的名車たちに並ぶ、高い評価
発売から時間が経っているにもかかわらず、世界的に評価の高さは変わらない。発売時は日本カーオブザイヤー、ワールドカーオブザイヤーなどの賞を総なめにしたが、現在でもイギリスの自動車情報サイト「Carbuyer」のベストスポーツカーに3年連続で選出されたり、ドイツの自動車専門誌『Auto Motor und Sport』でも4年連続でカテゴリー1位を獲得したりしている。
また昨年ディスカバリーチャンネルで自動車関連番組の出演者を集めてベストスポーツカーを選ぶという特別番組があり、ロードスターはベスト5の1台に選ばれた。
ベスト5といっても、他の4台はポルシェ911、ジャガーEタイプ(1960年代)、メルセデスベンツ300SL(1950年代)、アルファロメオ 6C 1750(1930年代)という歴史的名車ばかりで、現在でも生産中の車はロードスターとポルシェ911のみだ。ロードスターはポルシェ911と並ぶスポーツカーとして評価されているわけだ。
『CAR GRAPHIC』誌の創刊60周年企画の「偉大なるスポーツカー・ベスト60」でも、ロードスターはポルシェ911に次ぐ2位に選出されている。
■ポルシェをも超える「日本の宝」
私自身、15年にわたって親しんだポルシェからロードスターに乗り換えて5年が経過したが、飽きないどころかますます愛着が深まり、乗るたびに楽しさ・爽快感を味わって離れがたいものとなっている。もうポルシェに戻る気はまったくない。
マツダは他のスポーツカーのトレンドには目もくれず、ロードスターとしての存在意義を30年以上にわたってぶれることなく少しずつ磨き上げていくことで現在の孤高のポジションを獲得している。
マツダにはできるだけ長く、ピュアな形で(なるべくならEV化やハイブリッド化をすることなく)このクルマを作り続けていってもらいたい。この車は本当に日本の宝だと思う。
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マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)
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