「だから日本人の舌に合う」びっくりドンキーが流行りの"爆弾ハンバーグ"を作らない理由
プレジデントオンライン / 2022年3月12日 11時15分
■11月下旬~1月に行われた恒例イベント
「コロナが落ち着いたら、ゆっくり外で食事をしたい」
2020年以降、こんな声を耳にしてきたが、消費者は状況を見据えて利用しているようだ。
現在はオミクロン株の拡大で自重ムードだが、新規感染者が減り、緊急事態宣言が解除された昨年10月~11月、今年1月までは多くの外食店がにぎわった。
そのうち今回はハンバーグチェーンの「びっくりドンキー」(本社:北海道札幌市)を取り上げたい。びっくりドンキーは「2020 年度JCSI(日本版顧客満足度指数)」で、はじめて飲食業界の1位を獲得。顧客の支持が高まっている。翌年度は餃子の王将とサイゼリヤに1位の座を明け渡したが、顧客のロイヤルティーの高さは業界屈指だ。
その秘訣はどこにあるのか。運営するアレフにサービスの裏側を聞いた。
■肉、ごはん、サラダが絶対に混ざらない工夫
「びっくりドンキー」の最大の特徴はハンバーグに特化していることだ。
料理は1つの皿にライスやサラダを盛り合わせた「ワンプレート」で提供される。鉄板も用意しているが、注文数は少なく、常連客ほどワンプレートで注文するという。
盛りつけも標準化されており、肉やごはん、サラダは決まった場所に配置。例えばチーズバーグディッシュのチーズなどのトッピングは、その上に盛りつけられる。
そのワンプレートのディッシュ皿は、一緒に盛られた肉、ごはん、サラダが混ざらないように工夫されているという。
「お皿を触ってみると分かるのですが、まっ平らではなく真ん中が盛り上がっています。ハンバーグ側にソースが逃げていく構造になっているのです」(西日本店舗運営部部長の堀雅徳さん)
前述した焼き方の規定は、現在は正確に時間を測る。338店には直営店(130店)とFC(フランチャイズチェーン)店(208店)があるが、どの店でも同じやり方だ。
また、ハンバーグソースはしょうゆベースの1種類のみ。
「このソースのレシピは厳格に管理されており、社内でも数人にしか明らかにされていません。秘伝の味なのです」(東日本店舗運営部部長の井口純一さん)
■「ボリューム重視」の流行には乗らないワケ
最近は静岡県に本店を置くハンバーグチェーンに代表されるように、ボリューム重視のハンバーグが人気だ。そうした形にあえてしないのには理由がある。
今では札幌市に本部がある「びっくりドンキー」の前身は「ハンバーガーとサラダの店・べる」という店名で、1968年12月に岩手県盛岡市で誕生した。当時はハンバーガー店だった。
その後、マクドナルドの日本上陸(1971年)以降、主力メニューを「ハンバーガーからハンバーグランチに変えていった」のだという。今でも盛岡の店だけは「ハンバーグレストラン ベル大通り店」の名称で営業する。
「そうした経緯があり、ハンバーガーを分解して、パンをご飯に変えて、一つの皿に盛ったのが『ハンバーグディッシュ』なんです」(広報担当の渡邊大介さん)
「あの形の肉はハンバーガーが原点」だったのだ。ちなみに学生時代を盛岡市で過ごした渡邊さんは、お客として「ベル」に通っていた。
「最近はボリュームのある手ごねハンバーグも人気ですが、うちでは箸で切れやすい点が好評いただいています。ナイフとフォークも用意していますが、多くのお客さまが箸を使われます」(同)
和風味のソース、器に盛ってあり、箸で食べるなども競合とは少し違う。「日本人がハンバーグを好むのはご飯が進むから」(堀さん)という話の通り、和食のハンバーグという一面も持つようだ。
■大きな反響を呼んだ「満喫セット」
2021年11月25日~2022年1月25日には「満喫セット」という期間限定のイベントも実施した。メニューの中から好きな商品を組み合わせて、自分なりのコース料理が楽しめるものだ。次の4段階で注文可能なメニューの中から選ぶことができた。
ステップ1 ハンバーグの種類、150g or 300gを選ぶ
ステップ2 スープ or みそ汁を選ぶ
ステップ3 ドリンクを選ぶ
ステップ4 デザート or アラカルトを選ぶ
この4つの組み合わせで、その日に食べたいオリジナルメニューが注文できた。
メニューの組み合わせは約150通りになり、選んだ内容で価格も変わる。それでもコース価格は約1400円~約2000円と、かなりお得なキャンペーンだ。
「こんなご時世ですが、お客さまに楽しんでいただきたいと今回も行いました。もともと創業50周年(1968年12月15日)を記念して2018年から始めた企画ですが、大きな反響を呼び、今回で4年連続の実施でした」
広報の渡邊さんはこう説明する。
飲食店での楽しみのひとつが「選ぶ楽しさ」だ。最初から注文が決まっている人以外は、メニューを開いて「何を食べようか?」と思案する。それに応えた企画だろう。
■一番人気のメニューは「375円」お得
今回、最も注文が多かった組み合わせは何だったのか。
「『レギュラーバーグディッシュ(150g)×コーンスープ×つぶつぶ食感イチゴミルク×ストロベリーソフト』が一番人気でした。ハンバーグはレギュラーとチーズバーグディッシュの人気が高く、コーンスープとつぶつぶ食感イチゴミルクも毎年選ばれます」(同)
この組み合わせでは、通常「1805円」(税込み)のところ、満喫セット価格では「1430円」(同)だった。ちなみに二番人気(上記の組み合わせで、レギュラーバーグディッシュをチーズバーグディッシュ150gに変更)では、「1970円」が「1595円」になった。いずれも通常時より375円安く、ほかの組み合わせでも200~300円程度お得になっている。
なお、ハンバーグの価格は、グラム数とトッピング内容、店舗によっても変わる。
北は北海道から南は沖縄県まで、国内に338店(2022年2月15日現在)あり、鳥取、島根、徳島県以外の44都道府県に展開する「びっくりドンキー」。地域によって注文の傾向に違いはあるのだろうか?
■メニューを見ながら電卓を打つ人も
「満喫セットは地域差がほとんどないですね。どの地域でもレギュラーバーグディッシュやチーズバーグディッシュが人気で、ドリンクやデザートの人気商品も似ています」
こう説明するのは井口さんだ。札幌市出身だが、東北地方での勤務が7年、九州地方に約10年勤務した経験を持つ。
「満喫セット」期間中は客数も約10%増加。今回は前回よりも約15%伸びた。期間中に同セットを頼むお客は「来店客全体の約15~20%」だというが、通常よりもお得感があるセットゆえ、この時期ならではの特徴がある。
「店内のテーブルでは、メニューを見ながらスマホの電卓で計算している方も多いです。どの組み合わせがお得かを調べていらっしゃるのでしょう。他にも、SNS情報で事前情報を仕込んで来店される、という話もよく耳にします」(同)
■一次加工場+仕上げは厨房で
なぜ150通りもの注文に応じられたのだろうか。
「毎回、事前に態勢を整え、ご注文を受けてから素早く提供できるようにしています」
堀さんはこう話し、続ける。
「通常時の接客でもそうですが、店舗でのキッチン作業を簡略化しています。食材では全国に8カ所ある当社の一次加工場でパティ(ハンバーグの肉)やハンバーグソースやコーンスープなどを製造します。それを各店舗に毎日配送しているのです」
店舗作業を簡略化とはいえ、店は配達された食材を温めて盛りつけるだけではない。
「店舗ではパティを焼く、ごはんを炊く、みそ汁をつくるという調理もあります。みそ汁は店内で出汁(だし)をとりますが、これらの作業も効率化しています」(同)
ハンバーグの焼き加減は温度管理が徹底されており、誰が焼いても同じ仕上がりになるという。くわしい仕組みは企業秘密だが、そうした設備があるようだ。肉の鮮度にもこだわる。
「ハンバーグはビーフとポークの合い挽き肉です。冷凍肉ではなく、毎日店舗に新鮮な肉を配送し、製造から48時間(2日)以内に消費する社内ルールを設けています」(同)
今回で4年連続なので接客態勢も年々進化。例えば通常よりも注文が倍増するドリンクやデザート専用の伝票置き場を設け、繁忙期には従業員を増員することも行った。
■おいしさ以上に「楽しかった」と感じてほしい
現在、アレフの売れゆきはどうか。
「客数は、コロナ前の2019年と比較して約85%です(2022年2月時点)。最初に緊急事態宣言で人出が減った2020年4月は同43%。ただ同月が底で、同年10月、11月は約105%台にまで回復、時短要請が解除された2021年の秋はコロナ前より回復しましたが、オミクロン株の猛威で年明け以降は約82%で推移しています」(渡邊さん)
「一方で、営業時間が短縮されても、売り上げを確保するため、テイクアウトやデリバリーも整えていき、通常営業に戻った際は、それも寄与して『月商更新』(単月で最高の売上高)を記録した店もいくつかあります」(井口さん)
今回紹介した「満喫セット」は毎年11月からスタートしている。
「年末年始に向かう時期に、テーブルをにぎやかにしたいのです。外食は『おいしかった』と思われたいですが、『楽しかった』と感じていただきたいのです」(堀さん)
「満足」や「満腹」でなく「満喫セット」にした意味がここにあった。
「びっくりドンキー」は「全国のおいしいハンバーグ・ステーキ店」の人気ランキングでも常に上位にランクインする。外食店に厳しい状況が続くが、冒頭で記した「ゆっくり外で食事をしたい」思いは、テイクアウトやデリバリー支持にもつながっているのだろう。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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