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「この靴なら疲れません」と「疲れるのは靴があっていないから」、消費者に刺さるコピーはどっち?

プレジデントオンライン / 2022年3月24日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

人は、なぜそれを買うのか。人間の行動心理を読み解く「行動経済学」は、いまやビジネスでも広く活用されています。その要点はなにか。ジャーナリストの池上彰さんの著書『池上彰の行動経済学入門』(学研プラス)から、「消費者に刺さる宣伝コピー」について紹介します――。

■なぜスーパーの店頭は「キリの悪い値段」ばかりなのか

行動経済学はまだ新しい学問で、後述するように、さまざまな耳慣れない理論や専門用語が出てきます。そのため、つい身構えてしまいがちですが、じつのところ、行動経済学を活用した工夫や仕掛けは、私たちの身近なところでたくさん見つけることができます。

たとえばスーパーの店頭で300円、500円といったキリのよい値段がつけられた商品はあまり見かけません。

多くの商品の値段は198円とか399円などのような端数が出ています。食料品や日用品ばかりでなく、衣料品も同じです。

ユニクロに行くと、1990円や2990円の商品がズラリと並んでいます。このようにキリのよい数字から少し下げて設定した値を「端数価格」といいます。

店頭には「端数価格」の商品が並ぶ
『池上彰の行動経済学入門』より

なぜわざわざこうしたことをするかは、もうおわかりでしょう。

たとえば1000円と980円ではわずか20円の差しかありませんが、その数字以上に消費者は980円の表示を見たときに「安いな」と感じてしまうからです。

4桁の1000円と3桁の980円。ひと桁少ない価格表示は、消費者の財布のヒモを緩めるのに充分な効力を発揮するのです。

■消費者が「限定」という言葉にめっぽう弱いワケ

消費者の購買欲を高めるためにはいろいろな方法があります。

「限定」をアピールするのもそのひとつ。「3日間に限り3割引き」とか「100名様限定」などのやり方です。消費者が「限定」に弱いのは、それによって急かされるからです。

これをもう一歩踏み込んで考えると、消費者側に「損したくない」という意識が働いていることがわかります。

「3日間に限り3割引き」とは、言い換えれば、この3日間を逃すと割り引きにならずに損をしますよ、という呼びかけです。「100名様限定」は、100名のなかに入らないと高い買い物になってしまいますよ、という意味になります。

こうした、このチャンスを逃すと損をしてしまうという呼びかけに人間は弱い。それは、私たちに「損失回避性」があるためです。

これは、人は得をしたときの喜びよりも損をしたときのショックのほうが大きく、そのためなるべく損失を回避しようとする傾向が強いということです。

つまり「こうすると得ですよ」と訴えるよりも、「こうしないと損ですよ」と訴えたほうが消費者には有効であることがわかります。

■「メリットがあります」より「損をします」のほうが強い

人は利益から得られる満足よりも損失から受けるダメージのほうが大きいことから、損失をより嫌う「損失回避性」があることは前述しました。

この心理を突いた手法はCMでもよく見られます。

C M や広告は、じつはネガティブな情報にあふれている!
『池上彰の行動経済学入門』より

つまり、この商品を使うとこんなメリットがありますと訴えるのではなく、この商品を使わないとこんなに損をしますと訴える手法です。

こうしたCMや広告は、とくに洗剤や医薬品、サプリメント、エチケット商品などによくみられますが、一般的な商品についても有効です。

たとえば「この靴をはけば、長時間歩いても疲れません」と「あなたがすぐに歩き疲れるのは自分に合った靴をはいていないからです」では、どちらが心に響くかといえば、デメリットを訴求した後者のほうです。

ブティックシューズ店でのコンシューマーサービス
写真=iStock.com/ASKA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ASKA

私たちは損をすることに敏感です。したがって、そこにこそ効果的な訴求ポイントがひそんでいるのです。

■自分で作ることでモノの価値が高まる

人からの貰いものは不要になれば、あっさり捨てることができますが、自分で買ったものは捨てにくい。しかし、もっと捨てられないのは自分でつくったものです。貰いものや買ったものに比べて、自らつくったものは愛着の度合いがずっと大きいからです。

つまり、モノは自分でつくることによって、その人にとっての価値が大きく高まります。この効果をビジネスに採り入れているのが、世界最大の家具量販店IKEA(イケア)です。

■顧客満足度を高める「イケア効果」

IKEAの家具は、それを購入した人が自分で組み立てて完成させるというものです。つまり、組み立てキットとして販売されており、客は説明書を見ながらドライバーを駆使し、あちこちネジ留めをして組み立てていきます。

部材は正確にカットされており、説明書どおりの手順で進めていけば、誰でも組み立てることができます。それでも完成したときの満足感は大きく、同時にその家具には購入者の愛着がたっぷりわいているというわけです。

このようにして顧客満足度を高めるやり方は、IKEAの名をとって「イケア効果」と呼ばれています。これは自分の所有するものにより高い価値を見いだす心理をさす、行動経済学の「保有効果」のひとつです。

「保有効果」のひとつ、イケア効果とは?
『池上彰の行動経済学入門』より

■なぜ土用丑の日にうなぎを食べる習慣ができのか

「マーボといったら丸美屋」のように「○○といえば××」は、キャッチコピーの定番です。そのフレーズを刷り込まれると、消費者は「○○といえば」と聞いただけで特定の商品やブランドを思い浮かべるようになります。

この宣伝方法の歴史は古く、江戸時代、平賀源内がうなぎ屋に頼まれて考案したという説のある「本日土用丑の日」にさかのぼります。このキャッチコピーを店頭に貼り出したところ、店はたいそう繁盛し、いつしか土用丑の日にはうなぎを食べる習慣ができたとされています。

ヒューリスティックと習慣化の関係
『池上彰の行動経済学入門』より

ここで注目したいのは、このキャッチコピーによって、ひとつの習慣が生まれたこと。習慣化による需要の掘り起こしはマーケティング手法のひとつです。

最近の一例をあげれば、サントリーの黒烏龍茶がそうです。「とくに脂肪の吸収を抑える作用のあるお茶だから、脂っこい食事のときはセットでどうぞ」と訴求して成功しました。この習慣化にひと役買っているのが、行動経済学のヒューリスティックです。

あれこれ熟考して決めるのではなく、直感的・短絡的に結びつけて決めるのがヒューリスティックです。「○○といえば××」は、ヒューリスティックを消費者に植えつけるキャッチコピーといえるでしょう。

■増えている返金保証つきのサービスや商品

最近、購入者が満足いかなかった場合、すでに支払った料金を返す返金保証付きのサービスや商品が増えています。これも行動経済学の理論に則ったやり方です。

返金保証が増えているのはそれだけ事業者にメリットがあるからです。第一に、返金保証をするのは商品やサービスに自信があるからだと、消費者に好イメージを与えることができます。

また返金保証は、顧客をつかみ、つなぎとめる効果も期待できます。返金保証には保証期間があります。その期間は顧客にとって、いわばお試し期間。ダメなら返金してもらえばいいと思うことで、入会や購入のハードルが低くなります。

■意外に返金を求める顧客が少ないワケ

池上彰『池上彰の行動経済学入門』(学研プラス)
池上彰『池上彰の行動経済学入門』(学研プラス)

しかし、こうして入会し、保証の期限を迎えると、その時点で返金を求める顧客が多いように思いがちですが、実際はそうではないといいます。

というのは、ここで行動経済学のいう「保有効果」が働くからです。一度手にしたものは手放したくないという心理で、それが作用するために保証期間が過ぎても保有を継続することになります。

さらにダイエット・トレーニングなどでは「ここまで続けてきたのに、やめられない」という「サンクコスト効果」も作用し、返金を求める人は少数にとどまるのです。

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池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計9大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』など著書多数。

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(ジャーナリスト 池上 彰)

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