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なぜベンチャー企業が「利他主義」を掲げると、急成長できるのか

プレジデントオンライン / 2022年4月15日 11時15分

撮影=石橋素幸

国内最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」でお馴染みのLIFULL。創業25年の積極果敢なベンチャー企業だが、創業期に制定された同社の社是は「利他主義」である。なぜ利他主義の会社が急成長できたのか。プレジデント社の有料メールマガジン《最強ビジネスリーダーになる「3分間レッスン」》から抜粋記事をお届けします。

■みんなで激論!「会社は何のためにあるか」「幸せとは何か」

私たちの会社LIFULL(旧社名はネクスト)の社是は「利他主義」です。

LIFULLは不動産・住宅情報サイトとして国内最大級の規模を誇る「LIFULL HOME'S」の運営をはじめ、不動産の情報を核に地方創生や介護情報などの分野にも事業領域を広げています。連結の社員数は約1500人、2021年9月期の連結決算では売上高360億円、22年度は390億円を見込んでいます。大企業としては、異色の経営理念かもしれません。

私がLIFULLの前身となるネクストを創業したのは今から25年前の1997年、26歳のときでした。そのころすでに、稲盛和夫さんの著作にある「利他の心」という言葉に感銘を受け、経営の柱にすべきではないかと考えていました。営利を目的に事業を行っている以上、まずは利益を大切にしてなければならない。しかし、それだけでいいのでしょうか。当時の私には、少なくとも「利己主義だけで経営していては、会社は永続できない」という確信のようなものがありました。

問題は、どうやってその思いを社員にも実感してもらうかということ。2004年から05年にかけて、社員みんなで経営理念と、それを実現するための行動規範を考える機会をつくりました。みんなで集まって、ああでもない、こうでもないと5カ月話し合ったのです。

マネジャーを中心に、仕事が終わった後の会議室で議論しました。マネジャー以外でも希望するメンバーは参加自由です。

役職などを超えて一人ひとりが自身の考えを伝え、話せる場で、「会社はそもそも何のためにあるのか」「お金は何のためにあるのか」「幸せってどういうことか」など、言葉を掘り下げて定義していきました。

■稼ぐ力があっても「正義」がなければ、100年後には残っていない

私は「会社の目的はお金儲けではない。社会的価値を生み出すことが目的なのだ」という、稲盛さんや渋沢栄一が説いた思想をみなに伝えました。すると、「いくらいいことを言っても、稼がないとしょうがないじゃないですか」「お金がなきゃだめでしょう。従業員だって家庭があるし」といった意見が出てきます。

井上社長
撮影=石橋素幸

それに対して私は、渋沢の『論語と算盤』を引用したり、哲学者パスカルの『パンセ』から「正義と力」の話を引いて意見を述べました。「正義なき力は暴力であり、力なき正義は無力である」。つまり「正義と力、その両方が揃ってはじめて価値を生み出すことができるんだ。事業だってそうじゃないか」と。そこへさらに、みなから意見が出ては、ディスカッションを重ねていったのです。

私はこう論じました。「利己主義で事業をやれば、5年や10年は儲けが続くかもしれない。しかし、100年後にはその会社は残っていないだろう。稼ぐ力があるだけで『正義』がなく、やがてはバランスを崩して滅びるからだ。むしろ、利他主義を掲げたうえで力を発揮できれば、正義と力が揃うことになり、長く価値を生み出せる」と。

経営理念や行動規範についての長時間の議論によって社員の間にも浸透していったことで、利益優先主義への疑問が結局は「利他主義」という言葉に集約されていきました。私一人で決めずにメンバー全員でしつこく議論し、社員たちを決定プロセスに巻き込み、腹落ちさせました。じっくりと過程を経ることで理念も規範も「自分事」にしてもらい、「中途半端な浸透」ではなくなるようにしたかったのです。

最終的に完成したのが、社是の「利他主義」と、「常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る」という経営理念、そして14(現在は6)のガイドラインでした。

みなで行きついた社是と経営理念はLIFULLの背骨となり、わが社の成長を支えることになるのです。

■自社物件にも仲介物件にも満足してもらえなかったら、どうするか?

私は1991年、新卒でマンションデベロッパーのリクルートコスモス(現コスモスイニシア)に入社しました。そこで短期間、マンション販売の営業をしていたのですが、そのときお客さまに他社の物件を紹介するという出来事がありました。

そのお客様は30代共働きのご夫婦で、ご希望の物件に申し込んだところ、ローンの審査に通らなかったのです。まだバブル経済の余韻が残り、不動産価格は高く、金利も高い時期でした。

審査の結果にご夫婦はとても落胆されました。その様子を目にし、私は「何とかして、このご夫婦に良い物件を探してあげたい」という思いから、いくつか条件に合いそうな自社の物件を紹介したのですが、結局、満足していただくことはできませんでした。

そこで、「似た条件の物件が出ていたら教えてください」と周辺の不動産屋に中古マンションの紹介を頼んで回りました。私の本来の仕事は自社の新築物件を販売することですが、中古物件を仲介すれば手数料が入るのです。そのご夫婦には全部で40件ほど紹介しましたが、それでも決まりませんでした。残された選択肢は、他社の新築物件ということになります。

私は客のふりをして「これは」と思う他社のモデルルームなどを回り、パンフレットと価格表をもらって、それをお客様に届け、「ぼくは仲介できないので、もし気に入った物件がありましたら、ご自身で予約してください」とお伝えしたのです。するとその中に気に入っていただける物件があり、ついに契約をされました。

契約後、お客様が私を訪ねてくださり、「あなたのおかげです」と満面の笑みで言ってくれました。「井上さんが本当に私たちの立場に立って一生懸命探してくれたおかげで、素晴らしい物件に出会えました。どうもありがとうございました」と。

井上社長
撮影=石橋素幸

この取引で私や会社には1円の収入にもならなかったけれど、非常に大きな幸福感を感じました。「ああ、こういうことか。仕事の醍醐味ってこれなんだ」と思いました。新卒で入社してまだ日も浅く、フレッシュだったときの経験でした。上司には叱られましたが、私は気になりませんでした。

会社が私に与えた宿題が「今月は何軒売る」ということであれば、売り上げをしっかり達成すればいいんだから、やり方は自分で決めればいい。あの手この手でお客様に売りつけるのではなく、お客様に満足してもらえることを第一に考えよう――。その時私は、このように決意したのです。

■母が教えてくれた「人のために役立てれば自分も楽しい」という考え方

今回ご紹介したような営業のやり方を、お客様サイドから見たらどうでしょうか。短期的には自社の売り上げにならなくても、お客様はそんなことまでしてくれる営業マンや会社に対して、温かい気持ちを抱くかもしれませんし、その気持ちを口コミで伝えてくれるかもしれません。短期的には収支がマイナスでも、中長期で見たらそちらのほうが会社にとってプラスになるのです。

たとえば新居のお披露目パーティーを想像してみましょう。お客様はそこで、「実はこういうことがあってね」と物件を見つけるまでのストーリーを語ってくださるかもしれません。「へえ、リクルートコスモスって、そういう会社なのか。じゃあ今度うちも家を買おうと思っているから、頼んでみよう」。こんな風に、よい評判が伝わっていくのではないかと思うのです。

こうした考えを私が持つようになったのは、両親、とりわけ母の影響が強いかもしれません。母は自分のものを他人と分け合うことを「当たり前」と思っていました。もう30年ほど高齢者介護施設でボランティアを続けていますが、80代になった今も楽しそうにボランティアに出かけていきます。私はその姿を見ながら、「人のために役に立てて、楽しそうにしているのはいいな」と感じていました。母の背中から、自然と伝わってくるものがあったと思います。

リクルートコスモス時代の営業経験を含め、そうしたさまざまな体験が、今のLIFULLの社是や経営理念につながっているのかもしれません。

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井上 高志(いのうえ・たかし)
LIFULL 社長
1968年、横浜市生まれ。青山学院大学経済学部を卒業後、リクルートコスモス入社。97年に独立、現職。日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を展開。

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(LIFULL 社長 井上 高志 構成=久保田正志)

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