「“お人よし”では厳しい競争社会では生き抜けない」は大間違い…結局、成功と幸せを手にする人の共通点
プレジデントオンライン / 2024年4月27日 15時15分
※本稿は、坂東眞理子『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「ちょこっといいことしたな」を積み重ねる
私は仏教の「三尺三寸の箸」のたとえが、気に入っています。
三尺三寸とは約一メートル。こんな長い箸で食べ物をつまみ、口に運ぶのは困難です。なかなかつまめなくて苦労し、やっとつまんでも、それを自分の口まで運ぶのも大仕事です。
ところがその長い箸で、ほかの人の口に食べ物を運んであげることなら容易にできます。自分では食べるのは難しくても、人に食べさせてあげる。そうすれば相手も「そうか」とわかって、今度は相手が長い箸でつまんだ食べ物を、自分に食べさせてくれます。
こうしてお互いに、win-win(助け合い)の関係が成り立つのです。
この仏教の説話では、地獄の餓鬼たちは三尺三寸の箸があっても、自分だけが美味しい食べ物を食べようと悪戦苦闘し、ほかの人がうまくいくのを妨げるので、みな飢えに苦しんでしまいます。
極楽では反対に、お互いに相手に食べさせてよろこんでいるので、みんなが美味しいものを食べられて幸せだ、という説話です。
とはいえ、自分が食べさせても、「相手がお返ししてくれるかどうかわからない」「相手だけ食べて、お返しもせず食い逃げされるかもしれない」「食べ物が十分ないなかで、相手にあげたら自分の分が残らず、返ってこなくてよいのか」など、いろいろな意見があるでしょう。
そんな“お人よし”では、厳しい生存競争社会では生き抜けない……そう考える人のほうが多いかもしれません。
■自分の利益を守ろうと必死になると、自分が一番悔しい思いをする
たしかに他人は、自分の期待したとおりには行動してくれません。だから、相手が自分の期待したとおりの「お返し」の行動をしてくれるはずだと思うのは間違いです。
それでも「他人にいい思いをさせてなるものか」「自分が少しでも損になることはしない」と思って自分の利益だけを考えて行動していると、他人がうまくいっているのが腹立たしくなります。悔しくて邪魔したくなります。
しかし、自分の利益を守ろうと必死になっていると、地獄の餓鬼のように、じつは自分が一番悔しい思いをすることになるのです。
対照的に、極楽の住人のように「ほかの人をよろこばそう」「ほかの人がよろこぶとうれしい」と思って行動していると、お互いによろこびが増してきます。
相手によかれと思って行動していると、すぐには効果が見えなくても、思いがけないときに恵まれることがあります。他人によかれと思い、他人のことを考えて行動することが、結果的に自分の幸せを増やしてくれるのです。
■自分の欲望を少し抑えることが大きな収穫をもたらす
「忘我利他」というのは、最澄(天台宗の開祖)の言葉とされています。「自分のことを忘れて他者のために尽くす」という意味です。
でも、そのような境地に至るには、最澄のように悟りを開いたえらい宗教家だから可能なので、自分たち凡人にはとうてい無理と思ってしまいます。
そこで、いきなりそんな高い境地を目指すのではなく、できる範囲で他者に尽くす、いつも自分の利益を最優先にしないで、たまにはほかの人のことを考える……そのレベルからはじめるのが現実的です。
自分が生きるために、目の前のえさに飛びつくのは、すべての動物の本能です。でも、ときにはその欲望のままに行動するのではなく、少ない食べ物を家族や仲間と分かち合う。ちょっとまわりを見て、もっと必要としている仲間がいると気づいたら、少し分けてあげる。
いま食べることのできるものをすべて食べ尽くしてしまうのではなく、若い芽や、まだ成熟しきっていない若い実を、将来のために取らずにおく、あるいはタネとしてまく――。
これが本能だけに振り回されない人間の理性です。
長い目で見ると、自分の欲望を少し抑えることが大きな収穫をもたらすことにつながります。利己心を少し抑えて節制した結果、人類は生き延び、繁栄してきたのです。
お箸の話からはじめたこともあって、食べ物ばかりを例に挙げましたが、食べ物だけではありません。
■「たまには、ほかの人のことを考える」ことから
事業に際しても、自分ばかり儲けよう、利益を上げようとするのではなく、協力して働いてくれる人を大切にし、お客さんによかれと思うことをする、将来のために投資をすることが、長い目で見て事業が繁栄し、持続的な利益を生みます。
自分の利益を増大させるために有名人や権力者と知り合い、相手を利用しようとする姿勢では、かえって警戒され、評判を悪くしてしまいます。
「わかった、理想論としてはそのとおりかもしれない、でも現実に利他的に行動するのは難しい」と思う人が多いかもしれません。たしかに人間は目先の利益に飛びつきます。
美味しいものがあったらむさぼりたくなります。異性には自分だけよく思われたいと思うのが自然の感情です。
そんなふうに、自然の感情や欲望に負けて、利己的な行動を取ってしまうのを完全になくすことはできません。
だから、しかたがないとあきらめてしまわないで、意識して自分の自然な欲望――煩悩を少しだけコントロールするよう努めることです。これが人間の優れているところです。
ほんの少しだけでいいのです。少しだけ利他的に行動していると、自分も幸せになり、ひたすら利己的に行動している以上に幸せになれるのです。
いつもいつも利他的な心を持ち続けるのは不可能でも、一日に一度だけでも「今日は何か人のためによいことをしただろうか」と振り返ってみる。「自分でも何かできることがあるかな」と、たとえば、お風呂のなかで考えてみたり、布団に入って眠る前に考えてみたりする。
こんなふうに意識すると、必ず、自分がほかの人にやってあげられることがあるのに気づきます。気づけば行動することができます。それが習慣になると、すばらしい結果が生まれるはずです。
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昭和女子大学総長
1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、総理府(現内閣府)に入省。内閣総理大臣官房男女共同参画室長。埼玉県副知事。在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、2003年に退官。2004年、昭和女子大学教授、同大学女性文化研究所長。2007年に同大学学長、2014年理事長、2016年総長。2023年に理事長退任。著書に300万部を超えるベストセラーの『女性の品格』(PHP研究所)のほか『70歳のたしなみ』(小学館)など多数。
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(昭和女子大学総長 坂東 眞理子)
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