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「会社は他人が作ったただの箱」92歳の精神科医が教える"仕事の悩みが一気に晴れる"考え方

プレジデントオンライン / 2022年4月23日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio

現役世代の仕事の悩みは深い。92歳の精神科医・中村恒子さんは「会社は他人が作ったお金儲けのための、ただの箱。そこはあくまでも他人の箱庭なんやから、自分の思うような役割に就けなくても、気にせんでええ」という。54歳の精神科医・奥田弘美さんとの対談をお届けしよう――。

※本稿は、中村恒子・奥田弘美『うまいこと老いる生き方』(すばる舎)の一部を再編集したものです。

■60代からは全く新しい景色が見える

【中村】役割ということでいえば、子どもがいる人は子育ての責任からも解放されるね。30代から50代の頃は、父親も母親も、色々な気苦労が絶えないものやけど。

【奥田】私もまだ大学生と高校生になる息子がいますが、まさに今も彼らに振り回されています……。

【中村】それも、子どもが成人してしまえば一段落や。孫のことが気になる人もいるやろうけど、それでも自分で子育てをしていた時代とは天と地ほど責任感が違う。私は息子夫婦と同じ敷地内に住んでるけども、彼らが子育てに奮闘しているのを「頑張りや~」って旗振って応援している感じや。

【奥田】まだまだ息子たちのために働かなければならない私としては、すごく憧れます。私が今の仕事を頑張っている大きな動機は、息子たちの教育費を稼ぐためですから……。教育費の負担がなくなったら、もっとゆったりと働きたいなと指折り数えている毎日です(笑)。

【中村】大丈夫。子どもが独立したあとは仕事も生活も、どんどん楽になっていくよ。私は子育てが終わってからもずうっと医者としての仕事を続けてきたけれども、60代ぐらいからは、全く気分が違う。それまでは先生と同じで、家族を養うために、生活するために稼がなあかん、と勤務医として必死で働いてきた。

仕事がなくなったら、たちまち困るから、院長から振られた仕事は、どんな仕事でも「ハイハイ」って引き受けてきたわな。私らは上の人からの命令にはノーと言ったらいけないって躾けられた世代やから、ひたすら言われるままに仕事をこなして、手にした仕事は手放さないようにしてきたんや。

■子どもが独立してからは気楽に

【奥田】今も昔も子育て中の男女は、多かれ少なかれ同じプレッシャーを感じながら仕事に食らいついていると思います。家族のためにと生きがいを感じる反面、ときどき「あ~、しんどいな……」と疲労感を覚えることも少なくない。でも先生は、お子さんたちが一人前になって自分たちで稼いでこられるようになってから、ずいぶん心境が変化されたようですね。

【中村】そうや。子どもたちが独立してくれてからは、仕事は「いつ辞めてもええから、人の役に立つ間だけ無理せずに働かせてもらいましょ」って心境で、すごく気楽になったね。職場でも中心になってバリバリ働く気分ではなくて、若い人たちのサポーター役のような心境になった。

それに60歳を過ぎると、さすがに勤め先の病院も「もうあの先生は歳やから、あんまり仕事を頼んだら病気になる」ということで、だんだん仕事は減ってくるしね。人生うまいことできとるわ(笑)。

■老いることは悪くない

【奥田】たしかに企業も、60代以降で再雇用した人に対しては、現役世代のときのような成果や結果を求めなくなりますよね。それはある意味、寂しいことかもしれないけど、考え方を変えれば、若い頃のように数字やノルマに追われない分、気楽に働けるはずです。

【中村】「一億総活躍社会」とかいうけど、社会はいつの時代も20代から50代の人が中心になって回しているもんやろ。だから60代からは、そのお手伝いをするって感じやな。老いぼれでも、ちょっとはお役に立てているうちは働かせてもらいましょって感じやね。

【奥田】家庭でも、職場でも、中心ではなくなって脇役になっていくけど、それは寂しいことじゃなくて、責任やプレッシャーから次々に解放されていくってことなんですよね! 年齢を重ねることで仕事に対するストレスも軽くなっていくなら、老いることはやっぱり悪くないですね。

図書館で読む先輩女性
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

■気力・体力の右肩下がりも、悪くない

【中村】老人になると役割だけじゃなく、自分を縛ってきた「欲」からも、どんどん解放されるよ。面白いもので、ええ塩梅に気力や体力が落ちてくるから、あれしたい、これしたいって気持ちがだんだん少なくなっていくんやな。仕事でも私生活でも、脇役・黒子でけっこう、そっちの方が楽やし! ってな感じになってくる。

【奥田】たしかに50歳を過ぎたあたりから、物欲も穏やかに減ってきますし、仕事や趣味で自己実現しなきゃ、とか、人生を充実させなきゃ、といった感覚も、どんどん薄まっていきますね。

【中村】自己実現ねえ。私らの頃と違って、そういうことで悩んでる若い人が多いみたいやね。「仕事が自分に合ってない」「人生が充実していない」、そんな理由で、うつっぽくなって外来に来る人もいるわね。

【奥田】私も産業医として、そうした方々をたくさん診察しました。自分自身も20代から40代にかけては、自己実現感を常に追い求めていた気がしますね。

■仕事は食べていくためにするもの

【中村】私ら戦争を経験した世代からすると、そもそも「何かを通じて自己を実現する」っていう感覚がないから、気持ちがわからへんけどね。

中村恒子・奥田弘美『うまいこと老いる生き方』(すばる舎)
中村恒子・奥田弘美『うまいこと老いる生き方』(すばる舎)

仕事は生活していくため、食べていくためにするもんやと思って、私自身はやってきたから。好き嫌いと関係なく、むちゃくちゃ苦しい仕事じゃなければ、お給料がもらえて人並みの生活ができていたらそれでええわって。

【奥田】きっと、私の世代くらいから、仕事はお金を稼ぐためだけじゃなくて、自分を活かすため、輝かせるためにするものだっていう刷り込みがされてきたんですよ。今の若い人は、学生時代から将来のキャリアプランをイメージさせられていますから。だから社会に出て、仕事が自分の理想と違っていると、悩んだり不安になったりしてしまうし、他者から自分の欲しい評価をもらえないと、うつ的になってしまうんです。

■会社は他人が作ったお金儲けのための、ただの箱

【中村】わあ、大変やなあ。そんな小難しいことを四六時中考えていたら、それこそ病気になってしまいそうや。会社は他人が作ったお金儲けのための、ただの箱。そこはあくまでも他人の箱庭なんやから、自分の思うような役割に就けなくても、気にせんでええのになあ。他人が輝こうが、出世しようが自分の食い扶持が稼げればええやないの。仕事をする一番の目的は、自分や家族を食べさせるためでしょ。

【奥田】先生とお付き合いするようになって、だんだん私もそう考えられるようになりました。

特に30歳を過ぎてから夫の仕事の関係で東京に来て、夫の給料が下がったり、子どもが二人できたりして、自分が生活を支える立場になってからは、仕事をする一番の目的は食べるためだって、どんどん吹っ切れていきましたね。まずは家族の食い扶持を稼げていたら、それで充分。自分に余裕があるときだけ、自己実現的なことができたらいいよね、という感じです。

【中村】それは何よりやったね。

【奥田】とはいえ、30代や40代の頃は、キャリアアップのために資格をとらなければならなかったり、仕事で新たなスキルが必要になったりと、常に自分を鼓舞するように働かざるを得ないところがありました。

でも50歳を過ぎてからは、仕事人生のゴールがある程度見えてきたし、仕事の中心を担う世代も、自分たちより若い世代へと自然に移っていく。ああ、自分たちの年代はそろそろ現役世代の終わりに近づいてきたんだな、ということを受け入れた頃から、かなり気持ちが楽になってきました。これも老いの効用ですよね。

■看取った患者さんが教えてくれたこと

【中村】それでええんと違う? 私は何人も患者さんを看取ってきたけれども、死ぬときは地位も名誉も関係なしや。あの世には何も持って行かれへん。どんな活躍してきたか、どう生きてきたかに関係なく、人間いつか必ず死ぬの。

せやったら眉間にシワ寄せて、仕事で自己実現しないとあかんとか、人生を充実させないと、とか考え過ぎずに、目の前の仕事をたんたんとこなしながら気楽に生きていったらええと私は思うけどなぁ。

【奥田】そこに、いつ気付くかですよね。残念ながら、戦後の豊かな日本で育ってきた私たちの世代以降は多かれ少なかれ、自己実現しなくちゃ、仕事も私生活も充実させなくちゃ、という呪縛を刷り込まれています。

若い世代の間では「リア充(現実の生活が充実していること)」と言ったりしますが、とにかく「他人に認めてもらえるような「充実した人生」を送れていないと恥ずかしい」という妙な負い目を感じているのですよね。

でも、現役世代を引退して老いていく過程では、ようやく、こうした呪縛からも解放してもらえそうです。仕事でも家庭でも、色々な役割から解き放たれて、周りと競争したり比べたりしなくても良くなる。すると、世間や人の目を意識しないで、自分の気持ちに素直になって、楽に生きていけるはずです。

【中村】そうや。私のように92歳まで生きると、何も守るものもないし、望むこともないし。毎日たんたんと起きて、ちょっと家事してちょっと仕事して、食べて寝てって感じ。そもそも老人になって一線から退いたら、人との付き合いも最小限で良くなる。すると余計な世間体とも、どんどん無縁になっていくしね。

そういう平坦な生活は、若い人からみたら面白くないように感じるかもしれへんけど、ええ塩梅に体力・気力が衰えていくから、私にとってはそれがちょうどええ。もうこの年で遠いところへ旅行へ行くのもしんどいし、ときどき息子や孫に会って、話ができるだけで充分。まさに「リア充」やな(笑)。

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中村 恒子(なかむら・つねこ)
精神科医
1929年生まれ。1945年6月、終戦の2か月前に医師になるために広島県尾道市から一人で大阪へ、混乱の時代に精神科医となる。二人の子どもの子育てを並行しながら勤務医として働き、2017年7月(88歳)まで、週6日フルタイムで外来・病棟診療を続けてきた(8月から週4日のフルタイム勤務に)。「いつお迎えが来ても悔いなし」の心境にて、生涯現役医師を続けている。

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奥田 弘美(おくだ・ひろみ)
精神科医 産業医
1967年生まれ。約20年前に中村恒子先生に出会ったことをきっかけに、内科医から精神科医に転向。現在は都内にて診療および産業医として日々働く人の心身のケアに取り組んでいる。執筆活動も精力的に行い『一分間どこでもマインドフルネス』(日本医療情報マネジメントセンター)など著書多数。今回、念願であった恩師・中村氏の金言と生きざまを『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)にまとめて出版した。

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(精神科医 中村 恒子、精神科医 産業医 奥田 弘美)

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