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小池都知事の「太陽光義務化」をただ潰していいのか…東大准教授が「太陽光ヘイト」のYouTuberに本気で怒るワケ

プレジデントオンライン / 2022年6月9日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sl-f

東京都が新築住宅に対して太陽光発電の設置を義務付ける条例案の整備を進めている。東京大学大学院の前真之准教授は「著名YouTuberなどが『ヘイト』ともいえる執拗な批判を繰り返しているが、住まい手にとってこれほど経済的メリットの大きな生活防衛策はなかなかない。アメリカでもヨーロッパでも推進されている設置の義務化は、検討の価値が大いにある」という――。

■東京都の太陽光発電義務化が引き起こしたヘイトの嵐

東京都は住宅・建築物での消費エネルギーや温室効果ガスの割合が大きいことから、その削減に向けてさまざまな施策を進めています。先日、専門家からなる審議会の提言を受けて、一戸建て住宅を含む新築建物に太陽光発電の設置を義務付ける条例改正の中間とりまとめについて、パブリックコメントが開始されました。

太陽光発電については、従来、京都府で「説明義務化」が始まるなど、普及に向けた自治体の取り組みはこれまでもありましたが、設置の義務化は東京都が初めてことで、大きな注目を集めています。そうした中、非常に強烈な「ヘイト」といってよい批判の嵐がネットを中心に蔓延。「論破」で有名なYouTuberまで参戦して、大変にぎやかなことになっています。

筆者は、大学の博士課程を卒業後、国の研究所を経て大学で教員をしています。25年以上にわたって住宅のエネルギー全般を、世間の注目を集めることもなく地味に研究しています。太陽光発電が売れたからといって、特段ご利益にあずかれる立場ではありません。しかし、そうした利害関係がない立場からみても、今の太陽光ヘイトは異様なものに感じられます。

■太陽光を批判する人は本当に環境や人権を考えているのか

太陽光ヘイトの理由として定番なのは、「家が高くなる~」「屋根に載せると雨が漏る~」「パネルは輸入品ばっかり~」「生産国での少数民族の人権が~」「パネルの廃棄が~」など。あらを探し出してひたすら攻撃する。「ほじくったあらをシツコク一点攻撃」という、論破そのものを目的とした、平凡でありふれたスタイルです。

太陽光アンチの「論拠」の一つひとつに反論することに、限られた文字数を割く余裕はありません。太陽光の課題を論じる時だけ豹変(ひょうへん)する「トキダケ環境主義者」「トキダケ人権主義者」が、本当に環境や人権を真面目に考えているとは思えませんからね。

発信する方は「常識のウソ見つけた俺スゴ」で気分よく、動画サイトのエンタメとして手軽にバズればコスパも良好。今回の義務化案を潰した暁には、「俺たちスゲ~」「コイケ(都知事)蹴飛ばしたった~」とひとしきり内輪で盛り上がった後は、次の論破ターゲットを探しに徘徊(はいかい)していくのでしょう。

■「電気代は何とかなる」なんてゼッタイ言えない

本稿ではもはや、深刻化する地球環境問題とか化石燃料輸入に伴う巨大な貿易赤字とかは論じません。こういうテーマを持ち出すと「イマドキ地球温暖化なんか信じてる~」とか「原発再稼働でオールOK~」とかなりかねませんから。

本稿ではひたすら、日々の暮らしでの電気代にフォーカスします。なにしろ、昨今の国際情勢の影響をもろにうけて、この1年ちょっとの間に電気代は実に4割も上昇していますからね(図表1)。電気を同じ量使っているだけで、毎月の支払いが3000円以上も値上がりとか、正直イタイ。地球環境とか日本の経済はさておいて、「今後も電気代は値上がりしますか? どうすれば負担を避けられますか?」という問いに絞って考えていくことにします。

電気代は4割上昇

住宅エネルギーの専門家の端くれとしての立場からすると、この質問は素朴だけと結構シビアでキツイです。本当は筆者も、「電気代なんて心配ないですよ~、なんとかなりますよ~」と笑顔で答えてあげたい。でも多少は事情を知っている立場からすると、そんな楽観論は(口が裂けても)言えません。そして、真面目に電気代の値上がりを心配するなら、一番効果があるのはスバリ「太陽光の屋根載せ」です。

■エネルギー争奪戦で化石燃料の価格高騰は避けられない

まずは電気代の予想から始めましょう。株価と同じように、電気代を予想することは極めて困難ですが、まずは電気を作るのに欠かせない化石燃料の価格を見てみましょう。図表2に、熱量あたりの化石燃料価格(米ドル)の推移を示しました。

熱量あたりの化石燃料価格(米ドル)の推移

ロシアのウクライナ侵攻に伴い、ヨーロッパの天然ガス価格は跳ね上がりました。2020年ごろはコロナ禍による需要停滞で価格が暴落していた分、今回の値上がりの痛みは厳しくなっています。さっきの電気代4割アップはこれが直接の原因。化石燃料の値上がりは、「燃料費調整」という制度で自動的に電気代にスライドされるのです。

今回の非常事態が収束すれば、化石燃料の価格はまた落ち着くのでしょうか。そうなることを切に願いますが、今、ヨーロッパはロシアへのエネルギー依存を解消すべく、世界中から代わりとなる供給国を血眼で探し求めています。

世界を巻き込んだ奪い合いになれば、価格高騰は避けられません。おまけに、円の価値が下がる円安が進行すれば、ほとんど100%輸入の化石燃料の円価格はさらに高騰。いずれにしろ、化石燃料の大きな値下がりは望み薄にも思えます。

■政府のエネルギー政策は首をかしげざるを得ないものばかり

世界を巻き込んだ奪い合いで化石燃料の価格が高騰したままだとしても、日本の政府や企業が一生懸命がんばって、われわれに安い電気を提供してくれたらステキですね。国民の先々の生活を真剣に考えていて、本当に国民のためになることを、たとえ仲間内での受けが悪かろうとも地道に準備してくれている。そんな国だったら、ちょっと安心できます。

しかし大変残念ですが、「国民の電気代」という素朴な問題について真面目に考えている、政治家・官僚・大企業・研究者は、筆者の知る限りほとんどいません。完全にゼロとはいいませんが、ほぼゼロです。この国を動かしている彼らの関心事は、「自分とお仲間が今だけ楽しければオールOK」のただ一つ。残念ながらそうとしか思えません。

政府から「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」とか「クリーン・エネルギー戦略」などの美名の下に打ち出される政策は、巨大な石炭火力発電所の維持・新設を前提にするような首をかしげざるを得ないものばかりです。夢の技術として盛んに宣伝される炭素回収・貯蔵(CCS)やアンモニアも全く実用化しておらず、世界から相手にされず融資もしてもらえない。そうした一部企業の「世界に誇る」化石技術を、国債を盛大に発行してまで全力で支えよう、というのですから。産官学が結託した日本の化石ファミリー、恐るべしです。

■「化石ファミリー」を崇拝した人が高い電気代を払い続けるという皮肉

「安い石炭が日本を救う」という論調がなぜかはびこっていますが、前ページの図表2のグラフを見れば、石炭の価格も順調に上昇中。むしろ、シェールガス革命でエネルギー輸出国に転じた、アメリカの天然ガス価格の安さが際立ちます。

化石技術は、化石燃料を自国でまかなえるアメリカや中国こそ有利なのは自明の理です。化石燃料をほぼ100%輸入する日本が、なぜか化石技術に執着する無理筋。本気で勝てると思っているのなら、かなりシュールです。

もちろん家を建てる住宅産業も、一部の例外はあるものの、ほとんどの業者は施主の電気代なんて全く気にしていません。今回の太陽光設置義務化はもちろん、最低限の断熱・省エネの義務化においても、彼らは「住宅の販売価格が高くなる」などと常に反対し先送りさせてきました。産業界は、目先の「売りやすさ」を最優先し、少しでも邪魔になりそうな政策には難癖をつけてただ反対する。これまでの数々の行いが証明しています。

化石燃料をほぼ100%輸入する日本が、なぜか化石技術に執着
筆者作成

なんとも滑稽なのは、既得権論破して俺スゴが勝ちパターンのはずのYouTuberたちが、図らずも化石ファミリーの既得権を死に物狂いで守り、逆に動画を信じた視聴者を寒さと貧しさに放り出そうとしているという皮肉。毒強めのブラックコメディーのつもりかもしれませんが、筆者はちょっと笑う気になれません。

もちろん、日本を牛耳る化石ファミリーを信じて、彼らがいつまでも安い電気が潤沢に供給してくれると本当に信じるのであれば、どうぞ、断熱も設備も太陽光も一切やらず、「ノーガードの家」を好きなように建てればよいのです。もちろん筆者は、そんな無責任なアドバイスは絶対にできませんが。

■家づくりの「銀」「金」「飛車」で電気代は簡単に削減できる

ここまで考えてみて、「どうも安い電気を当てにしたらヤバそうだ」とすると、我々は結局どうしたらよいのでしょうか? 高くなる電気代への対策は、意外に簡単です。政治や行政を変革するまでもなく、系統から買ってくる電気に頼らない、エネルギー自立の家づくりにしっかり取り組んで、化石ファミリーから縁を切ってしまえばよいのです。

住宅で電気代の削減を真面目に考える時、間違いなく節電効果が大きく、かつ完全に熟成され、コストもこなれた技術は、3つしかありません。熱や空気の勝手な出入りを防ぐ「断熱・気密」と、少ないエネルギーで熱や光を賄う「高効率設備」、そして自然エネルギーで電気を作る「再エネ」です。ちなみに最後の再エネのうち、住宅レベルで唯一実用的なのが、太陽光発電です。

オイルショック以降50年、節電効果が間違いなく今すぐ頼れる技術は3つだけ!
筆者作成

この3つは、オイルショック以降の50年にわたり、磨き抜かれた選りすぐり。「他にも現状で評価されていない技術が~」と主張する人は確かにいますが、長年研究してもいまだに効果が実証されていないのであれば、その程度を察してあげるのが大人というものでしょう。

筆者の独断で将棋の駒に例えれば、断熱は「銀」、高効率設備は「金」、太陽光発電は飛び道具の「飛車」。この3つなくしてまともな将棋(節電)はできません。この3つの歴史をザっと見てみましょう。

■お家芸だった「家電・設備の高効率化」は過去の栄光に

日本はずっと、「家電・設備の高効率化」を重視してきました。特に、オイルショックのころにはクーラーやカラーテレビなどが急速に普及し始めていたこともあり、当時は元気いっぱいの日本の家電メーカーが世界の先頭を突っ走って、エアコン・テレビ・冷蔵庫の省エネをバンバン進めました。

LED照明も日本が実用化したようなものですし、2000年以降はエコキュート(電気ヒートポンプ)や燃料電池などの高効率な給湯・発電システムが、世界に先駆けて続々と登場。キラ星のような家電・設備があふれていた2010年ころまでは、古い機種を買い替えるだけで電気代が大きく減る。まさに高効率設備の「黄金期」でした。

オイルショックから2020年代
筆者作成

しかし2010年以降、新たな高効率設備はほとんど登場しなくなります。LEDやエコキュートは一通り普及してしまい、エアコンやテレビの効率向上は完全に頭打ち。日本の家電メーカーも世界市場で惨敗して、すっかり元気をなくしました。日本のお家芸だったはずの設備に、この後さしたる期待はできそうにありません。もはや平凡な「歩」に成り下がってしまったようです。

■いわれないヘイトにさらされ続けた「断熱・気密」の歴史

熱と空気の勝手な出入りを防ぐ「断熱・気密」は、冬暖かく夏涼しく、少ない暖冷房費で暮らすために欠かせません。設備の高効率化が一段落した2010年以降、普及が加速した感があります。しかし、断熱・気密の歴史はそれこそ「アンチ」「ヘイト」にさらされた苦難の歴史でした。

もともと、日本の伝統住宅は断熱・気密の概念が全くなく、雨露をしのぐのが精いっぱいで、熱も空気も出入りし放題。オイルショック以降はさすがにひどすぎるということで、寒冷な北海道から、断熱・気密の取り組みが始まりました。初めは結露などのトラブルもありましたが、地道に改善を重ねて解決してきました。

寒冷地で普及した後、だいぶ遅れて本州でも断熱が普及し始めますが、これがもう大変でした。「日本の伝統に断熱気密なんてない」「断熱・気密をとると木が腐る」「北海道の技術を外に押し付けるな」と、すさまじい批判や中傷が吹き荒れます。

筆者も、「家が暖かいと子供がナマケモノになる」「断熱・気密がいらないことを証明するために俺はエコハウスを建てた」と主張する設計者に、面と向かって遭遇した経験が少なからずあります。

■国土交通省も23年ぶりに断熱の上位等級を新設

そうした「建築の専門家」からの心無いヘイトにさらされる中、真面目な研究者や建設業者は、涙をこらえつつ地道に技術を磨き、少しずつ実績を増やし、価格を下げてみんなに断熱の恩恵を届ける努力を続けました。そのおかげで、冬にも暖かく電気代も心配なく暮らせる技術が確立したのです(詳細はプレジデントオンラインへの寄稿「日本はいつまで“寒い家”を押し付けるのか」を参照のこと)。

断熱の普及に全くやる気のなかった国土交通省もその効果を認めざるを得なくなり、今年4月に実に23年ぶりに断熱の上位等級を新設しました。断熱は長い苦労を経て、ゆるぎない「いぶし銀」となったのです。「断熱すれば暖かく暖房費も節約できてこれは絶対やったほうがいい」と筆者も手放しでオススメできます。

断熱の技術が確立した今、かつての「断熱アンチ」の面々はどうしているのでしょうか? 反省して断熱に前向きに取り組むようになった真面目で良心的な人もたしかにいます。一方で「そんなこと言ったっけ~」と素知らぬ顔を決め込んだり、「やっぱり納得できない~」といまだに反対運動にいそしむ人も少なからずいます。

本来は現政権の「グリーン」戦略を攻撃すべき野党まで巻き込んで、時代錯誤の断熱ハンタイ・太陽光ハンタイ運動を繰り広げ、図らずも化石ファミリーを熱烈支援しているのです。

原油価格上昇がコンセプトのイメージイラスト
写真=iStock.com/ChakisAtelier
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChakisAtelier

建築の専門家だからといって、住まい手にちゃんと責任をとろうと日々研鑽している人ばかりだと思っていたら大間違いです。問題だらけの古いやり方を改善しようとせず、思い込みと大昔の情報を言い散らし、そのせいで寒さと貧しさに苦しむ人がたくさん出ていることに気付こうともしない。こういう自称「建築のプロ」が大きな顔をしてのさばっているのが、住宅産業の現実なのです。

こういう自称プロが拡散する「○○○おススメしません」系の動画を見る時、ちょっと思い出すとより楽しめること請け合いです。

■月8000円も電気代節約が可能な「飛び道具」である太陽光発電

さて、最後はいよいよ本題の「太陽光発電」。先の家電・設備と同じく、かつては日本企業がダントツ世界一だった分野です。ですが、せっかく普及が始まりかけた2000年前半に早すぎる補助政策の打ち切りで冷や水をかけられ、日本メーカーが停滞するうちに海外企業の怒涛の投資に圧倒されてしまい、今はものの見事に跡形もなくなりました。

その後には、なぜかヘイトが吹き荒れ、太陽光は載せてはいけないと「飛車落ち」の地味な将棋が当たり前という、なんとも不思議な状況になっています。

住宅の省エネをテーマにしている筆者の周りの研究者にも、太陽光発電は大嫌いという人がいっぱいいます。しかし、その理由は「太陽光発電を入れると断熱とか省エネが目立たなくなってケシカラン」「飛び道具で強力すぎるからツマラナイ」といったしょうもないものだったりします。なんだかんだいって、そこらにあふれる太陽エネルギーで電気をバンバン作れるのは最強なのです。

東京都の試算を2022年7月の電気代で修正した結果を、図表6に示します。比較的コンパクトな容量4kWの太陽光を入れるだけで、月々の電気代が約8000円、年間で10万円近く電気代を減らせます。この強烈な節電パワーは太陽光の十八番(おはこ)、まさに「飛び道具」です。

太陽光の導入による効果
東京都の試算を2022年7月の電気代で修正した結果

太陽光発電の設置コストは今や十分にこなれており、発電容量4kWのものであれば100万円程度です。毎年10万円電気代が節約できれば、10年程度で元がとれます。さらに東京都は、最大36万円という太っ腹な補助金を出しているので、たった6年で元がとれて、その後は系統から買う電気がどうなろうとずっと安心です。

■初期コストの問題もほぼ解決できる

よく「パワコンの交換費用が~」「廃棄の費用が~」とかマイナスのリスクだけを殊更に叫ぶ人が居ます。しかし、今後、系統からの買電単価がさらに上昇すれば、プラスのメリットがさらに増える可能性も十分あるのです。また太陽光を載せれば簡単にゼロエネルギー住宅(ZEH)になるので、住宅金融支援機構のフラット35での特別金利優遇も受けられる(2022年10月開始予定)ので、初期コストの問題はほぼ解決です。

ここまでお得だとほぼチートということで、「難しいことは考えずサクッと載せればいいじゃん」。筆者はそうとしか言いようがありません。東京都さん、ちょっと太っ腹がすぎませんか?(笑)

■太陽光発電を含む3つの技術は家づくりのマストアイテム

ここまで考えてみた結果として、「今後も電気代は値上がりしますか? どうすれば負担を避けられますか?」というお題への答えを考えてみましょう。

将来の電気代がどうなるか、正確に予測することは不可能です。しかし、現状の世界と日本の動きを鑑みれば、今後も長期的に電気代が上昇していく可能性は極めて高いと考えます。家を建てる時に、断熱・気密、高効率設備、そして太陽光発電の3つをしっかり備えておくことで、将来電気代で苦しむリスクを確実にヘッジすることができます。この3つの技術は長い時間をかけて確立されており、コストも低廉化されているので、今や家づくりのマストアイテムといえるでしょう。

見事に面白くもおかしくも新しくもない。SNSでも動画サイトでも、反響ゼロ間違いなしです。まあでも、専門家が真面目に責任を負える答えは、「食事は1日3回規則正しく栄養のバランスを」「将棋はまず三手の読みから」とか、ツマラナイけど忘れちゃイケナイ基本が一番になるものです。ぶっ飛び回答を期待していた人、ゴメンナサイ。

■太陽光設置を「選択の自由」に任せることがベストとは限らない

最後に蛇足ですが、太陽光の義務化は必要なのか? 東京都の案はどうなのか? についてちょっとだけ考えておきます。

太陽光発電の普及は停滞
出典=経済産業省 資源エネルギー庁 固定価格買取制度情報公開用ウェブサイト

余剰電力の高値買取や補助金などの「誘導策」だけで十分に普及が進んでいるのであれば、わざわざ設置義務化なんかをする必要はありません。しかし現実には、太陽光発電の普及は停滞しています(図表7)。節電の恩恵を国民みんなに広げ、地域や日本の化石燃料削減・脱炭素につなげるためには、なんといっても普及が肝心。誘導策以上の普及策を考えないといけません。その一つが設置義務化なのです。

自由に建築を建てられることは素晴らしいことですが、ただ自由なだけでみんなが幸せになるとは限りません。住宅産業が自由気ままに家づくりを続けた結果、多くの人が寒さと貧しさに苦しんでいる現状を直視すべきです。「自由」と「平等」は往々にして両立しないものであり、何事もバランスが肝心です。

日本よりはるかに真剣に自由を考えているであろうアメリカやヨーロッパでも、太陽光発電の設置義務化が熱心に推進されているのですからね。義務化で普及が進めば、さらなる低コスト化も期待できます。

家を買う時、しっかり考える時間とお金の余裕がある人ばかりではないはず。大事なことは義務化しておけば、「何も考えずに家を買ったけど、知らないうちに断熱とか高効率設備とか太陽光発電がついていたので、冬もあったかくて電気代も安くて、助かったよ~」と救われる人も出てくるはずです。

■東京都の条例案は真剣な議論に値する

では、東京都の太陽光義務化案に関する、筆者の回答です。

太陽光発電は国や地域の脱炭素化への貢献はもとより、住まい手にとっても経済的メリットが非常に大きいにもかかわらず、現状普及が停滞しています。その恩恵を広げるためにも、アメリカでもヨーロッパでも推進されている設置の義務化は、検討の価値が大いにあります。設置義務化により、家づくりに時間とお金をかけられないお施主さんも、太陽光の恩恵を確実に受けられるようになります。

今回の東京都の案は義務化に伴う問題を慎重に検討されており、義務も個人ではなくハウスメーカーが負うなど丁寧に設計されており、真剣な議論に値します。残る課題があるにしても、行政・建設業者・住民の英知により、順次解決していけるものと信じます。東京都の取り組みが日本全国に広がり、国民みんなが電気代の心配なく暮らせる時代が来ることを心から願います。

お粗末様でした。

<補記>
住宅の省エネに関しては、「住宅・建築物の脱炭素サイト」でも情報を掲載しています。「太陽光発電のついての一考察」もご参照いただければ幸いです。

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前 真之(まえ・まさゆき)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授
1975年生まれ。2003年に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員として建築研究所に勤務。2004年4月より独立行政法人建築研究所研究員、同年10月より東京大学大学院東京電力寄付講座客員助教授。2008年4月より現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学、研究テーマは住宅のエネルギー消費全般。著書に『エコハウスのウソ』『エコハウスのウソ2』(ともに日経BP社)がある。

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(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授 前 真之)

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