ボーナス80万円男に振り回されるだけ…芸人ヒロシが「キャンプは絶対ソロがいい」と熱弁するワケ
プレジデントオンライン / 2022年6月10日 9時15分
※本稿は、ヒロシ『大人のソロキャンプ入門』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■日程調整、他人の幸せ話…グループでキャンプに行くとどうなるのか
——これからヒロシさんにソロキャンプの始め方・楽しみ方を教えていただきたいと思います。そもそも、なぜひとりでキャンプに行くんですか? 単純に寂しい気もするのですが……。
たしかに、そう思う人も多いですよね。なので反対に、グループでキャンプに行くとどうなるかを想像してほしいと思います。
たとえば、あなたが、キャンプに行きたいな、と思ったとします。それで、「よし、今度の土曜日、久しぶりにあいつでも誘おうかな」と友人に連絡を取ってみる。この状況、どう思いますか?
——久しぶりの旧友とのキャンプなんて、楽しそうな状況だと思います。
僕にはその後の最悪の展開ばかりが見えてきますよ。まず日程を合わせるだけでもなかなか大変で、友人から断られるかもしれません。
それだけならまだしも、「その日は彼女と出かける予定で」とか余計なことまでいわれて、「お前、彼女できたの!?」と、聞きたくもない他人の幸せ話を聞かされるハメになることも大いにあり得ます。
仮に仲のいい友人三人を捉つかまえることができても、その後が大変でしょう。まず、どこのキャンプ場に行くのか、調整しなければなりません。
あなたは「海が見えるキャンプ場に行きたいな」と思っていたのに、声の大きい友人から「だだっ広い原っぱがあるキャンプ場がよくない? そこでフリスビーしたいじゃん!」と提案されたら、声の小さいあなたは反論できないでしょ?
しかも、その行きたくもないキャンプ場を予約するのは、もちろん言い出しっぺのあなたですよ。
行きたいキャンプ場が決まっても、まだまだ試練があります。グループキャンプだと、誰が車を出すか、誰が何を持っていくか、とかの役割分担をしなければならない。もちろん何時に出発するか、とかも決めますよね。
そうして決まった日に、たとえばあなたの体調が悪かったり、気分が乗らなかったりすることもあるじゃないですか。そもそもが希望のキャンプ場ではないんですからね。
でも、「自分が皆を誘っちゃったんだから……」となって、行くしかありません。あなたは声が小さいんだから。
■ふだん声が小さい人ほど、ソロキャンプに向いている
——声が小さいのが大前提なんですね。
ソロキャンプに興味がある人間なんて、たいていはそんなもんですよ。僕だって、バラエティ番組でひな壇芸人として出演したときは、収録終わるまで、一言も話せないで終わっていましたから。ふだん声が小さい人ほど、自分勝手になれるソロキャンプに向いている気がします。
さてキャンプ当日。あなたはキャンプ道具一式を用意して、車を持っていないフリスビー男をピックアップしに行きます。案の定、家の前で20分待たされてから、出発することになる。
車内では、彼の好きな、よくわからないアイドルソングを大音量で聞かされます。「俺、BUCK-TICKの新譜聴きたいんだけど……」と思っても、ノリノリになっている彼を前に、あなたはそんなこといえません。
もちろん、高速道路の渋滞に巻き込まれます。そして、助手席のフリスビー男はグーグーと寝始めることでしょう。
知らないアイドルソングをBGMに、渋滞に耐え、予定時間を大幅に超えてやっとキャンプ場に到着する。荷物を降ろして、あなたは皆のためにテントを張る。「運転で疲れたから、ちょっと寝ようかな」と思ったら、次に何が起こると思いますか?
——……フリスビー男からフリスビーに誘われる?
そう! 何が楽しいのかよくわからないフリスビーに付き合わされます。さらに、車内でたっぷり寝ていた彼は、元気ですし、お昼ですから、お腹ペコペコですよ。
「キャンプといったらカレーだよね! カレーはね、水使わずに玉ねぎの水分だけで煮込むのに限るよ」などと彼の発案でカレー作りが始まります。ここは分担作業になりますが、ただでさえ元気だし、キャンプでウキウキしている彼は、焚き火をやりたいに違いありません。
声の小さなあなたは、玉ねぎのみじん切り担当といったところでしょう。で、フリスビー男は、現地合流した他の友達二人と一緒に、焚き火をやり始めますよ。でも、いざやってみると、なかなか難しい。
着火剤をバカみたいに入れたのに結局火がつかないなんてのは、よくある話です。散々いじって飽きた結果、あなたにバトンタッチされます。あなたは今回のキャンプの言い出しっぺ、責任者ですから、最後の尻拭いはあなたの役目なんです。
■「この前、バーで会った女と…」そんな話をドヤ顔で提供される
そうこうして、たいして食べたくもない無水カレーを食べたら、今度は焚き火を前に、それぞれの近況報告です。フリスビー男は、結婚したばかりの嫁とのノロケ話を始めることでしょう。
大企業に勤めている別の友人は「今年の夏のボーナスは、80万円しか出なかったんだよね」とどこに不満があるのかわからない愚痴を楽しそうに漏らします。その隣で椅子に深く座っているのは、学生時代からイケメンでモテていた友人ですよ。
そいつは、「この前、バーで会った女と一回ヤったらチンコが痒(かゆ)くてさ」と、まるですべらない話をしているかのごとく、どうでもいい話をドヤ顔で提供してきます。で、この三人は「お前はどうなの?」と、あなたに話を振ることもない。
あなたは笑顔を貼り付けたまま、聞いていることしかできません。仮に話を振られたとしても、手取り18万円で毎日サービス残業して働かされているあなたは困りますよね。
——手取り18万円が前提なんですね。
僕の本を手に取ってくれる心の優しい人間は、その優しさにつけ込まれて、サービス残業とかしがちでしょうからね。
休みの日は、若い女が踊っているインスタ動画を見てモヤモヤし、エロ動画を見てスッキリし、罪悪感に苛(さいな)まれ、荒んだ心を猫動画で癒やすというマッチポンプをして過ごしているんですから、近況を聞かれたところで、何も答えられませんよ。
そして、夜。今度はボーナス80万円男の提案で、ダッチオーブンを使ったチキンの丸焼きを作ります。焚き火を前に、皆、酒もご飯も進みます。
■皆で来ているのに、思いもかけないソロキャンプ
食事もほどほどに、すぐ近くでキャンプをしていた女の子三人組の存在が気になったチンコ痒男は、酒の勢いを借りて彼女たちの輪のほうに向かいます。フリスビー男とボーナス80万円男もビール片手についていったのは、いうまでもないです。
女の子三人組と男四人組……一人余ったあなたは、話の輪に入る勇気もテンションも持ち合わせていません。風上にいる女性たちからは、甘い香水の匂いが漂ってくる。
楽しそうに話す六人を横目に、残った鶏肉を頬張りながら、焚き火に夢中なフリをするしかありません。間が持たなくなれば、電波が入らない携帯の待ち受け画面を見て、YouTubeを見ているフリですよ。
「痒男くんって、腕太い~♡」とかいう黄色い声が聞こえる中、焚き火と携帯を交互に見るしかない。
そして、80万円男の「ちょっと河原、行ってみる?」という提案で、女の子とともに三人は消えていきます。残ったあなたは火の始末をして、先にテントの中に入り、隅っこに寝袋を敷いて寝ます。
最初に三人を誘ったとき、あなたはこんなキャンプになることを想像したでしょうか? 皆で来ているのに、思いもかけないソロキャンプですよ。
■なぜかガソリン代と高速料金はぬるっと割り勘に
——四人用の広々としたテントで、まさかのソロキャンプ……。……それはきついです。
こんな孤立感を味わうキャンプなんて、ごめんですよね? 翌朝目を覚ますと、遊び呆けた三人が寝袋も使わずに気持ち良さそうにお腹を出して寝ているのを目撃します。三人からは、バニラだかココナッツだかのいい匂いが漂ってくる。
あなたは、気を取り直し、テントから出て、昨日の片付けをして、皆の朝ごはんを用意します。ようやく、自分が提案した朝食のホットサンドが作れる。皆の分の肉を焼いてあげて、テントの中に起こしにいきます。でも、明け方近くまで騒いでいた三人です。
【フリスビー男】「おはよ。俺、朝食べない派なんだよね」
【ボーナス80万円男】「俺も、二日酔いで、ちょっと無理だわ」
【チンコ痒男】「お前、せっかく作ったんだから、俺らの分も食べていいよ」
得てしてそんな反応でしょう。
三人分のホットサンドの処分に困っているところ、皆が起きて、昨日遊んでいた女の子のところに連絡先を聞きに行きます。その間、責任者であるあなたは、テントをひとりで片付けることになるんです。
——……。
極端な話に聞こえるかもしれませんが、意外とありうる話なんです。グループキャンプって、こういうことが起きる。集団で行動すると、自分の思い通りのキャンプはなかなかできないし、声の小さい人は、なんでも押しつけられがちになるんです。
僕も、昔はグループキャンプで参加者全員が入れる大きなテントを揃えたことがあるし、送り迎えもやっていましたから。せっかくの休日が「他人のおもてなし」で終わっちゃうんです。
ちなみに、おもてなしをしても、割り勘になります。あなたが酒を飲まなくても、アルコール込みで割り勘になって、入場料以外で3000円くらい取られます。
しかも、あなたが車を出したのに、なぜかガソリン代と高速料金はぬるっと割り勘にならず自腹になったりもするんです。
こうして日曜日の夕方、やっと家に帰ってくる。テントの中で嗅いだバニラの香りをまだ覚えている中、インスタで若い女が踊る動画を見て、エロ動画を見て、猫動画を見る。あなたは耐えられますか?
——耐えられません。「土日を使って、自分はいったい何をしていたんだ?」と自己嫌悪に陥いると思います。
■一人なら「昼も夜も翌朝もカップ麺」でいい
一方、ひとりでキャンプに行くことを想像してみてください。
湖が目の前にある湖畔キャンプ場にするか、木が茂る林間キャンプ場にするか、それとも川の側にある河原キャンプ場がいいか。どんなキャンプ場を選ぶかは、あなた次第ですよね。もちろん、「フリスビーしたいから原っぱがいい!」と駄々をこねてくる人はいません。
持ち物も、あなたが使うもの、食べたいものだけを持っていけばいいんです。「今日はテントじゃなくてハンモックで泊まりたいな」と思ったらテントを持っていかなくてもいいし、「昼も夜も翌朝もカップ麺で済ませよう」と思ったら、食材はカップラーメン三つでもいいんです。
「せっかくのキャンプだから、もっとキャンプらしい食事じゃなきゃダメだ!」と横槍を入れてくる人はいませんから。
——行く場所も、持っていくもの、食べるものも、自分で決められる! それは魅力的です。
そう。焚き火のやり方だって、「早く無水カレー作りたいから!」と急かされてターボライター(燃料に混合ガスを使用し、筒の中で瞬間的に完全燃焼させた炎を発生させるライターのこと)を使う必要もありません。
原始人のように火打ち石を使ってじっくり時間をかけてもいいし、あるいはコンセントが設置されているキャンプ場に行くなら、「今日は焚き火はなし! 電気ヒーターで暖を取ろう」と決めてもいいわけです。
■全部自分ひとりで決められる圧倒的な自由がある
——ヒロシさんがやられている「無骨(ぶこつ)キャンプ」じゃないお手軽キャンプも選択できる。どんなキャンプのスタイルかも、自分で決められるんですね。
そうそう。だって、「火熾(おこ)しは、火打ち石を使ってやらないと、雰囲気が出ないだろ!」と強制されるのは面倒くさいじゃないですか。
「自分は手軽なキャンプをやりたいんだよ!」という人だっているわけですから。僕だって、今日は面倒なことしたくないな、と思ったら、火打ち石じゃなくてライターを使いますから。
さらにいうと、予約不要・予約不可なキャンプ場もあるんですけど、そういうところでしたら、当日気分が乗らなければ、行かなければいいんです。
それに、行ってみて、なんか想像したキャンプ場と違うな、と思ったり、今日は肌寒いな、となったりしたら、途中で帰ることもできますしね。
——無理に一泊する必要もないわけですね。自由なキャンプですね。
そう! ソロキャンプって、圧倒的な自由があるんです。何をして、何をしないのか。どのタイミングでするのか。全部自分ひとりで決められます。この圧倒的な自由こそ、グループキャンプでは味わえない、ソロキャンプの魅力なんですよ。
■日常の面倒な人間関係やしきたりから自由になれる
ちょっと世知辛い話になるけど、自分の考えだけで決められることって、あまりないな、と思うんですよね。
仕事にしたって、ときには上司や取引先の無理難題を聞かなくてはならないじゃないですか。芸能界ですら、理不尽なことに付き合わなければならないことが多々ありますよ。
加えて、謎のルールに縛られることも多いはずです。たとえば、飲み会やタクシーで座る席では、上下関係を重んじた配置をしなければならないし、「最初の一杯目はビール」という風習だって、「いや、私甘いカクテルしか飲めないんだけど」とか、いいにくいですよね。
それとか、結婚式で包むお金は、「割り切れない」奇数の枚数で、しかも折り目のないピン札で用意しなければならない。
——たいして親しくもない同僚の結婚式に呼ばれても三万円を包まなければならない、なんともいえない圧力はありますよね。
その三万円があれば、一通りのキャンプ道具が余裕で揃えられますからね。
でも、ソロキャンプは、そういった日常の面倒な人間関係や、しきたり、決まりごとから自由になれるんですよね。
キャンプ自体が日常から離れたくて行くものだけど、グループキャンプだと、声の大きい人の主張ばかりがまかり通ったり、役割分担で揉めたりと、どうしても日常を引きずっちゃうんです。それがソロキャンプにはありません。
自然を前にひとりなのだから、日常のしきたりを逸脱したっていいんです。三食全部カップラーメンでも、最初の一杯目からカクテルでも、誰も文句をいいません。
■ふだんは「脇役」の人でも、「主役」になれる
それに、実世界だと、たった1、2年だけ先輩の人にも敬語で気を遣いまくるけど、樹齢100年の大先輩の木にハンモックを吊るして足を向けて寝たって、「俺に足を向けて寝るんじゃない!」って怒られないですから。
自然の中に身を置いていると、人間がいかにちっぽけなことに悩んでいるのかを、リアルに実感できるんです。
だから、ふだん組織の中で働いていたり、人間関係を気にしながら生きていたりして、「あぁ、今日はしんどいな」とか「最近、理不尽なことが多いな」と思ったことがある人ほど、日ごろ味わえない自由をソロキャンプで味わえるから、どっぷりハマる可能性は高いですね。
——小さいことで気を揉み、日常に生きづらさを感じる繊細な人にも、ぴったりの趣味ということですね。
ええ。そういう人にこそ向いていると思います。ふだんは「脇役」にしかなれないと思っている人でも、ソロキャンプでは「主役」になれますから。解放感を味わえるはずです。
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芸人兼ソロキャンプYouTuber
1972年、熊本県生まれ。九州産業大学卒。ピン芸人として「ヒロシです……」のフレーズではじまる自虐ネタで大ブレーク。お笑いライブなどの傍ら2015年3月よりYouTuberとして「ヒロシちゃんねる」を配信。自ら撮影・編集したソロキャンプ動画をアップして人気を集める。18年末、新著『働き方1.9 君も好きなことだけして生きていける』(講談社)を刊行。
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(芸人兼ソロキャンプYouTuber ヒロシ)
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