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引退した路線バスを魔改造…マニアもうならせる「サウナバス」を自腹で完成させた29歳会社員の熱意

プレジデントオンライン / 2022年6月25日 12時15分

兵庫県のバス会社「神姫バス」の松原安理佐さん。 - 筆者撮影

引退した路線バスを改造した移動式サウナ「サバス」が人気を集めている。完成させたのは兵庫県のバス会社「神姫バス」の松原安理佐さん(29)。バス会社の社員だが、完成までには約40万円を自腹で負担するなど、多くのハードルがあった。なぜやり遂げられたのか。インタビューライターの池田アユリさんが取材した――。

■サウナバスを生み出した29歳バス会社員の素顔

兵庫県姫路市の国道2号線沿いにある「神姫(しんき)商工株式会社」で、一風変わったバスが作られた。路線バスを改造した“移動できるサウナバス”である。

2022年3月5日、兵庫県神河町のアウトドア施設「グリーンエコー笠形」で開催されたサウナバスの体験会では、24枠の募集に約250人の申し込みが集まった。

初めてサウナバスを見た利用者は、目を輝かせながら言った。

「ほんまにバスなんや」
「よう作ったな!」

この体験会を皮切りに、なにわ健康ランド湯~トピア、奈良健康ランド、北近江リゾートなどの関西の施設を中心にサウナバスを貸し出したところ、1日約40名限定の予約枠がすぐに埋まるほどだった。

実際にサウナバスの中を覗いてみよう。

前方の入り口から靴を脱いで入ると、目の前には運転席。まごうことなくバスだ。しかし、バスの前半部には、テーブルとバスの座面を活用したイスが設置されており、サウナ用の休憩スペースになっている。つり革や手すり、降車ボタンはそのまま残っており、バスの雰囲気を保ったままだ。

サウナ用の休憩スペース。奥にサウナ室がある。
筆者撮影
サウナ用の休憩スペース。奥にサウナ室がある。 - 筆者撮影

さらに奥に進むと、サウナ室とネームプレートが掲げられた扉。ドアハンドルは座席の取っ手だ。中に入ると、4列ある木製シートがバスの乗車席と同じように正面を向いて並んでおり、手すりとひじ掛けにはサウナで火傷しないように麻ひもが巻かれている。

ストーブは、サウナメーカーの世界トップシェアを誇る「HARVIA(ハルビア)」の薪ストーブだ。サウナのクオリティーの高さとバスならではの大きな窓からのぞく景色に、私は高揚感を抱いた。

けれど、このサウナバスが完成するまでの道のりは平坦ではなかった。

サウナバスの発起人で、「神姫バス株式会社」より出向起業した会社「リバース」の代表である松原安理佐(ありさ)は、笑顔で振り返る。

取材に応じる松原さん。いまは出向起業した会社「リバース」の代表。
筆者撮影
取材に応じる松原さん。いまは出向起業した会社「リバース」の代表。 - 筆者撮影

「最初は『面白いからやってみよう』と思って始めたけれど、事例や根拠がなかったので社内へのプレゼンではなかなか自信が持てず、『自分の感覚を信じてくれ』とも言えないので苦戦しました。今は、実際にサウナバスが完成して利用した方の声やSNSで『めっちゃ面白い』『サウナバス最高!』みたいなコメントをいただけると、間違ってなかったんやなぁって思えますね」

松原は会社の事業としてではなく、起業家としてサウナバスを開発した。当時の年齢は28歳。入社5年目にして、なぜこの道を歩んだのだろうか。キーワードは、「人を喜ばせることがしたい」という思いだ。

サウナ室は4列ある木製シートがバスの乗車席と同じように正面を向いて並んでいる。
筆者撮影
サウナ室は4列ある木製シートがバスの乗車席と同じように正面を向いて並んでいる。 - 筆者撮影

■「私って、人に喜んでもらうことが好きなんだなぁ」

松原は1993年、兵庫県姫路市に生まれた。子どもの頃は「とにかく恥ずかしがり屋」で、人前に出るのが苦手だった。自分に自信が持てない幼少期を過ごすが、高校、大学への進学の中で少しずつ性格に変化が生じていく。

高校時代はバトントワリング部に所属し、今でも交流が続くほど、かけがえのない友人と出会った。バトントワリングとは、ゴム製のおもりをつけた金属の棒(バトン)を回したり、空中に投げたりする演技のこと。

週末には、地元のサッカーチームの試合でハーフタイムにパフォーマンスをしたり、商店街でマーチング・バンドと共に踊ったりした。練習の一環でチアダンスにも挑戦し、野球部の応援団に加わり、賑やかで楽しい高校生活を送った。

大学時代はテニスサークルに所属。飲み会やイベントの幹事を行うことで、何かを企画することが好きになった。イベントを楽しむ仲間の姿を見ながら、「私って、人に喜んでもらうことが好きなんだなぁ」と思うようになる。

当時の松原には、忘れられない思い出がある。

大学1年生の1月。誕生日を迎えた深夜0時にケータイが鳴った。「メールだ。誰からだろう?」と思いながら手に取ると、間髪いれずに次の通知が鳴った。

メールを開くと、サークルの先輩や同期からだった。メールの一つ一つに写真が添付されている。キャンドルを並べて文字を描いた写真や、体でアルファベットを表現している写真、それぞれが試行錯誤して作ったことが見て取れる写真が、続々と届いた。

すべての文字を繋げると、「HAPPY BIRTHDAY」。仲間からのサプライズの誕生日メールだったのだ。松原は驚きと感動で胸がいっぱいになった。

「大学1年生ですし、まだそこまで関係が深まりきってない頃だったと思います。それなのにこんなふうに祝ってくれるなんて、すごいな、ありがたいなって。感動は時間の長さじゃないんだなって思いましたね」

仲間からの誕生日祝いを受けて、松原自身も拍車をかけるようにイベントの企画に心を込めた。その企画は実に多彩である。サークル仲間の誕生日会から、「ケーキをいっぱい食べる会」、「自転車で姫路―岡山を往復する会」など、人がワクワクするようなイベントを企画。子ども時代からは想像できない自分になっていた。

車内はつり革や手すり、降車ボタンがそのまま。
筆者撮影
車内はつり革や手すり、降車ボタンがそのまま。 - 筆者撮影

■最初は受ける気がまったくなかったバス会社に就職

大学4年生になり、就職活動が始まった。松原は進路について、「新しいことを考えたり、企画したりするような職業がいいな」と思った。そのため、業種を絞らずに全国にある会社の企画職を受ける。そのひとつに、老舗のバス会社「神姫バス」があった。

神姫バスは兵庫県で路線バスを運営しており、地元でなじみのある会社。姫路市出身の松原は当然名前を知っていたが、最初は受ける気がまったくなかった。友人からの誘いがあり、軽い気持ちで会社説明会に参加したのがきっかけだった。

そこで出会ったのは、同会社の事業戦略部の女性社員。凛とした佇(たたず)まいを見て、松原は「かっこいいー。素敵やな」と思った。

「その方とお話したときに、神姫バスにはさまざまな事業があることを知りました。バス事業だけでなく、フランチャイズでTSUTAYAを運営していたり、グループ会社で旅行や飲食の事業もやっていたり。事業戦略部という企画ができそうな部署もあって、そこでかっこいい女性が働かれていたから『ここで働きたい』って思いました」

その場で思いを打ち明けると、女性社員から「向いてそうやね」と背中を押され、松原は俄然やる気が出た。その後、トントン拍子で面接が進む。その都度「あの社員さんみたいに働きたいです!」と熱意を伝え、2015年の4月、松原は同社で働き始めた。

軽い気持ちで会社説明会に参加したのが入社のきっかけだった。
筆者撮影
軽い気持ちで会社説明会に参加したのが入社のきっかけだった。 - 筆者撮影

■企画が集まらないなら、自分が考えればいい

神姫バスに入社しておよそ3年間、不動産事業に携わった。デスクワークが中心の部署で、賃貸マンションやオフィスビルの稼働や管理に向き合う日々。当時新設する飲食ビルのオープン記念のPRなども担当した。

2018年、念願の事業戦略部に配属された。けれど、最初は企画を考えるというより、社内で新規事業を作る制度を考えたり、新規事業のサポートをするのが仕事だった。

「もともと神姫バスには『社内ベンチャー制度』というのがあるんです。社員がアイデアを出しやすくなるように研修を行ったり、企画コンペを開催したりしていましたね」

松原は社員からアイデアが生まれるように研修を行いながら、社内での新規事業の実現の難しさを感じていた。既存の制度では社員が企画を出したとしても、綿密な事業計画が必要でハードルが高いと感じた。

そこで、社員からの応募を募るために、「企画が通ったら賞金が出ます」と社内に告知。けれど反応はイマイチだった。次に、「提案事業で責任者になれます」と制度を変えたが、それでも結果は同じだった。

「最初は、なんでみんな企画を出さんのやろって思いました。社員が求めているのはお金でもなく、地位でもない。そもそも若手社員の中で新規事業をやりたいという積極的な人は少ないのかなと感じました。若手社員による新規事業の事例もないから、わからないんですよね。『だったらもう、私がアイデアを出せばいっか!』って思ったんです」

■使われなくなった路線バスを活用したら…

企画が生まれるのを待つより、自分で企画を出そうと考えた松原。当初は外国人を誘致するインバウンドの事業を企画していた。しかし、2020年春先から新型コロナウイルスが猛威を奮い始めたことで、そのアイデアは頓挫する。

それなら会社で使えるものはないかと考えたとき、姫路の町を走る自社の路線バスが目についた。

「そうだ、使われなくなった路線バスを活用したら面白いかもしれない」

そこから海外のユニークなバスの活用例をネットで検索。すると、ある記事を見つける。サウナの本場フィンランドで、「サウナバス」が道路を走っているという内容だった。

フィンランドはサウナの発祥地。現在も湖畔沿いや街中には、ストーブで熱した石に水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」を堪能できる温浴施設が並ぶ。

一方、日本ではサウナを題材にしたドラマや漫画が人気を集めるなど、この数年、サウナブームになっている。ビルの屋上を貸し切り状態にしたサウナや、野外にテント型のサウナを設置して楽しむ「テントサウナ」など、健康維持としてだけでなく、娯楽として注目されるようになっていた。

■サウナ愛好者に協力を求める

松原は特段サウナが好きなわけではなかったし、流行に乗ろうと思ったわけではなかった。けれど、「サウナ×バス」は斬新なアイデアだと思った。なにより、「すごい、これ面白い」と感じた。

ただ、自分が面白いと思っても、実際にサウナ好きの人が乗りたいと思うのかがわからなかった。そこで松原は、サウナ界隈で情報発信をしているメディアやブロガー数人に、TwitterからこのようなDMを送った。

「初めまして。バス会社のものです。実は今、サウナバスを作ろうと考えているのですが、こういったバスがあったらどう思われますか?」

返信がないこともあったがほとんどの人が好反応で、なかでも「めっちゃ面白いですね!」と食い気味に返してくれた人がいた。サウナ検索サイト「サウナイキタイ」のメンバー・かぼちゃさんだ。

かぼちゃさんからは、「実現すればこれまでサウナがなかった場所にもサウナを運ぶことができて、新しいサウナ体験が作れるかもしれない」と意見をもらう。彼とメッセージをやり取りするうちに、松原は町を行き来する路線バスがサウナバスになるイメージが頭に浮かんだ。

松原が「よかったら、サウナバスを作る時は協力してくれませんか?」と聞くと、かぼちゃさんは快く引き受けてくれた。

頼りになるサポーターを得たことで、松原は「絶対にサウナバスを作ろう」と心に決めた。その後、かぼちゃさんはサウナバスの製作で大きな存在感を放つことになる。

■「サウナバスで売り上げが立つのか」上司は反対

2020年の秋、松原はさっそくサウナバスの企画書を作った。けれど、この企画は上司から反対を受ける。

「サウナバスで売り上げが立つのか」
「バスの中身をとっぱらってテーブルを置けば会議室になるし、もっと簡単なもんでええんとちゃう」

兵庫県姫路市の神姫商工。神姫バスを運営している。
筆者撮影
兵庫県姫路市の神姫商工。ここでは大型バスなどの整備、点検を行っている。 - 筆者撮影

上司のシビアな意見には、新型コロナウイルスの影響もあるだろう。路線バスをはじめ、空港行きの高速バスの利用客が減り、事業の売上高は前年比で34.6%ほど落ちていた(2020年9月時点)。また、バスツアーなどの旅行貸し切り事業においても、訪日客の消失で82.7%と大幅に減収していた。そのような状況の中、新規事業に充てる資金に余裕がなかったのだろう。

普通ならここで諦めてしまうかもしれない。けれど松原は食い下がった。

まず、社内事業として進めるべきなのだろうかと考えた。バスを使ったサウナのサービスにはほとんど前例がなく、事業計画を立てても会社を納得させるのは難しい。「やってみないとわからないが、成功する保証もないから社内で提案して進めるのは難しいかもしれない」というのが松原の本音だった。

そこで、外部の補助金などは使えないだろうかと探し始めた。すると、経済産業省の「出向起業に係る補助金制度」の存在を知る。出向起業とは、会社を辞めることなく事業を立ち上げ、出向という形で経営者として新会社を立ち上げることだ。ちょうど松原がその制度を知った2021年3月に告知され、第1回目の募集が始まろうとしていた。

出向起業なら会社に属したまま新規事業に取り組めるため、会社を辞めて起業するよりもリスクが低い。なおかつ、自由度が高い利点があった。それに、会社から費用が出なくとも、補助金があればサウナバスの製作に充てられる。

ただし、補助金の申し込みは6月までにしなければならない。それまでに会社を立ち上げて法人化していることが条件だった。

リバース代表の松原さん。
筆者撮影
サウナバスをつくるために奔走した松原さん。 - 筆者撮影

■起業の覚悟

「会社の立ち上げまで、3カ月しかないのか……」

松原は起業に迷いがあった。起業は事業に責任を負うことを意味する。一人の社員から、会社の代表へと立場が変わることが怖いと感じた。それに、立ち上げ資金やバスの改造費用をすべて自分で賄わなければならなかった。

開業資金は最低でも40万円ほど必要だった。なかなかポンッと出せる金額ではない。当初、サウナバスの企画を反対していた上司に率直に思いを伝えると、「それぐらいは自分で出さな。腹くくってないでしょ」と、手厳しい意見が返ってきた。

松原が迷っていると、上司は「松原は起業が向いてると思う」と励ました。その上司は、出向起業をしてでも叶えたいという松原の思いを応援するようになっていた。

「私も単純なんで、『向いてるならやろう』って(笑)。人生は1回きりだから、思ってることあるならやったほうがいいなって思ったので、2021年5月末に会社を立ち上げました」

会社の名前は、「リバース」。「RE BUS(バスの再生)」と「RE BIRTH(生まれ変わらせる)」の2つの意味を社名に込めた。

社名には、バスの再生と、生まれ変わらせるの2つの意味を込めた。
筆者撮影
社名には、バスの再生と、生まれ変わらせるの2つの意味を込めた。 - 筆者撮影

資本金は、自己資金とともに新入社員の頃からお世話になっていた社外メンター(企業外にいる人材育成のプロ)からの支援金を足した40万円。自己資金を出したからこそ、松原は「絶対にどうにかせな。赤字で終わらせられない」と思った。

ちなみに、会社立ち上げの同月に松原は結婚式を挙げている。「式の費用も重なって1カ月の出費が飛びすぎて、さらに沁みましたね」と松原は笑った。

■膨れ上がった見積書、自転車操業の日々

会社を設立し、出向起業の補助金を申し込んで一安心……と思いきや、サウナバスが完成するまで資金繰りに苦しむことになる。

サウナバスの製作の見積書を作ると、最初は800万円だった。しかし、具体的に進むにつれて、見積もりを計算していくとどんどん金額が膨れ上がり、最終的には1000万円以上になった。

出向起業への補助金は7月に採択されていたが、最大でも費用の2分の1の金額だ。しかも、事業が完了するまで補助金を受け取れないという後払い制である。このときの松原の手元には、ほとんど資金がなかった。

しかし、サウナバスを製作するパートナーには前金を払う必要があった。それができないため、松原は「新しい会社なので、ちょっとだけ待っていただけませんか……」と頭を下げた。幸い、一部のパートナーは状況をくみ取って支払いを待ってくれたが、すべての取引先がそうしてくれるわけではない。

そこで、松原は資金を支援する機関に出資の申請を行うがなかなかうまくいかず、泣く泣く親族に頼み込み、100万円を借りてやりくりした。

それでもお金が足りず、神姫バスが出資しているCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)ファンド「S5(エスファイブファンド)」からの資金調達することにした。

コーポレート・ベンチャーキャピタルファンドとは、成長が見込まれる新規企業に出資する仕組みのこと。「投資家が運営するファンドだからこそ、資金調達できるかもしれない」と松原は思った。さっそくS5にプレゼンを申し出た。

しかし、第1回目のプレゼンは失敗に終わる。サウナバスを実際に利用する場所があるのか、どれだけ需要があるかなど、今後の展望が描けていないと指摘を受けたのだ。

そこで松原は2カ月後に再プレゼンの日に備えて、リゾート施設や健康ランド等への営業活動を行う。また、Twitterでサウナバスの公式アカウントを立ち上げ、サウナバスの製作にかかわる情報を発信した。

具体的な設置先の見込みができたことやSNSでのユーザーの好感触なリアクションが認められ、2回目のプレゼンで1000万円の資金を調達することができ、サウナバスの製作資金として充てることができた。

「お金を受け取って支払って……。まさに自転車操業で、なんとか繋ぎとめていました」

■こだわりのサウナを作るために魔改造

資金繰りに目処が付いた。次の課題は路線バス車両の確保だ。松原は神姫バスから2021年3月に引退した路線バスを1台購入。入手したバスは現在の路線バスとは内装が異なり、座席シートがチェック柄で全体的にアンティーク感が漂う。

座席シートはチェック柄。
筆者撮影
座席シートはチェック柄。 - 筆者撮影

松原は「引退した路線バスを使うなら、内装をレトロな感じにしよう」と考えていたこともあり、バスを一目見て「コンセプトにぴったりだ!」とテンションが上がった。

さっそく製作に取り組もうとするも、サウナバスは国内事例がなく、誰に依頼すれば良いのかもわからない。専門知識がほとんどない手探りの状態で進めるしかなかった。

■こだわりのサウナを作るためにバスを魔改造

そんな中で大きな助けとなったのが、松原の企画を面白がってくれるサポートメンバーだった。

SNSで松原と意気統合したサウナ検索サイト「サウナイキタイ」の運営メンバー・かぼちゃさんは、サウナバスの全体的な内装デザインやアイデア出しやサウナ器具の手配に尽力した。

「サウナベンチに既存の座席レイアウトを活かすなど、バスの良さを活かしたアイデアデザインを提案してくれました。フィンランド製の本格的な薪ストーブを使用する案を出してくれたのも、かぼちゃさんです」

サウナ愛に溢れるかぼちゃさんは、松原と会うたびに「思いついたんで作ってみました」と、バスのシートに使われているチェック柄をモチーフにしたバッジやミニタオルなどのグッズサンプルを持参して、松原を驚かせた。

薪ストーブはフィンランドのサウナメーカーHARVIAのLegendシリーズを採用。サウナストーンは240kg。
筆者撮影
薪ストーブはフィンランドのサウナメーカーHARVIAのLegendシリーズを採用。サウナストーンは240kg。 - 筆者撮影

サウナの施工は設計事務所「OSTR(オストラ)」や建築会社の「アトリエロウエ」、そして神姫商工の整備士が手がけた。2022年1月頃から約2カ月間、週3回ほど神姫商工に集まり、チームで確認し合いながらの作業となる。

例えば、サウナ室となるバスの後方部分。設計士は、タイヤの上の部分にシートを設置するため「天井との距離が狭すぎるのではないか」と心配したが、かぼちゃさんからは「サウナ愛好家としては、サウナ室は天井が低ければ低いほどいい」とのことだった。設計士の目線では懸念点であっても、サウナー(サウナ愛好家)にとってはむしろメリットだったのだ。

降車ボタンがオートロウリュボタンになった。
筆者撮影
降車ボタンがオートロウリュボタンになった。 - 筆者撮影

神姫商工の整備士は、バスから撤去したパーツをすべて取り置いてくれた。チームは並べられたパーツをひとつずつ眺めながら、「このバスのウォッシャーノズルは、ロウリュ放出部分に使えそう」「降車ボタンをオートロウリュボタンにすると面白いかも」「つり革を温度計にできそうだね」などと自由な発想を出し合い、次々に形にしていった。

まるでミュージシャンが即興セッションをするように、アイデアと工夫が飛び交う。松原は当時のことを、「とにかく人に恵まれましたね」と振り返った。

■サウナバスの完成、名前は「サバス」

2022年1月、前代未聞の路線バスを使ったサウナバスが完成した。松原はイメージ通りの仕上がりに感激した。

バスの名前は、「サバス」。

「サウナの後に食べたい食事を『サ飯(さめし)』、サウナを楽しむ活動を『サ活』と呼んだりするので、それなら『サバス』がいいかもって思いました。この名前が浸透したらいいなと思っています」

完成したサウナバス。名前は「サバス」。
筆者撮影
完成したサウナバス。名前は「サバス」。 - 筆者撮影

現在、サバスは、設置場所によって変わるが1日約30万円で貸し出している。冒頭に記した通り、サバスの人気は運行する前から高かった。今年の2022年3月に兵庫県で行われた体験会では、大々的に広告を出していないのにかかわらず、予想以上の250人からの申し込みが殺到した。

利用者からの評判は上々。「降車ボタンでロウリュが出来るとは面白い!」「90度近く温度が上がって気持ちよく汗をかけた」という声があがった。

その後、なにわ健康ランド湯~トピア、奈良健康ランド、北近江リゾートなどの関西の施設へ貸し出しが決まり、2022年5月27日から29日には初の東海地方となる愛知県へ進出した。

起業からサバス製作までの道のりには、1000万円以上の多額の費用がかかった。順調にサバスの貸し出しの予約が入っており、このペースでいけば2年程度で事業資金を回収できる見込みだ。

松原が会場に顔を出すと、利用者が、サバスと一緒に貸し出している簡易水風呂や外気浴用のイスに座って、青空を見ながら心地よさそうにしていた。

その様子を見て、松原は「楽しんでもらえてよかった。自分が面白いと思ったことは間違ってなかったんだな」と思った。

人を喜ばせる仕事がしたい――。松原のその挑戦は、今も続いている。

「今は次の企画を考えています。サウナじゃないんですけどね。新しいものを作るのは大変だと思うこともあるんですが、いろんな人との出会いがあって、初めて知る世界もあって楽しいです。楽しさを持ち続けながら、企画を生み出したいです」

人を喜ばせる仕事がしたいと語る代表の松原さん。
筆者撮影
人を喜ばせる仕事がしたいと語る代表の松原さん。 - 筆者撮影

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池田 アユリ(いけだ・あゆり)
インタビューライター
インタビューライターとして年間100人のペースでインタビュー取材を行う。社交ダンスの講師としても活動。誰かを勇気づける文章を目指して、活動の枠を広げている。2021年10月より横浜から奈良に移住。4人姉妹の長女。

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(インタビューライター 池田 アユリ)

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