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世界最高齢116歳で亡くなった木村次郎右衛門さんは、なぜそこまで長生きだったのか

プレジデントオンライン / 2022年6月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

2013年、木村次郎右衛門さんが116歳で亡くなった。木村さんは生年月日と死亡年月日が確かな男性のうち、史上最も長生きだったといわれている。長生きの秘訣はどこにあるのか。ノンフィクション作家・ビル・ブライソン氏の著書『人体大全』(新潮社)より、最新の研究でわかった人間の寿命に関する7つのトリビアを紹介する――。

■①死へのカウウントダウンを測る装置が体内にある

1961年、当時はフィラデルフィアのウィスター研究所の若き研究者だったレナード・ヘイフリックは、同分野のほとんど誰もがとうてい受け入れられない発見をした。

培養したヒトの幹細胞――つまり生体内ではなく実験室で育てた細胞――が、約50回しか分裂できず、そのあとはなぜか生きる力を失ってしまうことを突き止めたのだ。

要するに、老化して死ぬようにプログラムされているらしい。この現象は「ヘイフリック限界」として知られるようになった。それは生物学にとって重大な瞬間だった。老化が細胞のレベルで起こっている過程であることが、初めて示されたからだ。

さらにヘイフリックは、培養した細胞を凍結していつまでも保管でき、解凍すれば中断されていたその時点から老化が再開されることも発見した。明らかに、中にある何かが、何回分裂したかを記録する集計装置のような役割を果たしていた。細胞がなんらかの形で記憶を保持し、自らの死へ向かってカウントダウンできるという発想はあまりにも過激だったので、ほとんどあらゆる人に退けられた。

■集積装置の役割を果たすテロメア

約10年のあいだ、ヘイフリックの発見は放置された。ところが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者チームは、テロメアと呼ばれる、各染色体の末端にあるひと続きの特殊化されたDNAが、集計装置の役割を果たしていることを発見した。

それぞれの細胞が分裂するたびにテロメアが短くなり、やがてあらかじめ決められた長さ(細胞の種類によって大きく異なる)に達すると、細胞は死ぬか、不活性になる。

この発見によって、ヘイフリック限界はにわかに信憑性を帯び、老化の秘密として熱烈に迎えられた。テロメアの短縮を阻止すれば、細胞の老化をそこで止められるかもしれない。世界じゅうの老年学者は色めき立った。

■老化を防ぐカギは他にも存在した

悲しいことに、何年にもわたるその後の研究で、テロメアの短縮は、老化の過程のほんの一部を占めるにすぎないことがわかった。

60歳を超えると、死のリスクは8年ごとに2倍になる。ユタ大学の遺伝学者たちによる研究では、テロメアの長さは、その追加的なリスクの4パーセントを占めるにすぎないらしいことがわかった。2017年、老年学者ジュディス・キャンピージは、医学・健康ニュースサイト「スタット」でこう語った。「もし老化がテロメアだけのせいなら、老化の問題はずっと前に解決されていただろう」。

わかってきたのは、老化にはテロメア以外にもずっと多くの要素が関わっているうえに、テロメアが老化以外にもずっと多くの過程に関わっていることだった。テロメアの化学作用は、テロメラーゼという酵素に調節されている。細胞があらかじめ決められた分裂回数に達すると、テロメラーゼが細胞のスイッチを切る。

しかしがん細胞の場合、テロメラーゼは細胞に分裂をやめるように指示せず、際限なく増殖させておく。そのことから、細胞内のテロメラーゼを標的にすることでがんと闘える可能性が提起された。つまり、老化を理解するためだけでなく、がんを理解するためにもテロメアが重要なのは明らかなのだが、残念ながらどちらについても、じゅうぶんに理解するまでの道のりはまだまだ遠い。

■②抗酸化サプリメントは老化防止に効果がない

あまり重要とはいえないが、老化の考察でよく耳にするあとふたつの言葉は、「遊離基(フリーラジカル)」と「抗酸化物質」だ。フリーラジカルは、代謝の過程で体に蓄積される細胞の老廃物のかすで、酸素を吸うときの副産物として発生する。

ある毒物学者いわく、「老化とは、呼吸の生化学上の代償なのだ」。

抗酸化物質はフリーラジカルを中和する分子なので、サプリメントとしてたくさん摂取すれば老化作用に対抗できるのではないかという考えがある。残念ながら、それを支持する科学的なエビデンスはない。

もしカリフォルニア州の研究化学者デナム・ハーマンが1945年に、妻の購読する『レディース・ホーム・ジャーナル』で老化についての記事を読み、「フリーラジカルと抗酸化物質がヒトの老化の要(かなめ)である」という理論を展開することがなかったら、ほとんどの人は、フリーラジカルも抗酸化物質も耳にすることはなかったはずだ。

ハーマンの考えは直感以上のものではなく、その後の研究で間違っていることが証明されたが、とにかくその考えは根を下ろし、消えそうにない。今や抗酸化サプリメントの売上だけでも、年間20億ドルを優に超えている。

容器から出したサプリメント
写真=iStock.com/batuhan toker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/batuhan toker

「とんでもない悪徳商法だ」と、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのデイヴィッド・ジェムズは、2015年に『ネイチャー』誌で語った。「酸化と老化という概念がいつまでも消えない理由は、それで儲けている人々によって永遠に維持されているからだ」。

「いくつかの研究では、抗酸化サプリメントは有害かもしれないとも言われている」とニューヨーク・タイムズは指摘した。この分野の一流学術雑誌『抗酸化物質と酸化還元シグナリング』は、2013年にこう述べた。「抗酸化サプリメントを摂取しても、加齢に伴う多くの疾患の発生率は下がらず、場合によっては死のリスクが高まった」。

■アメリカにおけるサプリメントの問題

アメリカには、食品医薬品局がサプリメントをほとんどまったく監督していないという、もうひとつのやや驚くべき問題もある。

どんな処方薬も含まれず、人を死なせたりひどく害したりしないかぎり、メーカーはほぼ好き勝手にサプリメントを売ることができ、「純度や効能についてはなんの保証もなく、用量についての決まったガイドラインはなく、認可薬とともに製品を摂取したとき起こるかもしれない副作用についてなんの警告もないことも多い」と『サイエンティフィック・アメリカン』の記事は指摘した。

サプリメント製品には効果があるかもしれない。誰もそれを証明しなくていいだけだ。

デナム・ハーマンはサプリメント産業とはまったく関係がなく、抗酸化理論の代弁者でもなかったが、抗酸化ビタミンCとEを大量に摂取し、抗酸化物質の豊富な果物や野菜を大量に食べるという健康法を生涯にわたって続け、それはなんの害も及ぼさなかったと言っていいだろう。ハーマンは98歳まで生きた。

■③40歳を過ぎると臓器に届く血液量は減少し続ける

たとえ健康に恵まれていても、老化の影響から逃れられる人はいない。年を取るにつれて膀胱は弾力を失い、これまでのようには持ちこたえられなくなる。だから、老化の呪いのひとつとして、常にトイレから目が離せないのだ。

皮膚も弾力を失い、乾燥して硬くなる。血管が破れやすく、あざができる。免疫系が、以前ほど確実に侵入者を探知してくれない。色素細胞の数はたいてい減るが、残っているものがときどき増大して、染みや肝斑をつくる。肝斑といっても、もちろん肝臓とはなんの関係もない。皮膚と直接の関連がある脂肪層も薄くなるので、高齢者は体が冷えやすい。

もっと深刻なのは、年を取るにつれて、1回の心拍で押し出される血液量が徐々に減っていくことだ。先にほかの病気につかまらなくても、最後には心臓が力尽きるだろう。それは間違いない。そして、心臓から送り込まれる血液量が減るので、体内の器官が受け取る血液も少なくなる。40歳を過ぎると、腎臓に届く血液量は平均で1年に1パーセント減少する。

■④女性の閉経と卵子の関係についての本当のこと

女性は閉経すると、老化の過程をまざまざと実感させられる。ほとんどの動物は生殖能力をなくすとほどなく死んでしまうが、人間の女性は(もちろんありがたいことに)人生のおよそ3分の1を閉経後の状態で送る。

ヒトは閉経を経験する唯一の霊長類で、ほかの動物たちの中でもきわめてめずらしい存在だ。メルボルンのフローリー神経科学・精神衛生研究所は、ヒツジを使って閉経を研究している。単純に、ヒツジはヒトと同じく閉経することが知られているほとんど唯一の陸上動物だからだ。少なくとも2種のクジラも、同じ経験をする。なぜこの数種の動物が閉経するのかは、まだよくわかっていない。

困ったことに、閉経期はひどくつらい場合がある。約4分の3の女性が、閉経期にホットフラッシュを経験する(理由はよくわかっていないが、ホルモンの変化に誘発されて、たいていは胸から上に突然のほてりを感じる症状のこと)。

閉経はエストロゲン産生の低下と関連しているが、現在でもその状態をはっきり確認できる検査は存在しない。ウェルカム・トラストのウェブマガジン「モザイク」に寄稿されたローズ・ジョージの記事によると、女性が閉経期に入りつつあるとき(閉経周辺期と呼ばれる段階)の最上の指標は、月経が不規則になること、そしてしばしば「何かがしっくりこない感覚」を味わうことだという。

閉経も、老化そのものと同じく、なぜ起こるのか謎だ。

おもにふたつの説が提示されていて、「母仮説」と「おばあさん仮説」というなかなか気の利いた名称で知られる。母仮説によれば、女性が年を取ると、もともと危険で困難な出産が、もっときびしくなるからだという。

つまり、閉経は単なる保護戦略のようなものかもしれない。女性は、もう出産で消耗したり気を散らされたりせずに、自分の健康維持に集中できるようになり、子どもが最も充実した年齢になるときに子育てを終えられる。これは、自然に「おばあさん仮説」へつながる。女性が中年期に閉経するのは、子どもがその子どもを育てるのを助けるためだという説だ。

ちなみに、女性が卵子の蓄えを使い尽くすことで閉経が起こるというのは、つくり話だ。卵子はまだある。確かに多くはないが、妊娠するのにじゅうぶんすぎるくらいにはある。つまり、閉経の過程を引き起こすのは、文字どおりの卵子の枯渇ではない(多くの医者でさえそう考えているようだが)。具体的に何が引き金になるのかは誰にもわからない。

■⑤110歳まで生きる確率は700万分の1

ニューヨークのアルベルト・アインシュタイン医学校による2016年の研究では、どれほど医療が進歩したとしても、115歳を超えて長生きする人は少ないだろうという結論が出た。

一方で、ワシントン大学の生物老年学者マット・ケバラインは、現代の若者が、ごくふつうに今の寿命より最大50パーセント長生きするかもしれないと考え、さらにカリフォルニア州マウンテンヴューのSENS研究財団の主任研究員オーブリー・デグレイ博士は、今生きている人の中には千歳まで生きられる人がいると信じている。ユタ大学の遺伝学者リチャード・コーソンは、少なくとも理論的には、そのくらい寿命を延ばすことが可能だと示唆した。

ひとつ言えるのは、今のところ、100歳まで生きる人も約1万人にひとりしかいないということだ。それ以上生きる人については、あまり人数がいないせいもあって、よくわかっていない。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の老年学研究グループは、世界のあらゆるスーパーセンテナリアン――つまり110歳の誕生日を迎えた人――をできるかぎり追跡調査している。

しかし、世界の大半の記録がずさんなのと、多くの人がさまざまな理由で実際より年寄りだと思ってもらいたがるので、UCLAの研究者たちは、この最高級会員制クラブへの入会希望者を承認することには慎重になりがちだ。通常は約70人の確証のあるスーパーセンテナリアンがグループの名簿に記録されているが、おそらくその数は、世界じゅうにいる実際の数の半分ほどにすぎないだろう。

あなたが110歳の誕生日を迎えられる確率は、約700万分の1だ。女性であることは、かなり有利になる。男性より110歳に達する可能性が10倍高い。

病院の廊下で窓の外を見ている車椅子の高齢者
写真=iStock.com/TommL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TommL

興味深いことに、女性は昔から男性より長生きしている。男性はお産では死なないことを考えると、少し不思議な感じがする。しかも、歴史の大半を通じて、男性は病人の看護で接触感染する機会も少なかった。それでも歴史のあらゆる時代、調査されたあらゆる社会で、女性は常に、男性より平均で数年長生きしてきた。そして現在、ほぼ同一の医療を受けていても、やはりそれは変わらない。

■1日にタバコ2本、週にチョコ1キロ食べ続けた117歳

最も長生きした人として知られているのは、フランスのアルル出身のジャンヌ=ルイーズ・カルマンで、1997年に間違いなく高齢といえる122歳と164日で亡くなった。122歳に達した初の人物というだけでなく、116歳、117歳、118歳、119歳、120歳、121歳に達した人もほかにいなかった。カルマンはのんびりした人生を送った。

父親は裕福な造船技師で、夫は成功した実業家だった。一度も働いたことはない。夫より半世紀以上、ひとり娘より63年長生きした。カルマンは生涯を通じて喫煙し――117歳でついにやめる直前まで、1日2本吸っていた――週に1キロのチョコレートを食べたが、最後の最後まで活動的で、健康に恵まれていた。年老いてから、微笑ましい自慢話としてよく口にしていたのが、「しわなんてできたことがないわ、今椅子の上にある部分の、1本以外はね」。

またカルマンは、この上なく愉快だが判断を誤ったある取引で、利益を受けた人物になった。1965年に資金難に陥ったとき、カルマンはある弁護士に、毎月2500フランを払ってくれれば、死後にアパートメントを譲り渡すと約束した。当時カルマンは90歳だったので、弁護士にとってはかなりよい取引に思えた。ところが、その契約を結んだ30年後に弁護士はカルマンより先に死亡し、結局、手に入れられなかったアパートメントのために、90万フラン(18万4千ドル相当)以上もカルマンに払い続けることになってしまった。

■⑥80歳以降は遺伝子がカギになる

しばらくのあいだ、世界最高齢の人物は日本の木村次郎右衛門だったが、2013年に116歳と54日で死亡した。木村は郵便局員として穏やかな人生を送り、京都近郊の村でとても長い隠居生活を過ごした。

健康的な生活を送っていたが、それは何百万人もの日本人も同じだ。木村がほかの人たちよりこれほど長生きできたのはなぜなのかという疑問には答えようがないが、家族の遺伝子が重要な役割を果たしているようだ。

遺伝子治療の概念
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

ダニエル・リーバーマンが話してくれたところによると、80歳まで生きるのはおもに健康的なライフスタイルに従った結果だが、そこから先はほとんど完全に遺伝子に関わる問題だという。あるいは、ニューヨーク市立大学名誉教授バーナード・スターによれば、「確実に長生きする最善の方法は、両親を選ぶことだ」。

執筆の時点では、確証のある115歳の人が世界には3人(日本人がふたり、イタリア人がひとり)と、114歳の人が3人いた(フランス人がふたり、日本人がひとり)。

■⑦ひとり暮らしをすると寿命が縮む

あらゆる尺度から見て、推定よりも長生きする人たちがいる。

ジョー・マーチャントの著書『「病は気から」を科学する』によると、コスタリカ人はアメリカ人の約5分の1しか個人的な財産を所有しておらず、医療もじゅうぶんではないが、長生きしている。そのうえ、コスタリカ有数の貧しい地域、ニコヤ半島の住民は、肥満や高血圧の割合がかなり高いにもかかわらず、中でもいちばん長寿なのだ。

ビル・ブライソン『人体大全』(新潮社)
ビル・ブライソン『人体大全』(桐谷知未訳、新潮社)

しかも、彼らのテロメアはふつうより長い。一説によると、親密な社会的結合と家族関係が恩恵をもたらしているのだという。

興味深いことに、ひとり暮らしをしたり、最低1週間に一度子どもに会えない状態が続いたりすると、長いテロメアの利点は消えてしまうことがわかった。愛情に満ちたよい関係を築くことがDNAを物理的に変えるというのは、驚くべき事実だ。

逆に、2010年のアメリカの研究によれば、そういう関係を築かなければ、原因にかかわらず死亡するリスクが2倍になるという。

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ビル・ブライソン ノンフィクション作家
1951年、アイオワ州デモイン生れ。イギリス在住。主な著書に『人類が知っていることすべての短い歴史』、『シェイクスピアについて僕らが知りえたすべてのこと』、『アメリカを変えた夏 1927年』など。王立協会名誉会員。これまで大英帝国勲章、アヴェンティス賞(現・王立協会科学図書賞)、デカルト賞(欧州連合)、ジェイムズ・ジョイス賞(アイルランド国立大学ダブリン校)、ゴールデン・イーグル賞(アウトドア・ライターならびに写真家組合)などを授与されている。(Photo © Julian James)

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(ノンフィクション作家 ビル・ブライソン)

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