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佐藤優「アメリカの狙いは、ウクライナが韓国のように栄え、ロシアが北朝鮮のように孤立することだ」

プレジデントオンライン / 2022年6月27日 18時15分

2022年6月10日、カリフォルニア州ロサンゼルス港の戦艦USSアイオワ博物館で演説をするジョー・バイデン米大統領。 - 写真=AFP/時事通信フォト

ウクライナ戦争はどのように終結するのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「1953年の朝鮮戦争の停戦が参考になる。バイデン政権は、ウクライナが韓国のように栄え、ロシアが北朝鮮のように孤立することを狙っているようだ」という――。(連載第13回)

■マリウポリ陥落後、欧米のウクライナ報道が変わった

5月17日、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所に立て籠もっていたウクライナ政府軍とアゾフ連隊の戦闘員がロシア軍に投降し、2439人が捕虜になりました。マリウポリは黒海へ続くアゾフ海に面した要衝であり、このマリウポリの陥落を機に、西側メディアの報道の様相が変わりました。

2日後の19日、「ニューヨーク・タイムズ」に注目すべき社説が載りました。「バイデン大統領はウクライナに対して、ロシアと全面衝突はできないことや、兵器や資金の提供に限界があることを伝えるべきだ」と書いたのです。

民主党寄りでバイデン大統領の政策を後押ししている同紙の、しかも社説です。アメリカ国民にとっては、国内のインフレのほうが深刻な問題で、支援には限りがあるとウクライナに伝える時期に来ている、と与党系の新聞が主張したことは注目すべきことです。

西側メディアは、アメリカとウクライナの齟齬(そご)、ウクライナの苦戦やアメリカの政策転換を報じるようになったのです。

■米紙「ウクライナはアメリカと情報共有したくない」

アメリカとウクライナの齟齬として、ウクライナの作戦や機密事項がアメリカに共有されていないということが報道されるようになりました。アメリカの国家情報長官のアブリル・ヘインズ氏は5月の上院の公聴会で、「われわれはおそらくウクライナよりもロシアに関する知見を多く持っている」と発言しています。

6月8日の「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された、著名な軍事評論家であるジュリアン・バーンズ氏の分析記事にも同様の話が載っています。

アメリカの情報機関はウクライナの作戦について思うほど情報を持っておらず、現役・元職員によれば、ロシアの軍隊、作戦計画、その成功や失敗についてはるかに優れたイメージを持っているとのことである。

(中略)

米政府関係者によると、ウクライナ政府は作戦計画について機密事項の説明や詳細をほとんど与えず、ウクライナ政府関係者もアメリカ人にすべてを話したわけではないことを認めている。

(中略)

米国はウクライナに対し、ロシア軍の位置情報をほぼリアルタイムで定期的に提供しており、ウクライナ側は作戦や攻撃の計画、防衛の強化にその情報を利用している。

しかし、(米軍制服組トップの)マーク・ミリー統合参謀本部議長やロイド・オースティン国防長官とのハイレベルな会話でも、ウクライナ当局は戦略目標だけを話し、詳細な作戦計画を話さない。ウクライナの秘密主義により、米軍や情報当局はウクライナで活動する他の国々、ウクライナ人との訓練セッション、ゼレンスキー氏の公的コメントからできることを学ぼうとせざるを得ないと、米政府関係者は述べている。

ウクライナは、国民に対しても、親しいパートナーに対しても、強いというイメージを植え付けたいと考えていると、当局者は述べている。ウクライナ政府は、ウクライナ軍の士気の弱まりを示唆するような、あるいは勝てないかもしれないという印象を与えるような情報を共有したくないのだ。要するに、ウクライナ政府関係者は、米国や他の西側諸国のパートナーに武器の供給を遅らせるような情報を提供したくないのである。

アメリカは、ロシアのような敵対国に対する情報は詳細に集めています。しかし友好国であるウクライナに対してはそうではないため、政府から情報を直接得られなくても、非合法な手段で情報を集めようとはしません。

■イギリス紙「ウクライナの弾薬はロシアの40分の1」

そして、ウクライナの苦戦を伝える報道も目立ってきました。6月9日のイギリス紙「インディペンデント」に載った記事は、〈ウクライナ軍、ロシア軍に最大40対1で劣勢、情報報告書で明らかに〉。

ウクライナ軍は、ロシア軍に大砲で20対1、弾薬で40対1で圧倒され、大きな損失を被っていると、新しい情報源が語っている。

ウクライナと西側の情報当局による報告書では、ウクライナ軍はロシア軍の砲撃に対応するのが非常に困難であることも明らかにされている。ウクライナ軍の砲撃範囲は25キロに制限されており、敵はその12倍の距離から攻撃できるのだ。

アメリカは「M777」155ミリ榴弾砲と砲弾をウクライナに供与している
アメリカは「M777」155ミリ榴弾砲と砲弾をウクライナに供与している(写真=Lance Cpl. Jose D. Lujano/PD US Marines/Wikimedia Commons)

これに対して、ウクライナ国防省の幹部も物量の差を認めていて、報道ほどではありませんが、「ロシアはウクライナの10~15倍の大砲を保有している」と発言しています。

6月8日、イギリスの雑誌『エコノミスト』に〈ウクライナの紛争は消耗戦になりつつある 誰が一番長く続けられるか?〉と題する記事が載りました。ここでもウクライナの武器不足が指摘されています。ロシア軍の作戦を研究するアメリカの海軍分析センターのマイケル・コフマン氏の話です。

マイケル・コフマンによれば、ウクライナではソ連標準の弾薬が不足しているか、それに近い状態だという。ポーランドなど旧ワルシャワ条約機構が保有する弾薬の在庫も、いずれ底をつくだろう。もしウクライナ軍が自国規格の武器に切り替えることができれば、西側諸国はより長期間の作戦を引き受けることができるようになる。ドンバス地方の軍事バランスはロシアに有利に見えるが、軍事バランスの全体的な傾向は依然としてウクライナに有利だ」とコフマン氏は主張し、「もし欧米の支援が継続されるなら」と述べた。

欧州の多くの国々では、対戦車ミサイルなどウクライナに送られる武器の在庫が不足しており、生産量を増やすには何年もかかる可能性がある。また、ウクライナが新兵器を取り入れるのも簡単ではない。欧米の防衛関係者は、ウクライナ軍が新兵器を使いこなす速さに感心しているが、戦時下で何十もの新しくて不慣れなシステムを維持するのは容易なことではない。エコノミスト誌によれば、すでに多くの大砲が修理のためにポーランドに送り返されたとのことである。ロシアは依然として武器の面で優位に立っている。

■バイデン「ウクライナに非現実的な期待を抱かせることを懸念」

このような報道とともに、バイデン政権は発言内容を変えてきています。5月31日、バイデン大統領自身が「ウクライナでアメリカがすること、しないこと」というタイトルで、ニューヨーク・タイムズに寄稿しました。

ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が語っているように、最終的にこの戦争は「外交によってのみ決定的に終結する」。すべての交渉は、戦場で起きていることに基づいて行われる。われわれが、ウクライナに大量の武器と弾薬を迅速に送ったのは、ウクライナが戦場で戦い、交渉の席で可能な限り強い立場に立てるようにするためだ。

われわれは、NATOとロシアの間で戦争が起きることを望んでいない。私はプーチン氏に賛同しないし、彼の行動は言語道断だと思うが、プーチン氏の失脚を望んではない。

3月に、「(プーチン大統領は)権力の座に留まるべきではない」と批判していたのに比べると、明らかなトーンダウンです。

6月3日、CNNでもこう報じました。

4月、米国の目標はロシアが「失敗」することだと国家安全保障会議報道官は当時述べており、ロイド・オースティン国防長官が宣言したように、長期的にロシア軍を大幅に「弱体化」させることだった。これは、キエフ防衛に成功すれば、戦場でロシアを決定的に破ることができるかもしれないという楽観的な見方を反映したコメントだった。

しかし、ロシアが東部で少しずつ戦果を上げ、ウクライナはますます武器や兵力で劣勢になっているという事実上の膠着状態が戦場で定着しているため、ジョー・バイデン米大統領を含む西側高官は、西側の最新兵器があっても、ウクライナの平和への見通しは最終的には外交にかかっていることを改めて強調している。

6月16日には、このオースティン国防長官の「ロシア軍を弱体化させる」という発言に対して、バイデン氏は「やりすぎだと考えていた」「この発言がウクライナに非現実的な期待を抱かせ、アメリカがロシアと直接衝突する危険性が高まることを懸念し、言葉遣いを抑えるようにオースティン氏、ブリンケン氏に伝えていた」とアメリカのNBCテレビのニュースが報じました。

ひび割れた壁にペイントされた星条旗とロシア国旗
写真=iStock.com/donfiore
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/donfiore

■ロシアとの交渉内容は「何でもあり」

これまでバイデン政権が主張してきた「ウクライナの勝利を確信している」という言葉や「ロシアを弱体化させる」という言葉はは鳴りを潜め、その代わりに「外交による紛争の終結」「停戦」という言葉が目立つようになっているのです。

6月3日の「ワシントン・ポスト」でバイデン氏はこう述べています。

【記者】和平を達成するためにウクライナは領土を諦めなくてはならないか。

【バイデン】私は当初から、ウクライナに関しては同国が参加することなくして、何かを決めることはできないと繰り返し述べています。あそこはウクライナの人々の土地です。私は彼らに何かしろとは言えません。ただし、いずれかの時点で紛争は交渉によって解決されなければなりません。そこに何が含まれるかについては、私はわかりません。

要するに、今後の交渉でどういう内容が入ってくるかについては、何でもありですよということです。随分と軟化しています。

■戦争の行方が、ウクライナ抜きで語られ始めた

しかし、同日、CNNは、複数の情報源によるものとして、〈米政府関係者はここ数週間、英国や欧州の関係者と定期的に会合を持ち、停戦や交渉による戦争終結のための潜在的な枠組みを話し合っている〉〈ウクライナは、米国が“ウクライナ抜きでウクライナのことは何もしない”と約束したにもかかわらず、これらの議論に直接関与していない〉と報じています。

アメリカは「ウクライナのことはウクライナが決める」と言いながら、戦争の行方がウクライナ抜きで語られ始めたことがわかります。ではアメリカはどのような未来を思い描いているのでしょうか。

6月2日、「ワシントン・ポスト」のコラムニストであるデイヴィッド・イグナチウス氏は、こう指摘しました。

バイデン大統領の最も緊急の課題は、紛争が長引くとコストがかかると心配する一部のヨーロッパの同盟国の間で、慌てて平和を求める動きがでることを抑制することである。ヨーロッパの指導者たちは今週、ロシアの海上石油輸送の禁輸を約束し、ドイツはウクライナに強力な対空防御と戦車を提供することに同意して、落ち着いた。

ウクライナ戦争は、その勢いが激しく揺れ動き、ウクライナの抵抗に対する楽観的な見方から、朝鮮戦争のような長く疲れる作業に近い段階へと移行しつつあるのかもしれない。

イグナチウス氏は、かつてレーガン大統領がゴルバチョフ書記長に向けて「ベルリンの壁を壊しなさい」と演説したときのシナリオを作った1人です。今もホワイトハウスに出入りしていて、アメリカ政府の意向を表明するコラムニストとして、非常に有名な人です。

このイグナチウス氏が言っているのが、バイデン大統領はウクライナにおける長期にわたる限定された戦争を準備しているということです。多くのアメリカ人は、1953年7月の韓国停戦は、勇敢な韓国の同盟者が破れたと思った。しかし、平和条約がいまだ存在していないにもかかわらず、今日、韓国は世界の経済的成功例の一つになっている。つまり、ウクライナが韓国のように栄え、ロシアが北朝鮮のように制裁がかけられたまま孤立した状態に置かれる。アメリカにとっては非常に魅力的な状況です。現時点では、これがバイデン政権の頭の中なのでしょう。

ではロシアはそれを受け入れられるのか。次回は、最近のロシア側の報道を見てみましょう。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優 構成=石井謙一郎)

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