いじめ防止法を知る子は1割…「国のいじめ対策」で子どもを救うことができない根本原因
プレジデントオンライン / 2022年7月30日 13時15分
■いじめ防止対策推進法について子どもはどう思っているのか
6月23日、子ども政策担当の野田聖子内閣府特命大臣に面会し、プロテクトチルドレンで行った「いじめに対する全国児童対象アンケート」の結果を届けてきました。
このアンケートは今年の1月から2月にかけて実施したもので、回答を依頼したのは小中高合わせて2万9812名の子どもたち。学校、教育委員会が協力してくださり、授業時間などを使って小学生9133名、中学生1万1478名、高校生6041名、合計で2万6652名が手書きで回答してくれました。匿名のアンケートになっているので、子どもの偽らない本音が拾えたと自負しています。
なぜ、このような調査を実施したかといえば、平成25年に「いじめ防止対策推進法」が施行されたにもかかわらず、いじめによって心に深い傷を負ってしまう子や、自ら命を断ってしまう子が後を絶たないからです。
こうした現実を見るにつけ、私は、子どもたちはいじめ防止対策推進法によって本当に守られているのだろうかという疑問を抱いてきました。しかし、いくつものいじめ事案に介入してみても、どこもかしこも「大人同士の言い合いの場」と化していて、子どもの本音に触れられることはほとんどないのです。
子どもたちのためにという触れ込みで作った法律ならば、それを、当事者である子どもたちがどう捉えているのか、もしも不備があると感じているなら、いったいどこに感じているのか、きちんと把握するべきではないか……。私がアンケートを実施するに至った理由です。
子どもアンケートは全部で10問で構成されていますが、私自身、予想もしていなかった回答がありました。
すべての設問と回答を掲載する紙幅はありませんが、重要なものだけを抜粋してご紹介してみたいと思います。
■いじめから自分を守る法律を知る子どもはわずか8.9%
いじめ防止対策推進法が設立して9年が経ちますが「知っている」と答えたのは、全体でわずか8.9%に過ぎませんでした。小学生にいたっては8.4%という低率です。子どもたちの命や尊厳を守るために作られたはずの法律が、当の子どもたちにほとんど認知されていないという事態が明らかになりました。
高校生の自由記述の中には「このアンケートで(法律の存在を初めて)知った」というものもありました。
これはいじめ問題に取り組む者として、とても残念な結果です。なぜなら、いじめ防止対策推進法は、「いじめとは何か」を明確に定義しており、その定義を知るだけでもいじめの抑止効果が期待できるからです。また、いじめ事案が発生したときに、親、学校、教育委員会は「こういう対策を取る」ということも条文に明記されていますから、多くの子どもたちが抱えている「いじめられたらどうなってしまうんだろう」という不安も軽減できるでしょう。
いじめ防止対策推進法は子どもにとって「お守り」のような存在で、知ることで自分の身を守ることができるようになります。しかし、こうしたアンケート結果が出てしまうのは、法律ができただけで大人たちが満足してしまっているからだと思うのです。
9割以上の子どもたちがいじめ防止対策推進法の内容を知らないという結果を見るにつけ、教育行政の最重要課題のひとつとして位置づけられているいじめ問題が、実は軽んじられているのではないかと感じてしまうのは、私だけでしょうか。
■スマホのフィルタリング機能が相談窓口をブロック
これは、いじめ問題に長く関わってきた私にとってもまったくの盲点でしたが、スマートフォンやタブレットに設定できるフィルター機能が、いじめ相談窓口へのアクセスを阻害しているという事実が浮かび上がってきました。
フィルター機能とは、ご存じの通り、子どもたちがSNSを通じて事件に巻き込まれることや、有害サイトにアクセスするのを防ぐための機能ですが、この機能をオンにすると、いじめ相談窓口へのアクセスもできなくなってしまうケースが多いというのです。特に小学生の場合は通話にも制限をかけられている場合が多いので、「電話相談」をしたくてもできないケースがあるというわけです。
親や先生は、「家庭には親がいて学校には先生がいるのだから、いじめられたらいつでも相談してくればいい」と考えがちですが、私の経験では、いじめによって心に深い傷を負っている子ほど「いじめられていることを親や先生に知られたくない」傾向が強い。
だったら、公衆電話を使えばいいと思われるかもしれませんが、公衆電話はすでにごく限られた場所にしか設置されていません。となると、残るはスマホやタブレットということになりますが、これがフィルター機能で使えないとなると、いくら相談窓口が開設されていてもアクセスのしようがないのです。
つまり、行政や学校は単に相談窓口を増やすだけでなく、アクセスの方法まで考えて窓口を設置しなければ意味がないのであり、それには、通信会社やプロバイダーを巻き込んで対策を講じる必要があるということです。プロテクトチルドレンでは通信会社に対策を申し入れています。
大阪府寝屋川市のように、いじめに関する情報提供をあえてはがきで募っている自治体もあります。専用はがきにいじめに関する情報を記入して投函すると、いじめ問題を担当している市役所の監察課に直接届くという仕組みです。
こうしたアナログな方法の方が、かえって子どもの命を救うことにつながる場合もあるのかもしれません。いずにせよ、法律同様、いじめの相談窓口も「作って終わり」では意味がないということです。
■「子ども家庭庁では子どもたちの意見を聞いてほしい」84.9%
残念ながらというか、当然のことながらというか、「大人たちが考えて、作ってほしい」という回答は全体で12.4%しかありませんでした。反対に「子どもたちの意見も聞いて欲しい」と「大人と子どもが一緒に話しあってつくりたい」を合計すると、全体で84.6%にも達します。
自由回答にも、「なんでも大人たちが勝手に決め過ぎる」という意見や、「子どもたちのために作るなら、子どもたちの意見を聞いてほしい」という意見が多く、いじめに関する法律や制度が、いかに大人の「独り善がり」で作られたものであるかが浮き彫りになった形です。子どもたちが、いじめ防止対策推進防止法の存在すら知らないのも、こうしたところに原因があるのかもしれません。
では、子どもの意見を聞きさえすればいいのかといえば、それもまた違うでしょう。
たとえば文科省が主催している「全国いじめ問題サミット」というイベントがありますが、こうしたイベントで子どもを代表して話をする子どもは、多くの場合、優等生です。いじめられた当事者でもなく、いじめた当事者でもなく、いわば「大人たちが言ってほしいと期待していること」を敏感に察知して、言葉にできる子たちなのです。
これをもって、子どもの意見も聞いたというのであれば、それこそ大人の独り善がりというものでしょう。
子どもは、本当は何に困っているのか、本当は何を解決してほしいのか。本当にそれを知りたかったら、大人たちは問題を抱えていじめをしてしまう子や、いじめ被害に遭った子の言葉にこそ、真摯(しんし)に耳を傾けるべきではないかと私は思うのです。
今回アンケートを届けた野田大臣には、ブログなどを通じて大臣という重責におられ極めて多忙な中でもお子様との時間を大切にされているところに感銘を受けました。子どもたちの声を政策に生かしていただきたいと期待しています(後編に続く)。
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特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表
息子がいじめで不登校になり、学校や教育委員会と戦った経験から、同じような悩みを持ついじめ被害者や保護者の相談を受けるようになる。相談が殺到し、2020年に市民団体を、2021年にはNPO法人を立ち上げる。いじめ、体罰、不適切指導、不登校など、さまざまな問題の相談を受けているが、中立の立場で介入し、即問題解決に導く手法が評判を呼んでいる。相談はHPから。
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(特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表 森田 志歩 構成=山田清機)
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