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グループ売上高は業界2位なのに…北海道以外で「ツルハドラッグ」の知名度があまり高くない納得の理由

プレジデントオンライン / 2022年11月15日 18時15分

一部店舗で精肉コーナーを導入している - 撮影=本田匡

ドラッグストア業界2位のツルハホールディングスは、北海道で圧倒的なシェアをもつ。だが、ほかの地域ではそこまで知名度が高いわけではない。日本経済新聞記者の白鳥和生さんは「ツルハはM&Aで店舗数を増やしてきた。その特徴は、買収先の社名や屋号はそのままで、社長も残留して経営を続けさせること。買収先にもツルハという文化を押しつけないところが、ツルハの強みになっている」という――。

※本稿は、白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■薬だけでは売り場は埋まらない

コロナ禍のなか、ドラッグストアで食品を買い求める生活者が増えている。例えば九州から西日本を地盤とするコスモス薬品。食品の売り上げ構成は55%を超える。野菜など生鮮食品の扱いは少ないが、冷凍食品の売り場を大展開し、冷凍肉、魚やカット野菜を充実。EDLP(エブリデーロープライス)で食品スーパーの下をくぐる価格の商品も目立つ。郊外を中心にスーパーからお客を奪って勢力を拡大中だ。

ドラッグストアの成長の歴史は、商品のラインロビングにあった。平たく言えば既存の小売り業態が扱っている商品を取り込み、浸食していくのだ。ドラッグストアの出自は薬局が多いが、米ウォルグリーンに倣い売り場を広げ、ドラッグストアを構築する上で難点となったのは、OTC(一般用医薬品=大衆薬)だけで売り場を埋められないことだった。

結果、日用雑貨、菓子、加工食品、化粧品、果てはホームセンター商材など多様な商品を置いてきた。そうした商品群で集客の目玉に使われたのは、日用雑貨や菓子、加工食品など。安売りでお客を集め、高額で粗利が稼げる医薬品、化粧品の購入へと導くのだ。

そんなドラッグストア業界で売上高2位につけるツルハホールディングス。ラインロビングを積極的にしてきた代表格。顧客の利便性を高めるため、精肉・青果、100円均一コーナーの導入を進める。2022年5月15日時点で精肉・青果は880店、100円均一コーナーを246店に導入済み。青果、精肉はテナントやコンセッショナリー(委託)を起用し、100円均一は、ワッツと組む。

■全国のローカル企業との提携で1000店を突破

同時に、M&A(合併・買収)で規模を急速に拡大していることで知られる。2006年に中堅ドラッグストアの「くすりの福太郎(千葉県鎌ケ谷市)」と資本・業務提携を結び、翌年には当時としては大型のM&Aを行った。当時から単独での成長にはこだわらず、志を同じくする企業と一緒になり、ともに歩むことによる成長を目指していた。

その後、ウェルネス湖北(島根県松江市)、ハーティウォンツ(広島県広島市)、レデイ薬局(愛媛県松山市)、杏林堂薬局(静岡県浜松市)、B&D(愛知県春日井市)、ドラッグイレブン(福岡県大野城市)など、地域で愛されているドラッグストア企業と資本・業務提携し、規模拡大を一気に進めた。

その根底にあるのが「20倍理論」。わずか5店舗の時(1975年)に鶴羽会長の兄、肇氏(2代目社長)が掲げたのが「100店舗構想」。さらに50店舗の時(1985年)には「1000店舗構想」という端から見たら無謀とも言える目標を掲げた。しかし、1989年には実際に100号店を達成し、2012年には1000店を突破した。

■「20倍の目標で考えてみろ」

鶴羽樹会長は「M&Aを手掛けるようになったきっかけは、当社が50店舗になった1985年ごろ、当時社長だった現名誉会長の兄(鶴羽肇氏)が、その20倍の目標、1000店の出店を目指そうと言ったことだった。

「『いつできるかちょっと自分で考えてみろ』と言われ、既存店に対して毎年15%ずつを出店しようと決めた。そうすれば2011年の5月までには達成できると単純に考えた。ところが、よくよく計算すると、毎年15%ずつは出店できない。出店数がものすごく多くなり、自力では無理。それで考えたのがM&A。他社と一緒になる、いわゆる合併をしてやっていこうと思い、そこからすべてが始まった」と語る。

ツルハのM&A戦略は、買収先の社名や屋号はそのままで、社長も残留して経営を続けてもらうのが基本。そしてすべての会社がその後に利益を伸ばしている。

ツルハドラッグの看板
撮影=本田匡
ツルハドラッグの看板 - 撮影=本田匡

■買収先に求めるのは営業利益を上げること

小売りが事業規模を広げるのはメーカーとの交渉力を上げ、調達や管理のコストを下げて収益性を高めるためだが、ツルハ自身が買収先のノウハウを取り入れてグループ力を引き上げている。くすりの福太郎の小川久哉社長やツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本(TGN)の村上正一社長ら4人はグループ入り後、ツルハHDの役員も兼務する。

地方の有力企業のトップの職務を継続しながら業界首位を競う大手の役員としても腕を振るうチャンスが広がる。ツルハHDにとっては買収を通じてマネジメント層の人材を厚くできるメリットがある。

また、事業会社同士での出向や研修、応援などの人事交流は、店舗指導のスーパーバイザーや薬剤師、経理など多様な職種や階層で活発に行われているのがツルハグループの特徴。事業会社の社長やスーパーバイザーによる会議などを通じ、気軽に情報交換ができる土壌が整っている。

「各社のトップに言うのは営業利益を上げてくれということだけ」。ツルハHDが事業会社に出す指示について、鶴羽樹会長はあっさりと言い切る。一方で買収によるメリットを引き出すため、経理やシステムの業務は札幌市のツルハHDに一本化している。

■屋号・ビジネス手法は押しつけないが…

単にM&Aだけでは終わらない、合併後のスムーズな事業統合プロセスがツルハのもう一つのお家芸だ。モノを言うのは買収の半年後ごろをターゲットとした「統合作業パッケージ」。商品調達や管理業務などあらゆる統合作業の段取りをまとめたものだ。

自らの屋号やビジネス上の手法を押しつけない代わりに、相乗効果を出すための融合には人もカネも惜しみなくつぎ込む。買収先企業の店舗営業の自主性を重んじつつ、営業利益水準の向上を絶対命題とする独自のPMI(M&A成立後の統合作業)戦略は、同業の企業をひき付ける。

北海道・旭川から全国チェーンに駆け上った余勢を駆って店舗のメディア化に取り組む。年間1200万~1300万人の会員が店舗で買い物をするツルハの店頭を生かす戦略で、自社のデータを活用した広告事業に参入した。

来店客の購買データと、アプリなどの会員情報を活用して「ツルハADプラットフォーム」を構築。2020年8月からインスタグラムやユーチューブ、ツイッターなどに新商品などの広告配信を始めた。化粧品や日用雑貨のメーカーを中心に広告主を獲得し、既に年間数億円規模の事業に成長しているという。

全国に多くの実店舗を持つからこそ、広告がどれだけ閲覧されたかにとどまらず、閲覧者の何%が来店し、何%が購入したかといった広告効果まで測定できる。

またツルハHDは以前から出店エリアで“インクが染みていく”ようなドミナント展開を進めている。そこに魅力を感じてメーカーはツルハに広告を出す。膨大な顧客データを持っている企業は、その蓄積を生かして広告プラットフォーマーにもなれることを、ツルハHDの例は示している。

■POSデータ活用でメーカー軸→顧客軸の接客に

一方、デジタル活用による業務の効率化の取り組みとしてデジタル化粧品台帳を導入。POS(販売時点情報管理)データとの連動でマーケティングに生かす段階に入っている。

先にあるのはカウンセリング販売の強化だ。業務の効率化によって接客時間を創出し、新規会員の獲得と売上拡大につなげる。「いままでのメーカー軸ではなく、顧客軸の管理によって、よりお客さまに寄り添った接客につなげられる。データ化によって、お客さまの購買履歴が全店で把握でき、どこの店舗でも、きめ細かな対応が可能になる」(鶴羽社長)。

スマホをPOSデバイスに近付ける手元
写真=iStock.com/by sonmez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/by sonmez

シフト作成支援システムの導入を拡大するほか、新たに医薬品接客ツールも開発した。店舗のタブレットを使って、顧客と従業員がやりとりし、症状に合わせた医薬品を推奨する。新入社員を含め、従業員の接客、商品知識のレベルアップをサポートし、リアル店舗の機能強化につなげる。

先行して導入しているシフト作成支援システムはツルハとレデイ薬局全店に導入している。「シフト作成時間の短縮のほか、残業時間やパート・アルバイトの勤務時間の適正化、見える化によって店舗間格差のバラツキを改善する。さらに月次ではなく1日単位の人時管理の効果を発揮していく」(同)という。

■目標世界2万店、売上高6兆円を目指す

個人個人の購買行動を把握し、それぞれにきめ細かく対応するマーケティング(ワン・トゥ・ワンマーケティング)の実現に向け、データベースの構築に取り組む。直近の来店日や来店頻度から顧客の属性を8つに分類し、それに合わせたアプローチを展開。来店頻度が減り、会員から離反する可能性のある顧客に対してクーポンなどの来店を促進するプログラムを始めている。

白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)
白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)

AIを搭載したビーコン(電波受発信器)を店頭に設置することで、顧客の店内動線情報の収集や店内販促機会の拡大も進める。このビーコンから、ツルハのアプリに対してプッシュ配信を行い、売場と連携した販促施策につなげる。サイトログ、アプリログ、ID-POS(顧客属性が紐付いた購買データ)や店内行動データを統合したプラットフォームを構築し、店内・店外を問わずに販売促進活動の有効性を高めている。

実現不可能とも思える大きなビジョンを掲げ、その夢の実現に向けて邁進することがツルハグループの企業文化だ。現在の中期目標は2025年5月期に2750店舗、売上高1兆600億円。だが、北海道札幌市の本部内に貼り出しているのは「目標世界2万店 売上高6兆円」だ。同社の規模拡大を支える「20倍」のビジョンは継続されている。

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白鳥 和生(しろとり・かずお)
日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ調査担当部長
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を長く担当した。『日経MJ』デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に『ようこそ小売業の世界へ』(商業界)、『2050年 超高齢社会のコミュニティ構想』(岩波書店)、『流通と小売経営』(創成社)、新刊『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)などがある。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。

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(日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ調査担当部長 白鳥 和生)

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