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最大手ロッキード社の株価は史上最高値に…米国の軍需産業が儲かる限り、ウクライナ戦争は終わらない

プレジデントオンライン / 2022年12月30日 9時15分

キエフのボリスポリ空港で、米国がウクライナに提供した携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」を受け取るウクライナ兵=2022年2月11日 - 写真=AFP/時事通信フォト

■軍需産業は「わが世の春」を謳歌している

ロシア軍のウクライナ侵攻は12月24日で10カ月になるが、ロシアの代表的な国際問題専門家、ドミトリー・トレーニン氏は最近の論文で、「双方に決め手がなく、越年どころか、今後数年続くことを覚悟したほうがいい」と予測した。戦争長期化の背後で、米軍需産業の暗躍も無視できない。

世界最大の軍需企業、ロッキード・マーチン社の株価は12月、496ドルと史上最高値を付けた。ミサイルや電子戦装備で知られる世界2位、レイセオン・テクノロジーズの株価も最高値水準で推移した。今年の米国株は全般に低迷したが、軍需産業はウクライナ侵攻で「わが世の春」を謳歌している。

■「ウクライナ戦争は都合の良いタイミングで始まった」

米議会は12月、過去最大の8580億ドル(約117兆円)に上る23年度国防予算案を採択した。バイデン政権が要求した額に450億ドルを上乗せし、日本の23年度当初予算案の一般会計総額(114兆円)を上回る。

米国のウクライナ向け軍事援助はまだ3兆円に達しておらず、軍需産業は兵器の増産と売り込みに躍起だ。

今年の世界の国防予算総額は推定2兆3000億ドル(314兆円)と空前の規模に上る見通し。安全保障上の危機拡大で、日独などは国内総生産(GDP)比2%への国防費増額を決めており、ほぼすべての国が今後国防予算を増額する。軍需産業の出番が拡大し、ドル箱となる。

かつてベトナム戦争が予想外に長期化したのは、軍需産業が議会や国防総省に兵器の開発・売り込みでロビー活動を行った要素も見逃せない。

冷戦終結後の1990年代は、国防予算激減により、多くの軍需企業が倒産や合併を余儀なくされた。戦争は軍需産業発展のバロメーターなのだ。

米国の軍事専門家、ダン・グレーザー氏は、「米軍需産業にとって、ウクライナ戦争は都合の良いタイミングで始まった。昨年夏のアフガニスタンからの全面撤退で、各企業は国防予算減や収益悪化を覚悟していた。戦争で一部の人が大金を手にする構図は、昔も今も変わらない」と指摘する。

■ロッキード社の兵器が大活躍

ウクライナ戦線で大活躍した携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」は、ロッキード、レイセオン両社が共同で開発、生産した。ウクライナ人が「聖ジャベリン」と呼ぶ救世主で、これまでにロシア軍戦車1000両以上、装甲車2000両以上を破壊し、命中率は94%とされる。ロッキード社はジャベリンの年間生産量を従来の2000発から4000発以上に倍増することを決めた。

戦場でもう一つのゲームチェンジャーとなった射程80kmの高軌道ロケット砲システム「ハイマース」は、ロッキード社が開発・製造し、4月から供与を開始。侵攻したロシア軍に大打撃を与えた。

ロッキードは国防総省との間で、新たに6000万ドルを投じてハイマースの増産計画をまとめた。ロッキードは同じ発射装置から撃てる射程300kmの戦術ミサイル「ATACMS」の売り込みも図る。

■軍需産業の政治献金が政策に影響か

業界3位のボーイング社の株価は冴えないが、ロイター通信が11月末、「米国防総省は射程150キロの地上発射精密ロケットシステム、GLSDBをウクライナに提供するというボーイング社の提案を検討中」とロイターが11月に報道すると、株価は上昇した。

同システムは、ボーイングがスウェーデンの防衛大手サーブと共同生産し、精度はハイマースを上回るという。射程150kmなら、ウクライナに侵攻したロシア軍の後方軍事目標を攻撃でき、来春からウクライナ軍への提供が始まる見通し。

ウクライナで砲撃に遭った学校の教室
写真=iStock.com/Jakub Laichter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jakub Laichter

軍需企業は予算編成権限を持つ議会の防衛族を通じて新型兵器の売り込みを図っている。ベトナム戦争時もそうだったが、議員は資金豊富な軍需産業の政治献金に弱いのだ。

米政府がウクライナに停戦を強く求めず、ロシアとの対話にも消極的な背景に、軍需産業の思惑が透けて見える。

■ウクライナは「兵器の実験場」になっている

ウクライナ戦線には、新型地対空ミサイル・スティンガー(レイセオン)、自爆用無人機スイッチブレード(エアロバイロンメント)、ドローンを撃ち落とすIRSロケット、バンパイア(L3ハリス)などの米国製新型兵器も投入されつつある。

欧米メディアによれば、NATO(北大西洋条約機構)加盟諸国の特殊部隊や情報工作員とともに、西側軍需企業のスタッフもウクライナ入りし、現地で兵器の能力などをチェックしている。ウクライナは新型兵器の貴重なショーケースとなった。

「兵器のスペック上の性能は分かっていても、実際に戦場でどの程度使えるかは実戦で判断するしかない。ウクライナ戦争は兵器の能力、効果を知る貴重な実験場になった」(西側軍事筋)。欧米兵器の「人体実験」にさらされるロシア軍兵士はたまったものではない。

■軍需産業が暗躍する限り、戦争は終わらない

米軍需産業のもう一つの狙いは、ロシア兵器の信頼を低下させ、武器市場でロシアのシェアを奪うことだ。

第三世界向けのロシアの兵器輸出は米国に続き世界2位で、インドや東南アジアが最も多い。米軍需企業はロシア製兵器輸入国に対し、ウクライナ軍に破壊された戦車・装甲車の無残な残骸映像を提示し、輸入中止を働き掛けているという。

西側の経済制裁を受けるロシアは、半導体など電子部品の調達が困難になり、兵器生産に支障が出ている。最大の輸入国インドはロシア製兵器への依存を低下させることを決めた。

一方のロシアは11月、23年度予算案を可決し、国防予算を前年度比約7%増の5兆ルーブル(約11兆円)に設定した。予算支出の約4割が国防・治安対策費で、プーチン政権は戦争継続と国内支配に予算を投入せざるを得ない状況に追い込まれた。

こうして、政権崩壊を恐れて戦い続けるプーチン政権、領土奪還に賭けるゼレンスキー政権に加え、空前の利益を上げる軍需産業が戦争長期化の「影の主役」になりつつある。

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名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学特任教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。2022年4月から現職(非常勤)。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミア新書)などがある。

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(拓殖大学特任教授 名越 健郎)

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