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会社は好きだけど、このままここにいるとヤバい…居心地のいい「ゆるい職場」からどんどん若者が消える理由

プレジデントオンライン / 2023年1月23日 17時15分

出所=『ゆるい職場』

なぜ若者は会社を辞めるのか。リクルートワークス研究所の古屋星斗さんは「転職は『不満型』から『不安型』へ変わっている。2010年代以降に進んだ働き方改革で、職場環境の不満は改善した。そのかわり、成長を実感できない環境に不安を感じるようになっている」という――。

※本稿は、古屋星斗『ゆるい職場―若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■職場環境は圧倒的に改善されている

2010年代後半、職場の運営に関わる法令(本稿では「職場運営法」と呼ぶ)は改善を重ねてきた。

例えば、2015年に施行された若者雇用促進法。これは、新卒者を募集する企業に幅広い情報提供を事実上義務付けた法律である。自社の残業時間平均や有給休暇取得日数、早期離職率などがその項目だ。

2019年には働き方改革関連法により労働時間の上限規制が施行、さらに2020年にはパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行された(※)

筆者註※いずれも中小企業は2020年から

こうした法制度はもちろん、日本の全ての企業・職場の労働環境に影響を与える。

この動きを筆者は「職場運営法改革」と呼んでおり、企業のコンプライアンスや組織戦略などに与える影響の大きさはさることながら、多くの企業の各職場の運営面に多大な影響を与えた。

もちろん、過去にも労働法令改正は多数行われてきたが、日本の全ての職場の日々のマネジメントや人事部の業務で留意すべきことに、短期間でこれほど大きな変化をもたらしたことはなかっただろう。

こうした一連の法改正の成功・不成功の評価は筆者の専門ではない。ここで注目する必要があるのは、職場での働き方、特に初めて社会人となった若者の働き方に大きな影響を与えたということだ。

■職場は好きなのに辞める若者たち

職場環境もよくなり、リアリティショックもなくなり、会社のことが好き。ここまでで終わっていればハッピーエンドであるが、そう簡単に片付けられないことはおわかりかと思う。

会社と若者の関係は、職場がゆるくなってハッピーエンドをむかえるはずなのに、現状退職率が低下していなかったり、若者が職場で活躍できていなかったりする現実について、そのひとつの理由を示す興味深いデータがある。若者の不安が高まっているのだ。

リアリティショックなく入職し初職への評価も高まるなか、自らの今置かれた状況への認識はどうなっているか検証した。実は、ストレス実感は減少しておらず、むしろ高止まりの傾向が見られる。例えば、「不安だ」とする回答者は2019―2021年卒では75.8%に上っており、これは2016―2018年卒と並んで高く、他の世代と比較し決して減少しておらずむしろ割合が上昇していることがわかる。他の項目においても2016年卒以降の若手の回答者で「朝起きるときおっくうに感じる」「ひどく疲れている」というストレス実感が高い、という同様の傾向が見られる(図表1)。

■新入社員の半数が「転職できなくなるんじゃないか」

この「不安」という要素について、現在の新入社員にさらに掘り下げた質問をした。職業生活について、回答者自身の認識を3項目で聞いた結果を示した。例えば、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」という質問に対して「そう思う」と回答した者の割合は、現在の新入社員のほぼ半数、48.9%に及んだ。

【図表2】現在の職業生活における状況(「そう思う」割合)
出所=『ゆるい職場』

実際に大手企業の新入社員へのインタビューにおいても、「すごく成長に時間がかかるなあと、会社の時間の流れがゆっくりしていると感じる」「社外で通用しなくなるのでは、と思っていた。マニアックな業界でもありその部署でキャリアが終わる人が多かった。部署全体で仲は良いので、正直居心地は良く、人間関係では全く困らなかったが、本音ではこのままではまずいと感じている」といった声が聞かれていた。

こうしたキャリアへの焦燥感や根源的な不安は、仕事の負荷の低下や職場環境の改善によっては消失しておらず、むしろ強まっているようにすら感じられる。

「この職場にいると転職できなくなるのではないか」
「自分の会社でしか生きられない人間になってしまう」
「同年代と比較して活躍できるようになるイメージがわかない」
「会社の仕事を続けていると、キャリアの選択肢が狭まるように感じる」

こうした声は、いくら労働時間を削減し職場環境を改善してもなくなることはない声なのである。

■なぜ職場環境が良くなっているのに不安なのか

ここまで、大手企業の新入社員を取り巻く職場環境が変化している可能性について、調査結果から整理した。この結果として明らかになったのは若者たちの認識上、現在の職場環境については「比較的負荷が低く、職場環境もサポーティブで、想像を悪い方向へ裏切られることも少なく、会社のことは以前の新入社員より好き」であるという相対的傾向が見られる。

こうした結果は、なぜ新入社員の36.4%が「ゆるい」と感じているのかという疑問に対して、その理由を饒舌に述べその実像を明らかにしている。

加えて判明したのは、大手企業の新入社員の多くが同時に「ストレス実感は決して低くなく、自分は別の会社や部署では通用しなくなるのでは、などの“不安”を抱えている」ことだった。

「ゆるい」のに「不安」、という状況が矛盾しているように感じられるだろう。しかし、職場を「ゆるい」と感じている大手企業の新入社員の方が自身のキャリアの不安を感じているという明確な関係も発見されているのだ。

職場の「ゆるさ」が生んでいる不安の代表例としてひとつの集計を掲示したい(図表3)。

【図表3】「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」割合(職場の「ゆるさ感」別)
出所=『ゆるい職場』

「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」という項目に「強くそう思う」「そう思う」と回答した者の合計は、職場を「ゆるいと感じる」と回答した新入社員が非常に高い結果となり、合わせて62.6%に達している。特に、「強くそう思う」については23.7%であり、圧倒的に高い割合である。このように、職場のゆるさは新入社員のキャリア不安に直結している。

ただしゆるいと感じている新入社員はその会社のことが嫌いというわけではない(図表4)。

【図表4】職場の「ゆるさ感」別所属企業の評価点(10点満点)
出所=『ゆるい職場』

「ゆるい」と感じている職場は、上司・先輩の支援が手厚く、労働時間が短く負荷が低い傾向が見られるため、当然と言うべきかもしれない。10点満点での自社の評価点を出してもらい、職場に対するゆるさ感別に平均点を示すと、最も評価点が高いのが「ゆるいと感じる」新入社員である。著しく労働環境・条件が悪い回答者が一定数含まれると考えられる「ゆるいと感じない」が一番低いことも頷けるが、いずれにせよ成長できるかどうかと会社が好きか嫌いかは全く別であることが、若者の現状への理解を非常に難しいものとしている。

■ゆるい職場にいる57%が退職したいと考えている

こうした若手の厄介な状況は実は非常にシンプルな図式で整理できる。職場を「ゆるい」と感じている新入社員が、離職意向が強いという事実である。図表5からは次のことがわかる。

【図表5】「ゆるい職場」と就労継続意識(%)
出所=『ゆるい職場』

① 現在の会社との関係を2、3年程度の短期的なものと最も考えているのは、職場が「ゆるいと感じる」新入社員である。「すぐにでも退職したい」が16.0%、「2、3年は働き続けたい」に至っては41.2%に達しており、合わせて57.2%がごく短い期間の在職イメージしか持っていない。
② 「すぐにでも退職したい」については、職場を「ゆるいと感じない」新入社員が最も高く、29.7%であった。これはいわゆるブラック企業、労働環境・条件の良くない状況で働いている新入社員の意向が反映されているものと考えられる。
③ 「2、3年は働き続けたい」については、職場が「ゆるいと感じる」新入社員が最も高く、実に41.2%に達している。

なお、全体では、16.2%が「すぐにでも退職したい」、28.3%が「2、3年は働き続けたい」、15.6%が「5年は働き続けたい」、13.7%が「10年は働き続けたい」、5.4%が「20年は働き続けたい」、20.8%が「定年・引退まで働き続けたい」と回答していた。

全体の結果でも44.5%が「すぐにでも」「2、3年程度で」退職したいと答えており、こうした流れは終身雇用への信用とそれを前提に就職するという認識が大手新入社員のなかで既に崩壊したということを示している。そして注目すべきは、このなかで、職場が「ゆるいと感じる」新入社員では、合わせて57.2%が「すぐにでも」「2、3年程度で」退職したいと、その数字が跳ね上がることである。

■転職は「不満型」から「不安型」へ

つまり全体を総合すれば、「会社のことはゆるくて好きだが、キャリアは不安なので、退職を考えている」という若手の存在が浮かび上がる。「職場がきつくて辞める」者のグループも存在しているが、現代における新しい状況は「職場がゆるくて辞める」というグループを生み出したのだ。

私はこの「職場がゆるくて辞める」状況を、「不満型転職から、不安型転職へ変わった」と理解している。

古屋星斗『ゆるい職場』(中央公論)
古屋星斗『ゆるい職場』(中央公論)

データからは不満は相対的にはかなり減少していると言って良いだろう。そもそも不満の源泉になってきた、職場環境や上司との関係性による負荷、労働時間の長さなどは相当程度改善されたことは明らかで、リアリティショックも低減している。このため、若手になればなるほど、初職の企業への評価点が上昇している傾向があることはすでに示した通りだ。

かつての日本企業で当たり前にあったネガティブな感情、会社や職場への「不満」はなくなりつつある。しかし問題は、「不安」が高まっているということであり、特にキャリア不安にその源泉がある可能性はすでに指摘した。

これが、職場が嫌で上司と合わないことが「不満」で転職する不満型転職から、不安型転職へ変化していると言った現状である。

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古屋 星斗(ふるや・しょうと)
リクルートワークス研究所主任研究員
1986年岐阜県生まれ。リクルートワークス研究所主任研究員、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。2011年一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、「未来投資戦略」策定に携わる。2017年4月より現職。労働市場について分析するとともに、学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。

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(リクルートワークス研究所主任研究員 古屋 星斗)

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