1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

維新は自民候補に勝てたのに…「補選全敗」となった立憲が政権交代を実現するために改善すべきこと

プレジデントオンライン / 2023年5月2日 9時15分

安倍事務所の閉鎖に合わせ、看板を下ろす安倍昭恵さん(左から3人目)=2022年12月28日午後、山口県下関市 - 写真=時事通信フォト

4月23日に故安倍晋三元首相の選挙区・山口4区で衆院補選が行われ、後継の自民候補が次点の立憲の候補にダブルスコアで大勝した。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「敗色濃厚な選挙区にも公認候補を立てたことは評価できる。野党第1党として、『自民1強』に閉塞感を抱いている有権者に選択肢を示すことが重要だろう」という――。

■結果は「補選全敗」でも立憲の戦い方は評価できる

最近の大型選挙の直後に起きるメディアの、特に野党に関する論調の傾向として、過剰なほどの「立憲下げ、維新上げ」がある。4月23日に投開票が行われた衆参5つの補欠選挙も同様だ。公認候補を擁立した3つの選挙でいずれも自民党候補に敗れた立憲。衆院和歌山1区補選で新人候補が自民党候補を破って初当選した維新と露骨に比較され「立憲下げ」のボルテージは上がる一方だ。「泉健太代表の責任論」をあおる向きもある。

「補選全敗」は事実なのだから、それを基に一定の立憲批判が盛り上がるのは、当然と言えば当然だろう。すでにこうした意見はうんざりするほどちまたに溢れているので、改めて繰り返すことはしない。ここでは少し別のことを指摘したいと思う。

実は筆者は、統一地方選を含めた今回の選挙全体について、立憲の戦いをそこそこ高く評価している。少なくとも、大敗を喫した昨夏の参院選に比べれば、ずっとましな選挙だった。2021年秋の衆院選で公示前議席を割り込み、有権者を失望させてから1年半。立憲は思いのほか早く「下げ止まった」とみる。

■本来補選の結果だけでは全てを測れない

毎年(必要があれば)4月と10月に行われる統一補選は、その勝敗が永田町の「空気」をつくり、時には政治状況を動かしてしまう。直近の例で言えば、一昨年の2021年春の衆院2補選と参院広島再選挙がある。3つの選挙で自民党は野党系候補に全敗。衆院の任期満了が半年後に迫るなか、自民党内に危機感が高まり、当時の菅義偉首相は衆院選を待たずに退陣に追い込まれた。

とはいえ、統一補選は「どの選挙区で発生するか」によって、勝敗の印象が大きく変わる。全国一律で行われる衆院選や参院選と違い、勝因も敗因もそれぞれの地域事情で大きく異なる。だから、補選の結果だけで政党の課題を全て俯瞰するのは、本来はやや無理がある。

それを踏まえた上で、思うところを記したい。

■「立憲の敗因」を分析するメディアの矛盾

まず、現状出回っている「立憲の敗因」のおかしさを指摘したい。指摘の方向が矛盾しているのだ。

例えば参院大分補選。立憲公認の吉田忠智氏を、共産、社民両党が支持し、さらに日頃は立憲をくさしてばかりの国民民主党までもが県連レベルで支援し、事実上の「野党統一候補」として与野党一騎討ちの構図に持ち込んだが、激闘の末に惜敗した。この選挙結果を受けて、メディアは「野党共闘の効果が疑われる」などと批判した。

一方、衆院千葉5区補選では野党候補が乱立した。立憲公認の矢崎堅太郎氏は、これも大激戦の上、自民党の新人候補に惜敗した。するとメディアは、今度は「野党が一本化できなかったのは失敗だ」と酷評するのだ。

ずいぶんご都合主義な批判だと思うが、身もふたもなく言えば、要するに野党がまとまろうと、バラバラで戦おうと、どちらも僅差で敗れ、勝利にはつながらなかった、ということだ。これは立憲単独の問題であり、「野党一本化の是非」に寄りかかった敗因探しは、そもそも間違っている。

投票用紙
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■「最後の一押し」が足りずに負けるのは変わっていない

立憲のこの「負け方」には既視感がある。2021年秋の前回衆院選である。個別の小選挙区では接戦区が続出し、自民党の現職幹事長を破る「金星」を挙げるなど自民党を震え上がらせたが、結果として多くの選挙区で競り負けた結果、立憲は公示前議席を割り込んでしまった。

接戦に持ち込む力はあっても、最後の最後で詰め切って勝ちに持ち込むことができない。つまりは「あと一押し」を呼びかける「地力」が足りない。これは1年半前から変わらない、立憲の大きな課題だ。そして「地力を付ける」ことは、人間で言えば筋トレみたいなもので、短期間では効果は出ない。メディアは面白くないから書かないだけで、立憲の課題は結党当時から、別に何も変わっていないのだ。

■故安倍元首相の選挙区に立憲が候補を擁立

こう書くと話はそこで終わってしまうのだが、そんななかで筆者が強く印象に残った補選がある。立憲が最も大きく負けた山口4区だ。

亡くなった安倍晋三元首相の選挙区。もともと全国屈指の厚い保守地盤を誇り、さらに安倍氏の非業の死によって、自民党は「弔い合戦」と位置付けていた。誰もが「圧勝」を疑うことのない、事実上の無風区のはずだった。

ところが、立憲が元参院議員でジャーナリストの有田芳生氏を擁立したことで、空気が変わる。

有田氏の出馬表明は、告示まで1カ月を切った3月15日。出遅れは明らかだったが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や北朝鮮による拉致問題に取り組んできた有田氏は、出馬表明会見で「新しい政治を作るため、安倍氏の政治を検証しなければならない」と訴えた。

いくら知名度があるからといって、筆者も失礼ながら、有田氏に勝機があるとは考えていなかった。それでも、有田氏が立候補すれば、昨年の臨時国会における被害者救済法案の成立以降、永田町でも存在が薄れかけていた旧統一教会問題に再び光が当たるだろう。そのことにはきっと意味がある。

山口4区について筆者が事前に考えていたのは、そんなことだった。しかし、選挙戦最終日の有田氏の街頭演説を聴き、そんな考えの浅はかさを思い知らされた。

■保守王国で立憲は「不戦敗」を重ねてきた

「ここで闘っていく立憲民主党の仲間。それを支えてくれている皆さんたち。山口を切り開いていくための橋頭堡(ほ)、基盤、土台が(この補選で)できたと確信している。私がこの選挙区に立とうと思ったのは、それが目的だ」

改めて最後に語られた出馬の理由。12日間の選挙戦を走り抜いた後だからこその説得力があった。 

思えばこの選挙区で、いや「自民党の岩盤」「保守王国」などと呼ばれてきた多くの選挙区で、野党第1党は旧民主党から立憲に至るまで、戦うことを「捨てて」しまうことが少なくなかった。候補擁立を諦めたり、「野党共闘」の名の下に他党の候補の陰に隠れたり……。最近では「維新王国」と化した大阪でも、同様の傾向がみられる。

自らの手で「岩盤」をうがつための努力を怠ってきた、と言われても仕方がない。

■結果は自民候補がダブルスコアで勝利だったが…

しかし、公示段階でまだ安倍氏が存命だった昨年夏の参院選で、立憲は安倍氏の秘書だった秋山賢治氏を擁立し「安倍王国」に挑んだ。敗れはしたものの、秋山氏はその後、今年2月の下関市議選に初当選。こうした動きの積み重ねのなかで、今回、有田氏を迎え入れる土壌ができていたのかもしれない。

選挙戦で有田氏は、積極的に選挙区を回り、市井の人々の声に耳を傾けるとともに「山口の皆さんの生活は本当に豊かになったのか」「立憲民主党が目指す『支え合う社会』が必要だ」と訴えた。「よく選挙に出てくれた」「ありがとうございました」。陣営にはそんな声が多く届いたという。

選挙結果は、安倍氏の後継候補である自民党の新人、吉田真次氏が5万1961票で大勝。有田氏は2万5595票と、ほぼダブルスコアでの敗退だった。

■安倍元首相の存命時と比べ着実に差は縮まった

しかし、自民党の吉田陣営は、安倍氏が2021年衆院選で獲得した約8万票を目標にしていたにもかかわらず、投票率の大幅な低下も相まって、約3万票も得票を激減させた。実際の勝敗は勝敗として、自民党もさすがに、こういう結果を手放しで「大勝利」とは呼べないだろう。

有田氏は敗戦の弁で「保守王国と言われてきた山口4区において、それが溶け始めてきている、と確信を持っている」と語った。

安倍晋三氏の選挙ポスター・京都の路地にて(2014年)
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

有田氏が選挙戦で、旧統一教会問題に焦点を当てようとしたのは間違いない。だが、それ以上に伝えたかったのは「戦わなければ状況を打開できない」ということではないだろうか。

選挙は戦いだ。正しいことを気持ち良く訴えていれば、いつか有権者に振り向いてもらえるなんて考えは甘い。政権とは「戦って勝ち取るもの」であり、勝ち取った後こそが本当の勝負なのだ。

有田氏は自らの選挙戦を通じて、同党の特に若い世代に対し、体を張ってそのことを伝えようとしたのだと思う。

■立憲民主党に足りないファイティングスピリット

立憲で「戦う政治家」というと、最高顧問の菅直人元首相が思い浮かぶ。菅氏も昨夏の参院選で、党が戦意を喪失しかけていた大阪において、自ら「特命担当」を買って出て、候補擁立に成功した。結果的に大敗したが、少なくとも「不戦敗」を免れた。当時菅氏はこう語っていた。

「相手の本拠地で戦わないと、こちらは攻められっ放しになる。けんかは攻めなければ意味がない」

有田氏は71歳、菅氏は76歳。この世代のファイティングスピリットは本当に侮りがたい。そして、後に続く世代に今なお不足しているのは、こういう姿勢だと筆者は思う。

幸い、立憲の「地力」は少しずつ付いてきている。今回、5補選と同時期に行われた統一地方選において、立憲は道府県議選から市町村議選まで、軒並み議席を増やした。地域的にばらつきはあるものの、衆院小選挙区の議席数が多い首都圏で大きく伸ばしているのは、今後への好材料だ。

統一補選の結果は目立つ一方、国会の構成という意味ではさほど大きな意味を持たないが、統一地方選の結果は、党の基礎体力に直結する。その意味で、統一地方選で堅調だったことは、立憲にとって大きな意味があった。

■「敵前逃亡」を続ける野党第1党に存在意義などない

もっとも、単に地力を付けただけでは意味がない。「勝ち切る」だけの力を得なければならない。

現在、維新が「強い野党」であるかのように認識されているのは、目立つ選挙で実際に「勝った」さまを見せているからだ。少なくともこの点において、立憲は維新に後れを取っている。

前半戦の北海道知事選のように、野党が強い地域での首長選を取りこぼすようなことは、本来許されない。あそこで勝っていれば、前半戦で維新が勝った奈良県知事選だけに大きく焦点が当たることは避けられた。「維新勝ち」だけが強調されることもなかった。

こういう「印象づけ」まで考えた上での選挙戦略が不可欠なのに、立憲はこの点が決定的に甘い。

「実際に勝つ」ことと同時に大切なのは、前述した山口4区のように「勝てないと分かっていても選挙に持ち込む」ことだ。まさに有田氏のキャッチフレーズだった「黙せず戦う」ことである。相手が手強いからといって不戦敗ばかり決め込んでいては、いつまで待っても地力は付かないだろう。

朝日新聞の世論調査によれば「政権交代が繰り返される方が良い」との回答が54%を占め、増加傾向にあるという。こうした声を受け止め、形につなげることが、野党第1党たる立憲民主党の使命である。立憲が衆院千葉5区補選で、なぜ他の野党候補から頭一つ抜け出したのか、その意味を考えるべきだ。

「保守王国で勝てないから」とか「他の野党との調整が必要だから」とか適当な理由をつけて、戦うことを避け「政権の選択肢を示す」ことから逃げてしまうなら、野党第1党の存在意義などないことを肝に銘じてほしい。

----------

尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

----------

(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください