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実は「魚の干物」は健康や美容の敵である…魚を食べるなら「刺身、蒸す、煮る」の順に選ぶべき理由

プレジデントオンライン / 2023年5月4日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

■特に「天日干し」は避けたほうがいい

魚は身体にいいからと、冷凍庫に干物を入れておく。忙しい時など、それを解凍して焼いて食べる。

健康にも良さそうな方法ではあるが、実は「干物」は健康や美容の敵であることをご存知だろうか。

管理栄養士で老舗料亭「菊乃井」常務取締役の堀知佐子氏がこう説明する。

管理栄養士で老舗料亭「菊乃井」常務取締役の堀知佐子氏
管理栄養士で老舗料亭「菊乃井」常務取締役の堀知佐子氏

「特に『天日干し』は避けたほうがいいでしょう。室内で空気を循環させて水分蒸発を促す『乾燥法』ならまだしも、天日干しでは魚の脂肪酸が紫外線によって酸化されてしまいます。その上、冷凍で保管では冷凍焼け(冷凍庫内で食材が乾燥・酸化すること)も起こすでしょう」

酸化とは「体がサビること」といわれる。例えば食べすぎ飲みすぎ、強いストレス、加齢による代謝異常などで活性酸素が大量に発生し、それが蓄積されると正常な細胞や遺伝子を傷つける。体内には活性酸素の害を防御するシステムがあるものの、あまりにも活性酸素が発生すると処理が追いつかなかったり、また年齢とともに活性酸素を処理する働きが低下していく。だから「抗酸化作用のある野菜や果物を食べましょう」とよくいわれるのだが、干物のような酸化したものを食べることはその真逆の行為だ。

■製法や保存方法によって酸化の度合いは異なる

健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏は「天日乾燥は温度、酸素、紫外線によって酸化が進み、加工後にも酸化が進む」と指摘する。

「製法や保存方法によって酸化の度合いは異なりますが、一例として図Aは干物にした後の酸化具合の変化です。昔ながらの灰干製法(魚を特殊なフィルムに包み、火山灰の中で魚の水分を取る干物の製法)で干物を作れば脂肪酸の酸化が進みにくいといわれるものの、それでも本来、健康や美容に良い作用があるはずのオメガ3の酸化を完全に防ぐことができず、体に悪影響をおよぼします」

「乾燥法によるあじ開き干しの成分変化の相違」千葉本試研報、NO. 56,85-89,(2001)より
「乾燥法によるあじ開き干しの成分変化の相違」千葉本試研報、NO. 56,85-89,(2001)より

オメガ3は、魚の「脂肪」に多く含まれる。さまざまな種類があるが、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(イコサペンタエン酸)については世界中で膨大な数の研究報告があり、老化予防の効果が特に強いとされる。

大まかにDHAは脳を活性化し、眼や髪の老化を防ぎ、EPAは血液を固まりにくくする作用があるため、血栓を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を予防する。

■オメガ3が細胞を傷つける過酸化脂質に変わる

東邦大学名誉教授で平成横浜病院の東丸貴信医師もこう補足する。

「高血圧や加齢に伴って心臓の筋肉組織は硬くなっていきますが、心筋細胞や筋肉組織の働きをオメガ3が再び活性化させる作用があります。何らかの原因で血管に炎症が起きた場合も鎮める働きがあります。特に青魚は悪玉コレステロールの値を下げて、動脈硬化を予防するEPAを多く含むので積極的に取りたいですね」

東邦大学名誉教授で平成横浜病院の東丸貴信医師
東邦大学名誉教授で平成横浜病院の東丸貴信医師

オメガ3は体内では作れず、食品から摂る必要があり、エゴマ油、アマニ油でも摂取できるが、魚で摂るのが圧倒的に効率がいい。例えばDHAが豊富な魚はクロマグロ、サンマ、ブリ、太刀魚、ニジマス、銀鮭、ウナギなどで、EPAを多く含むものはサンマ、クロマグロ、カタクチイワシ、太刀魚、ブリ、ニシンなどが挙げられる。

しかし、欠点としてオメガ3は非常に酸化しやすい。だから干物に含まれるオメガ3は、その作用が失われているといっていい。

「さらには体に良かったはずのオメガ3(DHAやEPA)が細胞を傷つける過酸化脂質に変わってしまうのです。今年3月、米国科学雑誌Current Biologyに過酸化脂質の蓄積が細胞死を起こす新たな仕組みが掲載されましたが、酸化した食品を食べ、それが蓄積されると、腸管組織を傷つけたり、動脈硬化などのリスクも高めてしまうことがわかりました。アジ、イワシ、ししゃもの酸化度を実態調査した研究では、イワシの酸化が著しく高いという結果。イワシに一価不飽和脂肪酸が多いためと考えられます」(望月氏)

健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏
健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏

■ただしクサヤは干物にしたほうが良い

一価不飽和脂肪酸(オメガ9)とは、オリーブオイルにも多く含まれる良質の油で、血液中の悪玉コレステロールを下げる働きがあるといわれている。しかし実際は、同列に研究されていないだけで、イワシ以上に、前述したDHAやEPAが豊富なクロマグロやサンマなどのほうが酸化されている危険が高い。オメガ9よりオメガ3のほうが酸化しやすいからだ。ただし一つだけ例外がある。

「伊豆七島で親しまれている独特の干物、クサヤは干物にしたほうが良いんです。以前の食品分析では、天日で干すため過酸化脂質含有量の多い食品として知られていました。ですがクサヤ摂取者に対して意外と動脈硬化性疾患の報告が少ないことから、2001年にクサヤ・パラドックスとして調査が行われたのです。するとクサヤの生と焼いた状態では、過酸化脂質の量が大幅に違うことがわかりました」(望月氏)

クサヤは、生の状態では過酸化脂質は356μmolであったが、焼くことで49・8μmolに下がることが調査でわかっている。

「クサヤ・パラドックスの研究」〔日本未病システム学会雑誌 7(1)2001.〕より
「クサヤ・パラドックスの研究」〔日本未病システム学会雑誌 7(1)2001.〕より

「クサヤ菌に24時間漬けることで発酵が生じるので、その影響と考えられています。通常の干物は製造過程で過酸化脂質を生じさせ、動脈硬化や老化を促進するとされています」(望月氏)

■缶詰であれば、EPAやDHAが酸化されていない

酸化に加えてもう一つ、干物のデメリットは塩分の多さだ。干す前に魚を塩水に漬けることが多いため、どうしても過剰な塩分摂取になってしまう。例えばマアジ(生)なら100グラムあたりの食塩相当量が0・3グラムだが、開いて干すと2グラムにも。

「干物の良さは、保存が利くこと。ビタミンDが多いことの2点のみ。けれども保存食であれば、サバ、イワシ、ツナなどの缶詰のほうがいいと思います。もちろんこちらも塩分は高いのですが、EPAやDHA(オメガ3)が酸化されていませんし、缶汁ごと野菜にかければ汁に流れ出たオメガ3も取ることができます。そういった食べ方なら、野菜には塩分排出を促すカリウムが豊富ですので、デメリットを消すこともできます」(望月氏)

同じようにどうしても干物が食べたいなら、レモン汁をかけるなど抗酸化成分を合わせて摂取すれば多少は緩和されるかもしれない。また金目鯛のような白身魚は脂質が少なく、オメガ3の効能がほとんどないかわりに酸化しにくいので、白身魚の干物を選ぶのもいいだろう。

■栄養素を失わない調理法としてベストは刺身

調理法として、酸化と塩分過多の点から干物はお勧めできないが、フライもまた「糖化」という観点からNG。糖化とは、食品に含まれるタンパク質と糖質と結びついて劣化する反応のことで、その時、AGEという悪玉物質が発生する。

AGEは高温加熱による調理過程で生まれるのだが、多量に摂取すると、その一部が体内に蓄積し、悪影響をおよぼす。例えば肌が黄色っぽくくすんでくるのは、AGEが茶褐色の物質のため。肌の奥にAGEがたまれば、コラーゲン繊維の機能が低下し、硬い皮膚になったりシワができやすくなったりする。

「アジを例にすると、アジフライであれば衣がついているから酸化はしにくいですが、糖化はします。美容健康の観点から、栄養素を失わない調理法としてベストは刺身。二番目は蒸す(ホイル焼き)。次に煮る(味噌煮など)、四つ目が焼く、最後に揚げるの順です」(堀氏)

刺身の盛り合わせ
写真=iStock.com/ahirao_photo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ahirao_photo

健康には質のいい油をフレッシュな状態で取ることが重要で、生の魚が一番。油というと何となく体に悪そうに感じるが、油は老化を防ぐために最も有効といってもいい。細胞膜やさまざまなホルモンの材料となり、体の内側はもちろん、皮膚や髪の毛のツヤ、ハリを保つために欠かせない。

「年齢を重ねるほど体から油が減り、老人性湿疹やシミなどにもつながりやすくなります。油不足は肌の新陳代謝の遅れやバリア機能の低下を招きます」(望月氏)

特にそれぞれの魚の旬の時期は脂肪がのる、つまりオメガ3が豊富に含まれる。今の時期であれば5月初旬に水揚げされる初ガツオがいいだろう。秋に南下する戻りガツオと比べるとオメガ3が少ないが、そのぶんさっぱりしておいしい。今晩のメニューにぜひ。

■▼この連載について

筆者は、2017年~18年、『週刊文春』で「老けない最強食」という特集シリーズを取材執筆した。5年前のことだが、当時は「老ける」「老けない」の視点で食べものを取り上げる記事がほとんどなかった。食の記事といえば、「ある食べものが○○に効く」というものが多く、また複数の専門家が解説する記事も珍しかった。

そういう中で同シリーズは50人近くの専門家の協力を得て、老けないための食事を多角的に、そして科学的に比較検討した。肉、魚、野菜など食品群ごとに記したため、「わかりやすい」などと読者から数百通ものお便りをいただき、また私自身も食を選ぶ目が培われた。

この連載では、当時の取材で得た知識をもとに、最新の食品栄養成分や研究の状況を記事に盛り込んでいる。いずれも、「その食べものが本当に身体にいいのか?」という視点でまとめている。ぜひ参考にしてほしい。(第2回に続く)

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『実録・家で死ぬ 在宅医療の理想と現実』(中公新書ラクレ)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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