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「発電シェア8割」という圧倒的な影響力を悪用…市場価格をつり上げる大手電力の"姑息な手口"

プレジデントオンライン / 2023年6月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Galeanu Mihai

大手電力会社による不祥事が相次いでいる。京都大学の竹内敬二特任教授は「電力市場の自由化に抵抗し、『地域独占時代』に押し戻そうとしている表れだ。特に悪質なのは、日本の発電の8割を担う強い影響力を利用した卸し電力市場の価格操作だろう」という――。

■「カルテルが電気代を上げているのでは?」

電力7社(北海道電力、東北、東京、北陸、中国、四国、沖縄)が6月から電気料金を上げた。各社で15~39%と大幅だ。経産省は値上げ幅を圧縮したが、それでも大幅なので消費者の反発は大きく、審議では消費者庁から「カルテルなどの不祥事が値上げを押し上げているのでは」として調べるよう注文がついた。電力業界は大いにプライドを傷つけられたことだろう。

この「カルテルなどの不祥事」とは次のようなものだ。

①カルテル

3月30日、公正取引委員会がその処分を公表した。2018年から関西電力が中部電力、中国電力、九州電力などと協議し、各社はそれぞれ旧来のエリア内での営業にほぼとどめるように合意していた。いわゆるカルテルだ。電力価格のつり上げや新規参入会社である「新電力」を排除するような操作も行っていた。後で詳しく述べる。(カルテルに関わったのは関西電力、中部、中国、九州)

■ライバル会社の顧客情報を「盗み見」

②不正閲覧

これもやはり関西電力から経産省への自主的な報告があって明らかになった。大手電力会社には「発電部門」「送配電(送電線)部門」「小売り部門」がそろっている。電力自由化が進む中で2020年、「送配電部門」が法的に分離された(例えば関電では「関西電力送配電」という子会社になった)。これを「発送電分離」と呼ぶ。

一方、16年以降「新電力」と呼ばれる小売会社がたくさんできた。この新電力と「大手電力の小売り部門」はライバル関係にあるが、大手の小売り部門の社員が、自社の送配電部門(例えば関電送配電)が仕事で知り得た新電力の顧客情報を見ていたのである。公平な競争のため情報遮断が決められているので「盗み見」だ。

■発送電分離は骨抜きにされていた

漏洩した情報には「どこの会社に電気をいくらで売っているか」といった内容もある。「あなたの会社は新電力から電気を買っているけど、わが社と契約したら安くしますよ」のように使われると自由化も公平な競争もあったものではない。

不正閲覧は自由化のかなめである「発送電分離」が骨抜きにされていることを示した(不正閲覧に関わったのは関西電力、東北電力、四国電力、中部電力、中国電力、九州電力、沖縄電力)。

情報漏洩に関して関電が顧客に出したわび状
筆者提供
情報漏洩に関して関電が顧客に出したわび状 - 筆者提供

■原発立地と電力会社の大スキャンダル

③関電の高額金品受領

不祥事といえばこの衝撃的な事件を忘れるわけにはいかない。関西電力の役員らが、原発が立地している福井県高浜町の元助役(故人)や元助役の関連会社から超多額のお金や品物をもらっていた事件である。分かっているだけでも1987年以降の約30年間にわたって関電関係の約80人が総額4億円近い金品を受け取っていた。額の大きさ、期間の長さからみても他に類を見ない事件だ。

この事件は2018年、原発に携わった会社への国税当局の強制調査が入ったことから発覚。この会社から元助役に3億円が流れ、その一部が関電役員に渡っていたことが分かった。ここからが不思議な処理だが、関電の役員はもらった金品のうち「手元に残っていたもの」を元助役側に返却し、所得の一部について修正申告し、所得税を納めた。

この一連のことは当時外部に知られず、19年9月の報道で世に知られた。この大スキャンダルが暴露された後、関電の役員らが報酬を減らされたが、後で密かに補塡(ほてん)されるというさらに信じられないことも起きた。

朝日新聞は、不正閲覧問題に関係した電力5社の再発防止策を報じた5月13日の記事で、「関西電力は不祥事が発覚して再出発を誓うものの、すぐにまた別の不正が見つかることを繰り返している」と断じている。

■過去最大の課徴金、「自首」した関電はゼロ

日本は20年以上かけて「電力市場の自由化」を進めてきた。しかし今回、公正取引委員会が処分したカルテル行為を見ると、大手電力はすでに始まった自由化制度に従おうとせず、裏では「地域独占時代」に押し戻そうとしている。

また強い影響力を利用して、新電力に関する情報の「不正閲覧」や、卸売り電力価格の「操作」といった信じられない行為も明らかになった。日本の大手電力は一枚岩になって動くことで大きな政治力をもってきたが、その行き着いた末がカルテルだったといえる。

ここでは、このカルテルについて詳しく紹介したい。

公正取引委員会が3月30日、「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(ここでは「公取命令」と呼ぶ)という文書を公表して、カルテルの内容、課徴金の額を電事連や電取委に報告した。関西電力が自主報告した内容をもとに公取がさらに調べたものだ。

公正取引委員会の排除措置命令文書
公正取引委員会の排除措置命令文書

カルテルは関電が中心だったようだが、関電は「自首」したことでリーニエンシー(leniency)という課徴金減免制度が適用され、課徴金はゼロになった。カルテルの課徴金は、中国電力が707億円、中部電力が275億円、九州電力が27億円の計約1010億円。課徴金としては過去最高額。それほどの不祥事と認識された。

これに対し、中部電力と中国電力は課徴金納付命令の取り消しを求める訴訟を提起する方針で、九州電力も検討中だ。

■自社エリアで独占的営業、価格をつり上げ

公取報告では、例えば関西電力と中部電力の間では次のような合意があったとされている。

・「互いに相手方の供給区域において相手方が小売り供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限する」
・「相手方の供給区域において、自社は大口顧客に対して獲得が見込まれない見積もりを提示し、または見積もりを辞退する」
・「自社の供給区域に所在する大口顧客に対して電気料金の水準を維持または上昇させる」

■公取委が問題視した「情報交換会」

この形の合意は、関電と中国電力の間だけでなく、「関電と中部電力」「関電と九州電力」との間でもなされていた。官公庁などを対象にするなど内容は少し異なる。これらの合意が守られると「お互い他社のエリアの大口顧客や官公庁との契約を制限し、自社エリア内でほぼ独占的に営業する。そしてその電力料金は下げないようにする」となる。営業区域・顧客と利益をお互いに守る合意だ。典型的なカルテルである。公取は「合意破棄」などの排除命令を出した。

話し合う3人のビジネスマンのシルエット
写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

公取命令で注目すべきは、「電気事業連合会に対する申入れ」と「電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供」という項目だ。電事連や電取委に伝えながら「大手電力はこんなことをやっていた」と不正の内容を社会にも広く知らせている。書き下して書くと次のような内容になる。

まず大手電力はカルテル・独占禁止法違反につながるような情報交換を日常的に行っており、とくに電事連がその土壌をつくっている。「電事連の種々の会合や、電事連に出向したときに構築した人脈のもとで行われている」。公取は電事連に対し、カルテルにつながるような情報交換会をなくすよう求めている。

自由化、競争の時代になった今でも大手電力同士の結びつきは強く「区域外の営業活動を行う際に、その区域の大手電力に『仁義切り』などと称して情報交換を行うことが慣例化していた」と指摘している。前もってあいさつ、情報交換をすることだが、それにしても「仁義を切る」とはどこの世界の慣習なのか。

■市場への電力供給を出し渋る新電力いじめ

公取が指摘する中で最も悪質なのは、卸し電力市場の「価格操作」だろう。

大手電力は日本の発電の8割を担う圧倒的な影響力をもつ。その力を利用して、「市場への電力供給を出し渋って卸し市場を枯渇させる」「そうやって価格つり上げなど価格操作を行う」「自社の販売子会社に電力を卸す価格を、新電力に卸すよりも安くしていた」などの行為が書かれている。さらに新電力の契約情報を盗み見する……。これらは明らかな不正であり、新電力いじめだ。自由競争も何もあったものではない。

公取報告を見ると大手電力がやりたいことが分かる。①地域独占時代のように自社エリアでの独占的営業をしたい、②その価格の低下を抑えたい、③新電力を抑え込みたい。

■腰が引けていた公取委がついに動いた

今回、公取はいい仕事をしたといえる。3月30日の公取命令において、電事連に対して「カルテルにつながるような各種会合」をやめるように求めた。過去、電力自由化にことあるごとに抵抗する電力業界に対し、公取は腰が引けていた。今回は強気が見える。これに電事連はどう答えるのかが注目だ。

また、公取は監視機関である「電力・ガス取引監視等委員会」に大手電力の不正行為を報告した。電取委はこれまで、電力市場のおかしな価格変動について調査を求められていたが、大きな不正を突き止められなかった。今後は不正を監視できるだけの調査を行う、調査能力を上げることが求められる。

■経産省と電力会社、二人三脚の限界

今後もっとも注目されるのは経済産業省がどう動くかだ。二人三脚で自由化を進めてきた電力大手があからさまに自由化を妨害したことで、経産省はメンツをつぶされた。

経済産業省
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

経産省は電力業界に「激怒した」と伝えられるが、激怒の後はどうするのか。電力大手にきちんとした処分を与え、途上である電力自由化を前進させることができるのか。

日本の大手電力は巨大な会社だが、さらに各社が一枚岩で行動し、やりたいことをほぼやってきた。しかし、今の世界の潮流は、電事連が消極的だった電力市場の自由化を進めることと、再エネを増やすことだ。

もはや時代遅れとなった電力会社の「護送船団」は解体すべきだが、彼らは必死に抵抗するだろう。この局面で、経産省が今回の公取のような「いい仕事」をできるかどうかが、日本のエネルギー問題の鍵を握っていると言えよう。

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竹内 敬二(たけうち・けいじ)
京都大学特任教授
1952年生まれ。エネルギー戦略研究所シニアフェロー。京都大学工学部修士課程修了。朝日新聞で科学部記者、ロンドン特派員、論説委員、編集委員を務め、環境、原子力、自然エネルギーなどを担当。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故の疎開者の生活、福島原発事故を取材してきた。著書に『地球温暖化の政治学』『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(いずれも朝日選書)がある。

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(京都大学特任教授 竹内 敬二)

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