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妻の親戚からの「金くれ電話」が止まらない…フィリピンパブ嬢と結婚した日本人夫が陥った"送金地獄"

プレジデントオンライン / 2023年6月19日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

日本の飲食店で働くフィリピン人の生活はどのようなものか。フィリピンパブで働く女性従業員と結婚した中島弘象さんは「彼女らは家族・親戚を代表して日本に出稼ぎに来ている。そのため、稼いだお金のほとんどはフィリピンへの送金に消えていく」という――。

※本稿は、中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■月10万円以上の「エンドレス送金」

ミカとの結婚生活の中で、僕にとっての一番の問題は、フィリピンへの送金にまつわる問題だ。

ミカが日本に来た理由は、フィリピンの家族を経済的に支援するため。出会った時は、ミカは月6万円しか給料がなかったにもかかわらず、毎月その半分の3万円を送金していた。マネージャーとの契約を終えてフリーとなり、毎月何十万と稼げるようになると、送金額は増えていき、月に10万円以上送金するようになった。

結婚すれば少しは送金について考えてくれるのでは、と淡い期待を抱いたこともあったが、むしろ金額は増えていった。

「いつまでフィリピンに送金するの?」
「私が仕事してる間はお金送るよ。フィリピンの家族助けたいもん」

結婚したばかりの頃は、僕も定職に就いておらず、ミカの姉の家に居候し、ミカの収入に頼って生活していた。だから送金に対しても特に不満を言うことはできなかった。

だが、フィリピンの家族の生活費、病気をしたら医療費、学校が始まる時期になると学費に加え、急な出費もすべて日本から送らなければならない。この先いつまで送金が続くか不安になる。

■フィリピンは出稼ぎを推奨している

フィリピンは国民の1割が出稼ぎ労働者として海外に出ている、出稼ぎ大国だ。フィリピンの国際空港には、海外出稼ぎ労働者専用口がある。その数の多さが窺い知れる。また、こうした専用口を作る以外にも、海外雇用庁や海外労働者福祉局があり、国として海外出稼ぎ労働者に対して、様々な支援を行っている。いわば国をあげて、海外出稼ぎを推奨しているのだ。

海外からの送金は、国のGDPの実に1割程度に当たる。ショッピングモールには、送金会社が何社も入っているし、街中にも外貨両替所が至る所にある。

こうした海外からの送金で生活が成り立っているフィリピンの家族は多い。

■病院代、車のローン…「無心」の理由はさまざま

頭では国同士の経済格差、フィリピンの海外出稼ぎの仕組みや、海外送金によりフィリピンという国の経済や家族が支えられているということは理解できる。日本に出稼ぎに来たミカと結婚するということは、自分もこうした仕組みの中に組み込まれるということも理解していたつもりだった。

それでも、実際に毎月の定期的な送金や、臨時送金として大きな金額をフィリピンに送るのを間近で見ると、頭ではなく感情の部分で「大変だな」と思ってしまう。

日本に来るために、マネージャーとの間で結んだ契約は、奴隷契約といえど、切れれば自由の身となれる。だが、フィリピンの家族への送金は終わらない。いつまで毎月大金を送り続けなければならないのかわからない。

ミカがフィリピンパブ勤めを終え、妊娠、出産し、姉の家を出た後も、毎月、少額でも生活の足しになればと送金は続いていた。僕だけの稼ぎの中から、家賃、光熱費、食費などを払い、残った僅かな金の中からフィリピンへ送金する。

正直、日本での生活は楽ではない。それでもフィリピンからは、「お金を送ってくれ」という連絡が頻繁に来る。生活費としての定期送金以外にも、病院代はもちろん、ビジネスで急に資金が必要になった、車のローンを払ってくれなど、そういった金の無心にも対応しなければならない。ミカが働いていない今、その金を出すのは僕だ。

「明日お母さんの誕生日だから、1万円送るからね。お金ちょうだいよ」と、仕事から帰ってきてまず聞くのが、フィリピンへの送金話という時は、さすがにガクッと力が抜ける。

■妻の携帯は親戚からの着信履歴の山であふれる

フィリピンの親戚からは、電話やメッセンジャーで「食べるものがないから食費を送ってくれ」「病気だから薬代をくれ」と何度も連絡が来る。家族には送金をしろと言うミカだが、親戚からの要望に関しては、「全部無視して。お金ちょうだいしか言わないから」と言う。

圧倒されるあまりにも多くの電話を呼び出し
写真=iStock.com/SIphotography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SIphotography

ミカの携帯には、未読メッセージと、出なかった着信履歴の山が残されている。ミカに連絡がつかない親戚たちが、夫の僕に連絡をしてくる。僕もやりとりするうちに、すぐに「お金を送ってほしい」というお願いに変わるのに疲れ果てて、返信をしなくなった。

「日本はお金持ちの国だと思ってるからね」とミカは言う。

■フィリピン人は「日本は金持ちの国」と思っている

今は確かに、フィリピンに比べれば日本の方が経済的に豊かだ。フィリピンでは、僕が日本人と分かると「私も日本に行きたい」といってくる人は多いし、実際に日本で働くことを目指している友人もいる。

だが実際は、いくらでも送金をできるほど豊かな生活ではない。サラリーマンとして貰える給料は額面上の金額から厚生年金、健康保険、住民税など、かなりの額が引かれるから、手取りにすると驚くほど少なくなる。そこから、生活費を捻出するのだから、正直、余裕はない。

90年代に興行ビザで来日し、その後日本でシングルマザーとして3人の子供たちを育てたあるフィリピン女性はこういう。

「日本はお金持ちの国だと思った。昔はいっぱい稼いだこともあった。でも自分で生活してみると大変。毎月、家賃、ガス、水道、保険、子供の学費。そんなん払ったらお金ない。日本で何のために仕事をするか。それはお金持ちになるためじゃない。支払いをするため。でもフィリピンにいる家族はそのことをわからない。だからずっとお金ちょうだいばかり言う。こっちの生活のことなんてわからないし、考えない」

日本に対して、金持ちの国というイメージしか持たないフィリピンの家族や親戚たち。ミカも、遠く離れた家族を心配させたくないから、大変な部分は見せようとしない。フィリピンに帰る時は大量の土産を持参し、家族に小遣いをあげ、日本で「成功」しているようにみせる。だから家族からの急な金の無心にも、何としてでも応えようとする。

■「いつまでたってもお金が貯まらない!」

当然、我が家の夫婦喧嘩の原因の多くは、フィリピンへの送金についてだ。

僅かばかりの貯金ができても、フィリピンの家族からの要請で送らなければいけない時もある。

「いい加減、断ってくれよ。日本での生活もあるんだよ」
「私も頑張ってるじゃん。ずっと自分の欲しいもの買ってないよ。全部ご飯と子供のため、私の分は何もいらない。だから少しはフィリピンに送ってあげてよ」
「こんなんじゃいつまでたってもお金なんて貯まらない! 子供が大きくなってからもっとお金かかる!」
「わかってる! 今だけだから! フィリピンにお金送るのも!」
「今すぐ止めて!」

と、大喧嘩になる。

■いくらフィリピンに送金するかは家庭ごとに異なる

フィリピンへの送金は、出稼ぎで来日したフィリピン女性と結婚すると、必ず直面する大きな問題だ。

「フィリピンの家族を支えられる範囲で送る」という人もいれば、「フィリピンには送らせない」や「フィリピンに送る分は奥さんが稼いだ中から送る」など、いろいろな意見を聞く。どれが正しくてどれが間違っていると言いづらいのは、その家庭のことだからだ。

我が家の場合、フィリピンへの送金をどこまで許すか、明確な数字やルールを決めることもできず、いまだに夫婦で意見が分かれている。結局、ミカに金を渡してしまったものの、僕が腹を立てて1人で部屋に籠ったり、しばらく互いに口を利かなくなることもある。

それでも、送金に一番悩んでいるのはミカだということも、近くで見ていてわかる。普段から自分の欲しいものは我慢し、服もカバンも何年も同じものを使っている。少しでも安い、半額になっている商品を買ったり、毎月の食費を計算しながら買い物をしている。ミカは普段は家計を気遣いながら、慎ましい生活をしている。

■日本で働くフィリピン人の苦悩

「頭痛いわ、ほんとに。お金ばかり」

相変わらずのフィリピンからの送金の要請に、ミカはしばしば頭を抱える。

「食べ物がなくなった」「電気代が払えない」「歯が痛いから歯医者に行きたい」、困ったことがあれば、全てミカに連絡が来る。ミカも何とかして送金をするが、どうしても無理な場合は「今はお金ないから送れないよ」と言うと、

「じゃあ、誰が家族の面倒を見るの!? 家族大事じゃないの!? 見捨てるの!?」

と、責められる。

ミカはため息をつき「何とかするから待ってて」とだけ言う。

中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』(新潮新書)
中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』(新潮新書)

フィリピンパブで働いていた時、収入が少ない月は客からプレゼントしてもらった金のブレスレットを質屋に入れ、送金したこともあった。

そうした苦労を間近で見てきたからこそ、「ひどいな、今までミカが頑張ってお金送ってたのに。何にも苦労知らないんだな」と声をかけた。

「昔の方が楽しかったな。お金なかったけどみんな仲良かった。今は皆お金が欲しいだけ。なんか寂しい」

少なくとも昔は、皆がミカに金の無心をすることはなかっただろう。だが今は「久しぶり、元気にしてる?」の次の言葉は「お金を送ってほしい」だ。

「家族が大事じゃないの?」と言うフィリピンの家族は、日本にいるミカを大事にしているといえるのだろうか。

ミカは、「送金をするな」という僕からのプレッシャーと、「送金しろ」というフィリピン家族からのプレッシャーの狭間で、悩み続けている。

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中島 弘象(なかじま・こうしょう)
文筆家
1989(平成元)年、愛知県春日井市生まれ。中部大学大学院修了(国際関係学専攻)。会社員として勤務するかたわら、名古屋市のフィリピンパブを中心に取材・執筆等を行う。前著『フィリピンパブ嬢の社会学』は映画化が決定した。

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(文筆家 中島 弘象)

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