月給は150万円、経費でクルーザー、出社は月イチ…実家に寄生するしか能がなかった長男の意外な末路
プレジデントオンライン / 2023年6月17日 15時15分
※本稿では、プライバシー保護の観点から、すべての人物を仮名にしています。
■ワル・馬鹿・クズの3兄弟のとんでもエピソード
今から紹介するのは、この本に登場する人物の中でも、おそらく最凶のふがいないきょうだいだ。しかも3人の兄が揃いも揃って金に執着しているという。金額が金額だけに、スケールの違う「ふがいなさ」である。
「兄たちのせいで、とにかくひどい目に遭ってきましたから。端的に表すなら、長兄はワル・次兄は馬鹿・三兄はクズ。兄たちの数十年に及ぶ、ふがいないにもほどがあるエピソードがお役に立つなら幸いです」
話してくれたのは福永美華さん(59歳)。父は専門性の高い特殊な建築を手がける会社を一代で築き、全国の都市部に支社も展開。ところが、父の死後、兄たちに任せておいたら経営が破綻寸前に。
借金、横領、窃盗未遂に使い込み……兄たちのエピソードは枚挙にいとまがない。警視庁で言えば、捜査二課・三課が担当する案件ばかりだ。
■「お前は兄貴に絶対に1円も貸すな!」
「父は戦争に行った世代です。私が20代の頃には、心臓や十二指腸の病気で入退院を繰り返していましたから、自分はあまり長く生きられないと思っていたようです。私には、『お前は兄貴となんか仲よくしなくていい! 絶対に1円も貸すな!』って。普通、余命を悟った親は、きょうだい仲よくとか言うもんでしょ? 仲よくするな・金貸すなと病床で叫ぶ親も珍しいと思います。父はリアリストで建前を言わない人でしたからね」
父にも見限られていた兄たち。いったいどんな人生を歩んできたのか。
■年の離れた妹を奴隷のように扱う
「実は、兄3人と私は異母きょうだいです。父が最初に結婚した女性はかなり奔放な人で、一度田舎に嫁いだものの、田舎暮らしが合わずに遊び歩いて、厄介払いされたそうです。その後、父と再婚し、3人の男子を産んだ。それが兄たちです。
ただ、長兄だけ顔の系統が明らかに違うんですよね。ジュード・ロウに似ているというか、フランス人みたいな顔立ちで。その後、兄たちの母は4人目を妊娠したけれど、腕の悪い医者に中絶を頼んだらしく、体調を崩して腸閉塞で亡くなった。そして父が私の母と再婚して、私が生まれました。まあ、母の言うことなのでかなり適当かもしれませんが、私はそう聞かされて育ちました」
長兄・謙(けん)さんは美華さんの15歳上、次兄・秀(しゅう)さんは12歳上、三兄・充(みつる)さんは10歳上。かなり年の離れた兄たちではある。昭和30年代、父が世田谷に事務所兼自宅の一戸建てを借りて、祖母や叔父とともに住んでいたが、仕事が軌道に乗り、父は自宅を渋谷に移した。
祖母と長兄は世田谷の家に残ったため、美華さんは長兄と暮らした記憶がほとんどない。「謙はかなり早い段階で反抗期に突入し、母に対しても『母親とは認めねえよ』みたいな状態だったそうです。父も忙しくてかまってられないし、祖母と住むほうが面倒臭くないと思ったんでしょうね。初めからそんな調子で、謙と母は今でも折り合いが悪いです。お互いに顔も見たくないという感じ」
秀さんと充さんは渋谷の家で一緒に暮らしていたが、年が離れた幼い妹をかわいがるどころか、意地悪をしたり、奴隷のように扱ったという。
■3兄弟に跡継ぎは任せられない
「母も悪いんです。息子たちから嫌われたくないから叱らないし、甘やかす。中学生の兄と幼稚園児の私が口論になると、いつも私だけ謝らせたんですよ。『女の子だから謝りなさい、女の子だから手伝いなさい』って。それがすっごく嫌で。男に勝ちたいっていう気持ちが強くなりましたね」
父は早くから美華さんだけを連れ回した。毎週日曜日は場外馬券場へ行き、レースの結果を喫茶店で観る。実際、美華さんにも馬券を買わせて、馬の選び方、競馬新聞の読み方、人気の馬はリターンが悪いなど、競馬のイロハを叩き込んだという。
父が勝つと伊勢丹へ行き、外商担当を呼んで好きなものを買ってくれた。負けたら三越の地下で不機嫌な父と気まずい時間を過ごさなければいけない。お父さんはこの段階で、跡継ぎは美華さんにすることを想定して、外の世界を見せたのではないか。
「小学生のとき『デパートの外商と銀行と取り引きしてもらえるうちが花だぞ、そういう立ち位置を保て』って言われました。ほしいものを買ってもらえるだけではなく、売り場を見て『ここは暇だな、3人多いよ、人が。俺だったら3人削る』とか、『今はこういう商品が売れている』とか教えてくれましたね。よく『お前が男だったらよかったのにな』とも言われました」
今考えても、父は慧眼だったという美華さん。それは兄たちの、連綿と続く不義理や不祥事の数々を経験したからだ。
■父が激怒した無免許トラック事件
ひとりずつ見ていこう。まずは長兄の謙さん。
「ちょうど学生運動が盛んな頃で、謙はエセインテリ美大生を気取っていました。普段は祖母の家にいたけど、よくうちにも来てましたね。あるとき、ヘルメットとゲバ棒が部屋から出てきて、母は驚いていましたけど、学生運動やるほど根性はないんですよ。ファッション感覚でやっただけ。
ヒッピーが流行ればヒッピーになるし、付き合っている人が絵描きだと油絵の道具を急に買い揃えたりして。『謙ちゃん、新宿西口でフーテンやってたわよ』なんて言われたこともありましたね。そしてすぐ飽きる」
父が長兄を信用しなくなったのは、おそらく無免許トラック事件から。父の会社の2トントラックを勝手に持ち出して無免許で運転し、ぶつけて電柱をなぎ倒したという。
「警察に呼び出されて、兄は足に包帯を巻いて、ちょっと引きずって帰ってきたんですよね。父は『馬鹿野郎ッ! お前が死ねばよかったんだ!』と怒鳴ってました。保険も出ないし、おそらく数百万かけて弁償したんだと思います」
謙さんは謙さんで、とにかく父に反発していた。幼少期に実の母を亡くした経験が尾を引いていたのかもしれない。すぐに再婚して、仕事中心の生活を送る父に対して、「母を殺したのは父だ」とひねくれて心を閉じてしまった、と美華さんは分析する。
「父に対して、『あんなふうになりたくない』とか『経費で遊んでいる』『人を使って搾取している!』とか言ってましたね。あの世代は、変に左寄りになったりするから面倒臭い。3人の中では一番インテリなんですけどね、一応。中身がないくせに理屈っぽいことをこねくり回して、論破されるとブチ切れる。
そのわりに、自分のことを善人だと思っていて、『俺ほど金にきれいな人間、いないよ』と平気で言えちゃう図太さ。まあ、顔が男前で優しい感じがするから、一瞬人を惹きつけるソフトさがあることは確かですけど。結局、25歳過ぎてもろくな仕事につけず、父の会社に入るわけです。『親の会社なんか入んねえよ』と啖呵切っていたくせに」
■勝手に実家を担保に入れて8000万円ゲット
ちょうど父が大病を患い始めた頃で、息子の行く末を案じたのか、お飾りでいいからということで入社させた。父の右腕たちも社長の子息として迎え入れてくれることに。
謙さんが結婚したとき、父はお祝いとして、郊外の高級デザイナーズマンションの多額の頭金を払ってあげたそう。残りの少額のローンは自分たちで払うように、と。
息子がひとり生まれたが、4歳のときに離婚。原因は謙さんの浮気だった(しかも妻の親友に手を出していた)。女癖の悪さはきょうだいの中でもダントツ。さらに強欲でもあった。
「父は遺言で自宅の名義から謙だけを外しました。『あいつに土地を渡すな。あいつを入れると一番面倒臭い』。家は母と私と、次兄・三兄の名義です。その代わり、謙は一番株をもらってるんですよね。
ところが、その後で、自分の名義が入っていないにもかかわらず、なんと実家を担保に借金したんですよ。会社で必要な金だと言って、名義人のひとりである母にはんこを押させて8000万くらい借金を作っていたんですよ!」
■出社は月1回、給料は150万円
謙さんは父の会社に入り、社長を継いだものの、やりたい放題で食い散らかしたという。
40代に入って、一回り以上年下の資産家の娘と再婚した後は、家族旅行も赤ちゃんグッズも別荘も、すべて会社の経費で落とした。出社するのは月1回、しかも経費の精算をするのみ。会社名義でマンションや別荘、クルーザーを買い、南東北地方で土地を買い、妻子とともにスローライフを満喫していたというのだ。
挙句の果てには、現場の仕事自体が面倒臭いからといって、東京の現場の従業員ごと他の会社に譲渡してしまったという。
「叔父、つまり父の実弟がいるんですけど、謙はこの叔父とつるんで、父の会社を食いつぶそうとしたんです。他に支社があるので会社全体としては利益も上げていますし、屋台骨はしっかりあるんですが、謙は社長という肩書だけで、実質は何も仕事をしていませんでした。それでいて、毎月給料150万ももらって、経費使いたい放題ですからね。
以前、父に対して吐いた暴言そのまんまですよ。経費で遊んでいるとか、人を使って搾取しているとか、どの口が言う? って話です」
おまけに実家を強引に担保に借金までしていたというのだから、なかなかの銭ゲバである。美華さんは弁護士とともに、横領の証拠を集め、株主総会で解任を叩きつけた。その後、美華さんが社長就任したのかと思いきや、そうではなかった。
■社長になる条件は兄弟との養子縁組解除
「母を就かせました。妹が社長になるというのは、支社にいる次兄や三兄が許さないから。といっても母は何もできませんから、実質的に動くのは私です。
母が社長になる際に、銀行から融資を受けたのですが、そのときの条件が『3人の息子たちとの養子縁組解除』でした。確かにこれ以上、食いつぶされたらたまったものじゃない。父が作った会社、父が建てた家を取られるわけにはいきませんからね。謙も面倒臭いと思ったのか、勝手にしろと言い放って、去っていきました」
事実上、縁を切った状態となったわけだが、謙さんがついてきた嘘は許しがたいものがある、と美華さんはこぶしを握りしめる。
「借金をして、高額の給料を手にし、経費を使い込んできた謙は、嘘をついて家族を騙し続けました。他のふたりは馬鹿なだけですが、謙だけは悪知恵が働くワルなんです。前妻に慰謝料と養育費を払うのが大変だからといって、自分の給料だけ大幅に上げましたが、途中から養育費は払っていませんでした。
しかも、前妻と共有名義のマンションを抵当に、銀行から勝手に1500万も借りていたことが発覚。息子にあげるといっていたマンションを勝手に、ですよ?」
結果的には、差し押さえになる前にそのマンションを売り、借金を相殺した残金を夫婦で分けたという。息子にあげると約束していた家はなくなり、残ったのはわずか250万。
■長兄のありえない逆ギレ行動
さらに、もうひと波乱。なんと、謙さんが80歳をこえた母を訴えてきたという。
「養子縁組を勝手に解消された、自分はそんな話を聞いていないし、同意もしていない」と主張し、南東北の裁判所に訴えたそうだ。
「こっちも弁護士を立てて、証拠も準備したけれど、いちいち向こうに行かなきゃいけなくて、母が音を上げたんです。もう謙に関わるのは嫌だと。結局400万近く払ってなんとか縁を切りました。もしまた何か言ってきたら、逆に謙を横領で訴えてやろうと思っています。会社の金を横領してきた証拠は揃っています。刑事上の時効はあるけれど、民事上の損害賠償責任を問える部分もあるようなので」
縁は切れたものの、一筋縄ではいかない謙さんは今後も嫌がらせをしてくる可能性はある、と美華さんは警戒している。(後編に続く)
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ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。
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(ライター 吉田 潮)
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