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赤ちゃんに添い寝せず、「おやすみ」と言って親は別室に…アメリカではそんな寝かしつけが常識であるワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月20日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

アメリカ発の「MeToo運動」は、なぜ大きなうねりとなったのか。ハーバード大学医学部の内田舞准教授は「アメリカには他者の同意を最大限に尊重する文化がある。たとえば私の子どもは2歳児のクラスから『同意』について教えられていた。だからこそ、MeToo運動も現実に根を下ろすことになったのではないか」という――。

※本稿は、内田舞『ソーシャルジャスティス』(文藝春秋)の第3章「子どもに学ぶ同意とアドボカシー」の一部を再編集したものです。

■MeToo運動はTwitterで広がった

ネット空間での「炎上」はもはや日常茶飯事で、そこでは確かな応答を一つひとつ積み上げて有意義な議論を組み立てることは難しいかもしれません。

もちろんエンパシーを心がけたり、大きな波に巻き込まれないような勘を育てることが「炎上」に対する距離の取り方を教えてくれるところがあるとはいえ、私たちは実際に対面して話していたらとらないコミュニケーションを、顔の見えない相手にはとってしまいがちです。あるいは時には、ネット上のコミュニケーションがあふれ出て、現実の対人関係に影響を及ぼしてしまうようなこともあるでしょう。

でもその一方で、近年のTwitter上でのMeToo運動とその広がりを振り返るとわかるように、一人の力では立ち向かうことのできない権力に対して、声が連なってうねりとなり、それ以前は動かせなかった大きな山を動かす力を持つという前向きな性格を持つものでもあると思います。

■MeToo運動が「同意教育」の端緒になった

もちろん、事後的な検証や、ネット上の告発だけで終わらせずに丁寧なコミュニケーションをとることがその後も必要なことは言うまでもありません。

アメリカでは実際に、このネット発のMeToo運動が現実に根を下ろし、他者とのコミュニケーションのあり方を考え直す「同意教育」の端緒となりました。これまでの沈黙を破って変化を起こし、コミュニケーションのあり方を見つめ直す。まさにネット上では終わらない議論を提起したのです。

この章では、そんな現在進行形のアメリカの変化を紹介しながら、差別と分断を乗り越えるためのヒントを考えてみたいと思います。

さて、日本では耳なじみのない言葉かもしれませんが、「同意」と聞いて皆さんはどのようなものを思い浮かべるでしょうか?

医師である私はまず医療行為のインフォームドコンセントを思い浮かべます。患者さんにとって必要な医療行為に関してリスクとベネフィット、医師としてどんな治療や投薬を薦めるかといった今後の方針を説明し、患者さんの希望を聞きながら一緒に次のステップを決定していきます。その際、患者さんが説明を受けた上で、「この医療行為をすることに同意します」とサインするのがインフォームドコンセントです。

■ヨーロッパでは幼少期から「性的同意」を学ぶ

近年では、「同意」と聞くと、「性的同意」を思い浮かべる方も多いでしょう。

ヨーロッパでは性教育が義務化されていて、フランスでは6歳から、フィンランドでは7歳から、ドイツでは9歳から、公立学校での性教育が始まり、人間関係の中での「同意」というコンセプトに関しても低年齢から学習します。

性教育に関しては、日本では各学校の自由裁量に任されているようですが、アメリカでは30の州で義務化されている一方、学校ごとの任意とする州もあります。「分断」の国なので、たとえ同じ州の中にあっても、教育内容も価値観も地域や学校区ごとに全く違うこともあります。

ただ、医療行為におけるインフォームドコンセントや性的同意だけでなく、もっと幅の広いコミュニケーションのあり方として、日常生活における「同意」が再発見され、広く注目されていると感じています。

友達や恋人関係、あるいは親と子ども、医師と患者といったさまざまな関係において、安心と信頼をベースに自分の意思を伝え、互いの意思を尊重すること。そんな「同意」の広がりをまずは身近なところからご紹介させてください。

■「答えがYESでもNOでもリスペクトすること」

私の息子たちが通うアメリカ・ボストンのプレスクールでは、2歳児のクラスから「同意」について教えられていました。もちろんこの年齢で学ぶ「同意」とは、性的な同意でも医療的な同意でもありません。人間関係の中で、自分の意思を表明すること、そして相手の意思を尊重することの重要性を学ぶための教えでした。

例えば、2歳児の教室ではお茶を入れるアクティビティ(学習活動)がありました。ポットを使って紅茶を入れ、「一緒にお茶を飲まない?」と友達を誘ってみるアクティビティでしたが、そこで友達が、YESと言ってもNOと言っても、どちらの答えもリスペクトすることと教えられていました。

友達と経験を共有することだけでなく、NOと言われた場合は「仕方ない」と受け入れて先に進むことが日常の園生活の中で教えられていることに、親の私は驚きました。

■「おもちゃ貸して」への答えは「嫌」でもいい

また、悲しそうな友人を見て、ハグしてあげたい、と思ったときに、“Can I give you a hug?”(ハグしてもいい?)と友人の気持ちを聞くことの大切さを先生が説明していました。

「一緒に遊ぼう」と声をかけられて嬉しいときもあるし、遊びたくないときもあるので、声をかけられた子に「一緒に遊びなさい」と言うこともありませんでした。

「おもちゃを貸して」と言われたら、「これ貸してもいい」と思うときもあれば、「まだ使っているから嫌」というときもあり、どちらの答えでもいいと教えられていました。

おもちゃで遊ぶ二人の子ども
写真=iStock.com/FatCamera
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FatCamera

その教えに込められた意味を先生に尋ねると、友達とおもちゃなどをシェアするためには、「自分が今使っているものを気が済むまで使っていい」「誰かに貸しても自分が必要なときには返してもらえる」と思える安心感が何よりも必要で、逆にもし「自分が使っているものが誰かに取られてしまうかもしれない」という不安が先行してしまうと、友達とのシェアが難しくなると説明され、安心感、信頼感をベースに考える視点になるほど、と思わされました。

■「自分の身体や意思は自分のもの」

私の子どもとその友達たちの交流を見ていると、「同意」とは、後から問題にならないようにYESと言ったことの記録を残しておく契約のようなものではなく、同意がなければ何かが禁止されるというルールでもなく、気が変わったら答えを変えていいものであり、単純に「自分の身体や意思は自分のもの」という、自分を尊重する力を与えてくれるものだと感じます。

子どもたちに、自分を尊重する発言をしてもいいと学んでほしい。また、他者が自身を尊重する判断をした場合には、それが自分の希望と違っても、仕方がないと自分の希望を手放せる考え方を身に付けてほしいと思っています。

NOと言ってもいい、またNOと言われてもいい、という双方の立場からの「同意」の自分の希望を手放せる考え方を身に付けてほしいと思っています。

NOと言ってもいい、またNOと言われてもいい、という双方の立場からの「同意」の受け入れの練習をさせてもらっている子どもたちがうらやましく思えます。

■コロナワクチン治験を拒否した6歳の女の子

「同意」の教育の重要性を感じた場面がコロナ禍で身近なところにありました。

息子たちの友人に、新型コロナワクチンの子どもの治験に参加した子が数人いるのですが、この治験においては、一つひとつの手技に関して、親と子ども双方への説明と双方からの同意が必要で、まさに子ども自身の同意が求められたのです。

息子の友人の一人に、親は治験に同意したものの、“This is my body and I don't give permission.”(私の身体は私のもので、治験には同意しない)と治験の中での注射を拒否した6歳の女の子のケースもありました。

その際、治験スタッフも「わかりました。では、また考えが変わったらいらしてください」と6歳の子どもの同意を得られなかったことに対しても決断を尊重した対応をし、その後親子で話し合った結果、翌週には治験に参加し、ワクチン(かプラセボ=偽薬)を接種したそうです。

■「親と子どもは独立した個人」という認識がある

親の同意だけでなく、子どもの同意が医療行為においても尊重されていることについては、少し文化的な背景の説明が必要かもしれません。

アメリカで医師が子どもの患者さんに同意を得る際、もちろん法的には保護者からの同意が必要ですが、診療や治療方針について子どもに直接説明することが通常です。そして子どもから同意がすぐに得られない場合は、家族での話し合いを経て納得できる決断をしてもらうことを、子どもの患者さんに接する私自身も診療で心がけています(医学的に緊急性のある場合はこの限りではありません)。

アメリカでは、日常生活のあらゆる場面で、親と子どもが独立した個人(individual)であるという認識があると感じます。もちろん子どもに全ての判断を任せるわけにはいかない場面も多いので、親子の衝突は存在します。

しかし、子どもが親と違う意見を持ったときにも、子どもの意見は子どもの意見としていったん受け止め、もし結果的に子どもの選択が良くない方向に向かっても、失敗に自身で対応することも子どもの人生の一部だと考える親も多いのです。

また、最終的に親の意見を子どもに聞き入れてもらう場合であっても、どうしてそのような意見を持つのかを親子の間で話し合う姿勢が中心にあると感じています。

■「添い寝して寝かしつけ」が正解とは限らない

またもっとずっと遡(さかのぼ)ると、子どもが赤ちゃんのときから一人で寝る習慣を身につけさせる風習も、子どもを自立した存在として育てるアメリカ文化を象徴しているような気がします。

ぬいぐるみを抱いて眠る子ども
写真=iStock.com/dragana991
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dragana991

私も長男が赤ちゃんだった頃は日本式で添い寝をして寝かしつけをしていました。子どもと過ごすのも寝顔を見るのも幸せな時間ではあったのですが、なかなか寝付かない、夜中に頻繁に起きる息子と付き合う睡眠サイクルでは親がまったく眠れない状況で、この疲弊しきった生活は続けられないと悩みました。

そこでかかりつけの小児科医に相談したところ、「子ども自身が潜在的に自分を落ち着かせる能力を持っているのだから、その力を少しずつ使って一人で眠れるように練習させてあげないと」と指導されたのです。

■子どもを信頼する「勇気」があるかどうか

内田舞『ソーシャルジャスティス』(文藝春秋)
内田舞『ソーシャルジャスティス』(文藝春秋)

その指導に従い、恐る恐る欧米式の、寝かしつけ無しで「おやすみ」と言うだけで一人で寝かせる方法に切り替えてみると、数日間大泣きした調整期間はあったものの、親も子も朝まで眠れるようになり、子どもが寝た後に落ち着いて親同士の会話ができるようにもなり、さらには夜の時間を使って仕事もできるようになりました。

育児のスタイルは家族ごとに合う合わないがあり、寝かしつけをしないことがどの家族にも合っているわけではないと思います。しかし、私にとってはこの選択肢が提示されたことで、精神的にも身体的にも救われました。

小さい時から親が子どもを信頼する勇気。

子ども自身の「同意」を尊重する文化の根底にはそれがある気がします。

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内田 舞(うちだ・まい)
ハーバード大学准教授・小児精神科医・脳科学者
小児精神科医、ハーバード大学医学部助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒、2011年Yale大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート。子供の心や脳の科学、また一般の科学リテラシー向上に向けて、三男を妊娠中に新型コロナワクチンを接種した体験などを発信している。

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(ハーバード大学准教授・小児精神科医・脳科学者 内田 舞)

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