「結婚はどちらでもいいが子どもは欲しい」選択的シングルマザーになる女性の本音とリアル
プレジデントオンライン / 2023年7月6日 8時15分
■精子バンクという選択肢
結婚をせずに子どもをもつなんてちょっと……、と思う人もいるかもしれない。
だが「もしそれが可能なら、そうしたい」と思っている女性は少なくないだろう。筆者も若い頃、「結婚はどっちでもいいけれど、子どもは欲しい」とよく口にしていた。現実には未婚で子どもをもつ度胸も甲斐性もなく型通りに結婚して出産をしたが、早々に離婚することとなり、結果的には選択的シングルマザーとそれほど違いはなかった。
最近は日本でも、海外の精子バンクを利用して子どもをもつ人が増えている。国内では、日本産科婦人科学会の方針により、結婚している夫婦しか医療機関で精子提供を受けられないとされている。そのためネットで個人の精子提供ボランティアを探す人もいるが、感染症のリスクなどもあるため、精子バンクという選択肢が浮上してくる。
自らの選択でシングルマザーになるのは、どんな人たちなのだろうか。世界最大の精子バンク「クリオス・インターナショナル」(本社デンマーク)の日本窓口を担う、伊藤ひろみさんに話を聞かせてもらった。先行するヨーロッパの状況から、日本社会がこれから進むべき方向は見えてくるだろうか。
■利用者の約半数がシングル
クリオスでは、日本の窓口が開設された2019年2月から今日まで、国内で500人を超える女性が精子提供を受けた。このうち約半数が独身女性、つまり選択的シングルマザーだ。
ヨーロッパのクリオス利用者も同様に、約5割がシングル女性だという。残りの利用者は、日本では婚姻している夫婦が3~4割、同性カップルが1~2割だが、ヨーロッパではこの比率が逆転し、同性カップルのほうが多くなる。
「日本で窓口を始めた当初、シングルの方からのお問い合わせは毎月10名前後でしたが、いまは30名前後となっています。ただし婚姻している夫婦や、同性カップルのお問い合わせも同様に増えています」(伊藤さん、以下同)
利用者はどんな人たちなのか。ヨーロッパでは総じて、高学歴・高年収のいわゆるキャリア女性が多いが、日本ではあまりそうした傾向は見られない。年収も学歴も、幅広い層のシングル女性から問い合わせがあるという。
■精子バンクのセミナーに独身女性の親が参加
「とにかく子どもが欲しいけれどどうしていいかわからない、という方がたくさんいらっしゃるんでしょうね。親御さんから相談を受けることもあります。シングル向けのセミナーに『娘のことで』とお母さんが参加されたこともありますし、オンラインセミナーで『親とリンクを共有したい』と問い合わせをいただくこともあります」
ヨーロッパでは、ネットを通して個人で精子提供者を探すといったことは、起きていないのだろうか。
「ありますが、日本よりはずっと少ないと思います。たとえばデンマークやフランスは、シングルを含むあらゆる女性が医療機関で精子提供を受けられます。保険適用のため治療費もあまりかからないので、個人で精子提供者を探すというリスクの高い方法に頼る必要がないのです」
■精子バンクの利用をオープンに語る女性たち
日本でも精子バンクを利用して子どもをもつシングル女性はいるものの、社会の偏見があるためか、利用したと公表する人を見かけることは少ない。ヨーロッパでは、もっとオープンに語られているのだろうか。
「そうですね、2、3年前には、デンマークで大臣をしていたシングルの国会議員が、精子バンクを使って妊娠したと発表しました。賛否両論あったようですが、概ねその選択は尊重され、受け入れられていました。キプロス島でも数年前に、国会議員が選択的シングルマザーになったことを公表しています。
どこの国にも『子どもには父親がいなければならない』と思っている層はいるでしょうから、そういう人からの批判はあるでしょう。ただ、ヨーロッパは子育て支援が充実している国が多く、シングルで子育てをしても経済的に困窮することが少ないため、『子どもがかわいそう』という見方をする人は、日本と比べるとずっと少ないと思います」
■日本で公表する人は少数派だが興味深い傾向が…
日本でも子育て支援が充実し、且つ世間の見方が変われば、選択的シングルマザーを選択し、公表する人が増えるのだろうか……? そう考えていると、伊藤さんが興味深い傾向を教えてくれた。
「利用者全体からすると少数ですが、日本にもかなり高所得で経済的に自立した選択的シングルマザーはいて、この人たちは周囲の批判をまったく気にしていません。海外経験やキャリアがあり、ご自身の選択に責任を取ることに慣れているので、『これは自分が選ぶことであって、他人にどうこう言われるような話ではない』という信念があるんですね。だから周囲にも『精子バンクで子どもをもった』と、あっけらかんと公表しています」
なるほど、そこまでいくとスッキリしている。子どもをもつと決めたなら、その選択に誇りをもってほしいと筆者は思う。生まれてくる子どものためにこそ、だ。
■子どもを産んでからパートナーを見つけるという手
なおデンマークでは、シングルで精子バンクを使って子どもを産み、そのあとでパートナーを見つける人も多いという。日本でもそういった人は、今後増えていくかもしれない。女性の出産リミットを考えたら、そのほうが理にかなっているだろう。日本では、出産は結婚前提で考えられているが、出産と結婚は切り離せるし、順序を入れ替えてもいい。出産の前に結婚を求めることが、出生率の低下を押し進めている面もあるはずだ。
伊藤さんは、選択的シングルマザーを検討する人たちを「貴重な存在だ」と指摘する。
「そもそも社会のサポートがこれだけ薄いなか、自分でお金をかけて精子提供を受け、ひとりで子どもを育てようとしている人たちは、すごく貴重な存在ですよね。そこまで強く『子どもを産みたい』と思っている人は、今あまりいないわけですから。
そういう人たちを私は大切にしてほしいと思います。シングルでも困窮せずに子どもを育てられるような国は、誰もが子どもを育てやすい国であると言えると思うのです」
なお、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯になった理由が「未婚」の割合は、2003年が約6%だったところ(離婚が約80%、死別が12%)、令和3年は約11%と、上昇傾向にある。未婚で子どもをもつ人は、社会が変われば、さらなる増加が予想される。
■個人間の精子提供では「出自を知る権利」が吹き飛ぶリスク
「選択的シングルマザーになりたいという方は、潜在的にはとても多いと思うので、病院で精子提供を受けられる対象を、結婚している夫婦に制限しないでほしいですね。制限をすれば、シングルや同性カップルのほとんどは、ネットを通して個人間で精子提供を受けようとするでしょう。そうなると子どもの出自を知る権利が吹き飛んでしまうリスクがあります。生まれてくる子どもの立場から見て、それは決して望ましいことではないと思うんです」
昨年出された特定生殖補助医療に関する法律案のたたき台では、病院で精子提供を受けられるのは結婚した夫婦のみが前提とされており、検討事項として「特定生殖補助医療の提供を受けることができる者の範囲は、法律の公布後5年を目途として検討」とある。精子提供を認める以上、誰でも治療を受けられるようにしなければ、生まれてくる子どもたちの人生にまで影響が及んでしまうのではないか。
誰が子どもをもつにせよ、生まれてくる子どもの福祉は最優先であってほしい。法案をめぐる今後の議論に注目していきたい。
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ノンフィクションライター、編集者
1971 年生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。PTAなどの保護者組織や、多様な形の家族について取材、執筆。著書は『ルポ 定形外家族』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』(晶文社)、『ブラック校則』(東洋館出版社)など。東洋経済オンラインで「おとなたちには、わからない。」、「月刊 教職研修」で「学校と保護者のこれからを探す旅」を連載。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。
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(ノンフィクションライター、編集者 大塚 玲子)
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