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オペレーターに「責任取ってもらえるよね」と詰め寄る悪質クレーマーを一発で黙らせた上司のひと言

プレジデントオンライン / 2023年7月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kumikomini

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、飲食店やスーパー、病院などで悪質なクレームを言ったり嫌がらせをしたりする行為。犯罪心理学の専門家である桐生正幸さんは「カスハラは社会問題化している。2022年には厚生労働省が企業向けの対策マニュアルを発表した。企業が従業員を守り、消費者を育てるには本腰を入れた対策が必要だ」という――。

※本稿は、桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

■エッセンシャルワーカーを悪質なカスハラから守るには

カスハラ被害を受けるのは、最前線で接客などをする「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちだ。

エッセンシャル(essential)とは「必要不可欠な」という意味を表す英単語で、エッセンシャルワーカーは「必要不可欠な仕事に従事する労働者」を示す言葉だ。病気や介護のほか、衣食住など生きていくために必要なものやサービスは多くある。コンビニやスーパー、そうした店で売られる商品を運ぶ運送業、医療や介護、さまざまな場面で私たちの生活を支える「必要不可欠な仕事」をしている人たちがいる。コロナ禍の緊急事態宣言下でも、通勤して職場で働かねばならない職種の人たちが注目されたことで、この言葉は日本でも広く知られるようになった。

そんな従業員たちは、真っ先にカスハラと直面する人たちでもある。マニュアル対応だけでは被害は拡大してしまう。カスハラ加害者のタイプを知り、具体的な対応をとる必要がある。ここでは数例を挙げよう。

■「なめんなよ!」と怒鳴る客の被害者意識を落ち着かせる

ドラッグストアで働きはじめたFさんが棚の商品を補充していると、突然の罵声に驚いた。

「お前ふざけんなよ! なめんなよ!」

Fさんよりもずっと年上に見える男性客の言葉は支離滅裂だ。身の危険を感じてパニックになりかけたFさんだが、すぐさま先日受けた指導を思い出した。

(そうだ、まずは「そんなにビックリしないでも大丈夫」そう自分に語りかければいいんだっけ)

ビックリはしたが、心のうちで呪文のように唱えると、心なしかさっきよりも気持ちが落ち着いてきた気がする。男性客の向こうに他の従業員や客の姿も見える。先輩が待機しているのが見えて、Fさんは冷静さを取り戻した。

客はすごい剣幕で怒りつづけている。先ほどから「なめるなよ」「お前のせいで」という言葉も何度か聞こえてくる。こういうタイプは「自分が危害を加えられている」と思っているタイプのはずだ。

「いつもご来店ありがとうございます。いかがなさいましたか?」

Fさんが落ち着いた声でそう言うと、怒鳴っていた客は少し驚いた顔をしながらも、荒らげていた声は幾分小さくなった。

■ポイントアップを知らなかったことで「バカにされた」と激怒

客の話を聞くと、ポイントアップキャンペーンを知らずに購入したことで、自分が損をしたことに腹を立てていることがわかった。それを知らせなかったのは自分をバカにしているからだという思い込みで攻撃的になっているらしい。

怒っているビジネスマン
写真=iStock.com/NicolasMcComber
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicolasMcComber

こういう被害意識の強い人は、自分が損をしたのは店の悪意や敵意のせいだと思って攻撃的になっている。こういうタイプには、怒らせたり、被害意識や被差別感を煽ったりすると悪化するので、応戦せず落ち着かせるべきだ。

「おっしゃることはごもっともです」

決して差別的な態度をとっていないことを示すのも、このタイプには大切だ。Fさんは、穏やかに言葉を続けた。

「お客様にはいつもご利用いただいて感謝しております。もちろんポイントアップもさせていただきますから、商品とレシートをいただけますか? カードをお忘れでもご登録いただいている電話番号でポイントを付与させていただきますね」

Fさんの態度と対応に、客も「そう?」と拍子抜けしている。レジでポイントをつけると「さっきは悪かったね、騙されたようでついね」と謝罪する客に、いま一度Fさんは「ごもっともです。いつもありがとうございます」と共感を示し、セール予告のチラシも手渡した。

■研修などで「怯えなくてもいい」と教えることが有効

もちろん、こうした応対はやれと言われて早々にできるものではない。人から怒鳴られる、罵声を浴びせられることは、多くの人にとっては本来あまり経験のないもので、恐怖で身がすくんだり脈拍数が上がってドギマギしたりするものだ。そのため、研修や指導を通して「怯えなくてもいい」という認識を持ち、冷静に応対にあたることを身につけるだけでも、心持ちに大きな変化がある。「毅然(きぜん)とした態度をとる」場合も、客のタイプに応じたアプローチがある。

この判断も瞬時にできるものではないから、学ぶだけではなくトレーニングをすることで、現場でも実践できるようになる。被害経験を積むのではなく、プログラムやトレーニングの経験を通して身につけてほしい。

■カスハラの常套句「責任取ってくれるよね?」への対処法

カスハラは、こちらの想定をはるかに超えてくるケースも多い。

加害者の4タイプの攻撃性のなかで「制裁・報復」としての攻撃性にあたるタイプは、「自分が正義」「責任は相手にある」と信じる傾向が強い。『コールセンターもしもし日記』(フォレスト出版)の著者で、コールセンターに勤めた経験を持つ吉川さんもこのタイプのカスハラの体験を著書で紹介している。

そのクレーマーは、吉川さんのミスを誘って間違った案内をさせ、後日言いがかりをつけてきた。吉川さんは事実を確認し、揚げ足取りだとわかっていても真摯(しんし)に謝罪している。

「間違った案内をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「そうだよね。間違ったこと言ったよね。認めるよね。責任取ってもらえるよね?」

カスハラの刑事事件でも多数見られた「責任取ってもらえるよね」という言葉。不当な要求をする加害者たちの常套句だ。真面目に働く人は自分にミスがあると、つい「自分のせいだ」と思いこんでしまう。吉川さんも、カスハラ常習犯と思しき加害者の罠に落ちそうになる。

「私にできることがあればやらせていただきますが、どのようなことでしょうか?」
「どのようなことでしょうかって、自分で考えてわからないの? あんたバカじゃないの?」

コールセンター
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■コールセンターへの電話で「上司を出せ」とゴネる人には…

言葉に詰まってしまった吉川さんに上司を出せと客は息巻く。ところが、管理者が代わった途端、吉川さんに対する態度とは一転し、形勢は逆転する。

「責任とはどのようなことでしょうか? 間違った案内をしたことについてはお詫びします。ただ、どのような責任でしょうか。金銭的なことでしたらお断りします」

呆気なくカスハラ加害者は撃退されて、電話はすぐに切れたという。同じように、加害者が相手の落ち度を理由に不当な要求を正当化しようとするケースは、土下座事件でも見られた。

対面で直に加害者と立ち向かわねばならない応対者の場合は、相手との物理的距離を保つこと、迷わずに状況を周りに伝えてサポートを求める行動を取ることも十分に意識してほしい。

とくに「制裁・報復」タイプの攻撃は、融通性のなさや偏った信念、執拗(しつよう)さが人格特性として見られるので、腰を低くして懇切丁寧に説明をしても通じないどころか、かえって悪化させかねない。理路整然と説得を試みても逆ギレされたり、逆恨みから攻撃が過激化するおそれもある。「その件につきましては、法律に詳しい者に相談いたします」など、保留によって状況を一度打ち切る逃げの戦法も有用だ。

■カスハラが始まったら物理的な距離をとるべし

とあるスーパーのレジでの光景だ。白髪混じりの髪を綺麗に撫でつけ、品のいいスーツを着て銀の腕時計をつけた男性がレジ会計の前に立っている。一見すると年収高めの中高年といったところだ。が、突然ドンッとカウンターに拳を叩きつけ、目を剝き鬼の形相でレジを打つ女性に大声をあげる。

「一体どうなってんだ、この店はあっ!」

泣きだしそうな顔で「申し訳ございません、すぐに責任者を」と女性は頭を下げるが、男性は鼻息荒く腕を振り上げた。他の客も恐怖で縮こまる。

「まずは土下座だろうが!」

ガンッとカウンターを蹴りつけ、すかさず携帯電話を取り出し、女性の鼻先に振りかざす。

「10万円出せ! ネットに書くぞ!」
「お客様! 落ち着いてください!」
「おい! バカにしてんのか!」

怒号とカウンターを蹴りつける音が店内に響き渡る。

この緊迫感あふれるカスハラシーンは、UAゼンセンが制作した動画の一つ「悪質クレーム対策★『悪質クレームを、許さない』by UAゼンセン」で描かれているものだ。

動画では「強要罪」「威力業務妨害罪」「暴行罪」という文字に続き、女性が冷静な声で「お客様、お会計はこちらになります」と示す先に、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」の文字がある。

■「強要罪」「威力業務妨害罪」「暴行罪」に問われる可能性

カスハラ加害者には年収の高い中高年男性が多い。怒鳴って威嚇し、有無を言わせず要求をのませようとするのは「影響・強制」としての攻撃タイプだ。現場でこんなカスハラと直面したら、なによりも先に加害者との距離をとるべきだ。物理的距離があることは自分を守るだけでなく、加害者側にとっても攻めきれない状況をつくることができる。

動物は優位性を誇示するために物理的距離を奪うマウンティング行為を見せるが、喧嘩腰な客から売られた勝負やマウンティングプレイには「物理的・精神的に付き合わない」という認識を忘れず、距離をとる。そして「しばらくお待ちいただけますか」と声をかけてから、他の人のサポートを借り、粛々と妥当な対応を続けることだ。

また、自分が優位にあると思って攻撃してくる加害者の場合、その優位性を揺るがす相手の登場も有効だ。女性従業員を狙う男性客ならば男性の従業員を、バイトや若いスタッフなど立場の弱い人を狙う客ならば裁量権を持つ従業員や法的措置を決定できる人物の登場で加害者側も気がそがれるか、狙い通りにならないとわかって撤退するだろう。

■もし商品に欠陥があるというクレームを受けたら…

最後に、あなたならどう対応するかを考えてみよう。

あなたは、小さな製菓会社のお客様窓口で働く新人だ。通販がメインで、従業員数も少ない会社だが、動物型の駄菓子を詰め合わせた商品がヒットして問い合わせが急増している。しかし、クレームの電話もかかってくるようになった。

「先日届いたお菓子、一つ形が欠けてたんですけど」

いまあなたが対応している女性は人気商品のリピーターで、今回買った袋のなかの一つが欠けていたそうだ。商品に問題があった場合は、実物を送付してもらって調査する決まりだが、女性は食べきったあとだった。

「他の人が買っても不揃いな可能性があるんですよね?」
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。焼き菓子のため、どうしても焼く工程で形にばらつきは出るんです」
「私は可愛くて品質のいい物しか紹介しないんです。だからフォロワーも支持してくれてるのに、これじゃ失望されちゃう」

女性はどうやらお気に入りの菓子をSNSで紹介しており、一定のフォロワー数を獲得しているらしい。あなたの謝罪に女性は溜め息をつき、苛立つ声で続ける。

「ちゃんと対応してください! 前に他のお菓子屋さんで文句言ったら、家まで来て頭下げてセット商品をもらったんですけど。おたくも同じことくらいしたら?」

動物のビスケット
写真=iStock.com/dlerick
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dlerick

■自宅まで来て謝罪し手土産を持ってこいと主張された場合

どうやら自宅での謝罪と手土産を期待しているようだ。健康被害などの緊急性もとくにないクレームだし、現物の確認も難しいので、社内ルールでは対応できない。

桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)
桐生正幸『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)

「申し訳ないのですが、お聞きした内容ですとご希望にはお応えいたしかねます」
「なんで? お金くれって言ってるわけじゃないし、誠意が足りないですよね。それくらいしてもらわないと皆に紹介した私も申し訳が立たないでしょ!」

さて、あなたはどうするだろうか。

読者のなかには、食品メーカーへのクレームの結果、贈呈品をもらった経験がある人もいるかもしれない。菓子メーカー業界でも、お詫びに菓子の詰め合わせを渡す悪しき慣行があった。大手企業なら安く済む「神対応」をクレーマーに求められ、人手のない中小企業は苦しめられてきた。そのため、2017年に「現物がなければかわりの商品を送らない」というルールが業界全体で決められた経緯がある。

■SNSでの評判など自分の体面を気にする人への対処方法

今回のケースでのポイントは「フォロワーからの信用を守る」「センスがよいイメージを守りたい」という心理的側面が見られることだ。ここには「自己呈示」としての攻撃という特徴がある。「体面やプライドへのこだわりが強く、注目されたい」人には、「神対応」よりも、その人が大事にしているものに敬意を示す方が態度の軟化につながる。どんな客でも同じ対応をとっていることを理解してもらいながらも、敬意や感謝を重ねて伝えるのが効果的だ。

それを知っているあなただったら、次のように答えるはずだ。

「ご愛食だけでなくご紹介までしていただき、誠にありがとうございます。ご対応できたらと思うのですが、実物が確認できない場合は対応できない決まりなんです。ご期待にそえず申し訳ございません」
「……そう。でも他の人たちもガッカリしたら私も辛いんだけど」
「ご心配をおかけして申し訳ございません。検品を含めて今後の見直しに努めるよう、いただいたご意見を関連部署に伝えます。必要があれば、ご紹介から購入してくださった方々にも届くよう、弊社のホームページやSNS上で説明も加えるようにと伝えておきます。貴重なご意見を誠にありがとうございます」
「たしかにそれなら皆も納得してくれるかな……」
「ありがとうございます」

誰だって怒鳴られたり責任を追求されたりすれば、ストレスを感じるものだ。しかし、前提知識やタイプごとの応対方法がわかっていれば、闇雲に怖がらずに済むだろう。

※参考資料
・吉川徹 2022『コールセンターもしもし日記』フォレスト出版、70頁
・弁護士ドットコムニュース 2022年11月6日 「顧客への『神対応』がネットで絶賛された元お客様相談室長が『間違いだった』と反省するワケ」(2023年3月30日閲覧)

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桐生 正幸(きりう・まさゆき)
東洋大学社会学部社会心理学科教授
山形県生まれ。東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術)。山形県警察の科学捜査研究所で主任研究官として犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

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(東洋大学社会学部社会心理学科教授 桐生 正幸)

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