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母に捨てられ、虚無老後を送る〈年金12万円〉65歳・元公務員の父。哀れに思い〈月収54万円〉35歳長男が同居を受け入れも…次々に弁護士から「謎の封書」が届いたワケ【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月25日 11時45分

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(※画像はイメージです/PIXTA)

「SNSや掲示板で他人の誹謗中傷をする」と聞いて、加害者の年齢層をどのように想像するでしょうか。「20代の若者」と考えている人も多いかもしれません。しかし実際は……。本記事ではAさんの事例とともに、高齢者のネット上のトラブルについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

意外にも40~50歳代に多い…誹謗中傷を行う人

2022年1月に弁護士ドットコムが行った調査によると、「誹謗中傷を行ったことがある」と回答した人のうち、50歳代は24.4%、40歳代は22.7%と40歳代~50歳代がおよそ半数を占めていることがわかりました。

加害を行った場所は「匿名掲示板」「X(旧Twitter)」「LINE」「ニュースメディアのコメント欄」「Facebook」の順番に多くなっています。匿名掲示板は25年ほど前から流行しはじめ、誹謗中傷による被害が社会問題となったことがあります。その当時に20歳代、30歳代で誹謗中傷にのめり込んだ人たちが現在40歳代~50歳代となり、他人への加害を行うことに対してハードルが低いままであるということも考えられます。ネットリテラシーの低さから、いまでもインターネットが「匿名」だと信じている人もいるのかもしれません。

名誉棄損罪と侮辱罪

インターネット上の誹謗中傷は刑事責任を問われる可能性のある犯罪行為です。名誉棄損罪、侮辱罪、信用毀損罪、脅迫罪などが当てはまり、有罪であれば懲役・禁錮、罰金などが法定刑となる重大な犯罪です。特に侮辱罪は2022年7月に改正され、法定刑がより重くなりました。

名誉棄損と侮辱はそれぞれ異なり、名誉棄損は「事実を広め名誉を傷つけること」、侮辱は「事実に基づかないデブ、ブスなどの悪口を言うこと」と覚えるとわかりやすくなります。

刑法231条一項によると、名誉毀損罪について「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と、明記されています。

たとえば自分の妻が職場で不倫したからと言って、相手男性の職場で不倫の事実を多数に知らしめるような行為をすれば名誉棄損罪に問われます。それが事実であろうと公然のものにすることで名誉棄損が成立するのです。

一方で刑法231条では侮辱罪について、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」と書かれてあります。事実に基づかない噂話を面白おかしくネットに書き込んでいると、自分はからかっているつもりでも侮辱罪が成立してしまいます。

前述の弁護士ドットコムの調査によると、インターネット上の誹謗中傷をした人は、それが「正当な批判、論評だと思った」と考えていることが多いようです。事実に基づくため批判してもいい、言論の自由だと思いがちですが、言い方を間違えてしまうと名誉棄損罪に問われることがあるのです。

「匿名で正義を過剰に振りかざす」人たちの存在も社会問題のひとつです。批判と誹謗中傷の区別がつかなくなり、さらに攻撃的な感情を増幅させて、安易に掲示板やコメント欄に書き込んでしまうと犯罪となってしまいます。

2022年10月には「プロバイダ責任制限法」が改正され、誹謗中傷した者の情報開示請求の裁判手続きが簡単になりました。匿名だと信じて誹謗中傷を行っていると、スピーディに本人が特定されるということです。ある日弁護士を通して内容証明郵便が届き慌てて謝罪する……そんな事案が増えています。

ではもし、その加害者が想像以上に高齢の人だったとしたら、どう思うでしょうか。

バツイチ同士で同居する父子

もし自分の高齢の親がSNSで他人に誹謗中傷をしていたら……? そして内容証明郵便が送られて、裁判になってしまったら……?

自分の父親がネット上の誹謗中傷にのめり込んでしまい、子供が金銭的に追い詰められるケースについて事例をご紹介します。

<事例>

Aさん 35歳 会社員 月収54万円

Bさん Aさんの父親 65歳 無職 年金月12万円

Aさんは金融機関に勤務する会社員です。5年前に購入した新築の家で、父親のBさんと2人暮らしをしています。

Aさんは数年前に離婚し、妻は子供を連れて実家へと帰ってしまいました。新築の家は家族で暮らそうと思い買ったものでしたが、離婚したことでその広さを持て余すようになりました。そこで近くの実家で1人暮らしをする父親Bさんを呼び寄せたのです。

5年前に離婚…父の事情

父親Bさんは地方公務員を60歳で退職すると同時に、専業主婦だった妻(Aさんの母親)と離婚しました。父親Bさんの日ごろのモラハラ気味の言動に長年苦しんでいたらしく、退職金が振り込まれた日の翌日に離婚したいという申し出を受けたのです。まとまった退職金が入り喜んでいたのもつかの間、財産分与によって預貯金を大きく減らすことに。

その妻も1年後に再婚したと聞いて愕然とする父Bさん。どうやら相手男性とは長年不貞の関係だったようだと、妻を知る知人に聞かされ落ち込んでしまいました。

預貯金が少なくなったことと、妻の再婚の話とで動揺した父Bさんにさらに不運が。未公開株を購入すると儲かるという雑な投資詐欺に騙されたのです。多少なりとも金融知識があれば騙されるわけがないのですが、父Bさんはあっけなく信じてしまい預貯金のほとんどを失ってしまいました。

そんな父親を見かねて、息子のAさんが父親の家賃と生活費を支援し続けてきました。そのため自分の家に呼び寄せることで家賃が浮くうえ、その分生活が楽になると考えたのです。

子供の養育費と住宅ローンの返済があり、自分の大学の奨学金の返済も残っていたため、少しでも節約したいと考えていました。父Bさんが受け取る公的年金も年金分割によって減ってしまいましたが、そのなかから少しでも生活費に入れてもらえたらという希望もありました。

暇な父親は一日中パソコンにかじりつく

特に趣味もなく友人もいない父Bさんは退職してから一日中パソコンの前に座るように。トイレへ行くにもスマホを持っていきます。ニュースメディアを毎日長時間見ていて、YouTubeやSNSもよく眺めているようでした。

「お金もかからないからいいか……」とAさんは軽く考えていました。

しかしある日、ダイニングテーブルの上に白い封書が置かれているのに気づきました。父親宛の手紙でした。 乱雑に封が破られているのでつい中を見てしまいました。

どうやら内容証明郵便のようです。法律事務所の名前も記載されています。その内容を読んでAさんは目を疑ってしまいました。

父親のBさんがインターネット上の匿名掲示板において、風俗嬢を執拗に誹謗中傷し続け侮辱罪に問うという内容でした。謝罪と慰謝料の請求をするとのことです。誹謗中傷の内容について一部引用されていましたが、目を覆いたくなるようなひどい文言が並んでいます。

父Bさんに手紙を見た旨を伝え真偽を問うと、うるさい!と激しく反発します。「無視したら警察沙汰になるかもしれない、示談の余地があるかもしれないので早く弁護士に連絡したほうがいい」と言っても、返事をしません。

やむを得ず弁護士に連絡すると、本来は本人以外とは交渉しないが高齢者であるため息子Aさんと会ってもいいということでした。弁護士に会って詳しい内容を聞くと、どうやら父Bさんは当該の風俗店に通い詰めていて、従業員の女性(Cさん)を気にいっていたが、「店の外で会ってほしい」「旅行に行こう」などとしつこく迫ったため、店側はNG客としてブロックしたとのこと。それに腹を立てた父Bさんは匿名掲示板に当該従業員について中傷を始めたと思われるとのことでした。

「Cの実家は〇〇町で親の勤務先は〇〇」

「Cは性病で、うつされてしまった」

「Cの彼氏は〇〇」

などと一日に数十回書き込み、営業妨害を行ったと弁護士から説明を受けました。一部事実もあるが、根拠のない嘘も多いとのこと。

裁判になる前に示談したいという旨を弁護士に伝え、慰謝料として50万円を支払うことになりました。本人に話し合いの結果を伝えても無視。きっと恥ずかしいのだろうと思い、この件はこれで収束させることにしたのですが……。

度重なる内容証明郵便

風俗店でのトラブルから半年ほど過ぎたころ、再び父親宛の内容証明郵便が届きました。また中を見てみると、今度はSNSで女性利用者を中傷し続けたというもの。しかもこの女性の個人情報をネット上に無断で公開したと書かれてあります。

そしてその翌年も同じように内容証明郵便が……そのときは近所のスーパーの女性店員への誹謗中傷を掲示板サイトに書き込んだという内容でした。

どの事案も女性へのストーカー行為の末の誹謗中傷であることが共通しています。

「こんな女性に入れ込む父親だと思っていなかったな……」Aさんは誰にも相談できず滅入ってしまいました。

トラブルの都度、息子のAさんが示談金を支払い解決するのですが、今後が不安になります。せっかく同居して家計を節約しているのに、度重なる示談金で貯蓄が減っていきます。住宅ローンの繰り上げ返済のために用意しておいた300万円の大半は慰謝料の支払いで失ってしまいました。

今後も父親がネット上で大暴れを続け、もし自分の仕事の取引先に関係する人に加害をしたら……? 取引先企業そのものに加害をしたら……? 自分は仕事を辞めざるを得なくなります。

あるいは父親のことに一切かかわらず示談金も手助けしなかったらどうなるでしょうか。刑事事件に発展しもし実名を報道でもされたら、家族の自分はやはり仕事を失うことになるでしょう。女性への脅迫行為におよんだら確実に刑事事件です。

再婚も考えていますが、父親がこの状態で同居していてはそれもいずれ失敗します。だからといって父親の行動を監視し続けるわけにもいかないし、ほかに趣味や友達のいない父親からパソコンやスマートフォンを取り上げるのは酷な気もします。

定年退職まで家族のために働いてきて、退職金の振り込み日の翌日に離婚され、なんの希望も楽しみもなく老後を過ごす父親が、なにかのきっかけで感情を暴走させたのだろうとも思います。元妻はあっけなく再婚し、疎外感に苦しんでいるのかもしれません。

Aさんはそう思いつつも、自分の仕事と貯蓄、買った家を守るためにも、父親に対して「ネットの情報で刺激を受けるのがよくないので、しばらくのあいだ、パソコンやスマホは触らないでほしい。女性のいる店にも行かないでほしい」と告げました。

案の定、父親は無視していましたが、自分のことを情けないと思うのか生気が失われたような表情を浮かべていました。

ネットで加害者になると、家族は…

誹謗中傷により名誉棄損罪、侮辱罪の刑事事件になったとしても、その法定刑はさほど重くないのが事実です。

数十万円程度の罰金あるいは慰謝料を支払うだけなので大したことがないと思う人もいるでしょう。しかし父親Bさんのように幾度も事件を繰り返すことで、お金のみならず人間関係も失っていくことになります。

父親Bさんの場合、息子Aさんから見捨てられ家を追い出されてしまうと、妻と分割した自分の年金だけで賃貸住宅を借り生活していくのは困難です。保証人を頼める相手もいません。介護や病気のときに家族からの支援を受けることも難しくなるでしょう。

そもそも加害者となって誰かを傷つけること自体が問題ですが、それと同時に自分や家族の人生への自傷行為でもあると理解すべきです。

もし自分の年老いた親がインターネット上で他人を誹謗中傷する「正義の番人」となっていたら、家族である自分に金銭的な影響がおよぶ前にネット上の情報から離れてもらうことが重要です。しかし今後はネットなしには生活が成り立たないのも事実。加害者となる前に、50歳代以上の親にもしっかりとネットリテラシーを身につけてもらうよう、働きかけていくべき時代なのかもしれません。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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