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「子どもの水着姿は小児性愛者にとって格好の餌」SNSに投稿した写真から始まる小児性加害の恐ろしさ

プレジデントオンライン / 2023年7月12日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peshkov

近所の公園で遊ぶ姿、海やプールで撮った子どもの水着姿……。成長する子どもの姿を、SNSにアップすることには、どんなリスクがあるのか。新生児科医の今西洋介さんは「SNSに上げられている子どもの水着写真は、小児性愛者にとって格好の餌。中には、親がSNSに上げている子どもの写真を“コレクション”している者もおり、『夏は水着姿の子どもの写真がよく上がるのでベストシーズン』と言う者までいる」という――。

■小児性愛者にとって夏は「ベストシーズン」

スマホの登場でSNSの存在が身近になり、SNSは今や生活のインフラとなりました。育児においてもSNSは育児情報を集めたり、同じ育児中の方々とつながったりとメリットは非常に大きく、すでに多くの育児世代の方が使っています。育児がひと段落した世代のお母さんの中には「私の育児を支えてくれたのは行政でも地域でもない。Twitterでつながった仲間たちだった!」とおっしゃる方もいました。

ただ、その利便性の陰で、SNSはリスクも当然ついてきます。その中でも「子どもの顔写真や水着姿をSNSにアップする」ことが引き起こす問題は非常に深刻です。かわいい水着姿や楽しい毎日をSNSに投稿したい気持ちは、私も1人の親として理解できますが、日本の現状を知ると警戒心を抱かざるを得ません。

まず、SNSに上げられている子どもの水着写真は、小児性愛者にとって格好の餌です。質の高い写真をSNSで無料、かつ自由に取ってこられるわけですから、こんなにいい“狩り場”はありません。小児性愛者の中には、親がSNSに上げている子どもの写真を“コレクション”している者もおり、「夏は水着姿の子どもの写真がよく上がるのでベストシーズン」だと言う者までいます。

そしてこうした写真はコレクターの間で高値で売買されています。実際に私が話をした小児性加害者は「保育園・幼稚園が公式SNSに上げている水着の写真は狙い目」と言っていました。いくら親が気を付けていても、こういう抜け穴もあるのです。

■「児童ポルノ事犯」は増加している

下のグラフを見ても分かるとおり、児童ポルノ事犯の検挙件数は年々増加の一途をたどっています。2015年に児童ポルノ単純所持の罰則適用が開始された影響もありますが、これだけの件数があってしかも増加傾向というのは、子どもを持つ親としては恐ろしいことです。

【図表1】児童買春及び児童ポルノ事犯の検挙件数の推移
内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版」(警察庁「少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」から作成)より

それだけでなく、SNSにはお金を払えば名前や住所を特定する「SNS特定屋」という集団がいます。試しにTwitterで「特定屋」と入力して検索してみてください。手だれであれば、SNSに投稿した写真に写るタピオカドリンクから住所や行動範囲を特定することができるそうです。タピオカは表面が反射しやすく、撮影された場所が特定しやすいという原理だそうです。

一番気を付けねばならないのはSNSに上げた写真から住所や日常の行動範囲が特定され、子どもに実際に加害が及ぶことです。これは一番避けねばなりません。

■知られていない小児性被害の実態

普段私は小児性被害者支援団体と協働し、こうした小児性被害の問題解決に取り組みながら、SNSでこの問題を啓発しています。SNSでの反応を見ると、この問題は人によって認識の差が大きいです。なぜなら小児性被害の実態やデータが世間に認識されていないからです。

昔も小児性被害の事件は確かに存在しましたが、全国ニュースになるのは非常にまれでした。昔報道されたのは、強制わいせつの上殺人遺棄されたなど、悪質性の高いものばかりでした。

しかし、昨今はSNSの普及もあり、小児性被害の報道が頻繁に流れるようになりました。そのたびに、人々は被害に遭った子どものことを思い感情的な反応を示します。加害者に対して「去勢しろ」「刑務所から出てくるな」など実に厳しい声が飛び交います。子どもが犠牲になる事件なので感情的になる気持ちは理解できますが、これでは何の解決にもなりません。去勢して男性器がなくなっても性加害はできますし、刑務所に次々入れても加害者は一定数いるのでキリがありません。

■1人が生涯で380人に加害

海外でも国内でも小児性被害に関する調査や研究が進んでいます。今回はこの辺りをエビデンスとしてお伝えしていこうと思います。

まず、これは小児性被害界隈では有名な数字になってきていますが、「380人」という数字があります。これは米国研究者が1987年に提示した数字で、未治療の小児性加害者が生涯に出す犠牲児童の数(※1)です。常習性が高いこと、そして初犯から発覚まで14年かかるというデータ(※2)などから、犯行が繰り返された結果となります。これは成人の性被害と比べ、小児性被害はグルーミングの中で起きる割合が高いからといわれます。グルーミングは性加害者が性的な目的で子どもに近づき親しくなることを指します。

では実際に、日本でどれだけ小児性被害が起きているかという話です。警察庁の「令和3年(2021年)犯罪統計資料」によると、0~19歳の強制性交と強制わいせつを合わせて年間2581件発生しており、これは1日にすると7.07件となります。日本では1日に7件の未成年性被害が起きていることになります。1日7件は結構衝撃的な数字ですよね。

■男子も狙われる

また性被害を受けた子どもの男女比は世界のデータでもバラバラ(※3)ですが、2009年に22カ国で行われた65件の研究を分析した報告(※4)では、18歳になる前に男の子の7.9%、女の子の19.7%が性被害に遭ったとされました。

男女比は1:2となります。意外と男の子の性被害の割合が多いことに気が付くと思います。これは「男の子は安全」という神話がちまたで広がっているからです。実際に男の子自身も男の子の家族も、女の子と比較してガードが緩く、危機意識も低いことが多いため、非常に狙われやすいのです。「本当は女の子がよかったけど、男の子の方がガードが弱いから狙った」と答える小児性加害者もいるほどです。

※1 Sally Squires, "Who Would Sexually Abuse a Child?" The Washington Post, June 18, 1986
※2 斉藤章佳(2019).『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)
※3 Singh MM, et al. “An Epidemiological Overview of Child Sexual Abuse.” Journal of Family Medicine and Primary Care 2014;3(4):430–435
※4 Wihbey J. “Global prevalence of child sexual abuse.” The Journalist's Resource, November 15, 2011

■半数が証拠不十分などで不起訴に

ほかにも驚くべきデータがあります。

よく小児性加害者が不起訴になっているニュースを見かけることがあると思います。2021年に行われた、子どもの性被害に特化した実務者を対象とした実態調査(※5)で、小児性被害35名の、実に半数が証拠不十分などで不起訴となっています。

特徴的な出来事や物的証拠がないことを理由に「日時の特定ができない」との理由で、半数が無罪放免とされています。これにはカラクリがあり、子どもが法廷で性被害を受けた事実を自ら開示することを求められるからです。その開示ができないと、証拠不十分として起訴できないことになっています。

そもそも、性被害を受けた子どもが、複数の大人が集まる法廷で被害状況を開示することは、簡単なことではありません。

よく性加害者は「子どもとの間に合意があった」と言いますが、子どもはそもそも成長と発達の過程上にあり、法的に整合性のある同意を表明できないのは明らかです。

世界では、子どもの性被害の開示に関する研究(※6)が進められています。子どもの性被害開示には年代によって特徴があり、幼稚園児は小学生や中高生と比較して、開示できる割合が低い傾向にあります。

また、幼稚園児や小学生は、開示する相手は信頼する大人が多いですが、中学生以上は大人よりも、仲間に被害を開示する傾向にあります。性被害を受けた子どもを支援する場合、このような子どもの開示の傾向を知っておくことは大切です。

■男性がカギになる

ではこの無法地帯の日本で性被害から子どもをどうやって守っていけばいいのでしょうか。これは、予防と支援の両輪が大切といえます。

年々小児性加害者の取り締まりは厳しくなっているとはいえ、諸外国と比べ対策は不十分です。そんな中では、子どもに自分自身を守る予防法を伝えていくのがまず第一歩目です。おしり、性器、胸はもちろんのこと、口を触られた時の対応を家庭内で教えていく必要もあります。前提として体は自分のもの、信頼できる人でも勝手に触ってはいけない・触らせてはいけないことを伝えていきましょう。

そして、同じくらい大切なのは、周囲の大人が小児性被害について正確な知識をつけていくことです。

小児性被害を啓発していると、女性よりも男性の危機認識が低いケースが散見されます。しかし、個人的に小児性被害の課題解決のキーパーソンは、男性だと思っています。男性は性被害を受けにくい性別なので無理もありませんが、男性が小児性被害の実態を把握し子どもたちを守るために行動できるかは、非常に重要なポイントです。「うちは男の子だから大丈夫」という認識は、小児性被害の実態と乖離(かいり)していると言わざるを得ません。

※5 飛田桂「子どもの性被害への対応に関する実態調査」2021年3月22日
※6 Kogan, S. M. “Disclosing unwanted sexual experiences: Results from a national sample of adolescent women.” Child Abuse&Neglect, 2004; 28(2), 147–165

■被害を受けた子どもはさまざまな問題に苦しめられる

もう一つは支援です。日本は諸外国と比較し、圧倒的に性被害を受けた子どもの支援が足りていません。小児性被害は犠牲になるのが子どもであるという特性から、子ども専用の性暴力ワンストップセンターであるChild Advocacy Center(CAC)が必要と世界的にいわれています。

米国では、小児性被害の正確な把握は、その犯罪の特性から難しいとされていますが、米国は「これくらいの小児性犯罪が存在しているだろう」と推測した上で対策を立てています。その結果、米国ではCACが900施設以上ありますが、日本では全国で3施設しかありません。

小児性被害を受けた子どもは、生涯を通じてさまざまな問題に苦しめられることがわかっています。不安、怒り、罪悪感、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、成人後の不適切な性行動などです。

また、精神的な問題だけでなく、生活習慣病の発症も高め、心臓や肝臓などの病気の発症率も高くなることが知られています(※7)。大切に育てた子どもが性加害を受けて心身ともに被害を受けるのは、親として何としても避けたいところです。

■社会全体で対策に取り組む必要がある

公衆衛生学で名高い米国ジョンズ・ホプキンス大学・ムーア小児性被害対策センターのElizabeth Letourneau氏はこう言っています。

「小児性被害は100%予防可能な社会解題です。ただし、それは社会全体で対策に取り組めばの話です」

子どもの人権を大切にしよう、子どもの声を聞こうと叫ばれる中、これだけ子どもの人権が侵害される小児性被害を、社会としてこのまま放置し続けているのは非常に残念です。世界で示された小児性被害のデータを見つめ直し、加害者の特性を理解した上で社会全体で対策を立てていく必要があります。

※7 Felitti VJ, et al. “Relationship of childhood abuse and household dysfunction to many of the leading causes of death in adults. The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study.” American Journal of Preventive Medicine 1998:14:245–258

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今西 洋介(いまにし・ようすけ)
新生児科医、小児科医、小児医療ジャーナリスト
日本小児科学会専門医/日本周産期新生児学会・新生児専門医。小児公衆衛生学者。富山大学医学部卒業後、都市部と地方部の両方のNICUで新生児医療に従事する。Twitterアカウント「ふらいと」(@doctor_nw)やニュースレターを通じて、医療啓発を行いつつ子どもの社会問題を社会に提起している。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を務める。監修書籍に『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』『ぼくのかぞく ぼくのからだ』など。

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(新生児科医、小児科医、小児医療ジャーナリスト 今西 洋介)

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