「0.99×0.99×0.99……=0.0099」失敗率99%の絶望的難関を成功率99%にした東大出身者の驚くべき挑戦回数
プレジデントオンライン / 2023年7月11日 11時16分
※本稿は、『プレジデントFamily2023夏号』の一部を再編集したものです。
■一流だけが知っている「0.99の459乗」の成功の方程式
59種類もの栄養素をもったユーグレナは、人間にとって素晴らしい食料源ですが、それは同時に、人間以外の生物にとっても素晴らしい食料であることを意味します。ユーグレナを大量培養するにはどうしても屋外で育てる必要がありますが、そこに紛れ込んだ生き物(その中には目に見えない菌類、細菌類も含まれます)によって、あっという間に食べつくされてしまうのです。
でも、20歳の私は、「一生の仕事」として覚悟して取り組めば、何とかなるんじゃないか、と考えました。そして、実験を始めました。
ただ、本当に大変でした。何度やっても、様々な方法を試しても、どうしてもうまくいかない。100回やっても、200回、300回やってもできないんですよ。「これは大変なことになった、やめてしまおうか」と何度も思いました。
しかし私は、何とかやり遂げることができました。ユーグレナに出合い、一生をかけよう、そう決めてから5年。2005年の12月16日、沖縄県の石垣島で、ついに世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養の方法を発明できたのです。
なぜ、私が途中で諦めずに、ユーグレナの大量培養を成功させることができたのか。大切なのは「メンター」と「アンカー」だったと考えています。
メンターとは心の底から尊敬している先生、先輩、師匠のことです。人はメンターに出会うことによって、夢をもつことができます。私にとってのメンターは、間違いなくグラミン銀行創立者であるムハマド・ユヌス先生。周囲に笑われながらも、貧しい人々を救いたいという夢をもち続けているユヌス先生は、私の進むべき道を示してくれています。
アンカーとは、その夢を忘れないための具体物。ちょっとした記念品でも手紙でも何でもいい。その具体物を見ることで、自分が当時描いた夢や決意を思い出させてくれるものです。私にとっては、大学1年生のときにバングラデシュで買ったTシャツが大切なアンカーです。今でも自宅のクローゼットに置いています。実験がうまくいかないときも、このTシャツを見ると「ユヌス先生と約束したじゃないか、必ずやり遂げると。まだまだ諦めるわけにはいかない」という気持ちが湧いてきました。
今日、ここにいる皆さんも、これから様々な夢をもち、その実現に向かっていくと思います。そのときにはぜひ、メンターとアンカーを大切にしてください。メンターとアンカーが、あなたの夢の実現を、必ず後押ししてくれます。
■私にできて君にできないことはない
世の中には、「不可能だ」といわれていたことを突破し、奇跡を起こし、イノベーションを成し遂げた人々がたくさんいます。その人々はどうしてそれができたのでしょうか。
結論から先にいえば、成功するまで諦めずに繰り返し挑んだから。そして、なかなか成功しないことに対して言い訳しなかったからです。
以前、青色発光ダイオードを開発した天野浩先生と対談をしたことがあります。「どうして天野先生は青色発光ダイオードを開発できたのですか」という私の質問に天野先生は、「私は1500回、失敗しました。でも諦めませんでした。だから青色発光ダイオードを発明することができたのです」とおっしゃいました。
なかなかうまくいかなくても、夢の実現のために、諦めずに何度でも繰り返す。これがイノベーションには必要なのです。
たとえば、「成功率1%」というのは、1回チャレンジしたときの確率で、99%は失敗します。ところが2回目は、0.99×0.99=0.98となり、成功率は2%になります。これを繰り返していくと、100回目で成功率は64%、459回目には99%になります。
私はユーグレナ社の資金調達のために500社を回りましたが、501社目で資金援助してくれる会社に出合えました。
とにかく繰り返し努力すること。「試行回数×科学技術=イノベーション」なんです。
ところがほとんどの人はそこに至る前に諦めてしまう。だから成功にたどりつかないのです。
この話を皆さんにすると、「それは、天野先生や出雲さんだからできたことでしょ」「最先端の研究設備で実験したからできたんですよ」という人がいます。でも私は、団地の、ごくごく平凡な家に生まれた普通の子でした。天野先生も、「私が研究を行っていた名古屋大学は、特別に研究環境に恵まれているわけではありませんでした」とおっしゃっています。
漫画家の秋本治先生は本郷の卒業生、皆さんの先輩ですよね。私は秋本先生の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両さんのことも自分の師匠だと思っています。両さんは全201巻のマンガの中で、「○○がないからできない」「金持ちじゃないからできない」という言い訳を一度もしていないのです。
「うちの子にはとても無理です」という親の言葉が私は嫌いです。身近で、最も応援するべき親が、自分の子供の可能性を否定してしまってどうするんですか。
みんな、同じ人間です。37兆個の細胞があって、その全部に23セット46本の染色体がある。その設計図は99.9%の6乗まで同じです。私にできて君にできないことを、論理的に証明することは不可能なんです。
そして最後に。「1番になること」にこだわってください。
日本で一番高い山が富士山であることは誰もが知っています。でも、2番目に高い山が北岳であることを知っている人は富士山ほどいません。1番と2番では、知名度に圧倒的な差があります。知名度が上がれば上がるほど、応援してくれる人が増えるのです。
適切な科学と努力の繰り返し。この二つの掛け算で、誰もが「富士山」としての人生を送る可能性を秘めています。
今日ここにいる皆さんが、これからどの舞台で、どのフィールドで人生を送るのか、私にはわかりません。でも一度きりの人生です。ぜひ皆さんには、北岳じゃなくて富士山、1番の人生を送ってほしいと思います。
■本郷社会部が出雲社長に聞いてみた
質問① 須藤智也くん
バングラデシュの人とのコミュニケーションのとり方は?
出雲さんは、栄養豊富なユーグレナのクッキーをバングラデシュの子供たちに届けるなどの支援を続けています。「自分の名前の読み書きもできない人がいる」とのことでしたが、最初の頃、そういう人たちとどうやってコミュニケーションをとり、信頼を得たのでしょうか。
【A】何度も現場に行って直接話しました
正直に言うと、字が読めない、自分の名前が書けないというのは、それほど大きな問題ではなかったですね。それよりも大変だったのは、文化の違いです。
ユーグレナのクッキーを届け始めたら「すごく栄養価の高いものがあるぞ」っていう噂が、すぐに広がりました。するとどういうことが起きるかというと、盗まれちゃうんです。子供たちの給食のために届けているのに、途中で盗まれて他のところに行ってしまう。
これは、いい、悪いではなく、文化の違いとしか言いようがない。
ある意味、日本は整いすぎていると言ってもいいのかもしれません。災害が起き、避難所に救援物資がなかなか届かないとき、日本人はずっと待っている。発達した物流に慣れているからです。でも、バングラデシュの人から見れば、自分で取りに行けばいいと。そして、途中で取られないように自分で運べばいいじゃないか、と考えるんです。
しかたがないから私は、何度も現地に行って、みんなに話しました。このクッキーは、子供たちに食べさせるためにつくっているんだ。子供たちの栄養状態を良くしたくて日本から来ているんだ。だから盗まないでくれと、一生懸命話しました。
すると盗まれることがピタッとなくなったんですね。話せばわかってくれるんです。
ただしこれを、手紙で伝えようとしたり、誰かに言ってもらおうとしてもだめですね。自分自身で現地の現場を一つずつ回って、直接話さないとだめなんです。そういうことが大切だと学びました。
質問② 江刈内 隼くん
バイオ燃料が事業の主軸になるのですか?
ホームページでユーグレナ社の決算報告書を見ると、2025年頃からはバイオ燃料事業が収益の柱となり、将来的には収益の半分以上を占めるようになるという予想をされていした。どうしてバイオ燃料に舵(かじ)を切るのですか?
【A】アイデアを広げることも大切です。
最初からそれを狙っていたわけじゃありません。今日もお話ししたように、最初はバングラデシュの栄養不足を解決したいという思いからスタートしました。それは今もまったく変わりません。
ただ、研究をしているうちにいろんなユーグレナが見つかってきました。現在、世界には100種類ぐらいのユーグレナが見つかっています。
その中に油を多く含むユーグレナがいました。本当に偶然です。そしてこの油のクオリティーが非常に高い。いろいろ調べて、これはバイオ燃料の原料に使えるとなって、工場を建設し、現在バイオジェット燃料や次世代バイオディーゼル燃料をつくっています。日本の総理大臣が乗る政府専用機にもこのバイオジェット燃料を使ってもらい、カーボンニュートラル社会の実現に貢献しています。
何か一つ目標をもって取り組むことは大切ですが、あまり決め打ちをするのではなく、どんどんアイデアを広げていくことも大切なんじゃないかと思います。
質問③ 佐藤優樹くん
どうしたら大きな夢をもてますか?
出雲さんはとても大きな夢をかなえましたが、私はテレビ局で働きたいな、という程度の夢しかもてません。だから、大学で何を学ぶのかもなかなか決めることができません。どうしたら出雲さんのように大きな夢をもつことができますか?
【A】今、興味のあることを全力で頑張ればいい。
テレビ局で働きたいという夢、すてきじゃないですか。私が皆さんと同じくらいの頃は、国連で働きたかったんです。といっても、「世界の貧困をなくすぞ!」とかそういう理由ではありません。当時の私は、どうしたら海外に行けるかということばかり考えていました。「国連に入ったら海外勤務になる。よし、海外に行けるぞ」と、それだけの理由です。
それで、大学生になってパスポートをとったとき、国連に採用してもらうためには、普通の海外旅行じゃなくて、一般の人があまり行かないような国に行っておいたほうが有利なんじゃないかと思ったんですね。それも、バングラデシュに行った理由の一つです。
ただ、その狙いは、バングラデシュに行ったら全部忘れて、その後はずっとユーグレナ一筋です。
大学で何を学べばいいのかわからないということですが、あまり心配しなくてもいいと思います。「これがやりたい」と決めて大学に入っても、途中で変わるというのはよくあることです。私のように。
だから今、興味をもっていることをやればいいと思います。興味をもっているときが一番伸びますから。
テレビ局に入りたいという目標があるのなら、それに向かってできることは全部やればいい。いろんなことをやっているうちに、衝撃的な出合いがあって別の夢が生まれ、結果的にテレビ局には入らないかもしれない。それはそれでいいじゃないですか。今度はその新しい夢に向かって全力で頑張ればいいんです。私にとってのユーグレナを超えるような、素晴らしいチャンスが必ず待っているので、安心してください。
質問④ 堀合英晴くん 松村燈太くん
銀行に就職した理由は何ですか?
大学卒業後に銀行に就職したのは、グラミン銀行での経験にプラスして、起業するための情報が欲しかったのでしょうか?
【A】正直に言います。研究費のためです
お二人の質問は共通しているので一緒にお答えします。
二人とも、頭が良すぎて(笑)、深読みしすぎています。正直に言います。銀行に就職したのは研究費がなかったからです。
日本では、国家計画として1980年代からユーグレナの研究が行われていますが、お金ばかりかかってまったく成果が出ていませんでした。私もお金が足りない。研究費を補助してもらうために文部科学省に申請の書類を書きまくって提出していました。
すると今度は、肝心の研究をするための時間がなくなる。お金もなくて時間もなくて、どうしようもなくて銀行に就職しました。銀行なら、会社員としてお給料をもらえるし、お金の勉強ができるじゃないかと思って。銀行での仕事は楽しかったけど、それは「バングラデシュの栄養問題を解決する」という夢から少し逃げていることでもあった。それで心を決めて、研究に戻りました。
今の質問が、答えるのに一番恥ずかしかった(笑)。でも、グラミン銀行に感動したからとか、新しい情報を得るためにという答え、かっこいいですね。もし今度、私が銀行に就職した理由をそう語っていても、クレームはいれないでくださいね。
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ユーグレナ代表取締役社長
1980年生まれ。駒場東邦中高卒業。東京大学文科三類に進学後、農学部に転部。卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に就職。2003年、銀行を退行。05年、株式会社ユーグレナを設立。同年12月、世界初の食用ユーグレナの屋外大量培養に成功。12年、東京証券取引所マザーズ上場、14年、同一部上場(現プライム市場)。同年、ユーグレナ入りクッキーをバングラデシュの子供たちに配布する「ユーグレナGENKIプログラム」を開始。21 年、第5 回ジャパンSDGsアワードにて「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』など。
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(ユーグレナ代表取締役社長 出雲 充 構成=金子聡一)
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