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龍翔!聖寿!大愛!流絆愛!未依奈!…「ネットで流行する5つの名前」が示す現代社会に欠けているもの

プレジデントオンライン / 2023年7月13日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/StockPlanets

最近の子供の名前には、どのような傾向があるのか。命名研究家の牧野恭仁雄さんは「結、心、優、絆、愛など、人間関係をあらわす字の人気が高い。こうした名前は、人間関係が希薄で、コミュニケーションがとりにくい世相を反映しているのではないか」という――。

■ネットで流行中の5つの名前から見える「親の心理」

最近ネットの世界において、「龍翔(りゅうしょう)‼ 聖寿(はると)‼ 大愛(だいあ)‼ 流絆愛(るきあ)‼ 未依奈(みいな)‼」というふうに、奇抜な名前の子供に語りかける形の文の投稿が流行しているという。こうした名前が実在するのかどうかは不明だが、仮にその名前があったとすれば、親はどんな気持ちで名前をつけたのか? それを名前から逆に推理できないか? これが今回のテーマである。

世間では名前で本人の生き方や性格が決まるように思われたりもするが、そんなことはない。名前というのは親がつけるので、つけた親がどんな感覚、価値観を持ち、どんなことをテーマにして生きていたか、それが表現されるのである。

まず、最近ネットにあげられた5つの名前を例にして、こんな推理はどうか、ということから述べてみたい。

■勇ましくて目立つイメージだが、奇抜な名ではない

1 龍翔(りゅうしょう)

リュウトという読み方でつけられることが多いが、リュウショウが正しい読み方である。とくに奇抜な名ではない。

龍は大きく、力強いもののシンボルである。

翔の字の中の羊とは何か? ヒツジは草原の中でも見えやすいので、よく見えることをあらわす。詳(わかるように言う)、洋(遠くまで見える海)、祥(祈りの効果があらわれる)などの字に含まれる。羽をつけた翔の字は、堂々と飛ぶことである。

大きく、たくましく、堂々としている、というイメージの名前で、わが子が広い世界で活躍するのを見たい、という願いが感じられる。ただしこういう勇ましくて目立つイメージの名前は、ときには親自身が繊細であったり、引っ込み思案であまり目立たない、ということがベースにあり、それを巻き返す気持ちでつけられることもある。

■聞くと普通の名だが、他人には読めない

2 聖寿(はると)

辞典の通りに正しく読んでも30通りをこえる読み方があるが、ハルトとは読まない。聞いたときは普通の名だが他人には読めない。こういう名は最近増えていて、人に笑われるようなことはしたくないが、あまり社会と広く関わりたくもない、という感覚でつけられることが多い。

聖の字は一般には、立派な行いをあらわす字とされているが、もとの成り立ちは、耳と口と※テイ(=しっかり立つこと)を合わせたもので、人の言うことを理解し、説明ができるしっかり者のことである。親の心の奥には、聡明(そうめい)であることが立派なことだ、という価値観がありそうである。

寿の字は長い道を歩くことで、長生きのことでもある。昔から長寿を願って名前に使われたが、ただし親が極度に病気を恐れ、まじない的にこの字を使うケースもある。

■名は聞けば女の子の名前だが、文字が男の子の字

3 大愛(だいあ)

愛の字を名前に入れると、いかにも人から好かれそうで安心感を持つ人も多い。ただし人間関係の不安がもとにあり、それを打ち消すように入れられることもあり、虐待される子にも愛の字はよく見られる。

愛の字はアとは読まない。また大は、男の子に使われることが多い字である。この名は聞けば女の子の名前で、文字が男の子の字である。それからすると、とくに順調な人間関係を築く自信がない一方で、社会の規範や常識にとらわれないことが格好いい、という感覚のようにみえる。

■キラキラネームは「ヤンキーの名づけ」ではない

4 流絆愛(るきあ)

ながれることをあらわす流の字は、昔から芸術家の雅号などに多い字で、気分、雰囲気、ムード、自然に湧きあがる発想を大事にする感覚をあらわす。

絆と愛は人間関係をあらわす字で、コミュニケーションがテーマである。

ルキアという呼び名は珍しいだけでなく、この名は辞典に載っている正しい読み方ではないので、他人には読めない。いわゆる「キラキラネーム」である。キラキラネームの定義、線引きは別に決まってはいないが、一般には世の中に珍しく、奇抜で、読み方や男女の区別がわかりにくいものを言う。

キラキラネームは、アホなヤンキーの名づけみたいに思われやすいが、実は逆なのである。むしろ周囲の目を気にし、過剰適応してきた「いい子ちゃん」タイプの親が多い。自由に自分の生き方を考えられなかった人にとって、無抵抗なわが子の名づけだけが、ハメをはずせるチャンスになっている。その意味では気の毒な名づけなのである。

■「依」の字があらわす親が注意すべきこと

5 未依奈(みいな)

ミイナという呼び名も少ないが、まったく無いわけではない。ただミイという音自体は、人の愛称によくあり、ペットの名前にも多い。

未は、はじめは細かい枝を描いた象形文字で、小さい、見えにくい、ということもあらわす。未熟、未成年、未解決など否定の言葉にも使われるが、未来(まだこない)という言葉もあり、良いイメージで見られて名前によく使われる。依は人と衣を合わせ、衣服のようにピッタリ人にくっつくことで、依頼、依存という言葉になっている。

つまり未、依の字には、いつまでもかわいい子でそばにいてほしい、という思いが感じられる。親が注意すべきことは、子供をペットにしないように、ということだろうか。

■親の説明はあくまで建前、リクツである

名前から親の心を推理する、などというと、「それなら親に聞けばいいじゃないか」と思う人もいる。でも親の説明というのは、あくまで親が頭で組み立てた理屈である。親自身も気づいていない無意識の世界こそが、本当の親そのものなのである。それを名前から探る際には、親が口で言うことは参考にならない。

世間では、親が立派な説明をできるのが良い名づけだ、と誤解されることも多い。

しかし親が純粋に子の誕生だけを喜んで名前をつけた場合は、あまり説明をしない。聞いてもただ「この名前が好きだった」と言うだけである。好きだということは、説明のしようがないのである。本当はそれが一番正直で安全な名づけなのではないか。

よく学校で、「自分の名前がどのようにつけられたのか親に聞いてきなさい」などと宿題を出す先生もいる。昔、筆者の子もそんな宿題を出されたので、「名前は説明なんかできなくていいんだよ。そのように先生をお導きしなさい」と言っておいた。

■筆者の「恭仁雄」の名前から見る家系コンプレックス

名前は親がつけたものであっても、名前からただちに親のことがわかる、というほど簡単なものではない。世の中にはさまざまな親子関係があり、いろいろな名づけがある。ただ多く見られるのが、親が抱えていた感覚、テーマが表現された名前である。

他人の名前ではさしさわりがあるので、私ごとながら筆者の恭仁雄(くにお)という名前を例にしてご説明したい。京都の恭仁(くに)という地名をとった名である。

こういう誰にも読めない名前は、人を困らすだけである。社会に恨みでもあったのか? 抱えていたテーマは何なのか?

それを読みとるには、実際の親の生きざまを見ないとならない。

筆者の祖父はヤクザで、ヤクザの子である父親は世間から冷たい目で見られて育った。そのくやしさが儒教道徳をあらわす恭と仁の字を選ばせたと思われる。「俺だって人の道を知ってるんだ」という叫びである。またケンカや事件に囲まれて育った父親は、「何かしでかすんじゃないか」という思いから、道徳の字を入れたくなったのだろう。

祭りに参加する入れ墨の入った人たち
写真=iStock.com/Monique Oliveira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Monique Oliveira

■「恭仁」は古代に3年だけ都が置かれた場所

父親は祖父とケンカをして家を飛び出している。となると、地名を入れたこと自体、「居場所がない」という感覚からではないか。そして「恭仁」は、古代に3年だけ都が置かれた所で、歴史の本には載っている。つまりコンプレックスの裏返しで、「さあ、これが読めるかい」と知識をひけらかしているようにもみえる。たしかに父親は、文学や歴史については結構知っていた。

恭仁京大極殿址の碑=2002年6月、京都府木津川市加茂町
写真=時事通信フォト
恭仁京大極殿址の碑=2002年6月、京都府木津川市加茂町 - 写真=時事通信フォト

父親は名づけの際にこうして無意識に、最高の家系=皇室に縁のある地名を選んだ。「恭仁」の2文字こそ、ためこんだいろいろな感情をほぐしてくれるものだった。

その皇室の信仰の対象は、いうまでもなく伊勢神宮である。父親は結婚相手(筆者の母親)を三重県でみつけた。筆者の兄弟の名にも伊勢神宮と関係の深い字が入っているが、それももちろん父親のしわざである。思えば父親もケンカが大好きで、人を非難するとき、「あの家の連中は」と言うのが口ぐせだった。

品の無い例をあげて恐縮だが、何を言いたいかといえば、親の生きざま、言動をよく知っていれば名前も解きやすい、ということである。知らない人のことは命名の専門家でも、ただ推理する、想像してみる、ということしかできないのである。

■名前はひっくり返すと解けることも多い

名前をつけた親についての話となると、いやでも不安、欠乏感、コンプレックスといった言葉が多くなる。私たちは誰しもそうしたものを抱えているし、それをカモフラージュするように名前がつけられることが多いからである。

強そうな名前をつけた親が、小さい時は気の弱い目立たない子だったとか、丈夫で長生きしそうな名前をつけた親が、何かの体験で病気に対する恐怖がある、というようなことはザラにみられる。

奇抜な名前にこだわる親は、「個性」「自由」をさかんに口にするが、「人に指示ばかりされてうんざりだ」という感情を抱えていることが多い。

もちろんほかの名づけもたくさんあるが、とにかく名前を見る際は「一度ひっくり返してみよ」というのが定石ではある。

ただし、親が抱えた感覚、感情を、弱点だとか、欠点だとか思うと間違える。それ自体は誰もが持つ自然な、生きるための本能である。人は不安、欠乏感があるからいろいろ努力をし、備えもする。それはあらゆる行動の原動力であり、それがなければ子育てだってできない。

ただそうした感覚、感情から生まれるさまざまな行為には、まさにピンからキリまである。筆者の父親もそうで、歴史の本を読んだり皇室を敬うのは良いけれど、他人を誹謗(ひぼう)したり、人に読めない名前をつけるのはほめられたことではない。

■人気の名前には、その時代や社会に欠けたものがあらわれる

名づけは大きくマクロの視点からみると、もっとわかりやすくなる。世の中全体の名づけには、その時代、その社会全体に欠乏しているものがあらわれるのである。

戦国時代には、信長、信玄、謙信、元信(家康のはじめの名)など、信の字がやたらに好まれた。それは駆け引き、だまし、裏切りが当たり前の、人が信じられない時代だったからである。

貧困と食料不足で苦しんだ昭和の前半の人たちは、わが子に稔、実、豊、茂、繁など、収穫をあらわす字をさかんに使った。

昭和の後半、有名校、有名企業、エリートサラリーマン、という一律の目標を押しつけられ、一律に受験競争に追い立てられて育った人たちは、名づけの際に個性、個性と言って奇抜な名前を好み、それが平成のキラキラネームの流行になった。

また平成以後の傾向として、動物、植物、海、空、山、太陽、星、光、音、宝石など、自然界の何かをあらわす字が圧倒的に多く使われてきている。これは自然が破壊され、自然と接することが少なくなっている時代を反映している。

■今の時代に欠乏しているもの

では近年の名づけから見て、今の時代には何が足りないと言えるのか?

それは人と人、また人と社会の結びつきではないだろうか。

最近はさすがに悪ふざけのようなギャグ名前は下火になったが、人に読めない名前は依然として多い。呼び名は普通でも、正しく読めない漢字が使われるのである。

【図表1】2022年生まれの名前(表記)ベスト10
図表=明治安田生命「2022年生まれの子供の名前調査」アンケート調査 ニュースリリースより

今は個人情報が人に知られると、どう悪用されるかわからない。知人にだけ読める名前にして、親しい人とだけつき合うほうが安心だ、という感覚が広まっている。

また、男の子に女の子の名前や、男女不明の名前をつけるケースも増えている(逆のケースはほとんど無い)。昔の日本と反対で、女の子を生み育てたい親が多いのだろう。ただし男女を間違える名前をつけられた男の子が、「ボクは望まれていない」という無言のメッセージを感じたりしたら、それもまた人間関係をこじらせる。

名前に使われる字も、結、心、優、絆、愛など、人間関係をあらわす字はずっと人気が高い。それは人間関係が希薄で、コミュニケーションがとりにくい世相だからといえるが、言いかえれば本当は親密な人間関係を求めている人も多いのである。

たしかに社会は理不尽で、怖い所ではある。でも現実に私たちはその社会で多くの人の世話になり、助け合って生きている。

今、頻繁に起きる凶悪犯罪に関わる人は、共通して人間関係が乏しい。育児ノイローゼや、子の虐待も、周りに話す人がない、孤独な母親に起きやすい。

私たちは、人を混乱させる名前を持ち、社会と距離をおいてもラクになれるわけではない。やはり人とつながる、人に迷惑をかけない、という姿勢を大事にすべきではないだろうか。

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牧野 恭仁雄(まきの・くにお)
命名研究家
早稲田大学理工学部卒。一級建築士。名づけの研究を40年以上続ける。これまでに受けた命名相談は12万件、鑑定した名前の数は100万以上。著書に『赤ちゃんの名前辞典』(主婦の友社)、『子供の名前が危ない』(KKベストセラーズ)などがある。

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(命名研究家 牧野 恭仁雄)

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