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はてなブログでしか読めない医療漫画がヤバい…本当にいる「手術がド下手な外科医」を主人公にした戦慄的内容

プレジデントオンライン / 2023年7月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Krisada tepkulmanont

『ブラック・ジャック』『JIN-仁-』『医龍』……医療漫画の傑作は数多いが、最近、注目されている作品は天才・善良キャラのヒーロー医師は出てこない。麻酔科医の筒井冨美さんは「今、現役医師をザワつかせている作品『王の病室』の研修医の上司は『適度に殺すのも医者の仕事だ』と言い放ち、また、実際にあった医療事故をベースにしたと思われる『脳外科医 竹田くん』の主人公は手術がド下手です」という――。

■最近人気の医療漫画にヒーロー医師は出てこない

医療漫画の傑作といえば、どんな作品が挙がるだろうか。

医師である筆者も、これまでたくさんの名作を読んできたが、真っ先に思い浮かぶのはレジェンド的作品の手塚治虫『ブラック・ジャック』(秋田書店)だ。無免許の天才外科医である主人公が、莫大な報酬を請求しつつ数々の重症患者を救命する。

天才外科医といえば、少年マガジン誌(講談社)で連載されていた真船一雄『スーパードクターK』、またそのシリーズで、イブニング誌(同)で連載された『K2』(同誌休刊で『コミックDAYS』に移籍)の主人公もそうだ。卓越した技術と野獣の肉体を持つ天才外科医で、臓器移植から新型コロナまで対応するドクター。子供たちはそのスーパーぶりに心躍らせた。

ドラマ化で好評を博した作品も数多い。特に以下のような、天才とまでは言えないものの善良で優秀な医師の活躍を描いた作品は印象深い。

産科医かつピアニストの『コウノドリ』(講談社)
脳外科医が江戸時代にタイムスリップする『JIN-仁-』(集英社)
大学病院の心臓外科医局を舞台にした『医龍』(小学館)

同じくドラマ化された『ゴッドハンド輝』(講談社)のような若手医師の成長をテーマにした作品も、やはり善良で努力家の先生の話だ。技術的には未熟な主人公であっても「命は尊い」「全ての患者に全力を尽くす」という、あるべき医師像が描かれる。

以上に挙げた作品は、総じて、人々が考える理想の医師が基本となっており、それが読まれる医療漫画のセオリーだった。

ところが、最近はちょっと事情が異なる。

■今、医師をザワつかせる定石ではない医療漫画2作

今、SNSなどで話題になっているのはこのような医療漫画の定石にあてはまっていないのだ。例えば、「高齢者の高額公費医療」を問題提起したり、「手術のド下手な外科医」が主人公となったりする。筆者の周囲の医師にもファンが多い2つの異色作を紹介しよう。

●灰吹ジジ(原作)/中西淳(漫画)『王の病室』(ヤングマガジン連載中・講談社)
灰吹ジジ(原作)/中西淳(漫画)『王の病室』(ヤングマガジン連載中・講談社)
灰吹ジジ(原作)/中西淳(漫画)『王の病室』(ヤングマガジン連載中・講談社)

この『王の病室』の真骨頂は、リアリティである。例えば、救急の患者について。

無料公開されている第1話「蘇生の代償」は以下のように始まる。主人公である総合病院の研修医が当直中に、救急車で運ばれてきた「ショック状態の85歳男性」に対応する。上司は心臓マッサージを命じるが、それだけでは死亡しかねない状態だったので、気管内挿管を行い人工呼吸器に接続することで一命を取り留める……が上司の反応はいまひとつ。駆けつけた家族も喜んでいない。

「命を救うのが医療でしょう!」と研修医は反論するものの、他の指導医も賛成してはくれず、上司は「この日本というイカれた医療システムの国では……適度に殺すのも医者の仕事だ」と言い放つ――。

出典=『王の病室』第1話:蘇生の代償
出典=『王の病室』第1話:蘇生の代償

救急救命系の医療ドラマには、24歳女性・自殺未遂、19歳男性・バイク事故といった患者が病院に運び込まれるようなシーンがしばしば登場する。実際、そういう急患も存在する。しかし医療現場に従事する筆者のような医師がドラマを見て思うのは「現実の救急外来の患者は、こんなに若くない」である。本当は、88歳女性・食欲不振、97歳女性・認知症で徘徊(はいかい)中に転倒といった事例が多数を占めるのだ。

ついでに言えば、「救命してもなぜか家族には喜ばれないことがわりとある」「だからドラマのように熱くなれない」。そんな気持ちになる医師は筆者だけではない。

■医療政策や社会保障のあり方に一石投じる『王の病室』

リアルな救急患者はさほどドラマティックではない。むしろ当直医としては「これ、救急車が必要だろうか」とモヤモヤするケースもある。点滴治療だけで症状が軽快して「入院の必要はありません」と医師が言えば、家族は喜ぶどころか「入院希望なんだから入院させろ!」「家で何かあったら責任とれるんですか!」と反発されることさえ珍しくない。午前3時に家族とこういうやり取りをすると、当直医は心身ともに疲れてしまう。

それだけに、先に紹介した『王の病室』に出てくるシチュエーションに違和感を覚えることはない。

第2話では高齢者の医療費制度について解説されている。「高齢者の自己負担額は1割」さらに高額療養費制度によって「月額約6万円が上限」であり、患者家族に重い経済的負担がかからないことを知って安堵(あんど)する主人公に向かって、「残りの医療費は国民全員で負担している」と指導医が諭している。

コロナ禍以前の日本ならば、こうした指導医の発言は「人命軽視」「優性思想」などとSNSで炎上していたかもしれない。だが、2019年からのコロナ禍と77兆円とも言われるコロナ対策費や赤字国債の急増、その後の円安とインフレを経験して、日本人の意識も変わってきた、と筆者は肌で感じる。

2023年3月から、健康保険料や介護保険料がまた値上げされ、サラリーマンの手取り額が減った。2023年10月から始まるインボイス制度は、中小企業関係者やフリーランスには事実上の課税強化となるだろう。現役世代にとっては「インフレで多少の賃上げがなされても、それ以上の勢いで手取り額が減っている」と感じる人も多いはずだ。こうした増え続ける社会保障費や税金を、吸収し続けどこまでも膨れ上がるのが医療費である。

「少子高齢化だから社会保障費増額は仕方がない」と財務省はもっともらしく説明しているが、そんな論理は現役世代やネット民には通じない。

「減る一方の現役世代から絞って、増え続ける高齢者の医療に回し続けるのはヤバくない?」
「高齢者に貢いだ現役世代が老いた時、自分たちはまともな医療を受けられるのか?」

連載されているのがヤンマガという若者向けのメディアということもあるのか、「人命軽視」のような批判的なSNSコメントは少数派で、むしろ「よく描いてくれた」「医療のリアルを描いている」という医療関係者のコメントも目立つ。

かねてより日本では「目の前の患者の希望をかなえる」ことが「医師の姿勢として望ましい」とされてきた。しかし、その一方で保険診療、特に「自己負担10%、公費90%」のような公費高額医療においては「目の前の患者の希望は尊重するが、目に見えない90%の出資者についても考慮」すべき……こう考える医師はコロナ禍を契機に急増したように思える。

その意味で本作は、日本の医療政策や社会保障のあり方に一石を投じる医療漫画として注目に値する。

■2019~20年に多発した医療事故と酷似したストーリー

匿名作者『脳外科医 竹田くん』(はてなブログ)

架空の病院である「赤池市民病院脳神経外科」を舞台にしている。「あり得ない脳神経外科医 竹田くんの物語」という副題が示すように、「手術テクニックがド下手にもかかわらず手術が大好きな脳外科医竹田くん」が主人公で、患者は高確率で死亡もしくは後遺症に苦しむ、という怖すぎるストーリーである。

現在、137話まで連載は続いているが、その内容は、兵庫県赤穂市に実在する赤穂市民病院で2019~20年に多発した医療事故と酷似していると言われる。描かれる手術や後遺症のエピソードも、同病院関係者が協力しているとしか思えないほどリアルだからである。

これまで「天才外科医」を主人公にした漫画は多数存在したが、本作のように「オペのド下手な外科医」は漫画の主人公になりえなかった。だが、現実には一定数存在しているだけに、医療の現場を知る者としては作者の視点を斬新だと感じる。

本作品は商用メディアではなく、匿名の作者がブログで連載しているが、「内容怖すぎ」「逆K2」「一気読みしてしまいました」とSNSで評判になり、一般メディアでも紹介されるようになった。一部では、赤穂市民病院で多発した医療事故の全容解明につながる漫画として期待されている。

出典=「脳外科医 竹田くん」第6話 30代の女性
出典=「脳外科医 竹田くん」第6話 30代の女性

■そろそろ法整備を進めたほうがいいのではないか

本作を読んで筆者は日ごろの思いを強くしたことがある。長年、麻酔科医という仕事をしていて「神の手」クラスから「竹田くん」クラスまで、さまざまなレベルの外科医とチームを組んでの手術を経験しているが、そろそろ「ヤバい医師の解雇を可能」にする法整備を進めたほうがいいのではないかということだ。

漫画の舞台・赤池市民病院のような公立病院の医師は、地方公務員の立場だ。そして、現在の法律では「オペが下手」という理由で公務員医師を解雇することは不可能に近い。漫画には、竹田くんが院内安全委員会などによる手術禁止勧告で窓際ポストに追い込まれるシーンが出てくるが、現実にはそれすらも「上司のパワハラ」と逆告発されかねない風潮である。

また、「ヤブ外科医を窓際ポストで管理」するとしても、そういう問題医師にはマトモな転職先がないので定年までしがみ付くパターンが多く、医師定員を一人潰されて年齢相応の高給が発生し、他のまっとうな同僚医師の不満や辞職にもつながりやすい。

今の日本では最強ともいえる国家資格・医師免許があれば「予防接種:日給8万円」のような仕事はいとも簡単に見つかるので、病院をクビになった問題医師でも健康診断や予防接種などの業務をこなしていれば路頭に迷うことはない。

公務員っぽく「医療安全○○委員会」「○○報告書」などの会議参加や事務仕事を増やして、診察や手術で多忙を極める医師を疲弊させるよりも、「ダメ医師は速攻クビに」することが患者や同僚を守ることになる。

問題医師にとっても、窓際でダラダラと飼われ続けるよりも「さっさとクビにして、スキルに見合った新職場を探してもらう」ほうが、心機一転、プロとして正しい道に戻り復活できると筆者は信じている。

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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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