歩幅が狭い人は認知症発症リスク3倍…鎌田實が編み出した「認知症予防」に特化した歩き方2パターン
プレジデントオンライン / 2023年7月23日 12時15分
※本稿は、鎌田實『介護の世話にならない 鎌田式「90歳の壁」を元気に乗り越える5つの極意』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■「筋活」がうつを予防して認知症のリスクを下げる
アルツハイマー病や、脳血管性認知症の原因となる動脈硬化は、慢性炎症がきっかけで起こることがわかってきました。
慢性炎症を防ぐ効果があることがわかっているのが運動です。運動は認知症の原因であるストレスや肥満を解消する効果があります。
スウェーデンのカロリンスカ医科大学の研究によると、筋活を行うことでうつ病を予防する科学的根拠が明らかになりました。
うつ傾向のある人は、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌量が少ない場合が多いのですが、その理由はセロトニンと拮抗(きっこう)するキヌレニンという悪玉物質が増えるからだといわれています。
筋肉を動かすと、このキヌレニンが分解されることがこの研究で明らかになりました。キヌレニンが分解されれば、相対的にセロトニンが多くなります。セロトニンが多くなれば、幸せを感じやすくなるため、ストレスが解消され、それが認知症の予防になるというわけです。
■認知症を防ぐ「幅広歩行」と「ピッチ歩行」
ウォーキングを行うと認知症の予防によいことも、世界中の論文で明らかにされています。認知症予防のためには、ふつうのウォーキングでも十分効果がありますが、より認知症予防に特化した歩き方を考えてみました。
1つは幅広歩行。国立環境研究所の研究によると、歩幅が狭い人は広い人に比べ、認知機能低下のリスクが3倍以上になり、歩幅が狭い状態のまま年齢を重ねると認知症発症のリスクが2倍以上になることを明らかにしています。
もう1つは、ピッチ歩行。アメリカのオレゴン健康科学大学の研究グループによると、MCI(軽度認知障害)と診断された人は、健康な人に比べて歩行速度が毎年1秒あたり0.01秒遅くなり、また歩行速度の低下は、MCIと診断されるより平均で約12年前から表れることもわかりました。
そこで速く歩くためのピッチ歩行です。
「幅広歩行」「ピッチ歩行」の詳しいやり方は、拙著『介護の世話にならない 鎌田式「90歳の壁」を元気に乗り越える5つの極意』を参照ください。
■筋トレしたらMCIから回復できた
僕の知り合いの編集者は、MCIと診断された経験があります。敏腕編集者でしたが、60歳を過ぎた頃からもの忘れが目立つようになり、ズボンのチャックを閉め忘れたり、仕事ではダブルブッキングをしたりするなど、ミスが目立つようになったといいます。
大学病院で検査を受けてMCIと診断された彼は、認知症デイケアに通い、絵を描いたり、楽器を演奏したりして回復に努めました。なかでももっとも手応えを感じたのが筋トレだったといいます。その甲斐あって、彼は健常な認知能力にまで回復することができました。
運動の認知症予防効果は、前述の論文のほかにも、世界中のさまざまな論文で発表されています。
とくにウォーキングなどの有酸素運動と筋トレの組み合わせが効果的といわれているので、「筋活」をしっかり続けてください。僕も認知症予防のために筋活を続けています。
■MCIから認知症に移行することも
65歳以上の人のMCIの割合は15〜25%と推定されていますが、自分がMCIであることに気づかないままになっている人が多いといわれています。症状がひどい場合は、専門医を受診したほうがよいでしょう。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病のある人は、MCIから認知症へ移行しやすいといわれています。これらの生活習慣病はメタボから発症することが多いので、肥満の人も注意が必要です。
MCIは認知症の予備軍といわれていますが、必ずしも全員が認知症に移行するわけではありません。ある研究によれば、生活習慣を改善すれば、約半数は健常な認知機能に回復できると報告されています。
認知機能を高めるトレーニングとしては、絵を描いたり、楽器を演奏するのが効果的だといわれています。また、新聞や本を読んだり、ゲームをしたりするのも認知機能の向上によいとされています。
■コグニサイズでMCIが40%回復
また、運動とゲームを組み合わせた認知機能を高めるトレーニング法が「コグニサイズ」です。
コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語で、頭で考えながら、同時に体を動かすことで、脳と体の機能を効果的に向上させることができます。コグニサイズを行って、MCIが40%回復したという報告もあります。
コグニサイズは「正解を出そう」とするプロセスが重要です。楽に正解が出るなら、脳の刺激にはなりません。ですから、だんだん難易度を上げていく必要があります。
図表1は、私が主催する佐賀の鎌田塾で行っている「干支」をテーマにした「コグニサイズ」の一例です。レベル1からレベル7までの難易度を設定していて、レベルを上げていくことで、脳トレ効果も高まります。
コグニサイズは、正解を出そうとして、ゆっくり回答していては効果が期待できません。間違えることは気にせず、むしろ間違えるくらいの速さで行うことが重要です。
『介護の世話にならない 鎌田式「90歳の壁」を元気に乗り越える5つの極意』を参考に、まずはレベル1からテンポよく始めてみましょう。
■野菜と魚が認知症を防ぐ
脳活には食べ物も重要です。私は、腸の働きをよくする「腸活」として1日350g以上の野菜をとることをおすすめしていますが、野菜は認知症予防にも効果的なのです。
アメリカのヴァンダービルト大学の研究では、野菜ジュースを週3回以上飲む人は、1回以下の人よりも、アルツハイマー型認知症の発症率が76%も少ないと報告しています。アルツハイマー病は、脳細胞の慢性炎症がきっかけで起こるといわれていますが、この慢性炎症を野菜の色素成分がもつ抗酸化作用が抑えてくれると考えられています。
野菜ジュースは自分でつくって飲むのが望ましいのですが、忙しい人なら市販の野菜ジュースでもよいでしょう。ただし、糖分のとりすぎを防ぐため、商品を選ぶときは無糖のものにしてください。
魚も認知症予防に効果的な食べ物です。
魚介類の摂取量が多いほど認知症のリスクの低下がみられ、魚をもっともよく食べている人は、15年後の認知症のリスクが61%低下したというデータもあります。魚の油に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が認知症を防ぐといわれています。
■卵黄のコリンが神経伝達物質の材料になり認知症を防ぐ
卵も認知症予防に有効です。卵はたんぱく質が多く、筋活にもうってつけです。
「卵は1日1個まで」といわれていたのは昔の話。食事でコレステロールをとっても、血中コレステロールはほとんどの人が上がらないことがわかっています。僕も毎日1〜3個の卵を食べていますし、患者さんにも「2個くらい食べても大丈夫」と言っています。
卵のよい点は、卵黄の部分にコリンが含まれていること。コリンは体内に入ると脳の神経伝達物質の材料になります。
フィンランドで行われた研究でも、食事からコリンを多くとっている人は、少ない人に比べて、認知症リスクが28%低く、記憶力と言語能力を測定するテストも優れていたと報告されています。
コリンは卵黄のほか、大豆や牛肉、鶏肉、鶏レバー、エビ、ピスタチオ、ブロッコリーなどにも多く含まれています。牛丼を食べるときは、温泉卵を1つ加えると、脳によい食事になります。
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医師・作家
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』『だまされない』ほか多数。
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(医師・作家 鎌田 實)
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