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脳血管が弱く、1%の食塩水で100%脳卒中を起こす「脳卒中ラット」の寿命を延ばしたスーパー食材の名前

プレジデントオンライン / 2023年7月28日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fcafotodigital

健康で長生きするためになにを食べるべきか。京都大学名誉教授の家森幸男さんは「長寿の鍵を握るタンパク質を多く摂取するといい。特に魚はタウリンやオメガ3脂肪酸などの栄養素が含まれており、健康効果が高い。」という――。(第1回)

※本稿は、家森幸男『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)の一部を抜粋、再編集したものです。

■長寿地域の高齢者は食事を完食できる

世界の長寿・短命地域を40年にわたり健診して回る中で、様々な方と食事をご一緒する機会にめぐまれました。その時に気づいたことがあります。長寿地域の方々と一緒に食事をすると、みなさん、とてもよく食べられるのです。

お年を召している方でも、食卓に出されたものを本当に喜んで完食される方が多い。ジョージアの長寿村や中国の広州などでも、テーブルいっぱいに乗ったお皿を囲んで、家族や友達とわいわい食事をする風景を何度も見てきました。一方で、日本のご年配者は、一緒に食事をしても、食べ物を残される方が多い印象です。

私は今、85歳ですが、私くらいの年齢になると、食が細くなってくる方が多いように思います。また、3食作るのが面倒になって1日の食事回数が減ってしまったり、一品もののインスタント食品などで、簡単に済ませる方も多いのではないでしょうか。24時間いつでも食べ物が手に入る「飽食の日本」ではありますが、実は、高齢者の「低栄養」は大きな問題となっています。

「低栄養」とは、エネルギーやたんぱく質が足りなくて、健康な体を維持できなくなる状態のこと。令和元年(2019年)の国民健康・栄養調査によると、65歳以上の方で、女性は5人に1人、男性は8人に1人が低栄養です。また、85歳以上の女性に限ると、全体の27.9%、実に3~4人に一人が低栄養状態です。低栄養状態が続くと、身体の機能が低下し、身の回りのことをするのが難しくなり、筋肉がどんどん落ちて最終的に寝たきりの状態になりがちです。

■長寿の鍵を握る「たんぱく質」

2022年、100歳を超える方が日本で初めて9万人を突破したのは、非常に喜ばしいですが、一方でかなりの方が寝たきりなのはとても残念なことです。これまで繰り返しお伝えしてきたように、日本の平均寿命は男女平均で84歳ですが、健康寿命は男女平均で74歳。約10年間、寝たきりで過ごしている方も多いのです。原因は、脳卒中や認知症、骨粗しょう症による骨折が多いのですが、その大きな鍵となるのが「たんぱく質」です。

たんぱく質は、筋肉、臓器、血管など身体のすべてのもとであり、体内で作れないので食事から摂取する必要がある「必須アミノ酸」9種類と、体内で合成できる「非必須アミノ酸」11種類の計20種類から構成されています。

たんぱく質が長寿の鍵を握ることは、私の長寿研究の原点となった、遺伝的に100%脳卒中を起こす「脳卒中ラット」を使った研究で証明されました。「脳卒中ラット」に、1%の食塩水を与えると、100日以内に脳卒中を起こして全滅してしまいます。それを予防するには、脳の血管を強化する材料となるたんぱく質を与えればいいのではないかと考え、「魚」や「大豆」を与えてみたところ、血圧の上がり方が緩やかになり、ラットの寿命も延びたのです。

また、東京都健康長寿医療センターの調査でも、たんぱく質を多く摂っている人ほど寿命が長い、というデータがあります。たんぱく質摂取の指標となる「血清アルブミン」の値を高い方から四グループに分け、追跡調査をしたところ、一番高いグループ(男性は4.6g/dL以上、女性は4.7g/dL以上)は12年後にも8割の方が生存していましたが、一番低いグループ(男性は4.1g/dL以下、女性は4.2g/dL以下)は6割ほどしか生存していませんでした。

タンパク質食品
写真=iStock.com/piotr_malczyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piotr_malczyk

■寿命を延ばす「魚」と「大豆」

脳卒中ラットの研究で「魚」と「大豆」が寿命を延ばすことが分かったので、私はそれが人間にもあてはまるか、世界の長寿・短命地域を調査してきました。この結果、人間でも「魚」と「大豆」が、健康長寿の鍵となることが明らかになってきたのですが、本稿では、「魚」の持つ素晴らしい健康効果に焦点を当てて、お話ししていきたいと思います。

世界調査では、魚介類の摂取量を推測するマーカーとして「タウリン」の24時間尿への排泄量を調べました。

「タウリン」とは魚介類に多く含まれる、アミノ酸の一種です。カキ、サザエ、ハマグリ、シジミなどの貝類や、アジやサバといった近海魚、ブリやカツオの血合いの部分、カニ、イカ、タコ、エビなどに多く含まれています。栄養ドリンクなどの広告で耳にしたことのある方も多いでしょう。

■「タウリン」は様々な効果を持つスーパー栄養素

家森幸男『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)
家森幸男『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)

私が最初に魚のタウリンの効果に気づいたのは、40年以上も前に島根医科大学(現・島根大学医学部)で研究をしていた時です。島根県は当時、長寿地域と短命地域がくっきり分かれており、隠岐島は島根県の中で脳卒中が少ない長寿地域でした。一方、山間部に入ると脳卒中が増え、短命になります。長寿地域との大きな違いは、タウリンでした。

隠岐島の方は魚を食べている量が多く、タウリンの排泄量が多かったのです。タウリンは、実に様々な健康効果を持つ「スーパー栄養素」です。たとえば、交感神経の緊張を鎮めてストレスや血圧を下げる効果があります。また、胆汁を増やしてコレステロールや脂肪の排出を促すので、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを下げます。

さらに、障害を受けた膵臓からのインスリン分泌を促進するので糖尿病の予防にもなります。実際に世界調査で調べ、男性の24時間尿のタウリンの量と心筋梗塞の死亡率との関係を地域別に表したデータがあります。それが図表1「心筋梗塞の年齢調整死亡率と尿中タウリン排泄量」です(心筋梗塞死は若い方の死亡も多いので、その死亡率が高いと平均寿命は短くなります)。

心筋梗塞の年齢調整死亡率と尿中タウリン排泄量
出所=『80代現役医師夫婦の賢食術』

世界で最もタウリンの排泄量が多い、つまり魚をたくさん食べているのが日本です。次に、スペイン、ポルトガルなどの地中海諸国です。そして、タウリンの排泄量が多いほど、見事に、心筋梗塞の死亡率が低くなっていることがお分かりいただけると思います。

もう一つ、魚に特徴的な栄養素として、オメガ3脂肪酸があります。

EPAやDHAと呼ばれるこれらの脂肪酸にも、血液サラサラ効果や、中性脂肪、コレステロールを抑える効果があります。血中のオメガ3脂肪酸の割合と心筋梗塞死亡率との関係を調べた調査でも、血液中のオメガ3脂肪酸が6%を超えると、死亡率がぐっと減ることが分かっています。これらの健康効果を得るために必要な魚の量は、1日に80~100グラム程度。切り身一枚程度の量ですから、ちょっと気を付けるだけで、無理なく摂れます。

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家森 幸男(やもり・ゆきお)
京都大学名誉教授
1937年生まれ。京都出身。67年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。病理学専攻。米国国立医学研究所客員研究員、京都大学医学部助教授、島根医科大学教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。NPO法人世界健康フロンティア研究会理事長。上原賞・岡本賞・日本高血圧学会特別功労賞受賞、瑞宝中綬章受章。科学技術庁長官賞、日本脳卒中学会賞、米国心臓学会高血圧賞、日本循環器学会賞、ベルツ賞、杉田玄白賞、紫綬褒章受賞。著書に著書に『世界一長寿な都市はどこにある?』(岩波書店)、『ついに突きとめた究極の長寿食』(洋泉社)、『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)、『80代現役医師夫婦の賢食術』(文春新書)、共著に『健康長寿の食べ方 早死にする食べ方』(海竜社)など多数。

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(京都大学名誉教授 家森 幸男)

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