1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

女子少年院の在院者は100%性的虐待を受けている…非行の一端は「虐待被害にある」と考えるべき理由

プレジデントオンライン / 2023年8月3日 11時15分

非行少年の多くが虐待被害を受けてきた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/takasuu

少年院に収容される少年少女は、なぜ非行に走ったのだろうか。熊本大学大学院の岡田行雄教授は「少年院に在籍する少年の95%が虐待被害者という調査もある。虐待を受けて非行に走った少年少女への支援が彼らの将来を決める」という――。

※本稿は、岡田行雄編著『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)の一部を再編集したものです。

■児童虐待の「定義」

児童虐待の防止等に関する法律2条によれば、児童虐待は次のように定義されています。

① 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

② 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。

③ 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前2号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。

④ 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力……その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

これを受けて、一般に①を身体的虐待、②を性的虐待、③をネグレクト、④を心理的虐待と呼んでいます。

■非行少年の95%が虐待被害者

非行少年の多くがこうした虐待被害を受けてきたことは、今から20年ほど前の法務省による調査で明らかになりました。

それによれば、当時の全国の少年院に在籍する一定の少年を対象に行われたアンケート調査で回答のあった2251人のうち95%以上にあたる2159人が身体的暴力、性的暴力、ネグレクトのいずれかの被害を受けていました(※1)

※1 板垣嗣廣他「児童虐待に関する研究」法務総合研究所研究部報告11号(2001年)10頁以下参照。

■「ここにいる女子少年達は100%性的虐待を受けている」

問題は、非行少年がこうした虐待被害を受けている傾向はその後も続いていることです。その後、2015年11月から2016年1月末日までに全国の少年院に在院していた363人の少年から被虐待体験等の被害体験の回答を得た研究によっても、家族からの被虐待体験のあった少年は、218人と60%を超えており、これを女子に限れば70%を超えていたことが確認されています(※2)

※2 羽間京子「少年院在院者の被虐待体験等の被害体験に関する調査について」刑政128巻4号(2017年)18頁参照。

犯罪白書も、近年、少年院入院者の被虐待類型別構成比を掲載するようになりました。それによると、2021年では、男子少年の40%が何らかの虐待被害を受けており、女子少年の場合は、それが58.9%にのぼることが明らかにされています(※3)

※3 法務省法務総合研究所『令和4年版犯罪白書』(2022年)134頁参照

もっとも、筆者は、かつて、ある女子少年院の院長から、ここにいる女子少年達は100%性的虐待を受けているとの話をおうかがいしたことを忘れることができません。

こうした調査ですべての虐待被害が明らかになっているわけではないと考えられます。

女子少年院の在院者は100%性的虐待を受けている
写真=iStock.com/sebastianosecondi
女子少年院の在院者は100%性的虐待を受けている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/sebastianosecondi

■18歳の少年に死刑が言い渡された「石巻事件」

こうした虐待被害が背景となった重大事件としては、いわゆる石巻事件が挙げられます。

この石巻事件とは、当時18歳の少年が殺人等を犯したとして裁判員裁判によって初めて少年に死刑が言い渡され、最高裁で死刑が確定した事件として著名なものです。

法廷で取り調べられた証拠では、この少年は5歳時に両親が離婚し、酩酊した母親から暴力を振るわれるなどの被害を受け、小学生となって以降は、愛し、信頼できる存在、導いてくれる存在を持つことができず、少年は暴力を身辺に見てきた成育環境に置かれてきたことが明らかにされています(※4)

※4 本庄武「石巻事件最高裁判決―少年事件の特性はどれだけ検討されたのか」世界886号(2016年)27頁、河北新報2010年11月18日付参照。

ということは、この少年は身体的虐待のみならず、面前DVなどに象徴される心理的虐待の被害にも曝(さら)され続けてきたと言えます。

■踊り場から無理矢理跳ばされて、腰を圧迫骨折

いじめが背景の一つとなった重大事件としては、いわゆる佐賀バスジャック事件が挙げられます。この事件は、当時17歳の少年が高速バスを乗っ取り、その過程で、1人が殺害され、3人が重軽傷を負ったという事件です。

「バスジャック事件犯人」も被害者だった(乗っ取られた西鉄の高速バス「わかくす号」の運転席に近づいて容疑者の説得に当たる捜査員、2000年5月4日撮影)
写真=時事通信フォト
「バスジャック事件犯人」も被害者だった(乗っ取られた西鉄の高速バス「わかくす号」の運転席に近づいて容疑者の説得に当たる捜査員、2000年5月4日撮影) - 写真=時事通信フォト

この事件で瀕死の重傷を受けた方は、その後、この事件を起こした少年やその両親と直接やりとりをする中で、事件の前に次のようないじめ被害を受けていたことを知ります。

中学校でひどいいじめを受けただけでなく、その中で、音楽室に忘れた筆箱をいじめた側から取り上げられ、「これが欲しいならここから跳んでみろ」と言われ、ある踊り場から無理矢理跳ばされて、腰を圧迫骨折してしまい、入院を余儀なくされていたのです。

その結果、高校受験も入院先でということになりました。志望校には無事合格したものの、入学から1週間ほどで高校に通えなくなり、不登校となっただけでなく、引きこもりも始まったそうです(※5)

※5 岡田行雄=山口由美子「少年犯罪被害者になって」熊本法学149号(2020年)83頁参照。

■担任の教師からボコボコに殴られる

ほか、傷害や窃盗等の非行で少年鑑別所に3回送致され、少年院に送致された少年が、空手をやっていた担任の教師から、馬乗りになってボコボコに殴られるという被害を受けていたことがインタビューで明らかにされるなど、非行少年の中には小学校時代から教師の体罰を受けてきたことが多いと示されています(※6)

※6 非行克服支援センター『何が非行に追い立て、何が立ち直る力となるか 「非行」に走った少年をめぐる諸問題とそこからの立ち直りに関する調査研究』(新科学出版社、2014年)107~108頁参照。

■「非行に走らずにすんだ少年」もいる

非行少年が受けてきた被害に対して、私たちはどのように向き合うべきでしょうか?

もちろん、虐待、いじめ、体罰、行政機関の不作為などによりもたらされた被害を受けたとしても、非行に走らずにすんだ少年達もいます。

被害を受けながらも、ちゃんと成長して立派な大人になった者もいるのだから、非行に走った少年が受けてきた被害を無視しても問題はないとも言えそうです。

しかし、非行少年が受けてきたさまざまな被害を無視することははたして妥当なのでしょうか?

■「たまたま恵まれていただけ」の可能性

たしかに、被害を受けても非行に走らずに大人になり、その後も犯罪と無縁の生活を送る人もいます。しかし、そのような人は、そもそも体力や知力といった能力、さらには被害を埋め合わせてくれる親や周囲の人々に恵まれ、あるいは、さまざまな支援制度の恩恵にあずかったから、非行に走らずにすんだだけなのではないでしょうか?

残念なことに、さまざまな被害を受けた少年たちの中で、非行に走った少年と、非行に走らずにすんだ少年との間に、そのような能力、周囲の人々や制度による支援の違いがあったかどうかについてのデータや研究はいまだに公表されていません。

したがって、上で述べたことは仮説に過ぎません。

しかし、仮に、さまざまな被害を受けて非行に走った少年には、その被害を埋め合わせるような支援などが十分でなかったということが真実だとしたら、どうでしょうか?

「たまたま恵まれていただけ」かもしれない
写真=iStock.com/Kobus Louw
「たまたま恵まれていただけ」かもしれない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Kobus Louw

■周囲の支援が将来を決める

そもそも、被害を受けた少年に能力があったとしても、それを開花させてくれる素敵な人々との出会いなくしては、埋もれたままになってしまうのも事実です。

すると、被害を受けた少年にとって大事なことは、能力の有無というよりも、おそらくは誰にでも潜在している能力を開花させてくれる人との出会いと、その後の指導や教育に恵まれることだと言わなければなりません。

つまり、少年が受けてきたさまざまな被害を埋め合わせるほどの支援が少年の周囲の人々や行政などから提供されるかどうかが、被害を受けた少年の将来を決めることになるのです。

■救済されない虐待被害がたくさんある

虐待被害などは、そもそも犯罪被害に当てはまるものです。

犯罪被害を受けたのに、何もその救済がなされないで放置されることは、その3条に、「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と定められている犯罪被害者等基本法、さらには犯罪被害者にも幸福追求権や生存権を保障している日本国憲法に照らして適切なことと言えるのでしょうか?

岡田行雄編著『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)
岡田行雄編著『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)

それ以前に、そもそも犯罪被害を受けたのに、その被害の救済がなされずに放置されることは不正義ではないでしょうか?

もちろん上で挙げた被害の中には、厳密に言えば、犯罪被害とまでは言えないものも含まれています。しかし、そうした被害を受けた少年を放置した上で、非行や犯罪に走ったのは少年の自己責任だとして厳しい処罰や処分を科すだけで良いのでしょうか?

私たちには、こうした被害にどのように向き合うべきかが問われているのです。

----------

岡田 行雄(おかだ・ゆきお)
熊本大学大学院人文社会科学研究部教授
1969年長崎市生まれ。1991年九州大学法学部卒。1996年九州大学法学部助手を皮切りに、聖カタリナ女子大学社会福祉学部専任講師、九州国際大学法学部助教授、熊本大学法学部准教授、同教授を経て、2017年4月から現職。主な著書に『少年司法における科学主義』(日本評論社、2012年)、編著に『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)などがある。

----------

(熊本大学大学院人文社会科学研究部教授 岡田 行雄)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください