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母親に「死ねばいい」と言われ、兄から首を絞められる日々…殺人を犯した15歳少年が語った壮絶な生い立ち

プレジデントオンライン / 2023年8月5日 11時15分

深く傷つき、葛藤や劣等感を抱えている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/SewcreamStudio

衝動的な少年犯罪の背景にはなにがあるのか。弁護士の知名健太郎定信さんは「母親から受け入れを拒絶された直後に、少年院を出ることになった15歳の少年が、たまたま見かけた若い女性に、包丁をむけ、殺してしまうという事件を担当した。この少年に共感性が育たなかったのは、生来的なものでなく、環境の要因が大きいのではないか」という――。(前編/全2回)

※本稿は、岡田行雄編著『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)の一部を再編集したものです。

■葛藤や劣等感を抱える少年たち

2003年に弁護士登録をしてから、多くの少年事件を担当してきました。少年たちと接するなかで、彼・彼女らが親との関係や、学校などでの人間関係等で深く傷つき、葛藤や劣等感を抱えていることを知りました。

私自身も、子どものころ、いろいろな葛藤や劣等感を抱えて生きてきた人間です。だからこそ、少年たちに共感することができ、彼・彼女らを勇気づけることに夢中になれたのではないか、と思うのです。

そのような思いで、付添人活動を続けるなかで、少年たちが更生していく姿をみて、ある程度の成果を感じたことも何度もありました。

■非行少年が負っている根深い「傷」

しかし、担当したある事件を通じて、共感し、勇気づけ、環境を調整するだけでは、問題の解決にならないほどの「被害」を受け、根深い「傷」を負っている少年がいることに、あらためて気づかされました。

また、そのような深い「傷」の存在を知ったことで、これまで担当してきた事件において、少年が受けた「傷」を見過ごしたり、軽視したり、場合によっては、その「傷」をさらに痛めつけるようなことがあったのではないか、と反省するようになりました。

その事件とは、市街地で起きた15歳の少年による殺人事件でした。

■病院や養護施設、児童自立支援施設を転々とする

事件を起こしたのは、少年院から出院してきたばかりのK少年。小学生のころから同級生や教師に暴力を振るうなどの問題行動が見られ、小学校5年生から、病院や養護施設、児童自立支援施設を転々としました。そこでも、職員らへの暴力が続きました。

K少年は、児童自立支援施設で暴れたことで、ぐ犯として家庭裁判所に送致され、少年院に入ることになりました。

少年院では、投薬治療の影響もあり、ずっと身体のだるさがあったそうで、そのためか、暴力を振るうなどの問題行動はなく、「成績優秀」として出院することになりました。

■母親が受け入れを拒絶、直後に殺人事件を引き起こす

少年院に入った当初は、地元にいる母親のもとを帰住先とする環境調整が行われていましたが、出院直前になって母親が受け入れを拒絶。そのため、K少年は急遽、更生保護施設へ入ることになりました。

ところが、更生保護施設へ入った翌日、K少年は施設を抜け出してしまいます。

母親が受け入れを拒絶、直後に殺人事件を引き起こす
写真=iStock.com/RinoCdZ
母親が受け入れを拒絶、直後に殺人事件を引き起こす(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/RinoCdZ

そのまま、バスに乗って、市街地に向かい、目的もなくさまよい歩きました。

途中にあった店舗で包丁を盗んだK少年は、たまたま見かけた若い女性に、包丁をむけました。その女性は、K少年の行動をたしなめ、自首を促しましたが、そのことをきっかけとして、K少年は女性に切りつけ、さらに複数回刺すことで、女性を死に至らしめてしまったのでした。

少年が勾留された段階で、複数選任の国選弁護人のひとりとなり、K少年がいる警察署に面会にいきました。

ところが、K少年は、眼をそらしたまま、ボソボソと小さい声で話すうえに、急に話が飛んだりするので、なかなか会話が成立しません。

はたして、この少年を理解し、寄り添うことができるのだろうか、とちょっと不安になりました(そのような思いにかられたのは少年事件をやるようになって、初めてのことでした)。

■一人の人間として、K少年を理解しようと努める

しかし、不安を感じるときこそ、関係を築くために努力しなければなりません。最初の2週間はほぼ毎日、その後も2日に1回のペースで面会するようにしました。

面会の際に、こころがけたことは、少年が起こした重大な結果については、いったん頭から追い出して、まずは一人の人間として、K少年を理解しようと努めることでした。

そのような接し方をしないと、見えるはずのものが、見えなくなってしまう気がしたからです。

これまでにも、なかなかコミュニケーションがとりにくい少年は経験してきました。そんな少年たちでも、粘り強く耳を傾け、アドバイスをすれば、たった4週間の鑑別所での生活のなかだけでも、驚くべき変化を遂げ、きちんと自分の言葉で話せるようになる姿を多く見てきました。

最初の2週間はほぼ毎日、その後も2日に1回のペースで面会
写真=iStock.com/fizkes
最初の2週間はほぼ毎日、その後も2日に1回のペースで面会(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/fizkes

■面会中にやたらと身体をくねらせたり、急に突っ伏したり挙動不審

「ゆっくり、はっきりとしゃべらないと、意味が伝わらないよ」と伝えると、徐々にではありますが、K少年は、聞き取りやすい話し方をこころがけるようになり、会話も成り立つようになりました。

また、最初のころは、面会中にやたらと身体をくねらせたり、急に突っ伏したり挙動不審なところがありました。

そこで、「背筋は伸ばしておいたたほうが印象がいい。変わった動きをされると、なんか意味があるのか、とこっちが戸惑ってしまう」と伝えたところ、次回の面会からは、椅子に座っている間も、体育でやらされる「気をつけ」のような姿勢で、背筋を伸ばそうと必死に努力するようになりました。

必要以上に背筋を伸ばしているその姿は、微笑ましくもありました。そんな素直さも、間違いなくK少年のひとつの側面だったのです。

■「まともに学校に通ってなかったから、勉強しないといけない」

面会を続けて、しばらくたつと「僕はこれまでまともに学校に通ってなかったから、勉強しないといけない」と勉強への意欲も口にするようになりました。

そこで、ドリルや教科書類を差し入れたりもしました。

このような変化を見ると、重大な結果を引き起こしてしまったとはいえ、やはり、少年は少年なのだ、と思ったものです。

■たった一言に激高して、壁をなぐって、拳が血だらけに

他方で、K少年には、これまで関わった少年とは異なる特徴も多くありました。

ひとつは、一緒に弁護活動をしている他の弁護士と頻繁にトラブルを起こすことでした。

なにかK少年なりの「怒りのスイッチ」があるのでしょう。他の弁護士と面会した際に弁護人が放ったたった一言に激高して、壁をなぐって、拳が血だらけになったこともあったそうです。

壁をなぐって、拳が血だらけに(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/ucpage
壁をなぐって、拳が血だらけに(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ucpage

そんな出来事があったこともあり、他の弁護人と私との間ではK少年の印象がまったく異なり、評価が分かれることになりました。それ以降、面会は私が中心で行うことになりました。

また、K少年は、環境の変化や刺激に極端に弱いところがありました。

鑑定留置の関係で少年鑑別所に移されたとき、その後また警察署(留置所施設)にもどされたとき、激高して感情的になったあとなどに、これまで積み重ねた会話の内容を忘れてしまったり、それまでの学習意欲がガクンと落ちる、という連続性のなさを何度も体験しました。

このような極端な反応は、これまでの少年事件では経験したことがないものでした。

■「ホットケーキミックスを水で溶いて舐める」生活

K少年に、実家で生活していたときの話を聞くと、父が兄に暴力を振るい、暴力を振るわれた兄が、今度は少年の首を絞めるというように、暴力の連鎖構造ができあがっていたことがわかりました。

「家ではどんなものを食べていたの?」と聞くと、「買ってあるパンなどがあれば、それを勝手に食べていた」「たまに母親と一緒に買いに行くコンビニ弁当や、ファーストフードのハンバーガーがごちそうだった」といいます。家に一人で取り残されていることも多かったK少年ですが、家にはすぐに食べられるようなものは、なにもおいてないことがよくあったそうです。そんなときはどうするのか。

「ホットケーキミックスって、知ってますか。あれを水で溶いて舐めるんです。火を使うと怒られるから。先生もやってみてください。おいしいですから」というK少年。

明らかに異常な食生活なのに、少年はそのことすら認識していないようでした。

「ホットケーキミックスを水で溶いて舐める」生活
写真=iStock.com/OlgaLepeshkina
「ホットケーキミックスを水で溶いて舐める」生活(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/OlgaLepeshkina

■暴力を受けても、飢えていても、誰も助けてくれない

すぐ近くに祖父母も住んでいたはずなのに、K少年が暴力を受けても、飢えていても、誰も助けの手を差し伸べてくれることはなかったのでした。

本当に過酷ななかを生き抜いてきたのだな、と思い、素直に「大変だったね」とK少年に伝えても「別に」という答え。

「他の子どもが甘やかされているだけで、自分で生き抜くのがふつうだから」

「親に甘えている同世代を見ると、無性に腹が立つ」などと答えます。

このように家庭に問題があったとしても、多くの子どもは、他の家庭がどうなっているのかを知らないので、自分の家庭が異常であることに、なかなか気づくことができません。

また、自分の家庭が異常であることを認めることは、子どもにとっても、つらいことです。だから、それが「ふつう」であると思い込もうとする場合もあるのです。

このような会話から、少年が虐待的な環境に置かれていたことは、わかっていましたが、虐待について専門性がない私には、このような体験が、本件事件にどのように影響を及ぼしたのかまではわかっていませんでした。

目の前の少年と、その少年が引き起こした重大な結果。その二つがなかなか結びつかず、戸惑いを感じていました。

■母親から「死ねばいい」と言われ、共感性や罪悪感が欠如

心理鑑定を経て、浮かび上がってきたのは、K少年が幼少期から暴力やネグレクト(育児放棄)、母親から「死ねばいい」と言われるなどの心理的虐待を複合的に受けていたという事実でした。

母親に「死ねばいい」と言われ、兄から首を絞められる日々
写真=iStock.com/decisiveimages
母親に「死ねばいい」と言われ、兄から首を絞められる日々(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/decisiveimages

その影響で、K少年は、共感性や罪悪感の欠如がみられ、専門的な治療が必要なトラウマ(心的外傷)を抱えている、ということでした。

しかしながら、小学校5年生で親元を離れ、その後の期間を過ごした児童自立支援施設などにおいては、トラウマに対する適切な医療的・福祉的ケアはまったく行われていませんでした。

■「野良猫が亡くなった話」でうっすら涙を浮かべる

普通の人であれば、人を殺す、命を奪うことが悪いことだとすぐにわかります。周囲の大切な人が殺された遺族の悲しみも想像がつきます。

しかし、自分が愛されたことも大切にされたこともなく、自分の人生や生命に価値を見出すことができない育ち方をしてきた人間に、命の尊さを理解してもらうのは至難の業です。

また、親や兄弟から虐待され、自分が死んだとしても、悲しんでくれる人すらいない少年に、親族の悲しみを理解させることは、さらに難しい課題です。

岡田行雄編著『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)
岡田行雄編著『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)

K少年に共感力、罪悪感をもってもらうというのは、極めて長く困難な道のりのような気がしました。

他方で、K少年は私に対し、子どものころに飼っていた野良猫(友だちのいない少年の唯一のトモダチだったそうです)が亡くなった話をするときは、うっすら涙を浮かべることもあり、この子の共感性が育っていないのは、生来的なものでなく、環境の要因が大きいのだな、と思わせられました。

鑑定人も、K少年と面談した際に「自首しておけばよかった。女性にも生活があった」と涙したことがあったことを証人尋問で明かしており、そこに少年の可塑性を見出したようでした。

*事実関係、法廷でのやりとりなどについては、もととなった事件において報道された事実の範囲に限定して記載させていただきました。また、その他の事実関係、少年との手紙のやりとり、会話の内容などは、プライバシーに配慮して、一部修正等が加えられていることについて、ご了承ください。

(後編に続く)

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知名 健太郎定信(ちな・けんたろうさだのぶ)
弁護士
1974年長崎県佐世保市生まれ。1997年熊本大学法学部卒。2003年弁護士登録。福岡県弁護士会所属弁護士。NPO法人福岡県就労支援事業者機構理事。福岡大学法科大学院非常勤講師(「子どもの権利」)。少年の就労を通じた更生支援に力を入れている。共著に『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)がある。

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(弁護士 知名 健太郎定信)

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