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ビッグモーターの次は「一括査定サイト」問題…中古車売却で契約後に査定額50万円勝手に減らす悪徳業者の手口

プレジデントオンライン / 2023年8月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tramino

ビッグモーターによる自動車保険金の不正請求問題が発覚後、新たな疑惑が次々に表面化する中、自動車の売却をめぐる消費者からの苦情・相談が近年増加していることがわかった。一括査定サイトを利用した人の元へ業者が来訪して強引に契約させようとしたり、契約するまで居座ったりといった事案が頻発している。ジャーナリストの浅井秀樹さんが現場を取材した――。

■ビッグモーターだけじゃない中古車業者に苦情殺到

中古車販売大手のビッグモーターによる自動車保険金の不正請求問題が発覚し、そのほかにも疑惑が次々に表面化している。一方、消費者が車を売却する際、買取業者とのトラブルも増えている。中古車市場をめぐり、どんな問題があるのだろうか。

自動車の生産は世界的な半導体不足などもあり、新型コロナ感染症の流行後に落ち込んだ。ところが、自動車の需要は衰えず、車を欲しい人が中古車を求めるようになった。「新車需要を補う形で中古車市場が盛り上がった」と指摘するのが自動車調査会社のカノラマジャパンの宮尾健代表。

中古車を扱う業者にとって、買取相場の上昇で取扱単価も上がり、取扱台数が増えて「業績が上がる」と話す。

中古車市場が盛り上がるなか、ビッグモーターではコンプライアンス(法令順守)が機能せず、さまざまな問題が起こったとみられる。宮尾さんは「中古車市場が盛り上がっているときは競争が激化する。市場がいいときだからこそ、売り上げを伸ばすことだけを考える企業風土があったのではないか」と指摘する。

中古車市場をめぐる問題はビッグモーターだけでない。

中古車市場を熟知する複数の関係者から、ビッグモーターのような不適切な業者がほかにもいるという声が聞こえてくる。車を売却する消費者が全国の消費生活センターへ相談する件数が増加傾向にあると、国民生活センターは注意を呼び掛けている。

契約後も一定の期間内なら無条件で解約できる「クーリングオフ」という制度があるが、車は対象外。クーリングオフは訪問販売や電話勧誘などの特定取引が対象で、突然の対応に追われ、判断に余裕のなかった消費者を守るためのものだからだ。一般的に、車の査定を受けて売却の契約をすると、契約書の内容に縛られる。

最近はインターネットのサイトが便利に使えるようになり、自動車の売却に際して必要な情報を入力するだけで査定額が出てくる。こうした「一括査定サイト」の利用は増えており、複数の業者で査定額を比べ、できるだけ高く売ろうとする人が少なくない。

■車売却契約後「査定額50万円下げる、解約なら違約金」

国民生活センターによると、今年7月に相談を受け付けたのは、南関東の50代の女性からで、一括査定サイトの利用者だった。複数サイトで査定額を比較していたところ、そのうちの1社の担当者が女性のところへ来訪し、強引に契約させようとした。他社とも売却話を進めようとしているのなら他社を断ってほしいと、その担当者が女性から携帯電話を借りて断ろうとするなど、強引な対応だった。女性は抵抗し、その担当者をなんとか追い返したという。

国民生活センターには類似の事例が少なくない。強引に契約させられて、自動車を持っていかれたという相談がある。あるいは、業者が居座って帰らないので、やむなく契約したと、相談してきた人もいる。

今年6月に南関東で相談を受け付けた事例は、車を売却するのに複数社で査定し、最高額の300万円を提示した業者に決めた際にトラブルが起きた。査定後に売却の契約をしたが、業者から後日、連絡があった。修復歴が見つかり、査定額が50万円ほど下がると告げられた。そこで契約を解約すると申し出ると、業者から違約金が数十万円になると告げられ、違約金が査定の減額分とほぼ同程度だったと相談してきたという。

国民生活センターには類似の事例で、売却の契約後、すぐに解約を申し出ると高額の解約料を提示されたという相談もある。あるいは、高額な解約料の算出明細が示されないという相談がきている。さらに、業者に過去の修復歴を告げて、2回も査定して決まった売却額が突然、減額されたという相談もあるという。

車体の軽微な傷を手動研磨している手元
写真=iStock.com/primipil
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/primipil

こんな自動車の売却をめぐる消費者からの相談は、国民生活センターのまとめで増加傾向にある。2018~20年度は1200件前後だったのが、21年度が1519件、22年度は1601件に増えている。23年度も4月1日から7月23日までの受付件数で396件と、前年同期の367件を上回っている。

国民生活センター 報道発表資料より
2020年から急増する中古車の売却トラブル - 国民生活センター 報道発表資料より

買取業界の健全化を目指す民間団体の日本自動車購入協会にも、類似の相談がきている。消費者が査定時に、過去の接触事故で修理していると申告し、業者から買取額の提示を受けて契約した。車と移転登録に必要な書類も引き渡した数日後、業者は予想以上の修復歴が見つかり、減額ないし解約すると一方的に告げてきたという。

この事例について、協会は一般論として、「通常の注意を払えば修復歴を発見できるはずで、業者に過失があるといえる。消費者に契約不適合責任を問うことはできない」としている。

業者が査定の見落としを消費者に転嫁し、業者の過失を問わず、契約を解除できるとする条項について、協会は消費者契約法第10条で「消費者の利益を一方的に害する条項は無効になる場合がある」ともいう。協会の担当者は、加盟会員が協会規約に抵触する対応をしていれば「改善勧告を出しており、改善されている」と話す。

■「一括査定サイトには悪い業者が入り込む余地がある」

弁護士ドットコムの運営会社取締役の田上嘉一弁護士は「売買時点で通常、責任は買主側に移る」と話す。業者が減額を請求できる時期はいつまでなのか、契約書などで確認する必要があるとも指摘する。たとえば、契約の時点で査定額が決まるが、代金の支払いまでは減額の請求ができる条項が契約に盛り込まれていることもあるという。

田上さんは、消費者が過去の修復歴などを適切に申告していれば、業者側の不当な減額に対して、それなら売らないといえると話す。違約金については、契約書にどのように書かれているかだが、消費者契約法第9条1項は、平均的な損害額を超えるものを無効としている。

日本自動車購入協会への相談事例では、消費者が車の売却を契約した翌日、思い直して解約したケースがある。業者は解約料を請求したが、車と移転登録書類とも引き渡し前で、協会は「実害が発生していると考えにくい」とする。

ディーラーに並ぶ新車
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

一方、消費者が売却を契約した後に、他社がそれより高い査定額を示し、消費者の自己都合で最初の業者との契約を解約してトラブルになることがあると、協会は注意喚起している。

契約の早期解約について、田上さんは「売主側の過失がどれだけあったか」と指摘し、契約した翌日の解約で実害が発生していると考えにくいと話す。たとえば、すでに車を引き渡していれば、その返還費用といった実費を消費者が負担するなど、「社会通念上の通常損害」を消費者側が負担することになるという。

中古車の売却でトラブルが絶えない背景には、業者の資格として、都道府県公安委員会から古物商の許可を受けるだけでいいこともある。日本中古自動車販売協会連合会の関係者は、中古車売買について「古物商の許可があれば誰でもできる」と話す。

たとえば、車検は国土交通省が管轄するが、中古車市場を見ていて、監視・監督するところはない。そうした事情が、ビッグモーターのような不適切な行動に走る業者が横行してしまう背景にある。

前出カノラマジャパンの宮尾さんは、ここ2~3年、新車があまり出回らず、中古車価格が上がってきているという。そのうえで、中古車の買取価格が市場実勢と見合うのか、「目利きして判断しないといけない」と査定の難しさを指摘する。

「買取業者が少し高い金額を示すと、消費者は喜ぶ」とも話し、信頼できるディーラーなどと付き合いがあるのであれば、そうしたプロに相談するのがいいと勧める。

消費者にとって、見積もりを簡単にとることができる一括査定サイトは便利だ。日本中古自動車販売協会連合会の関係者は「一括査定サイトには悪い業者が入り込む余地がある」と指摘する。信頼できる業者と付き合いがあれば相談するのがいいとアドバイスする。

くれぐれも見知らぬ業者とは、安易に契約話を進めず、慎重に対応していくことが必要になっている。

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浅井 秀樹(あさい・ひでき)
フリーライター
金融・経済系の国内出版社や海外通信社などの報道現場で数十年にわたり取材・執筆。数年所属した『週刊朝日』が2023年5月末で休刊し、フリーとなる。金融・経済のほか、政治や社会・福祉などの分野でニュースや社会的課題、新潮流などを紹介する記事を手がける。

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(フリーライター 浅井 秀樹)

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