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どうすれば「職場の空気」を良くできるのか…心理学者が忘れられない10年前のタクシー運転手の"神対応"

プレジデントオンライン / 2023年8月23日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VioletaStoimenova

職場の空気を良くするために重要なことは何か。組織心理学者のジョン・アメイチさんは「相手に『私はあなただけに集中している』ことを伝えることだ。私は10年以上前のとあるタクシードライバーが言った『POB』という言葉からそれを学んだ」という――。

※本稿は、ジョン・アメイチ『巨人の約束 リーダーシップに必要な14の教え』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

■チームワークを強化する「同僚との接し方」

読者にはもう一つ、同僚たちに対して個人的に約束してほしいことがある。同僚がいる間はずっと誠実に向き合い、あなたが相手を必要とするときや何かをやってほしいとき以外にも、常に彼らと向き合うと約束してほしいのだ。

都合のいいときだけやって来るマネージャーや同僚に対して、この人は自分を利用しているとか、操ろうとしていると感じた苦い経験がある人は多いだろう。受信トレイに彼らからのメールが届いた瞬間に、何かを頼まれそうだと察知する。にもかかわらず、あなたが話しかけると、彼らから歓迎されない邪魔な存在であるかのように、気が進まない様子で対応されることが多い。

というわけで、そんな人間にはならないと約束してほしいのだ。これはつまり、常に無私無欲の状態で人と接し、質が高くて有意義なやり取りをすると約束することだ。オフィスのドアを開け放して、毎日同僚たちとおしゃべりして過ごせと勧めるわけではない。むしろ自分の時間をもっと有効に使ってほしい。

この約束を果たせば、同僚との絆が強まってチームワークの文化を強化できるだろう。お互いをよく知り、真の同僚として結びついたチームメイトは、パフォーマンスが上がることが証明されている。

■意図的に集中して注意を払う

この約束を果たすには、まずは実用的なマインドフルネスを常に実践しよう。“マインドフルネス”と言っても、お香を焚いてお経を唱える僧をイメージしてはいけない。ここで話しているマインドフルネスは、そういう意味ではない。

マインドフルネスは、ただの風変わりなスピリチュアルな風潮ではない。本質的には、何かをやっている間はその物事に意図的に集中して注意を払うことだ。部屋に入った途端に、しばし立ち止まって何をしようとしたのか、その部屋に来た理由を忘れてしまったことはないだろうか? 目的があって携帯電話を手にしたのに、アプリやメッセージや通知といった雑念の沼にはまって、やろうと思ったことをやらずじまいだったことは?

職場の廊下で誰かと簡単な会話を交わしたときや、オンライン会議で小さなグループで話し合ったときに、会話をまったく聞いていなかった、または後で思い返して何も覚えていなかったことが何度あるだろうか?

■パソコンの画面を見ながら対応されたら相手はどう思うか

脳内では無数の思考とやるべきことがこちらの注意を引こうと競い合っており、マインドフルネスを意識しなければ、雑然とした思考に消耗して飲み込まれてしまう。ここでの危険性は二つある。

一つ目はわかりやすい危険性だ――頭のなかが雑然としていて注意力が散漫だと、人や出来事や職場に関する重要なニュアンスや詳細を見落とすことがある。同じぐらい有害なのが、周囲の人々への影響だ。

あなたが携帯電話かパソコンの画面を凝視したままで対応したら、相手はどう思うだろうか? 相手はあなたを必要としているのに、当のあなたが作業を一瞬でも中断して振り向こうともしなかったら、相手はどう思うだろうか? 「きみはつまらない存在だ、邪魔しないでくれ」。つまり、きみの話はパソコンか携帯電話に表示されている内容ほど重要じゃないし、興味もない、ということだ。あなたの態度は「わざわざ椅子を回転させて振り返るほど価値のあることではない」というメッセージを発しているのだ。

忙しいときでも、周囲の人たちに注意を向けて対応できるシンプルな戦略がある。最初はそっけないとか事務的だと思うかもしれないが、これらを実践すれば、基本的なルールを確立できるし、自分の殻に閉じこもらずに境界線を守れる。

■「中断優先タイム」を設ける

まずは「中断優先タイム」を設けて、短時間だけみんなに対応するようにしよう。うちの組織でこのタイムを設けているが、かなり効果的だ。誰でも、いつでもわたしのオフィスに立ち寄って、邪魔してもいいかと尋ねることができる。わたしに急ぎの用件があってすぐに対応できないときは、一休みできるまで数分待ってもらう。だが、一度対応する準備が整ったら、相手が持ってきたテーマについて全力で集中する。

うちのオフィスでは「中断優先タイム」は一回につき2分以内で終わらせることになっている。その2分間で相手はわたしを独占でき、わたしも相手を独占できる。たとえ短時間でも、全神経を集中させると約束するのだから、はかりしれないほどの価値がある。「忙しいときでも、あなたにとって重要なことはわたしにとっても重要だ」と伝えることができる。

電子メールでも同じテクニックを使っている。同僚に「邪魔してもいいかい?」とメッセージを送ると、相手は2分だけ時間を割けば良いことを承知したうえで、返信をくれる。

■何でも質問していいというわけではない

大勢の人たちから時間を割いてほしいとの要望が来て、やるべき仕事に集中できない場合は、チーム内の互助体制を強化する必要があるだろう――特定の人との時間を減らすためではなく、全員のために必要な時間を割くためだ。そのためには学校でよく使われる「まずは3人に訊いてみよう」テクニックが役に立つ。

「中断優先タイム」を要求する前に、まずは3人の人に相談するのだ。他の同僚たちと話し合い、既存のリソースと相談しても方向性が見えない場合は、あなたが対応するのが当然の事案となる。とはいえ、最初に精査することをプロセス化しておけば、あなたのところに持ち込まれる相談事をいくつかふるい落とせる。

念のために言うと、「悪い質問はない」という考え方には賛成できない。悪い質問はある。検索エンジンにかければ0.000036秒で答えが出るのにわざわざ人に訊くケースもあれば、当人の前で同じ質問に答えた(場合によっては複数回)ことがあるのに、また訊いてくるケースもある。真剣に考えて答えなければならない質問――要するに重要な質問――はたくさんあるため、まずは重要な質問に時間を割かなければならない。

ブラウザ検索
写真=iStock.com/igoriss
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/igoriss

「まずは3人に訊いてみよう」はとても役に立つ。このテクニックを使うと、みんなは同僚たちのことや、お互いにどうサポートし合えばいいかを考えるようになるし、肩書きや役割とは関係なく専門知識のある人が周囲にいることに気づくようになる。このシステムを導入しても、現在に注意を向ける必要性がなくなるわけではない――むしろ、同僚たちに意識を向けざるを得なくなる。

■心理学者が忘れられないタクシードライバーの「ある配慮」

アプリからライドシェアを申し込むサービスが登場する前、わたしはよく空港との行き来に、昔ながらのカーサービスを使った――特にアメリカに行ったときに。そのなかでも忘れられないドライバーがいる。

彼は行動や振る舞いをわたしに合わせてこまかく配慮することで、他のドライバーとの違いを生み出していた。わたしが空港に到着したとき、彼はわたしの名前を書いた紙を掲げていたが、そのスペルが正しかったのだ。そんなケースはまれで、通常ドライバーは「John」の「h」を書き落とすか、わたしの名字をいいかげんに書くことが多い。だがこのドライバーは正確だった。

また、彼が「荷物を運びます」と丁寧に申し出てくれたときにわたしが断ると、他のドライバーと違って、彼はしつこく申し出ることも、プレッシャーをかけてくることもなかった(長時間のフライトのあと、わたしは足が目覚めるまで、キャリーバッグを杖代わりに引くのが好きなのだ)。

■ドライバーが無線機に向かって言った「POB」の意味

このドライバーは、わたしが空の旅で疲れていることを察知し、名前を言って握手を交わしたとき以外は、わたしが物思いにふけるのを邪魔せずに黙って車――年季が入ったリンカーン・タウンカー――まで歩いた。

車に到着した途端、彼が乗客のプロフィールを見てわたしの身長に配慮してくれたことに気づいた。わたしの脚の空間を最大限に広げるために、フロントシートが2席とも前に引いてあったからだ。このような状況では、ほとんどの運転手はわたしが狭い後部座席で居心地悪そうに座ってからようやく、空間を広げなければと気づく。

空港を出たところで、彼は無線機を取ると「POB」と簡単に言って受話器台に戻した。わたしがPOBとは何の略ですかと尋ねると、彼は満面の笑みを浮かべて「乗客が車に乗った(Passenger on Board)の略です。つまり“あなたに集中する”という意味です」と言った。

運転手の無線
写真=iStock.com/welcomia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/welcomia

確かに彼はわたしに集中していた。わたしの名前をマーカーで厚紙に書く前にスペルをダブルチェックした瞬間から、彼はわたしのために準備をした。わたしのためだけに。

■ほんの少しの配慮で相手に大きなインパクトを残せる

通常とは違った彼の対応は、10年以上経ってもわたしの記憶に焼き付いている。この出来事は、他者と過ごすときにちょっと考えて配慮するだけで大きなインパクトを残せることを教えてくれた。実際、たいしたことをする必要はない。少し集中してわずかに調整するだけで、あなたが相手に集中していることが伝わるだろう。相手と同じ空間を共有して、言葉を交わすだけではない。相手に集中するのだ。

相手は、自分は安全で価値があり、個人として評価され、尊重され、意見を聞いてもらっていると感じるだろう。

空港であの車に乗って以来、わたしは人と接するときにもっと配慮しよう、おもてなしの心とあたたかさを心がけて、あの運転手のように自然に対応できるようにしようと決意した。それを忘れないよう、ミーティングや交流会に臨む前に、「POB」をマントラのように唱えるようになった。やがてこの略語の単語を置き換えて、きちんと意識して有意義な会話を交わすための3つの要点を表すことにした。

新たなPOBは、準備(Preparation)、関心(Orientation)、振る舞い(Behavior)だ。この3つに意図的に集中すると、対面であれ、ビデオチャットであれ、電話であれ、会話にしっかりと意識を集中させやすくなる。

■心理学者がアレンジしたPOB

準備とは、心構え、気分、影響を及ぼすものについて、事前に配慮することだ。人と交わる前に意識的に努力して、心のなかの雑念や気が散るものを取り除こう。よく知らない人であっても、これから会う相手のことを考えよう。あなたと過ごす時間で、相手にどんな気持ちになってほしいか? 会話を通して相手にどんな収穫を得てほしいか?

次に、自分の気分を調べてみよう。興奮している? 穏やか? ナーバスになっている? 直前の会話のときの感情を引きずったままだと、思考や判断力が鈍ることがあるので、感情をできるだけクリアにしてから、次のミーティングなり会話なりに向かおう。

最後に、あなたの物腰や表情が相手にどんな影響を与えるか過敏なほど意識しよう。誰もが相手の機嫌を巧みに読み取れるわけではない。あなたがいつも疲れたような表情を浮かべていると、相手はすぐにこの人は退屈しているか、あるいは腹を立てているのかもしれないと誤解するだろう。

関心は、人に対応したときのあなたの態度から簡単に伝わる。人と直接会うときは、相手がやって来るまで机の前に座っていてはいけない。携帯電話の画面を見続けて、相手を待たせてはいけないし、電子メールが来たらすぐにわかるような姿勢を取ってもいけない。

携帯電話は視界に入らない場所に置いておこう。すぐ手の届くところに携帯電話を置いたまま会話をしている人が実に多い。たとえ画面を下にして置いていても、通知が入り次第会話が中断しそうだと相手は考える。あなたの注意を引こうと携帯電話と争っていると相手に思わせてはいけない。あなたにとって自分は関心を向けて視線を合わせるほど重要な人間ではないと、相手が感じるようではいけないということだ。

■「あなたに集中する」ことを心がけよう

ネットワーク上の世界では画面越しで人と接するが、ここでも対面のときと同じぐらい注意を向けることが重要だ。オンライン上で会話やミーティングをするとき、わたしは絶対に携帯電話の画面を見ない。いつも一人ひとりの顔を見て話すし、必要であればギャラリービューのページを何度もめくって、たくさんの顔を確認している。画面ではなく、参加者全員に集中していることを伝えるためだ。

人と接する前に考えてほしい最後の要素は振る舞いだ。集中力を維持しやすい姿勢を取りながら、あなたの集中力が1カ所に向けられていると示唆することだ。相手の目を見つめることが重要なのはもちろんのこと、姿勢とジェスチャーも大切だ。相手が居心地悪そうにするかナーバスになっていたら、どうやって気を楽にさせるか? 緊張感を和らげたいときは、ミラーリングという戦略がある。目の前にいる人のジェスチャーや姿勢をこっそりまねると、信頼関係を築きやすい雰囲気を作り出せる。

ジョン・アメイチ『巨人の約束 リーダーシップに必要な14の教え』(東洋館出版社)
ジョン・アメイチ『巨人の約束 リーダーシップに必要な14の教え』(東洋館出版社)

働き方がより柔軟にシフトしていくなかで、オンライン上での振る舞い方を変えよう――笑みを浮かべる時間をもう少し長くし、うなずき、首を振ろう。そうすれば人々は画面に並んだたくさんの無表情な顔のなかで、あなたが喜んだり、同意したり、異論を唱えているのに気づくだろう。

準備、関心、振る舞い――これは、人に接して話すたびに耳の奥でささやき続けてほしいマントラだ。当たり前すぎてばかばかしくなるかもしれない。あるいは、自分は仕事ができて、長年この仕事に従事していて同僚たちを熟知しているから、そんなに注意して熟慮する必要はないと思うかもしれない。だが、その考えがあだとなる場合もある。有能であるがゆえに集中力を奪われることが多々ある。周囲の人やプロセスに詳しいと、自己満足に陥りやすくなる。

「POB――あなたに集中する」――それを毎回心がけよう。

(ジョン・アメイチ(OBE))

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