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なぜビッグモーターは「車検の基本料金」が他社より安いのか…中古車業界でささやかれていた「本当の評判」

プレジデントオンライン / 2023年8月21日 11時15分

東京で見かけたビッグモーター社のロゴ。 - 写真=Sipa USA/時事通信フォト

中古車販売大手のビッグモーターをめぐり、保険金の不正請求など複数の問題が相次いで報じられている。一連の問題を同業者はどう見ているのか。『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)を出した磯﨑自動車工業(本社:茨城県ひたちなか市)の磯﨑孝会長と磯﨑拓紀社長に聞いた――。

■同業者が驚いたビッグモーターのえげつない営業

――ビッグモーターの問題が連日報道されています。中古車販売業界には影響はありますか?

【磯﨑孝会長[以下、磯﨑(孝)]】当社は地域密着で地道に商売をしてきましたので、実際のところそれほどの影響はありません。ただ、この問題が業界の信用を失わせることになったのは事実です。中販連(日本中古自動車販売協会連合会)が業界の信頼向上に向けて中古車販売時に支払総額を表示するルールづくりに取り組み、この10月にそれがようやくスタートするというタイミングでビッグモーターの不正疑惑が報じられたのです。同会の海津博会長は業界紙の取材に答え、「一連の法令違反行為が事実なら言語道断だ」と憤っていますが、私もまったく同感ですね。

――ビッグモーターについてはどんな印象をお持ちですか。

磯﨑孝『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)
磯﨑孝『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)

【磯﨑拓紀社長[以下、磯﨑(拓)]】ビッグモーターのことを詳しく知るようになったのは、同社が茨城に水戸店をオープンした2011年からです。急成長を遂げている勢いのある会社だという印象はありましたが、その頃からあまりいい評判は耳にしていなかったです。

現在も行われているかどうかわかりませんが、同社は新規出店に際して全国の店舗から店長クラスの社員まで動員し、そのエリアのシェアを一気に獲得するという戦略を取っていたようです。水戸店のオープン時に当社の社員が様子を見に行ったのですが、その際に接客対応したのも九州にある店舗の店長だったとのことです。

【磯﨑(拓)】その時、盛んに勧めてきたのが2年落ちのワゴンRで、新車と大して変わらない価格を提示されたそうです。それでも「オープンセールなのでお得ですよ」と畳みかけるようなトークで一気に契約までもっていこうとする営業手腕には、当社の社員も舌を巻いていました。

■本当に理解に苦しむと思ったこと

――優秀な社員を抱えながら、利益至上主義に突き進んだことで歪みが生じ、それが一連の不正を生み出す要因になった?

【磯﨑(拓)】そうですね。同社を擁護するわけではありませんが、もしかしたら前社長や前副社長は、不正まで犯すつもりはなかったのかもしれません。しかし、数字をとことん追求していった結果として、現場が不正行為に手を出すしかなくなるということは十分に考えられます。

例えば、修理部門に過大なノルマを設定していたということ。これはとても危険なことです。修理1件ごとのノルマが決まっていればなおさらです。決められた数字を達成するために、問題のない部品を交換したり修理の必要のない箇所に手を加えたりして修理代金を吊り上げ、過剰請求をするといった行為に走らざるを得なくなるからです。

車のキズやへこみを修復する板金については、昨今はただでさえ粗利が減る傾向にあります。そこに現実的にはあり得ない高額のノルマを課すというのですから、本当に理解に苦しみます。

ひたちなかのトップディーラーである磯﨑自動車工業の磯﨑拓紀社長(左)と磯﨑孝会長
撮影=プレジデント社
ひたちなかのトップディーラーである磯﨑自動車工業の磯﨑拓紀社長(左)と磯﨑孝会長 - 撮影=プレジデント社

■ビッグモーター社員は車検を他社に依頼

――修理や車検は不正の隠れ蓑になりやすいということでしょうか。

【磯﨑(拓)】修理工場や車検工場に車を預けてしまうと、そこからはブラックボックスになりますから、怪しいと思っても相手の言いなりにならざるを得ないということでしょう。作業内容を他店と比べるのも難しいですし。まさに儲けようと思えばいくらでも不正ができるのです。

車検にしても、ビッグモーターは他店に比べて基本料金を安く設定していますが、実際に依頼してみると追加作業費や交換部品代などがかさみ、最終的に想定していた金額よりもずっと高額の車検代を請求されることもあるようです。

これは同業の知人から聞いた話ですが、その店ではなんと現役のビッグモーター社員から家族の車の車検を依頼されたことがあるそうです。自分の会社に頼めばとんでもなく高額の車検代を請求されるから、ということのようです。

福利厚生をより充実させようという近年の「働き方改革」に逆行するような話ですね。当社では、社員や社員の家族が車を購入したりメンテナンスに出したりする際には優遇する制度を設けています。車検も格安で受けられるようにしています。

■儲けのために事故車を売る

――報道によると、今回のビッグモーターをめぐる問題では、事故車など問題のある車を販売していた疑いもあるようですが。

【磯﨑(拓)】当社は会長の時代から「事故車は売らない」という方針を掲げ、これを徹底してきました。中古車のオークションにはメジャーなところではJU(日本中古自動車販売協会連合会)、USSオートオークションなどがありますが、いずれも4点が平均値とされており、当社は4点以上の車のみ仕入れています。3点以下は当社では事故車すれすれという位置づけで、仕入れを見送ります。

しかし、仕入れの基準は販売店によってまちまちです。評価の低い車を「問題なし」と判断して仕入れ、販売している店もあります。

【磯﨑(孝)】私自身は板金塗装の経験があるので、オークションの点数に関わりなく車の外観を一通り見るだけで事故車かどうか判別できます。でも、一般のお客さまにはわかりにくい。お客さまを騙そうと思えば騙せるのです。ですから、儲けを出したいなら安く仕入れられる事故車を売ろう、という発想になるでしょうね。

私は若い頃、社業の傍らJUのオークション会場で手競りを行うコンダクターを務めていましたが、そこで事故車を専門に買っていく販売業者を多く目にしてきました。当時の中古車販売は、今以上にグレーでした。

■無意味な営業ノルマ

【磯﨑(孝)】当社の場合、以前からあえて厳しい基準を設けて車を仕入れてきました。当然、利幅は薄くなります。それでも「いい車を売っていれば、お客さまはついてきてくれる」という判断でやってきたんです。現在のビッグモーターとはまさに真逆の経営方針といえると思います。

――営業社員には御社でもノルマを課しているのですか。

【磯﨑(拓)】営業所単位では目標数字がありますが、「今月は○台売らなければダメ」といった個人のノルマは当社にはありません。また、営業所の目標数字を達成すれば所員にはインセンティブがプラスされますが、未達なら個人の給与からマイナス分を差し引く、といったことはもちろんやっていません。

【磯﨑(孝)】当社でもかつては社員個人のノルマはありました。それが当たり前の時代だったので。

【磯﨑(拓)】時代が変わったということですね。ケーズホールディングスの加藤修一名誉会長が唱える「がんばらない経営」がこれからのスタンダードでしょう。無理な営業ノルマを課さない、長時間の残業をさせない。それでも成果を出すことはできるのですから。中古車販売業界でもこの方針は十分に通用するはずです。

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磯﨑 孝(いそざき・たかし)
磯﨑自動車工業 会長
昭和22(1947)年11月25日、茨城県那珂郡(現・ひたちなか市)平磯町に生まれる。昭和47年10月、磯﨑自動車工業を創業。昭和49年9月、中古車販売業に進出。昭和50年4月、茨城県中古自動車販売協会(JU茨城)加盟。平成9(1997)年3月、指定自動車整備事業に指定され、民間車検工場の事業を開始。平成14(2002)年2月、スズキと正規ディーラー契約を結び、スズキアリーナひたちなか東店の業務を開始。平成29(2017)年11月、社長を退任し代表取締役会長に就任。茨城県中古自動車販売協会会長、茨城県中古自動車販売商工組合理事長、日本中古自動車販売商工組合 全国流通委員長、ひたちなか商工会議所副会頭などを歴任。令和5(2023)年、春の叙勲で旭日双光章受章。

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(磯﨑自動車工業 会長 磯﨑 孝)

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