世界で「LCC通勤」は日常的な風景…"激安ニッポン"が外国人の移住先にピッタリと言える理由
プレジデントオンライン / 2023年8月25日 6時15分
※本稿は、谷本真由美『激安ニッポン』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
■「学費」で見る海外との価格差
日本では、少子化が急速に進んでいますが、その原因として、教育費が高すぎると指摘している人がいます。しかし実は、日本は他の先進国に比べて、教育費は激安なのです。
この本の読者の中には大学生ぐらいのお子さんがいる人もいると思うのですが、日本において格差がぐんと出てくるのが「学費」です。
まずアメリカでは、地元の学生が公立大学に通う場合、学費は年間5000ドルから1万5000ドル程度(70万円から200万円)ですが、州外の学生や留学生が公立大学に通う場合、学費は2万3000ドル程度(320万円)にもなります。
さらに、私立の有名大学だと学費は非常に高く、一番安いところで年間3万ドル(420万円)、名門大学だと1年に5万ドルとか6万ドル(690万円から830万円)になります。
私は2000年前後にアメリカの私立大学の大学院に通っていましたが、そのときは授業を取り放題で学費は年に120万円程度でした。
生活費はいろいろと切り詰めて年に100万円ほどだったので、東京で学生生活を送るよりも安く済ますことができていました。
■スペイン、ポルトガル、ドイツ…社会主義が強い国は教育費用が安い
しかし現在、その大学院に通うには、学費と生活費を合わせて、年間1000万円近くはかかります。ざっくり総費用が5倍近くになった計算です。
これはアメリカ政府が教育予算をカットしていることと物価が高騰していることが関係しています。
また、イギリスでも教育費は決して安くはありません。たとえば、都市部で子どもを保育園や幼稚園にフルタイムで通わせようと思うと、月に12万円から25万円かかります。
教育熱心な幼稚園で私立の小学校に付属するところはだいたい20万円以上かかるというのが相場です。
国からの補助金は子どもが小さいときは若干出るのですが、ほとんど私費になってしまい、かなり負担が大きいのです。
他の先進国も実は保育費用は高く、経済成長が著しい欧州北部の国々やアメリカ、イギリスなどは高額です。
日本に近く費用が安いのがギリシャ、スペイン、ポルトガル、デンマーク、ドイツやイタリアなど社会主義色が強い国です。日本の保育園や幼稚園の自己負担額は実はタイやプエルトリコ並みの価格で、なんと世界で37位です。
■ギリシャに住み、ロンドンで働く人たち
イギリスなどの経済成長を続けている国だと、賃上げがインフレ率に追いつかず、生活が苦しくなる人も出てきます。
そのため、こういう人たちは物価や家賃が安いギリシャなどの国に住み、飛行機や自動車でイギリスまで通勤していたりします。
これは15年ぐらい前から行われはじめ、今ではまったくめずらしくなくなりました。普段はギリシャやスコットランド、スペインなどに住んで基本的にはリモートで働き、大事な会議や特別なプロジェクトがあるときだけ、一時的にイギリスに滞在するのです。
そのため欧州では、LCC(格安航空会社)や高速バスなどのサービスの需要が伸びました。もちろん、低賃金労働者が海外に出稼ぎに行くために安い交通手段を使うというのもあるのですが、海外に移住した人が通勤のためにこういった交通手段を使っています。
日本ではまだまだLCCは旅行に使うというイメージが強いかもしれませんが、欧州ではすでに15年以上前から通勤などの多様な使われ方をされてきたのです。
日本でも、家賃の安い地方に住んで、必要なときだけ東京などに働きに来るというライフスタイルはできるはずですが、実践しているのはごくごく一部の人にすぎません。これは、日本人の働き方がいかに固定化していて柔軟性がないかを反映しています。
ここ数十年で日本はすっかり取り残されてしまったわけです。
■日本が海外ノマドの移住先に選ばれる可能性
欧州の北部地域は知識産業に注力し、さらに経済成長が見込まれますから富が蓄積し物価はどんどん上がっていきます。
一方、停滞する国は物価も給料も上がりませんから、生活費を圧縮したい人々が住むのには最適な場所になっていきます。
彼らがどういう仕事をしているのかというと、エンジニアやメディア関係者、研究者など、知識産業です。
このような仕事はアウトプットさえ提供できれば自宅作業で問題ないため、リモートワークに向いています。
最近は、ネットフリックスがオフィスでの勤務を奨励したりなど、出勤を求める組織も少なくないですが、一方でコスト削減のためにオフィスの規模を縮小したいという経営者もいるので、成果が見えやすい職種の人はこれからもリモートでの勤務が中心となるでしょう。
ちなみに私の知り合いだと、よくあるパターンとしては熟練したITエンジニアが半年ごとに国を転々としながら複数のプロジェクトで働いたり、研究者がいっぺんに3カ国の大学に所属し、学期ごとに違う国でオンライン授業をしていたりします。
日本も物価が安い国なので、今後はこうした人たちの移住先として選ばれるようになる可能性もあるのです。
■エネルギー料金が爆上がりした理由
ロシアのウクライナ侵攻により、先進国ではエネルギー価格が高騰しましたが、これも各国の物価高に大変な影響を及ぼしています。
たとえば、イギリスにおけるエネルギー価格上昇の主な要因は、卸売りガス価格の急激な上昇、サプライチェーンの混乱、再生可能エネルギーへの投資コスト増加などです。1つずつ、要因を深掘りしていきます。
2021年8月にはイギリスの卸売りガス価格は前年比で250%以上上昇しました。これは、世界的なガス需要の増加、ガス貯蔵量の減少、予測よりも低い風力発電量など、複数の原因があります。
そして、多くのエネルギー供給業者が高い卸売価格を反映するために価格を引き上げているわけです。
次に、新型コロナウイルスのパンデミックはエネルギー供給チェーンにも影響を与え、再生可能エネルギープロジェクトの機器や部品の配送に遅れや混乱を引き起こしました。これにより、エネルギー会社には追加費用が発生し、それも消費者に転嫁されています。
最後に、イギリス政府の再生可能エネルギーへの移行推進もエネルギー価格の上昇に寄与しています。風力、太陽光、原子力などの再生可能エネルギー源への投資には、大幅な前払いコストが必要であり、それがエネルギー料金の高騰につながっています。
これらの価格上昇の影響を緩和するために、イギリス政府は温暖化家庭割引などを導入し、エネルギー料金を支払うのに苦労する世帯に財政支援を提供しています。
■イギリス、オランダ…光熱費が月12万円になった家庭も
また、エネルギー供給業者も、さまざまな料金プランや支払いオプションを導入して、消費者がエネルギー料金を管理できるようにしています。しかし、エネルギー料金があまりにも急激に上がっているために、生活苦に陥っている家庭が少なくないのです。
たとえば、一般的な家族4人の家庭では、以前は光熱費が月に3万円程度だったものが、現在は6万円から10万円と「2倍以上」になっている家が少なくありません。
賃金がインフレ率ほど伸びていない家庭が増えていることを考えると大変厳しい状況です。イギリスでは賃金が年に2%も伸びない職業がかなり多いのです。
これでインフレ率が10%を超え、つまりものの値段が1年で10%以上高騰していて、光熱費も倍額以上になっているわけですから生活が苦しくなって当然です。
これはイギリスだけではなく、欧州の他の国も似たりよったりで、私の知っている範囲だとオランダやフランスに住んでいる人で、光熱費が月に12万円以上になってしまったというお宅もありました。
彼らは相当節制して生活しているのですが、それ以上に光熱費の高騰が家計を圧迫しているのです。
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著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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