1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

脳内に「やる気スイッチ」は存在しない…成功する人たちがやっている「やる気」よりも役立つ行動習慣

プレジデントオンライン / 2023年9月14日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Planet Flem

仕事や勉強のパフォーマンスを上げるにはどうすればいいのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「やる気を出す必要はまったくない。『やる気が出ないから動けない』というのは脳が生み出した幻想にすぎない」という――。(第2回)

※本稿は、茂木健一郎『運動脳の鍛え方』(リベラル社)の一部を再編集したものです。

■「やる気がない」は言い訳にすぎない

多くの人が誤解していることを述べておきたいと思います。

自分の限界を超えて新しいことにチャレンジするとき、こんなふうに考えることはありませんか?

「今度こそ、やる気を起こしてチャレンジしてみよう!」

一見すれば、何だかどんなことにもチャレンジできそうな気迫がひしひしと伝わってきます。多くの人にとって、自分の限界を超えてチャレンジするというと、いかに「やる気スイッチ」を入れるかが、大きな問題になりがちです。

ですが、脳科学者としての私の考えは、ちょっと意外なものかもしれません。自分の限界を超えて何か新しいことにチャレンジしようとするとき、実はこの「やる気」という特別な感情はまったく必要ないのです。

何を隠そう、私がこれまで自著やユーチューブなどで常々提唱しているのは、「やる気不要論」です。なぜなら、「やる気がなければ、自分を変えることができないし、何も始められない」と思っている人は、ほぼ例外なく、やる気がないということを何かを始められない言い訳にしている場合が多いからです。

これが、私たちの脳が勝手に限界をつくってしまう一つの要因でもあるのです。

大抵の場合、「やらない自分」「やれない自分」について、「いまはやる気が起こらない」、あるいは「やる気さえ手に入れたら、やるのに」と言い訳しがちです。これが自分に対する甘えにつながるのです。

■むしろやる気がマイナス要素になる

「自分は、やる気スイッチが入らないとやれないんだ」

こうした勝手な思い込みは、脳科学的な見地からいっても、脳が勝手につくり出している幻想にすぎません。そういった心構えでは、いつまでたっても何も始めることはできませんし、自分の限界を超えることもできません。

むしろやる気というのは、ときに仕事や勉強でチャレンジするためのマイナスになってしまうことさえあるのです。

私たちの仕事や勉強におけるパフォーマンスは、日々の努力や習慣によって成り立っています。そう考えれば、モビリティを高めるためのやる気という特別な感情は、脳自体は必要としていないということがよくわかるのではないでしょうか。

また、自分の限界を決めずに何か新しいことにチャレンジするというと、「これは自分にとっては大きなチャレンジなんだ」と身構えたり、意識しすぎたりしがちです。でも、それではチャレンジ自体が上手くいかなくなってしまうことが多いといえます。

ここで大事なのは、平常心を持ってひたすら動き続けること。それこそが運動IQを手に入れるということの本質でもあるのです。それは登山のように、平常心を保って入念に準備してから山に挑むことが、人を山頂に到達させるのと同じことなのです。

■チャレンジの成功が次の成功を呼ぶ

「自分の限界を超えたチャレンジが成功した!」

そんなとき、脳が大きな喜びを感じて神経伝達物質であるドーパミンが分泌されます。人間の脳は、ある行動をとったあと、脳のなかでドーパミンが放出されると、その行動が強化されるという性質を持っています。それは、いままでの自分では成しえなかった新しいチャレンジに成功するといったことも同じです。

脳がこうした喜びを実感できると、ますますその行動をくり返したくなるというわけです。

たとえば、仕事が順調に進んでいるときや、勉強がはかどっているときに、脳のなかではこのドーパミンが分泌されています。しかも、このドーパミンが分泌されると、脳はことあるごとにその行動を再現しようとするので、快感を生み出す行動が次第に癖になり、次のチャレンジがより成功へと近づきます。

また、ドーパミンが多ければ多いほど、あなたの脳は喜びを感じているので、次第により難しいチャレンジを求めていく。それによって運動IQを手に入れることにつながる。これが、私たち人間が持っている一つの才能である、「脳の強化学習」というものです。

■コツは楽しむこと

脳の強化学習とは、ある行動をくり返して物事が上達していくこと。こうした脳の強化学習によって、「ドーパミンサイクル」が回り出します。

またうれしいことに、ドーパミンサイクルは、軌道に乗って調子が出てくると、あとは勝手に回ってくれる性質を持っています。そこで、まずはどんなことでもいいので、このドーパミンサイクルを1回転回すためのイメージトレーニングをしてみてください。その秘訣(ひけつ)は、「チャレンジをいかに楽しめるかどうか」にかかっています。

皆さんも、ここで一度思い返してみてください。おそらく、実際にうまくいったチャレンジというのは、心から楽しんでやっていたのではないでしょうか。また、自分の限界を超えられる人、チャレンジ精神が旺盛な人というのは、たいていビジネスにおいても人生においても「それ自体」を楽しんでいる人が多いといえます。

実際に、私自身の経験からも、「これは新たな自分になるチャレンジなんだ」と緊張したり、身構えてしまうと、やはりうまくいかないことが多かった気がします。

私たちの脳というのは、頭のなかでさまざまな問題ばかり考えてしまう傾向があります。ときに、それがチャレンジする気持ちを妨げてしまうことすらあるのです。そこでまずは、チャレンジ意識を「楽しみながらやる」、その点に集中することから始めてみてください。

■偏差値入試が生む弊害

ビジネスの世界では、しばしば結果がすべてと捉えられがちですが、私は結果だけがすべてとは思いません。

なぜなら、「結果を出すことがチャレンジなんだ」と捉えてしまえば、余計な雑念がチャレンジの阻害要因となり、結果的にうまくいかずドーパミンサイクルを回すことができないからです。ゆっくりでもいいので、確実に目の前の一つひとつ、達成感や喜びを積み重ねながらチャレンジすれば、ドーパミンサイクルがきっと回り出すはずです。

以前、ある意識調査で、「日本の若者は世界で最もチャレンジしない」ということを耳にしたことがあります。私はこの調査結果を聞いて、「若いうちにチャレンジができないなんてもったいないな」と思いました。なぜ、日本の若者がチャレンジできないのか。その原因の一つに、偏差値入試という問題があると私は考えています。

教室で勉強している中学生
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

若者に限らず、多くの日本人が学歴や企業ブランドといった、何かの“お墨付き”を求めていることは否めませんが、価値観が多様化し、かつAIが進化している現代においては、人間の能力にはさまざまな個性があるということを肝に銘じるべきです。

ところが、いま若者の大半は偏差値や学歴で将来が担保されると勘違いして、偏差値という偏った一つのモノサシによって、多様な個性を発揮するチャレンジを恐れてしまっているのです。だからこそ、日本人の若者は、いつの間にか誰かのお墨付きだけを追いかけることに夢中になってしまったのでしょう。

■チャレンジができなくなる口癖

たしかに、これは脳科学の観点からも合点がいきます。なぜなら、私たちの脳というのは、ある一定の標準をつくるプロセスにおいては、簡単にチャレンジできるようにできているからです。それがいまの若者にとっての、「いい大学に入る」「いい会社に就職する」といったことです。

ですが、一度その標準がつくられてしまうと、その標準こそが一般的で常識だと受け止めてしまう。つまり、そうした固定観念に何の疑問も持たなくなってしまうのです。これでは、脳のモビリティを高めることはできません。

そこで、現代社会を生き抜くために必要なのが運動IQというわけです。「普通は」「常識として」などといった口癖を持っている人たちは、自分のなかで勝手に常識の枠をつくり出してしまい、自分の限界を超えるチャレンジができないのです。だからこそ、多くの若者が苦労しているのかもしれませんね。

いくら知識や経験を蓄積しても、こうした自分本位の常識の枠というものが、運動IQを手に入れる阻害要因となってしまうことは、もはやいうまでもないでしょう。

■自分を成長させるチャンスは無数にある

いま、私たちが生きている世界は不確実で、まだ知り尽くせないことがたくさんあります。さらに、AIが発展していく未来はなおさらです。それはつまり、まだそれだけのチャレンジが無数にあって、自分を成長させるチャンスがあるということでもあるのです。そういった発想の転換をするだけでも、新鮮な気持ちで自分の限界を超える意欲が湧いてくるはずです。

茂木健一郎『運動脳の鍛え方』(リベラル社)
茂木健一郎『運動脳の鍛え方』(リベラル社)

そこで必要になってくるのが、具体的にどのように動けばいいのかという、いわば運動IQを駆使するためのイメージトレーニングです。

それは、「ビッグになりたい」「自分の限界を超えたい」といった漠然としたことではなく、「これをやるには、自分はいま何をやるべきか」という具体的なイメージを持ってみることです。そして、そのイメージを持つことができたら、頭の中でシミュレーションをしながら全力でチャレンジしてみればいいのです。

なぜなら、自分の限界を超えるチャレンジをしたときにこそ、脳のモビリティは高まっていくからです。

----------

茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。

----------

(脳科学者 茂木 健一郎)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください